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第10話 逆襲




 「もう疲れたから、食べた後のゴミ捨てて横になろうかな」


 「そんなに?まだ19時前だよ?」


 「日を跨いで寝るのが日常だったけど、今日は今すぐにでも寝れそう。歌代の攻撃が激し過ぎる」


 「体力ないね。私はまだ起きてるから、リビングで大音量でテレビ見るよ」


 「……歌代の部屋に入るぞ」


 「なら私も」


 意図的な嫌がらせには反応しないのが正しい。でも反応しなかったらそれだけ俺の立場が不利になるのはどうすればいいのだろうか。解決策が欲しいというのに、自分で首を絞めている感覚に、助けを求めたい。


 誰か、出来れば歌代の友人に、取扱説明書を貰いたい。


 「そんなに構いたい?」


 「うん。イチャイチャチュッチュしようよー」


 「頭のネジ吹っ飛んでるって。本当にしたらどうするんだ?」


 「その時は受け入れて、疑似家族が本物の恋人になって、ついには本当の家族になるかな」


 「そんな可能性の低い話を……」


 高校生の時から付き合って、結婚まで行く可能性。そしてそれが初恋の人である場合、どれだけ稀有な存在か、知らなくてもとても低いことは分かる。お互いのことをまだ知らないのだから、普通とはわけも違う。


 俺をいじるのが大好きというわけではなく、人をいじるのが大好き。もしも俺だけなら、それに付き合うこともあるが、記憶には誰とでも分け隔てなく接することが残っている。


 だから特別感もないので、対策のしようもない。


 攻め続ける……なら、攻められたら?


 寿司の入っていた容器をまとめて、ソファに静かに座らせている歌代とは反対にあるゴミ箱へ捨てる。そして思いついたことを実行しようと、俺は真顔で歌代に近づいた。


 これが2度目の、自分から歌代に近づく行為。駅で出会った時以来だが、俺に緊張感はなかった。もしかしたら、これはこれで、今度は俺が楽しめるんじゃないかとワクワクしていた。


 ソファでスマホを触る歌代。その真隣に来て、やっと歌代も俺が来たことに気づく。会話しない時の、俺への意識は低いらしい。


 「ん?どうしたの?私とイチャイチャしたくなったぁ?」


 煽るように下唇に人差し指を当てて、ぶりっ子ポーズをする。声は好みだから、ぶりっ子にされると少し勿体ないと思ってしまう。しかし、そんなことはどうでもいい。思うままに俺は四肢を動かす。


 「まぁ、そんなとこだな」


 冗談じゃないと、その声音で伝えて、真剣な顔つきで歌代の両腕を掴んだ。力は込めないで、痛みをそんなに感じないだろう握力で。


 「えっ!えぇぇ!?」


 「今、夜だから静かにしないと隣人に怒られるぞ」


 もうこのマンションは空き部屋がない。四方八方に声は聞こえる。防音性は高いので、そんなに響かないらしいが。


 狼狽して少しずつ抵抗を始める歌代。しかし、成長の差が生まれる年齢である俺に、歌代のか弱い力が言うことを聞くはずもなく、勢いは止まらない。そのまま後ろにバタンと倒し、両腕を頭の横に、万歳三唱をソファでさせる。


 「何々?!」


 「ん?良いんだろ?イチャイチャしてくれるんだろ?」


 動悸が激しい。それは楽しいのと、罪悪感が入り混じった、新たな扉を開きそうなものだった。今度は俺が歌代の上に乗り、体重はそんなに掛けない。しかし、両腕も胴体も動かず、両足で俺の体を巻きつけることも出来ない様子。完全に拘束したということだ。


 「えっ!いやっ、その……え?!どう説明……」


 もう一線超える手前まで踏み込んだ俺は、後は顔を近づけるだけだった。歌代の目を見ていた俺の視線は、顔を近づけるに連れて唇へ。ゆっくりと近づけて、俺は止まる気配も消した。


 「ちょっと?!えっ!いきなり?!大胆だけどぉぉ!」


 距離は10cmもない。あと少し。


 「ん!ホントにするの?!ねぇぇぇ!ん!冗談が!」


 口を開くと届きそうなので、首を曲げて回避する。早口でなんて言ってるか理解が難しく、でも抵抗したいのは理解した。


 そして俺は本当にギリギリで止めた。中指と人差し指をくっつけたほどの距離。息がかかって、音も聞こえるほどの距離。そこからサッと顔を上げて、手は拘束したまま上に体重をあまり掛けないよう乗る。


 「ふぅぅ。これで、歌代も反省して落ち着くだろ。至近距離で見ても可愛いのはムカついて、スカッとはしてないけど」


 「……冗談……か……ホントにびっくりしたよ。ホントにやられるのかと」


 「なんだかんだ初キスは好きな人が良いだろ?だからもう、積極的にそんなことするのは止めるんだな。こっちも大変なんだから」


 恥ずかしさが徐々に浮き出て、上に乗りながらもそっぽを向いた。テレビではクイズ番組が始まっていて、外は相変わらずの雨。真っ暗だから、カーテンを閉めようと決めて手を離した。


 「ぐぅぁぁぁー。どぎどぎじだよ"ぉ"」


 姿勢はそのままで、ソファで寝て両手は挙げたまま。


 「そうか。今日1ドキドキして楽しかったんじゃないか?」


 「楽しかったけど、初キス取られそうでもう焦って焦って」


 「悪かった。怖かっただろうし、今後しない。一応こういうことをする男は、そこら中に居るから、気をつけろって教訓でもある」


 「身近に居たよ。けど、意外とありかも。ああいうシチュエーションだと、恋って楽しいかも。えへへへ……」


 「……ネジ戻らねーかな」


 この先も十分に怪しい雰囲気を出す歌代。俺の脳内容量が足りなくなるぞ……これ。

 少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです

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