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18話

 レオンハルトside


 卒業式記念パーティー当日―――


 俺は朝早くから王城にいた。広間には陛下と、立会人として名乗り出てくれた数名の役人がいる。エミリーたちは今日、卒業パーティーで行う"断罪"の要望を叶えるという名目で、王城へと呼び出されている。



(わたくし)、エミリー・バンドルは、ジェシカ・フリークの追放を要求します!」



「そんなことはさせない!追放されるのはエミリー・バンドル、君の方だ」


 陛下に向かって高らかに宣言するエミリーを遮り、話の流れをこちらへと引き寄せる。


「君は、ジェシカから嫌がらせを受けたと言って、様々な物を持ってきただろう。君の証言と照らし合わせて、すべて調べさせてもらった」


「どういうことですか?」




「まずはこの切り刻まれた教科書だ。君は、その場にあったハサミでジェシカが切ったと言っていた」


「そうです!」


「この服に紅茶をかけられたのも、正面からだったな?」


「間違いありません!なにが言いたいんですか?」





「ジェシカは左利きなんだよ」




 この事実を伝えても、エミリーは意味が分からずに困惑しているようだ。


「だからなんですか?」


「左利きだと、その場にあるハサミは使いづらくて、スムーズに切ることは難しい。ジェシカは左利き専用のハサミを職人に作らせて、普段からそれを使っていたから、なおさら慣れていないだろう。手で引き裂いたと言われた方が、まだ納得できたのに、わざわざハサミを使ったのはよくなかったな」


 エミリーが特に反論してこないため、そのまま紅茶をかけられたというドレスを見せる。


「このドレスの紅茶のシミは、正面からみて右側だ。左利きなら、シミは左にできる。茶会についても偽っていたな?」


 先程まで明るかったエミリーの表情が、少しずつこわばっていく。


「それと、悪口を書かれたという紙だが、どこで買ったか分からないほどの安物だ。学園では取り扱っていないし、こんなものを公爵令嬢であるジェシカが持っているはずがない」





