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第9話 絶対好きになる




 「なんでそんなに……もう疲れるわ」


 「疑似家族って面白そうでしょ?そういうことにして、私は五百雀くんを好きにさせるから、五百雀くんは私を好きにさせる。中々ありじゃない?」


 「無理だろ。歌代が振り向くとは思わないし、そんな毎日暮らしてたら狂いそうになる」


 美少女と同じ部屋。それだけで慣れるのに苦労する。なのにその上を行こうとするのは、メリットでも理性が耐えられない。


 「疑似家族は面白そうだけど、好きにさせるのは敗北が見えてるから無理だ」


 1番の懸念点は、恋愛に興味ない人に恋をしても無意味だということ。同じ家ならば接点はあっても、次第に慣れてしまえば刺激が消えて恋なんてしなくなる。


 高嶺の花を狙ったとして、数多くのライバルに勝てる気はないし、そもそもそんなに彼女を作りたいとも思わないからこの関係は疑似家族が限界。


 「えぇー。ダメかー」


 お腹の上で駄々をこねる美少女。現実を見ていないようで、感覚が狂いそうだ。重さを感じないのは、跨って両足に体重を載せてるからじゃなく、普通に軽いのだ。


 「多分、お互い恋愛に興味ないならスキンシップはありかもしれないけど、俺は普通に歌代の攻撃に耐えれないから無理だな」


 「でも疑似家族おっけーなら、スキンシップありじゃね?」


 「……もうよく分からなくなってきた。取り敢えずスキンシップはダメだ。好きになる人にも問題はあるんだぞ」


 「同じ家に住む人同士、楽しいと思ったのに」


 「普通だけどな?そんな、俺が普通じゃないみたいな言い方やめろよ」


 未だに退けずに俺の胸を叩く歌代。痛くなくて、不満をぶつけるような叩き方。我儘ではないだろう。ただ、こうして仲を深めるのも良いんじゃないかという案を提示しただけ。


 それで拗ねられても俺にはどうしようもない。歌代の性格も知らないから、テンションの上がり下がりに頷くことも難しい。


 「何かそうしたい理由とかあったりするのか?密かに俺を恋に落とさないといけないゲームに参加させられてるとか」


 「それを理由に今頷こうかとしたけど、流石に違うよ」


 頷こうとはしたんだな……。


 「単に、同じ家に住んだら好きになることは見えてるから、もうそれを前提にしていいんじゃないかって思ってさ。絶対に!絶っっっ対に五百雀くんは私を好きになるよ」


 「……は、はい」


 「私は自分のことだけどよく分からない。でももしかしたら五百雀くんのことを好きになるかもしれない。今のところ結構相性良さそうだし。だからもう今からでもその距離感で接してやろうかなって。その方が生活しやすいし」


 つまりはカップル同棲しようということ。全くお互いのことは知らないのに、出会って即付き合ったかのような関係性なのに。


 「確かにそうかもしれない……けど、歌代が俺には絶対ないって」


 何度思ってもそれは変わらない。好かれないのだと、俺はネガティブだからではなく、普通に思うのだ。


 「ふふっ。どうだろうね。私はあり得ると思うけど」


 「お互い好きなのかなってするあのドキドキもなさそうなのは、青春からかけ離れてる気はするよな」


 「青春はもうこの同じ家に住むだけで十分でしょ。これほどのことはないよ。私と住むなんて、最高でしょ」


 「歌代様々だな」


 多分、歌代と住むことを喜ばない人は男女ともに皆無に近い。これほど陽気て飽きない性格をしていて、さらには美少女だ。探して見つかるような人じゃないからこそ、稀有で好かれる。


 「でもまぁ、とにかく過ごしやすい方で良いんじゃないかって思う。規制はしないし、歌代の暴走にも付いていけるし。後は逃げる力だけを残して学校から帰るように気をつけるだけ。なら、抱きつかれてもいいわ」


 「おぉ、ついに観念したようだね。とことん付き合ってもらうよーん」


 「執拗に抱きついたりとかしたら、その時は風呂場で寝てもらうからな。食事中、ドライヤー中、歯磨き中、何か視聴中、全部執拗だったら俺から抱きしめて風呂場に閉じ込める」


 「いやーん。お風呂で2人密室何するの?」


 「1人に決まってるだろ。何もない声の響くとこで反省してから出てきてくれ」


 「中々ドSなことするね」


 全く気にしてる様子も、気をつけようとする気もないらしい。好きなようにって言ったが、この先が心配でならない。歌代なら狂っててもおかしくないし、好き勝手暴れるのも未来予知出来る。


 怒ったりしないが、いつか注意したりする時が来たら、その時は多分限界の時だろう。歌代だから、本気でキレることはないと思うけど。


 はぁぁ。美少女ってなったら、なんでこんな心許してしまうんだろうか……。


 「ドSだからな。早く俺のお腹の上から退かないと、今日は外に連れて行くぞ。天然シャワーを浴びれるから嬉しかったりする?」


 「んなわけ。寒くて寒くてどうしようもなくなるから、今日は仕方ない、降りよう。明日からは逃げる術を考えとくよ」


 「温めてやるって言ったら?」


 一瞬にして瞳孔に輝きが戻ったように見えた。小さな口も開いて、嬉しいんですよと、声に出さずとも伝わった。


 「それなら――」


 「いや!やっぱりなしだから、降りないと寒いままだぞ」


 「ちぇっ。なーんだ」


 ゆっくりのそっと降りるが、その顔に不満は漏れていた。歌代のことが分かってきたが、男女の壁がないというか、ゼロ距離なのは耐えるのに時間が必要だ。

 少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです

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