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6話

 レオンハルトside


 俺が初めてジェシカに出会ったのは、7歳の時だった。婚約者として紹介されたジェシカは、なぜか俺と会ったときに驚いた顔をしていたし、一緒に勉強したいなんて言い出すし、変わった子だなと思っていた。俺としては、あの家庭教師ではないというだけの理由で、ジェシカの屋敷で勉強することを選んだのだが、ジェシカがなぜ俺と一緒がいいといったのか分からなかった。


 ずっと疑問に思っていたのだが、ある時、なぜか聞いてみたくなったので、ジェシカに声をかけた。すると、想像もしていなかった返事が返ってきた。


「レオンハルト様と、もっと一緒にいたいと思ったからです」


 一緒にいたい、なんて、はじめて言われた。ずっと冷遇されていた俺としては、暗闇しかない世界に光がさしたような、そんな気がした。思い返せば、あの頃からもうジェシカに惹かれていたのかもしれない。



 * * * * *



 少しずつ話せるようになった頃、急にお菓子を食べないかと誘われた。甘いものは苦手だったが、ジェシカからのはじめての誘いを断りたくなかった。


 あの誘いにのったことで、菓子の概念が180度かわった。ジェシカが作ったものは見たことないものばかりだったが、甘さがくどくなくて食べやすかった。


 ジェシカは、俺が美味いと言ったことによっぽど驚いたようで、その様子に思わず笑みが溢れた。笑ったのは久しぶりだったため、少し表情が固かったかもしれない。


 なぜ俺が甘いものが苦手ということをジェシカが知っていたのかは分からないが、俺のことを考えて作ってくれたという喜びで、特に気にならなかった。


 ジェシカだけが作れる特別なレシピだそうだ。他の人には内緒だと言われた。俺だけが知っている秘密に、なんだか嬉しい気持ちになった。あのとき、誘いを断らなくて良かったと心底思ったものだ。


 それからは、ジェシカといる時間も、話すことも、格段に増えた。ジェシカといると心地良い。表情がコロコロ変わるのも、見ていて飽きない。ただ、少し抜けているところがあるから心配だ。それをからかうのも楽しいのだが……。



 気づかないうちに、俺の中で、ジェシカはとても大きな存在になっていた。







 父との険悪な関係を改善することができたのもジェシカのおかげだ。以前から気にしてくれていることは薄々分かっていたが、俺がわざと父の話題を避けていたのだ。


 仕事についていくのも、初めは憂鬱な気持ちの方が大きかった。今まであんなに長い時間、父と一緒にいたことがなかった分、知らないことのほうが多かった。移動時間が多く、馬車の中で親子揃ってずっと無言なのもどうかと思って、おそるおそる話しかけてみたところ、意外にも話が弾んだ。



「たぶん、お互いにきちんと向き合ってこなかったんだろうな」



 父も、俺自身も、お互いにどう接したらいいのかわからないまま、ここまできてしまった。何を考えているか分からない存在で、触れずに逃げていただけだった。それを変えるきっかけをくれたのは、間違いなくジェシカだ。



 お土産には、一緒に時を刻みたいという願いを込めて時計を買った。とても気に入ってくれたようで、部屋に大切に飾ってくれているそうだ。



「俺も父上のようになりたい」



 そして、愛するジェシカの隣に堂々と立てるような男になると決意した。



 * * * * *



 これまで、ジェシカの誕生日には、何を渡せば喜んでもらえるのか分からず、無難なものリスト(個人的な見解です)の中から選んでプレゼントしていた。


 歴代のプレゼントは、失くさないように、大切に保管してあるらしい。あれくらいの物ならいくらでも買ってやると言ったのだが、そういうわけではないのだと言われてしまった。女心はイマイチよく分からない…。





 12歳になると、社交界デビューへの一歩を踏み出すことになる。初めの頃は親戚ばかりのものが多いが、もしかしたら、ジェシカが誰かに惚れられるかもしれない。そんなことになったら大変だ。


 そこで、瞳の色の物で、かつジェシカに身につけてもらえる物として、ジェシカの12歳の誕生日にリボンを贈った。直接好きだと言うのは恥ずかしいが、これならさりげなく想いを伝えられるし、どこの馬の骨ともわからぬ奴に対する虫除けにもなるだろう。


 ジェシカが泣き始めたことには少し驚いた。それに、かなりからかわれて、あとでこっそり渡せば良かったと後悔した。


 これまでプレゼントしたものと同じように、保管ルートに入ってしまうと、他の男たちに対する牽制の意味がないため、なんとか使ってもらえるように説得するのも苦労した。あのジェシカの反応を見る限り、本当の意味は伝わっていないと思う。こんな風に、ちょっと鈍感なところも(いと)しいのだ。





 俺の誕生日には、ブラウンのカフスボタンをもらった。どこへ行く時にも肌身離さず身につけている。渡された時のジェシカの笑顔に、思わず頬を赤らめてしまったが、部屋が暑いと勘違いされたようだ。






 それからは、父の仕事の関係や稽古が続き、ジェシカと会える機会が減ってしまった。どうにかしてジェシカとの繋がりを保ちたかった俺は、噂で流行りだと聞いた文通をしないかと誘った。


 誘ったのは俺だが、いざ書こうとすると、何を書けばいいのか分からず、事務的な内容になってしまった。せめて、手紙に添える土産だけは記憶に残るものにしようと、滞在していた国の伝統工芸である人形を贈ることにした。


 すると、ジェシカから、素敵なお土産をありがとうと返事がきたのだ。やはり土産は、その国の特徴がわかるものが良いのだと思い、壺や置物などを贈った。これらも気に入ってもらえたらしく、お礼の書かれた返事が届いて安堵した。



お読みいただきありがとうございました!

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