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8話

 とうとう春がきてしまった。貴族であれば皆、このマナード学園に入学することになる。入学者の一覧をみると、Bクラスにエミリー・バンドルの文字があった。名前がある以上、物語が始まるのは確実だろう。


 わたしは目標を変更することにした。レオンハルトの暗い過去は、取り除けたはずだ、たぶん…。ヒロインと恋に落ちるのも仕方がない。

 でも、わたしが何もやってないのに追放されるの、やっぱりおかしくない?!ということで、できるだけ追放されないように動くことにした。


 本来ならジェシカは、エミリーと同じBクラス、レオンハルトは特進クラスであるSクラスに入るのだが、わたしはレオンハルトと共に、Sクラスに入ることになった。クラス分けは、入学前に受ける試験の成績で決められる。レオンハルトと同じクラスなら、流れを少しでも良くできるかも、と必死で勉強した甲斐があった。



 入学してすぐは、特に何かが起きるわけではない。それにゲーム内でのイベントは、時期や順番がざっくり決まっているだけであって、何月何日の何時だなんて親切に教えてくれるわけではない。気の抜けない1年を過ごさなければならないのだ。



「はぁ…」


「最近、ため息増えたわね」


 嬉しいことに、アンナも同じクラスだった。基本的に2人でいつも一緒にいる。この日は移動教室だったため、並んで廊下を歩いていたのだが…。


「きゃっ!」


 わたしたちの前を歩いていたレオンハルトと、誰かがぶつかった。


「ごめんなさい!」


「いや、こちらの不注意だった。すまない」


 ぶつかったのは、エミリー・バンドルだ。


「急いでいるので、これで失礼します。ほんとにごめんなさい!」



 いま目の前で起こったのは、主人公とレオンハルトの出会いイベントだ。これで2人は顔見知りとなる。


「始まっちゃった……」


「ちょっと、大丈夫?顔色悪いわよ?」


 アンナが心配してくれているが、きちんと返事ができていなかったと思う。覚悟はしていたが、やっぱりキツいかもしれない………。



 * * * * *



 昼休みになった。入学してから、レオンハルトと一緒にお昼を食べることが習慣になっている。


「ジェシカ、愛しの旦那様が呼んでるわよ。なにがあったか知らないけど、気分転換してきなさい」


「今日はアンナと一緒に食べたい気分かも…」


「だめよ。わたしだってリックと食べるんだから。ほら、いってらっしゃい」


 わたしよりも、婚約者のリックをとったアンナに背中を押され、レオンハルトと一緒に教室を出る。向かったのは、中庭にある木のそばのベンチだ。風通しもよく、春の季節にぴったりである。今日は、そんなことを感じていられる余裕はないけど…。


 



「なんかあったな」


 いつも通り、レオンハルトとおしゃべりしながらお弁当を食べていたつもりだったのに、なぜか言い当てられ、ビクッ、と肩がはねた。


「なんにもないわよ」


「いや、いつもと違う。何を隠している?」


 なんでバレちゃうのかなぁ。わたしはサンドウィッチを食べていた手を止めてレオンハルトを見上げた。


「移動教室のとき、レオンにぶつかった女の子がいたでしょ?」


 レオンハルトが、思い出そうと首をひねる。そんな姿までかっこいいとか反則じゃない?


「………あぁ、たぶんいた気がする」


「いたのよ!その子にぶつかって、なんか変わったことない?」


「変わったこと?」


「かわいいなとか、キュンってしたとか、キラキラしてたとか」


「特にないな。そもそもどんな顔だったかもしっかり覚えてないくらいだ」


「………ほんとに?」


「ほんとに」


「うそついてない?」


「ついてどうする」


 なんだ、そんなことか、なんて言いながら、レオンハルトは再びお弁当を食べ始めた。わたしもそれ以上は、怖くて聞けなかった。



 * * * * *



 レオンハルトは、エミリーに一目惚れするわけではないのだろう。だからなんともなかったのだと結論付けて数日がたった。その日も、相変わらずレオンハルトとお弁当を食べていた。


「そういえば今日、あのぶつかった子に話しかけられたんだよ」


 わたしは思わず、飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。


「あのときは急いでいて、きちんと謝罪ができていなかったからって、俺のことを探していたらしい」


 そうだ。それで謝罪として、ハンカチをプレゼントされる。そのハンカチは後半にあるイベントに使われるための大事なアイテムだ。エミリーがジェシカにいじめられて泣いてる時に、レオンハルトがそのハンカチで涙を拭いてくれるはずである。


「それで、謝罪の気持ちっていって包みを渡されたんだけど、受け取らなかった」


 ………受け取らなかった?


「今なんて?」


「受け取らなかった。知らない人に物もらうのって、なんか嫌なんだよ。それに、いらないって言ってもやたら粘ってきて、ちょっと怖かった」


 これは、エミリーも転生者の可能性があるな。それとも、ゲームの強制力とかいうやつか?


「あの子のこと知りたいなって思わないの?たとえば….、名前とか」


「名乗ってた気がするけど覚えてないし、別に知りたいとも思わない」


 おかしい。小さなことだが、このハンカチ受け取りは強制イベントなのだ。さらに、レオンハルトにこれっぽっちもエミリーが刺さっていない。


 きっと、これからゆっくり恋をしていくのだろう。あんまり早くレオンハルトが離れていくのも、悲しいではないか。


お読みいただきありがとうございました!

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