「エミリーがデタラメなことを言っているというのか?!」


 エミリーが追い詰められていることが気に入らなかったらしく、取り巻きの令息3人が割り込んできた。


「あぁ、その女の言うことしか聞かない能無しの方々ではありませんか」


「我々のことまで侮辱する気か!」


 そのうちの1人が怒鳴り散らす。


「ちょっと黙ってて下さい」


 今にも噛みつきそうな顔をした令息を黙らせ、改めてエミリーと対峙する。


「君は、廊下でジェシカに"何度も"足を引っ掛けられて転んだと言っていたが、どんなに探しても目撃者がいない」


「それは、誰にも見られないところでやられて…」


「誰にも見られない廊下などない。それから、君が階段から突き落とされた日に、ジェシカは学園に来ていない。一体どうやって君を突き落とすんだ?」


「日にちを勘違いしていて…」



「潔く、自作自演であることを認めたらどうだ?」



 俺が睨みつけると、ヒッと怯えた表情を見せた後、大きな瞳から涙がこぼれ落ちた。


「私は、レオンハルト様が想いを伝えてくださるというから待っていたのに…」


「君を追放したい、という思いを伝えるためだ」


「レオンハルト様が、私に好きだって言ってくれると思っていたんです!」


 レオンハルトに詰め寄ろうとしたエミリーを、複数の腕が掴んだ。


「ちょっと待てエミリー!真面目で努力家な僕が1番好きだと言ってくれていたではないか!」


「どういうことだエミリー?真面目で頭が固いやつよりも騎士道を全うする俺が1番だって言ってただろ?!」


「なんでだよエミリー!大きな領地を親から引き継ぐのが不安なら、その不安を共に乗り越えようと言ってくれたのは君だぞ!」


 三者三様に言葉は違うが、エミリーからあなたが1番だと甘い言葉を囁かれていたらしい。



「3人とも落ち着いて!私から手を離して!」



 エミリーが振り解こうとするが、変なところで粘り強い3人は、全員譲る気がないようだ。


「とりあえず脳筋、お前から離したらどうだ?」


「そういうお前が手を離せ、メガネ野郎」


「君たち2人が離せばいいだけだろう」


「「まずお前が離れろ」」



「私のために争うのはやめてー!」



 ここにいる役人たちは、すべての事情を把握しているが、さすがに呆れたようだ。フロアに静けさが戻ってきている。



「話を戻すが、フリーク公爵家の令嬢であり、俺の婚約者でもあるジェシカに、あらぬ罪を着せようとしたことは罰せられなければならない」


「それは誤解なんですっ」


「フリーク公爵家に喧嘩を売るとは、命知らずなことをしたものだ。俺の父や王家からも睨まれた君の両親は、震え上がっていたぞ」


「そんなはずないわ……」


「その両親も、税金をちょろまかして贅沢三昧をしていたようだから、親子仲良く追放だ」


「嘘でしょ……」


「息子が変な女に誑かされた上に、かなりの額を貢がされていると言って、君を離さないというその3人のご両親も乗り込んできてな。とても有意義な話し合いができた」


 その言葉を聞いた瞬間、エミリーを掴んでいた手が一気に離れた。エミリーの体が震え始めている。


「ノア・カトリウス、ダニエル・コターリオ、そしてライアン・パフィーム。君たちにはご両親からの必死の願いで、更生プランを受けてもらうことになった。あぁ、安心してくれ。婚約者は皆、君たちを見限って婚約を解消するそうだ」


「そんなこと、レオンハルト様が勝手に決めていいんですか?!ちょっと横暴です!」


 俺は、エミリーの抗議を無視して話し続ける。


「エミリー・バンドル、君はその3人だけでは飽き足らず、この国中の男たちに手を出していたようだな。詐欺もしていたんだって?君に騙されたという男が、かなり多く名乗り出てくれたんだ。結婚詐欺、親の入院費、投資話…」


「もういいです!やめてください!」


「なんだ、もういいのか?他にもたくさんあるぞ」


「きっと人違いです。私は、貴族の人たちに詐欺なんて…」


「俺は騙されたのが貴族だなんて、一言もいっていない。いまの話し方なら、貴族、平民、どちらにも聞こえたはずだ。なぜ分かった?」


「そ、それは……、お金を出してくれそうなのは貴族の方だから」


「その通り。君は貴族の、しかも三男や四男といった家の中では立場的に低い者ばかりを狙った。騙しやすかったんだろうな。被害額は相当なものだ。よく今まで刺されずに生きていたと、少し感心したぞ」


 エミリーから、取り巻きの3人が一歩、また一歩と離れていく。


「エミリー・バンドル。君は全会一致で、国外への追放が決まった。追放する場所も会議で考えてやったんだ。―――最果ての修道院へ行ってもらう」




 最果ての修道院は、修道院の中で最も規律が厳しいと有名である。


「絶対嫌よ!さっきから、ふざけたことばっかり言ってるじゃないの!」


「俺が仕切るのはここまでだ。あとは王家に任せてある。そっちで好きに文句を言え」


 急に扉が開き、衛兵たちが4人を連れて行く。


「ねぇ聞いてるの?!嫌だってば!ちょっとあなたたち、親に頼んだらなんとかなるんでしょ?!」


 そんなエミリーの叫び声も虚しく、冷たい視線を向けられながら連行されて行った。







 ジェシカの件に加え、バンドル男爵一家の脱税に、国中の貴族を巻き込んだ詐欺騒動まで発覚したことから、さすがに王家にも報告せざるを得なくなってしまったのだ。おかげで、エミリーの断罪が卒業パーティー当日になってしまった。


 しかも、エミリーが連行されたあと、立会人やら証人やらの書類をまとめなければならず、すべてが片付いた頃にはとっくに昼を過ぎていた。王城からジェシカの屋敷までは距離があるため、そろそろ出なければ間に合わない。一応、エスコートできない旨は話してあるが「できないかもしれない」と伝えたので、もしかしたら俺を待ってくれているかもしれないと淡い期待を胸に抱く。



 王城を出る前に、陛下の元へ挨拶に伺った。


「陛下、ご迷惑をおかけしました」


「このくらいならいつでも言いなさい。それより、急がないと待たせてしまっているのではないかね?」


 からかわれているのは分かっているが、それに気の利いた返答をしていられるほどの余裕がない。


「では、失礼します」


 俺は背後を振り返らずに、待ってくれているであろう人の元へ走り出した。


お読みいただきありがとうございました!

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