7話
そんなこんなで、慌ただしい日々はあっという間に過ぎていった。明日はわたしの15歳の誕生日だ。15歳の誕生日は、前世でいうところの成人式のようなもので、パーティーを開いて盛大に祝う。エスコートしてくれるのは、婚約者であるレオンハルトだ。
そのレオンハルトが、渡したいものがあると屋敷にやってきた。誕生日は明日だし、会ってからでいいやと思ったのに、どうしても今日がいいと言われたのである。
「ギリギリになって悪かった」
レオンハルトから渡されたのは、細長い箱だった。蓋を開けると、わたし好みのシンプルなデザインのネックレスが入っていた。
「これ………、覚えててくれたの?」
「15歳だろ?あげるもの、これくらいしか思い浮かばなかった」
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
それは、かなり前のことだ。
「お母様ね、15歳になるときにお父様がくれたアクセサリーを着けて、誕生日パーティーに出たんですって」
「へぇ」
「いまも大事なときに着けてるっていって、見せてくれたの。そういう思い出のあるものっていいわよね」
「そういうもんか?」
「そういうもんよ」
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
覚えてるなんて思ってなかった。驚きすぎて言葉が出てこない。
「アクセサリーって結構種類があるんだな。なるべくジェシカが好きそうなものを選んだつもり」
全部言い終わらないうちに、わたしはレオンハルトに抱きついた。珍しく慌てているが、そんなことは気にしていられない。
「ありがとう。一生、大事にする」
「そんなに気に入ってもらえるとは思わなかった」
レオンハルトが選んでくれたのだ。喜ばないはずがない。
「1回しか言わないからな」
抱きしめ返してくれたレオンハルトが、わたしの耳元で呟いた。
「たぶん、思ってるよりも、俺はジェシカが好きだ」
「えっ………?」
「これからもずっと一緒にいたいし、大事にしたいと思ってる」
「レオンハルト…」
「レオンと呼んで欲しい」
こんなことを言われたら、大丈夫かもなんて、希望をもってしまうではないか。
わたしはもうすぐ身を引かなければならなくなるのに、どうしようもなくレオンハルトが好きなのだ。
それでも、思いを封じなければ。
わたしはいずれ婚約を破棄される。学園に入学すれば、レオンハルトはヒロインと恋に落ちるのだから。
「わたしも好きよ、レオン」
この時間が永遠に続けばいいと思った。
そして冬を超え、春がやってきて、わたしたちは、舞台となるマナード学園へ入学する。
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