19話
短めです。
とうとう卒業記念パーティーの日がきてしまった。卒業パーティーは夕刻から始まるため、昼食を食べたあと、バーバラに支度を手伝ってもらう。昼食といいつつも、緊張であまり喉を通らなかった。
時間がきたため、もう屋敷を出なければならない。重い足取りで部屋を出て、玄関の扉を開けた途端、わたしは幻を見ているのかと思った。
「遅くなってすまない」
ここにいるはずのない、レオンハルトが立っていたのだ。
「どうして……」
レオンハルトがここにいるの…?
「さっきまでエミリー・バンドルの追放の立会人として王城にいたんだ」
話がスムーズに飲み込めず、脳内でレオンハルトの言葉を繰り返す。
「……エミリーが追放?わたしじゃなくて?」
「なぜジェシカが追放されるんだ?」
不思議そうな顔をするレオンハルトを見つめながら、とりあえずわたしが冤罪をふっかけられて、追放されずに済んだことを理解する。
それよりも―――
「なんでエミリーが追放されてるの?!」
わたしが追放されずに済んだのはもちろんありがたいが、知らない間におかしな方向へと話が進んでいたようだ。
「ジェシカがやたら気にしていたし、俺にも無闇に絡んできたから、少し叩いてみたらどんどんホコリが出てきてな。途中から父上に放り投げるつもりだったのに、事がどんどん大きくなって、王家の会議で追放が決まったんだ。その時点で、俺はお役御免のはずだったんだが、責任を持って最後まで見届けろと言われてしまってな。けっこう面倒だった」
「最近忙しそうにしてたのって……」
「さすがに王家が絡んでくると話は変わる。やることも倍になってな。しかも、機密情報扱いになってしまって、ジェシカに伝えることができなかったんだ。不安にさせてしまって、すまなかった。」
じゃあレオンハルトは、最近エミリーと会っていたわけでも、エミリーのことが好きなわけでもなかったってこと?
「この間、エスコートできないかもしれないと伝えただろう?でも、どうしても俺がエスコートしたかったから、書類の片付けを急いで終わらせて、こっちに来た」
耳に入ってくる情報量が多すぎて、処理が追いつかない。頭の中がぐちゃぐちゃだ。
「もしかして、他のやつにエスコート役を頼んでいたのか?」
わたしは慌てて首を振る。今日は1人で行くつもりだったので、レオンハルトの代わりは誰にも頼んでいなかった。
レオンハルトがわたしの前に跪く。
「俺の手を、取ってくれるか?」
そんなことをわざわざ聞かずとも、答えは1つだ。けれど、わたしの心にはまだ不安が残っていた。
「わたしで…いいの……?」
「ジェシカがいい」
ふわりと微笑むレオンハルトに、わたしの心臓がキュッと締め付けられた。
―――わたしは、この人の隣を歩きたい。
「……よろしく、お願いします」
レオンハルトが差し出した手に自分の手を重ねる。わたしよりも大きくて、しっかりした手が包み込んでくれた。あったかくて安心する。ずっと蓋をしていた想いとともに、涙も溢れて止まらない。
レオンハルトが立ち上がり、こぼれ落ちた涙を拭う。そのまま頬に手が添えられ、どちらからともなく唇を合わせた。
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次回、最終話です!