9話
季節は夏になった。さすがに外は暑いので、レオンハルト、リック、アンナの4人で、教室でお弁当を食べている。
予想外だったのが、リックとレオンハルトが意気投合し、かなりの仲良しになったことだ。男子2人で笑いながら楽しそうに話していて、女子組が蚊帳の外なんてこともよくある。こうやってみると、小さい頃のレオンハルトとは別人のようだ。
ゲームでは、リックなんて人物は、どのルートにも登場しなかった。これもゲームとは違う点なのだろう。他にも、ちょっとずつだが、ゲームと違うところが出てきている。
まず、レオンハルトがエミリーに関わろうとしないこと。すれ違ったエミリーに声をかけられても、レオンハルトが相手をしないそうだ。これは「内緒だよ」といって、リックが教えてくれた。
たしかに学内では身分を問わず、みな平等というルールがあるが、あれほど親しげに話しかけるのはどうだろうかと思っているらしい。
廊下で、エミリーがレオンハルトに話しかけているのを時々見かけるが、なるべく2人の邪魔をしないために、視界からすぐに消えるよう努力はしている。きっと隠密スキルは上がっていることだろう。
次に、わたしに取り巻きがいないということ。ゲームでは、ジェシカを公爵令嬢としてちやほやする存在がいたのである。わたしの場合もそんな気配があったのだが、本格化する前に、丁寧にお断りさせていただいた。これで、わたしに気に入られようとしてエミリーをいじめる取り巻きたち、という構図を潰すことができた。
そして、エミリーと、レオンハルト以外の攻略対象者は順調に親密になっているらしい、と聞いた。なぜ「聞いた」なのか。それは、エミリーとわたしに全くもって接点がないからだ。これはおそらく偶然だろうが、選択科目も被らなかったし、別クラスには出入りしてはならないという規則がある。エミリーのことは噂程度にしか情報を得られないのだ。
そして、エミリーに関する情報があまり得られないまま、夏の一大イベントである野外学習が始まろうとしていた。
* * * * *
野外学習といっても、みんなで親睦を深めるために全力で遊ぼうね!というコンセプトのもと行われる。このイベントは全学年が参加するため、全ての攻略ルートで発生する。海で泳いだり、バーベキューをしたりと、ただただ夏を満喫する1日だ。攻略対象の水着、見たくない?バーベキュー、やりたくない?といった妄想がこれでもかと詰め込まれている。
かくいうわたしも、ワクワクしているうちの1人である。なぜなら、バーベキューが好きだから!
というより、肉をいっぱい食べたい!のほうが合っているかも知れない。
学園から少し離れた海辺へ行き、昼は海で遊ぶ。わたしはアンナと、木陰でおしゃべりをしていた。
「レオンの程よい筋肉、最高」
「リックだって負けてないから」
2人そろって惚気ていると、レオンハルトとリックがこちらに向かって歩いてきた。
「泳がないのか?」
「だって、日焼けするの嫌だもん」
「じゃあ、これ着ておけ」
レオンハルトが、自分で持っていた上着をわたしに差し出した。
「ありがと…」
上着を受け取ろうとしたとき、大事なことを思い出した。
「やっぱりいいわ。レオンが着て」
これはわたしが持っていてはダメなのだ。今日のイベントで使うんだから!
