15話
前半はレオンハルトside、後半はジェシカsideになっています。
レオンハルトside
季節は過ぎ、冬が訪れた。
その日、ジェシカが今朝から高熱を出して寝込んでいると聞いた俺は、学校で配られた資料を届けるという口実で、ジェシカの様子を見に行くことにした。
部屋に通してもらうと、ジェシカがベッドで横たわっていた。熱のせいか、時折りうなされているようで、こちらも心が痛くなる。
氷嚢が溶けてきているようだったので、メイドに頼んで交換してもらうらことにした。
「氷嚢が溶けているようだ。交換してもらえるか?」
「すぐに新しいものを持ってまいります」
1人残された俺は、部屋に置かれている時計を見て驚いた。何年も前に土産として買ってきた時計を、ジェシカは今も使ってくれていたのだ。嬉しくて少しニヤニヤしてしまったところで、今日の大事な要件を思い出す。
届けにきた資料をジェシカの机の上に置いた。ふと、横に置いてあるノートに目がとまり、興味本位で手に取る。すると、信じられないような内容が書かれていた。
「これは―――」
忘れないように隅から隅まで頭に叩き込む。
「レオン……」
名前を呼ばれたと思ったが、どうやら寝言だったようだ。ノートを元の位置に戻して、ベッドのそばにあった椅子に腰掛ける。
「…置いて……いかないで………」
「置いていくわけがないだろう?」
やっと敵が捕まえられそうなのだ。エミリー・バンドルの弱味を探っていると、あれもこれもと出てきてしまい、対処に想像以上の時間がかかってしまったのである。結局、無理やり聞き出すのもどうかと思って、ジェシカには何も聞くことができなかったが、きっと俺に言えないだけで、つらい思いをしているに違いない。
夢の中の俺ではなく、現実で弱音を吐いてほしい、頼って欲しいと思う俺はきっとわがままなのだろう。
そんなことを考えながらジェシカに口づけたところでメイドが戻ってきたので、俺は帰ることにした。
―――さて、リックと作戦会議だ。
* * * * *
ジェシカside
季節は過ぎ、冬になった。
その日、わたしは高熱を出して寝込んでいた。身体が重たくて、頭もぼんやりしている。朝に少しだけスープを飲んでから、夜までずっと寝ていたとバーバラから聞いたときは、さすがに驚いた。
熱のせいか、寝ている間にひどい夢を見た。わたしと並んで歩いていたレオンハルトが、わたしを置いてどんどん先を歩き出す。何度呼んでも振り返ることはなく、いつのまにか、レオンハルトの隣にはエミリーがいるのだ。どんなに走っても追いつかず、足がもつれて転んだところで目が覚めた。おかげで寝起きは最悪である。
そういえば、夢の中のレオンハルトを追いかけているときに、散々置いて行くなと叫んだ気がする。婚約を破棄されることは頭の中では分かっているが、自分の心はまだ騙せていないようだ。
「今日、レオンハルト様がお見舞いに来て下さいましたよ」
「レオンが来てくれたの?!」
そんな素晴らしいタイミングで寝てしまっていたなんて…。たぶん一生後悔する。
「はい。大変心配していらっしゃるご様子でした」
レオンハルトが心配してくれていた顔を見逃したなんて…。たぶん一生後悔する。
「そうなの。今度お礼を言わないと…」
「学校の資料も持ってきて下さったそうです。では、わたしはなにか軽食を持って参りますね」
「ありがとう」
バーバラが部屋から出て行った後、机の上に何枚か紙が置いたあった。おそらく、レオンハルトが持ってきてくれたものだろう。その隣には、わたしの……
やばい!秘密のノート置きっぱなし!!
机の上に出したままだったなんて、不覚!わたしはさっきまで寝込んでいたことも忘れ、ベッドから勢いよく飛び出して、瞬時にノートを引き出しの奥へとしまう。寝る前に読んでいたのをしまい忘れたようだ。思えば、昨日から体調が悪かった。余計なことをせず、素直に寝たらよかったのだ。
秘密のノートには、レオンハルトのカッコ良さや素晴らしさ、してもらって嬉しかったことなどを書いてあるのだ。このノートの中のわたしは感情ダダ漏れで他人に見られたらやばいものリストNo. 1である。これを見てニヤニヤするのが追放後の楽しみだ。惨めでもなんとでも言うがいい。
レオンハルトが置いた資料+横にあったノート
=見られた?!
いや、さすがにレオンハルトだって、人のものを見るなんてことはしないだろう(してる)。だってノートだよ?そんなに気にならないって!(なった)
過剰に反応してしまったと反省したわたしは、ベッドに戻り、大人しくバーバラを待つのだった。
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