5話
あれから2年ほどがたち、もうすぐわたしの12歳の誕生日を迎える。今までにレオンハルトがくれたものといえば、ハンカチ、ポーチ、有名どころのお菓子、紅茶のセット…。思い返してみれば、前世で、無難なあげるものリスト(個人的な見解です)にあるものばかりではないか。さすがレオンハルト様。
でもいいの!レオンハルトからプレゼントをもらえるだけでも、幸せすぎて心が満たされる。これ以上の贅沢は必要ない。もらった物は、使うのがもったいなくて、すべて箱にしまって大切に保管していたのだが、さすがに食品は悪くなってしまうので、減っていくことを嘆きながらちょっとずつ食べた。バーバラたちが引いているような気もしたが、見なかったことにすればいいだけの話である。
何を勘違いしたのか、レオンハルトがいくらでも買ってやると言い始めたので、そういうわけではないのだと断った。
今年の誕生日プレゼントはなんだろうか。今まで両親から、何か欲しいものはあるかと聞かれても、特にないと答えていた。物欲のなさを心配されているが、おそらくこの屋敷にはあと何年かしかいられなのだ。もらっても……
いやいや、考えちゃダメだ。
どうしても暗い考えが片隅から離れないまま迎えた誕生日当日。今日は、家族などの近しい人たちと誕生日を祝う。そして、この世界で12歳になると、少しずつ社交界に顔を出し始めなければならない年齢となる。社交界といっても、親戚も交えたお茶会に出るなど、プレデビューのようなものだ。
「誕生日おめでとう、ジェシカ」
両親は、とっておきのドレスをプレゼントしてくれた。これで、社交界プレデビューも怖くない。
レオンハルトからは…
「おめでとう」
そういって渡された袋の中には、髪につけるリボンが入っていた。レオンハルトの瞳のように、澄んだ碧色だ。
婚約者の瞳の色のものを贈る意味は――愛してる。
そのリボンを見たら、涙が溢れてきた。
わたしは気付いてしまったのだ。ゲームの中の彼ではない。一緒におしゃべりするのが楽しくて、素直じゃないけど、心配してくれて、作ったお菓子も食べてくれて、今までは無難なプレゼントばかりだったのに、不意打ちでこんなものをくれる、この世界のレオンハルトを―――好きになってしまった。
「えっ?そんなに嫌だったか?」
そんなことはないと、懸命に首を振る。
「ほんとに素敵よ。素敵すぎて嬉しいの。ありがとう」
家族やバーバラたちに盛大にからかわれるというおまけ付きだったのは、言うまでもない。
レオンハルトが12歳になったとき、わたしからは自分の瞳の色である、ブラウンのカフスボタンをプレゼントした。少し顔が赤くなっていたので、暑いのかと思って、部屋の温度を下げてあげた。わたし、気遣いできてえらい!
* * * * *
それからは、お互いに忙しく、これまでのように会える機会がガクッと減った。わたしはお茶会やレッスンがひたすら続き、レオンハルトも父親の仕事の関係や、稽古などで時間が合わず、すれ違いの日々だった。自分の気持ちに気づいてしまった以上、会わなくていいのは、わたしにとってはありがたいことだ。
あとから聞いた話だが、レオンハルトの父親が、息子が自分の仕事に興味をもってくれたことが嬉しかったようで、あちこちに連れ回していたらしい。おかげで、なんともいえないお土産が増えてしまった。謎の人形、謎の壺、謎の置物など、謎の物の数々。レオンハルトは呪いにでも手を出してしまったのだろうか。
わたしはお茶会でできた友人の1人である、アンナに相談してみることにした。
「呪いの道具?」
「そうなのよ。行く先々で買ってくるの。よっぽど嫌われてるのかしら」
アンナが、わたしの髪に付いているリボンを指す。
「でもそのリボン、婚約者からのプレゼントでしょ?それはないと思うわよ」
「そうかなぁ」
このリボンも大切なものボックスで保管される予定だったのだが、レオンハルトからどうしても使って欲しいと言われてしまった。理由はよく分からないが、妙に必死な形相で説得されたため、厳重管理の元で使用している。
「会えないから文通しようって言い出したのも向こうなんでしょう?心配しなくても大丈夫よ」
「文通も、やろうって言ってきたわりには内容うっすいのよね」
会えない期間が続いていたある日、久しぶりに会えたレオンハルトから「文通をしないか?」と言われたときは驚いた。
いま、文通が貴族の中でブームなのだ。離れていても想いを伝え合える手段として、婚約者同士の間で人気が出たらしい。流行りにのっかるタイプとは程遠いはずなのに、レオンハルトはどうしてやりたいって思ったんだろう…。
しかも、手紙の内容は、何をしたとか、何を食べたとか、報告書のようなものばかりなのだ。
―――謎は深まるばかりである。
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