「なんでだよ。俺は別にいいから…」
「私の着替えが無くなりました!」
叫び声が聞こえた方を見ると、エミリーが攻略対象の3人を連れて立っていた。
「エミリーの着替えがなくなった。きっと、エミリーに嫌がらせをした人物がいるに違いない!」
「そういえば、ウェルダンテ公爵とエミリーが仲良く話しているところをみて、ジェシカ嬢が嫉妬していたらしいな」
「ジェシカ嬢、あなたの仕業なのでは?」
みんなの視線が一斉にわたしへと向けられる。ゲーム通りの流れならば、これは正しい。ジェシカがエミリーに嫉妬して、着替えを隠し、困らせるのだ。それを見たレオンハルトが、さっきわたしに渡そうとした上着を、エミリーに着せるのである。ただ、ゲームなら、攻略対象者たちがエミリーをこんな風に囲ってなかったはずなんだけど…。
まぁいい。ヒロインが転生者なら、今日このイベントを起こすであろうことは予想できていたため、着替えを余分に持ってきたのだ。わたしは、そばにあった自分のカバンに手を伸ばし、着替えを一式取り出そうとした。
そのとき―――
「無くなった着替えって、これのことかい?」
突如現れたのは、いつの間にかいなくなっていたリックだ。その手にはピンクのカバンが握られている。
「たしかに、それは私のカバンです。一体どこで…」
「この裏の林にあったよ。ジェシカはアンナとずっと一緒にいたのを、僕とレオンハルトが見てる。だから、君のカバンを隠したのは別の人だと思うよ」
「…そうですか。ありがとうございます」
「あれ?着替えが見つかったのに、あんまり嬉しそうじゃないね?」
「そんなことありません!」
「それじゃあ、この件はもう終わり。そろそろバーベキューをするらしいから、皆さん準備しましょう」
エミリーがわたしを睨みつけてきたものの、攻略対象者たちとともに、その場から離れていった。
「リック、ありがとう」
「どういたしまして」
「でも、リックはどうしてカバンが隠されてるってわかったの?」
この世界でこのイベントが起こることは、わたしとエミリーしか知らないはずなのに…。
「もういいじゃない!なんにも悪いことしてないんだし。ほら、わたしたちも着替えましょ」
「え?!ちょっと待ってよアンナ!」
こうして、うやむやにされてしまった。
* * * * *
いくら夏とはいえ、さすがに夕方は涼しく感じる。なにも考えずに半袖のワンピースを準備してきたことを少し後悔していた。
けど、大好きなお肉がわたしを待ってる!
「お肉♪お肉♪」
わたしはたっぷりのお肉を取り、アンナと会場の隅っこに座った。
「よくそのお腹にそれだけ入るわね」
「お肉は別腹っていうでしょ?」
「そんなこと言うのはジェシカだけよ」
すると、わたしの後ろをみたアンナが突然立ち上がった。
「じゃあ、わたしはリックのところ行ってくるから、ごゆっくり〜」
といって、わたしから離れていった。後ろを振り返ってみると、レオンハルトが立っている。
「なんだ、レオンか」
「なんだってなんだよ。そんな薄着だと風邪引くぞ」
そう言ってレオンハルトは、わたしにさっきの上着を無理やり被せてきた。
「今度は嫌とは言わせないからな」
「分かったわよ」
そういえば、さっきのこと何にも言えてない。
「お昼のとき、ありがとう」
「なんのことだ?」
「上着のことも、着替えのことも」
「あれくらい、なんてことない」
そうだ!レオンハルトなら、あのカバンについて何か知ってるかもしれない。
「ねぇ、レオン。リックが見つけたカバンのことなんだけど…」
「ジェシカ、俺の肉いるか?」
「いる!いります!」
「じゃあ、口開けて」
レオンハルトが肉をわたしに差し出す。え、うそでしょ?レオンハルト様があーんしてくれるの?
………………お肉で?
「いいよ、自分で食べられるから」
「口、開けて?」
そんな満面の笑みで迫られたら、拒否できないではないか。仕方ない、これはお肉を食べるためだ。決してレオンハルトの笑顔に弱いわけではない。
パクッ
「おいしい!」
「もっと食べるか?」
食べたい。すごく食べたい。女子として、こんなにがっついていいんだろうか…。でも、こんな生活もあと半年したら終わりを迎えるかもしれないのだ。
「………ちょっとだけ、もらおうかな」
わたしは、レオンハルトのあーん攻撃や、お肉をいっぱい食べた満足感から、カバン事件について聞くのをすっかり忘れてしまった。
あれ?わたし、もしかして餌付けされてる…?
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