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征華女子プロジェクトキャラクター紹介 邂逅編

作者: 頼久×2

征華女子プロジェクトというはるか未来に魔物の侵攻を受けた日本を題材にした世界観共有系異能学園ファンタジー百合小説企画において頼久×2が考案した(ちん) 玲果(れいか)井川(いかわ) 佐紀(さき)の紹介短編になっています。紹介できてるかどうかは読んでから決めてくれると嬉しいです。

「おーい、新入せ~い」

征華女子魔導高専、通称沼津高専の廊下にのんびりした声が響きわたった。声の主は陳玲果。医療科所属の3年生。医療科にしては珍しく、人の治療より料理が好きな、ちょっと変わった人物、といえよう。

「何でオレが新入生ってわかるんだよ」

そう声の主がいぶかしむのも無理はなかった。平均的な女性の身長を上回る背丈に、程よく焼けた筋肉質の体。そしていかにも戦慣れしている、というオーラまで放たれている。多分何も知らない人が見たら征華女子のエリート5年生だと勘違いするのではないだろうか。

「あっ、それは全校集会で座った場所が1年生のとこだったからだね。君結構目立つし。ところで新入生、強そうだしあたしのスールになってよ!」

と、玲果はずいぶんこともなげに声をかけた目的を明かした。


しかし。

「オレに群れる趣味はねえんだ」

新入生からいともあっさりとはねのけられてしまった。しかし、玲果はこの程度でくじけない。バディというものは戦闘担当でない彼女にとっては貴重な魔物退治の戦力であると同時に、一緒にイロイロな研究を進める仲間でもあるのだから。

「むーん、このいけずー。じゃ、名前だけでも教えてよ。見た感じ今後お世話になるかもだし。あたし戦闘面いまいちだからねえ」

「……井川佐紀だ」

さっさと離れろ、といわんばかりの口調であった。しかし陳玲果は笑みの表情を崩さなかった。ときには命にかかわりかねない彼女のイロイロな実験の上で見れば、この程度は失敗の部類にも入りはしない。最も、生身の人間としゃべるという形の実験はほとんどといっていいほどなかったのだけど。


「つれないなあ佐紀ちゃん……ほいじゃあお近づきのしるしにあたし特製の特濃ポーションいかが?」

そう言ってすっと小瓶を出した。しかし佐紀も怪訝な顔をする。あたり前だ。得体の知れない物体を出会って数分の人間に渡されたのだから、毒でも入っているのではないかと心配になりはする。

「毒なんて入ってないからさあ、受け取ってよお」

哀願するような声で玲果はあがいた。佐紀の顔はますます険しくなっている。並みの生徒なら先輩にこうまでされたらいやだとは言えないだろう。まして、死と隣合わせの征華女子で、しかも回復には重要なポーションであればなおさらだ。

「ほぉ……」

佐紀が特濃ポーションの瓶をとってしげしげと眺める。この瞬間、陳玲果の笑みは単なる友好の意志から勝利の確信によるそれへと変化していた。色は深緑。だが毒々しさは感じられず、一気飲みを考慮してかサラサラとした液体に仕上がっている。

「もらって、いいのか?」

顔から険しさが完全に消えたわけではないものの、佐紀の目は明らかに特濃ポーションをもらう気になっているのが口先だけではないことを告げていた。

「じゃなかったら最初っから渡さないよ」

「ふうん……」

それに対する佐紀の答えはいまいちはっきりしないものだった。

「で、さあ」

おさげを左右に激しく震わせるようにして玲果はいう。

「スールの件、考えてくれないかな。こういうのもっといっぱい作ってあげられるけど……」

「それは別にいい」

「なーんでさあー」

「……いまいち、お前のことが、信頼できない」

と、いう言葉を残して佐紀は教室へ帰っていった。

しかし佐紀の声ははじめのころに比べどこかはっきりとはしていなかった。あるいは、そのまま追いかけてもう少し粘れば佐紀は玲果とスールになっていたかもしれない。とはいえ、畳みかけるには玲果の方も気力と休み時間の残りという意味での時間が不足していた。玲果は失敗を認めざるを得なかった。


「あんちくしょお」

と、人の消えた廊下で一人ごちる玲果。だが、彼女は失敗しても諦めない。今回はあまりにも強さを求めすぎて付き合い悪そうなのを選んでしまったし、ことを性急に進めすぎたのがいけない以上、次はそれをしなければいいだけの話だ、と思っている。別のスール候補を探し、彼女は学校内をほっつき歩いていった。新入生に近づくために研究を繰り返して開発した特濃ポーションの瓶をカチャカチャいわせながら。

(でもやっぱり戦える妹がいいなあ。そうすれば死体処理もかねて魔物の肉をもらって、イロイロな『実験』ももっとしやすくなるし。なかなか医療科は最前線に行けないからねえ)

そう思いつつ、全校集会の記憶をたどる。妹候補になりうる、よさそうな後輩がいたかどうか、思い出すためだ。


一方、佐紀は何度ももらった小瓶をブレザーのポケットから出したり入れたりしながら見つめていた。

「何だったんだよあいつ……」

魔力なき親をいびっていた人たちを征華女子も輩出しているのだから、魔力に目覚めた自分に対する厚遇には裏があってしかるべきだと佐紀は思っている。それでも向こうから自分に構ってくれる上級生の存在にはいい意味で驚いていたし、彼女の善意を信じたい気持ちもないではないのだ。人に名前を聞く癖に自分のはろくに言わなかったけど。

(でも本当にこれがポーションかどうか、試した方がよさそうだな)

流石に他人に無理やり飲ませるわけにもいかないが、そうすればあの変な先輩が本当に善意から動いてくれていたのかを確かめる一助になるはずだ。仲良くなればいいかはそれから考えればいいのだから。


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