第13話 新2年生
首筋に大きめのガーゼを貼り、噛み跡を隠した俺は、始業式、そして新入生の入学式のために久しぶりに学校へ足を運んだ。未だに消えない違和感はあるが、そんなこと気にしていたら、いつか友人からバレてドキドキタイムなんてする暇もなくなる。
あの4月1日。カバンを交換して登校と決めた俺たちだが、今日はカバンを持たずに登校が許可される日であるため、必然的に明日からのスタートとなった。
1つ上の学年へと進級し、安堵感もなく、当たり前に過ごすだけの俺の日常が崩れた今、俺は救われた気持ちで休み時間を過ごしている。
「――お前が同じクラスでめちゃくちゃ助かった。今日ほどお前に感謝した日はない」
「それ、今日3回目な?そんなに俺のことが好きなのか?もしかしてそっち系の人?」
俺の1つ前の席。出席番号1番を背負う、俺の友人にして今の救世主。名前を青海冬羅といい、ただただうるさい人気者。しかし常識人で、問題児という扱いにはならない、ただうるさいやつ。
「いいや。全然違うけど、わけあってお前には今心底感謝してる」
「……よく分からないけど、そうか」
こいつ何言ってるんだ?という目で俺を見るが、事情を説明出来ない俺に、その目は少し痛かった。そんな冬羅を見て、その隣に座る女子は言う。
「今年も同じだね、青海くん、五百雀ん」
俺の名字を、スッキリ呼びたいという理由から【く】を重ねて呼ぶ彼女。名前を朝比奈陽奈といい、女子の中ではひなひなと呼ばれる女子の中心人物。微かに俺に対して視線を送る隣の歌代とかいう変人の親友であり、引けを取らない美少女である。
良くクラスを往復して学年からの人気を得た朝比奈は、いつの間にか歌代とも仲を深めたらしい。なんとなくで友だちが出来る世界線、見てみたいものだ。
「今年もうるさくなりそうだな」
「静かなのより良いでしょ。それに今年は月も居るしね」
この学年の頂点に立つ人気者、そして有名人。朝比奈なんて霞むほどの人気であり、その天真爛漫と言われる性格は、歌代のためにあると言われるほど。
「そうかな?はじめまして、青海くん、五百雀くん」
こっち見んな。
ニヤニヤして俺と目を合わせるので、危機感のないその行動に心の中で伝えた。多分分かってくれるだろうが、だからこそやめない。スリルに飢えた可哀想な子だから。
「はじめまして」
「はじめまして、歌代さん。素直に今年同じクラスになれて嬉しい。色々と遊びまくろうな!」
こいつはうるさい。早速声を出して、歌代に向かって握手を求めた。それに「あはは」と苦笑いで対応するが、全く気づいてない。むしろ、好調とか思ってそうだ。
冬羅との握手が終わると、歌代は俺を見る。目がしっかりと合うと、目線は俺の首筋へ。
「五百雀くん、首怪我したの?そんな大きなガーゼ初めて見たよ」
嘘つけ。お前が買ってきたんだぞ!
「それ、俺も思ってたぞ。そこを怪我するってどうしたんだ?」
冬羅もマジマジと見始める。透過能力なんて持ってないだろうが、何故かバレる感覚でドキドキと鼓動が速まる。胸に手を於けばバレるの確実で、なんて言おうか迷ってるのと相まって、冷や汗もポツポツと出るよう。
「あぁー、これはだな……果物の缶詰を開けた時に汁が首について、拭こうとしたら蓋を持ってて、それで切ったって感じだ」
「あらぁ、おっちょこちょいってやつ?五百雀んってそういうとこあるよね」
「へぇ、そうなんだ。缶詰で切ったのか。気をつけないとね」
とても嬉しそう。ドキドキしたいのではなく、歌代はドキドキさせたいタイプなんだと、この時点で確信した。朝比奈の目を合わせて笑うとこも、実は朝比奈には教えましたよと言われているようで、ずっとドキドキが止まらない。
「バカだな。流石、クラス20位の平凡さんだわ」
「プライベートは無関係だ。お前、俺の8も下なんだから、平凡にもなれないんだからな?」
「どんぐりの背比べだね。私からすれば、どっちもダメダメのアホだよ」
最終成績クラス1位、学年2位の秀才。そして。
「でもそんな陽奈も、私からすればアホだよ」
最終成績クラス1位、学年1位の秀才。トップを飾る才色兼備コンビ。1週間前は、あんなにアホを晒して今日まで来たのに、良くもまぁ、高飛車に堂々と言えたものだ。
「悔しいこと言ってくれるね」
「この場合、どんぐりの背比べじゃなくてなんて言うんだ?」
「神の背比べ」
「五百雀ん、そういうとこが安直でアホなんだよ?」
「でも、俺はいいと思ったぞ?」
「それは20代同士、似た考えってことだよ」
朝比奈は、結構言う派の人だ。思ったことを口に出す性格なのだが、嫌う人は全くいない。男子は変態の集まりなので嫌うも何も、ご褒美と考える人ばかり。しかし、女子でも皆無なのは驚き。
少しくらいは、文句を言っても……いや、居たな。2人だけ居た。
その2人が近づいてくるのを、俺はこの目で捉えた。朝比奈、歌代の派閥に対して、楯突くもう1つの派閥。現2年生で、歌代とほぼ同じ人気を持つ人が。
「あらら?ここに2人も集まったのかしら。可愛さだけで人気者になっただけの、変人さんたち」
圧倒的お嬢様感。いや、しっかりとお嬢様である彼女を見て、歌代と朝比奈は目を細める。
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