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とあるモブの独り言

 ――推しカプ。

 その名の通り、自分が推しているカップルのことである。オタク界隈ではカップルをカップリングとも呼ぶ。故に略して推しカプ。

 かく言う私……の前世にも、ドはまりしていた推しカプがありました。


「Under the Sky―魔法使いの見習いたち―」


 通称・「UTS」。

 十年程前の家庭用ゲーム機で発売された乙女ゲームだ。

「この空の下で、僕らは惹かれ合う」と言うキャッチコピーを持つこのゲームは、平民出身の主人公(名前変換可)が国唯一の魔術学院に特待生として転校するところから始まる。

 当時学生だった私は、この乙女ゲームに青春を注いだと言っても過言でない。攻略サイトなどない時代、寝ずに家庭用ゲーム機にかじりつき、選択肢の度にセーブをして全ルートを巡っていた。何度居眠りをしていて教師に怒られたことか……。


 そんな古代の乙女ゲームが十年以上の時を経て、突然ソシャゲとして復活。当時無名だったキャストも今では知名度があがっており、新しいファン層を取り入れた結果、ちょっとしたブームが巻き起こっていた。ありがたい話だ。


 ところで、私は妄想を形に残すタイプのオタクだった。いわゆる二次創作者である。

 書いていたのはNL……すなわちノーマルカップリング。男性×女性のカップルが推しだった。

 「UTS」のメイン攻略対象である第一王子・レオと、レオの婚約者であり主人公の恋のライバル・ナターリヤの二人である。

 決して結ばれることのない二人がもしハッピーエンドを迎えることができていたら。もしくは主人公が違う選択肢を選んでいたのなら。

 投稿履歴も検索履歴も推しカプの「レオナタ」で埋まっていた。マイナーカプなので数は多くなかったけれど、神絵師・神字書きが多くて枯渇することは無かった。


 その日も、私はイラストコミュニケーションサイト「PICLUV(ピクラブ)」にアップされた「UTS」の二次創作を検索していた。レオナタ以外の二次創作は十年前と違い、供給過多なぐらい溢れており、嬉しい悲鳴を上げていた。

 出勤ラッシュ中、バス待ちで神々の創造物にむせび泣いていたところ、SNSの通知がポップアップされた。


「え!?」


 うっかり声を出してしまった。周りの視線が痛い。すみませんと小さな声で謝罪してから、SNSをもう一度確認する。


(本日十八時に重大発表アリですと~!?)


 スマホを近づけ、文面を何度も目でなぞる。何度見ても公式アカウントからのお知らせであっている。すっかり画面に気を取られており、後方が揉めていることに気づけなかった。

 ざわつくバス停。さすがにスマホから顔を上げた私だったが、時すでに遅し。いとも簡単に人の波に押し出されて縁石から足を踏み外した。車道に出てしまえば「あ」と声を出す間もなく、この世とおさらばしてしまった。アラサーの癖になんてしょうもない終わり方をしてしまったのだろうか。


(ああ、重大発表ってなんだったんだろう……。アニメ化かな? それともファンディスクかな? 見たかったなあ……)


 薄れていく意識の中、最期まで考えていたのは「UTS」のことだった。社畜、どれだけ推しに生かされていたか改めて実感したよ。

 ちなみに攻略対象と主人公が公式カップリングと言われるのに対して、それ以外の男女カップリング(レオナタなど)や攻略対象同士のBLは非公式カップリングと呼ばれる。攻略対象と主人公が引っ付く以外の創作が苦手な人もいるので注意が必要だ。二次創作の住み分けは大事。

 ……まあ、二次創作自体グレーゾーンだからその辺も注意は必要なんだけど。


 ど、ど、ど……。


 そんなオタクだった前世の記憶を思い出したのは、ゲームのシナリオが始まってすぐだった。

 二年生に上がった日、主人公・ルーチェが転校してすぐの出来事だ。同じクラスだったルーチェとレオの会話が耳に入り、何かがきっかけとなって思い出してしまった。

 元々メインキャラとはクラスメイト以上でも以下でもない関係性を保っていたし、私・エリンは声どころかスチルにさえ描かれていないモブなのでその後も変わりのない日常を送っていた。


 ところがある日、違和感を覚えた。

 レオと席が隣になるルートはレオルートだけなのに、二人が親密になるきっかけのナターリヤが嫌がらせをするイベントがいつまでも始まらない。それどころかルーチェとナターリヤがめちゃくちゃ仲良くなっている。いつの間にかレオルートだと思っていた日常は、知らない物語を紡いでいた。

 いや、まあ、推しカプは結ばれないし、ナターリヤは絶対ひどい目にストーリーなので、イベントが発生しないに越したことはないんですけど。

 なんだかんだ言いながら「UTS」ではないけれど限りなく近い世界に順応し、「推しカプが幸せならオッケーです!」理論に達しているあたり、根っからのオタクなのかもしれない。

 オタクはオタクらしく、メインキャラと関わらずに心のサイリウムを振る簡単なお仕事を行うのみ。

 教室の隅っこで、今日も私は推しカプとルーチェの幸せを願っています。


 この物語は、元オタクのモブが推しカプを見守りつつ、主人公を好きなカップリングでゴールインさせようとするもことごとく失敗し、何故か自分が隠しルートの攻略対象と結ばれてしまう話である。

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