16話
少し短めです。
卒業記念パーティーが近づいてきた、冬のある日のことだった。
「レオンハルト様ー!」
またエミリー・バンドルが近づいてきた。
「今日はレオンハルト様に、聞いて欲しいことがあるんです」
「ジェシカの話か?」
「レオンハルト様、すごいです!私のことなんでも分かるんですね!」
キラキラした目で俺を見てくる。
「はやく本題を言え」
「わたし、ジェシカ様にたくさんの嫌がらせをされているんです!わたしがレオンハルト様に話しかけるのが嫌みたいで…」
「証拠はあるのか?」
「これ、見てください」
エミリーは持っていたカバンの中から、様々な物を出してきた。
「これはジェシカさんにハサミで切られた教科書、これはジェシカさんに紅茶をかけられたドレスです!」
次から次へと出てくる物に、俺は驚きを隠せない。
「そのドレスはどうしたんだ?」
「ジェシカ様に呼び出されて、紅茶をかけられたんです!あなたにレオンハルトなんて不釣り合いよ、と言われました」
「向かい合った状態で?」
「そうです!お茶会に無理やり参加させられた上に、淹れたての紅茶をかけられたんです。とても怖いお顔をされていました」
「ひどいな…。その教科書はどうしたんだ?」
「ジェシカさんがわたしの目の前で、その場にあったハサミを使って教科書を切り刻んだんです。止めようとしたけれど、刃が怖くて手を出せなくて…」
「かわいそうに。恐ろしい思いをしたのだな。他にも何かされたのか?」
「あとは階段から突き落とされました。怪我もして、すっごく痛かったんですよ!」
「いつだ?」
俺がさらに詳細を聞き出すと、話を聞いてもらえたのが嬉しかったのか、廊下で何度も足を引っ掛けられたとか、悪口を書かれた紙を机に入れられたなど、ジェシカからされたという嫌がらせをペラペラとしゃべりだした。
「ジェシカは、君にそんなにたくさんの嫌がらせをしていたのか…」
「そうなんです。レオンハルト様は、ジェシカ様に騙されてるんですよ!」
「ジェシカがこれほどひどい奴だとは知らなかった。今までよく耐えたな」
俺はエミリーの頭を撫でた。エミリーがうっとりした様子で俺を見上げている。
「ジェシカに騙されていた俺でも、君に思いを伝える権利を与えてくれるだろうか?」
「もちろんです!」
「ただ、俺たちの関係は、秘密にしておかなければならないな…」
「えっ、どうしてですか?!」
驚くエミリーに、俺は神妙な面持ちで伝える。
「ジェシカに知られたら、君への嫌がらせがエスカレートするかもしれないだろう?」
「たしかに!レオンハルト様ぁ、怖いですぅ…」
すり寄ってくるエミリーをさりげなく体から離す。
「卒業記念パーティーまでになんとかする。嫌がらせの品は、証拠品として俺が預かっておこう」
「分かりました!やっとルートに入れたのね!」
「ルート?」
「いえ!なんでもないです!」
「では、パーティーまでは、お互い話しかけないように我慢しよう。ジェシカにも気づかれないように、今まで通り過ごすんだ。いいな?」
「はい!レオンハルト様!」
スキップをしながら帰っていくエミリーがこちらに戻ってこないことを確認してから、近くに待機していたリックに声をかける。
「もう出てきていいぞ」
トラブルがあったときのために控えてもらっていたが、杞憂だったようだ。
「まさか、こんな簡単に来てくれるとはね」
リックの知り合いに協力してもらい、エミリーのそばにいる令息経由で、この誰もいない空き教室を俺が気に入って使っている、という情報を流してもらったのだ。人に見られる廊下よりも、誰もいない場所の方がボロを出しやすいのではないかと思ったのだが、予想の遥か上をいく収穫である。
これで準備は整った。
フィナーレといこうか。
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