10話
短めです。
レオンハルトside
あのエミリー?とかいう女、ぶつかってきてからというもの、俺に会うたびに話しかけてくる。突然、物まで押し付けてくるようになった。最初は軽くあしらっていたが、回数を重ねるごとに話の内容がおかしくなっていった。ジェシカの話が少しずつ出てくるようになったのである。わがままばかり言われて大変ですね、とか、高いものばかりねだられて困るでしょう、とか。分かってますよという感じで言われるが、思い当たる節が全くないのだ。これには、いつも一緒にいるリックも首をかしげる。
当の本人は知らないが、公爵令嬢なのに謙虚で素晴らしい方だと、ジェシカは学園内でちょっとした話題になっているのだ。
俺の知らないところで、何かが起こっているのではないだろうか。ジェシカが巻き込まれていても、俺に迷惑をかけたくないと黙っているのかもしれない。
「きちんと調べたほうがいいかもしれないな」
「僕も手伝うよ。アンナにも話しておこう」
「助かる」
こうして俺は、ジェシカに対する見えない敵を撃退するため、動き出した。
* * * * *
夏の行事の日、エミリーが男を引き連れて不審な動きをしていたため、リックと2人で見張っていた。すると、エミリーが男たちから離れ、カバンを男たちから見えないように隠しながらこっそりと持って行った。
「ピンクのカバンを持っていったね。エミリーの物かな?」
「自分のカバンなら、あんなにこそこそせず、堂々と持てばいい。まだ着替えるタイミングじゃないし、なんか変だぞ」
「僕がついて行ってみる。レオンハルトはこっちを見ておいて」
「頼んだ」
しばらくすると、リックが戻ってきた。
「こっちは特に動きはない。そっちはどうだった?」
「なぜかあのカバンを裏の林に捨てに行ったんだ。とりあえず回収して、近くに隠してあるよ」
俺もリックも、エミリーの目的が分からずに頭を悩ませていた。
「何がしたいのかさっぱり分からないな」
「しばらく様子見かな。念のために、ジェシカたちのそばにいたほうがいいかもね」
「そうするか」
アンナとジェシカは、木陰に座って楽しそうに話していた。
「アンナは何を着ても似合う」
「ジェシカをジロジロ見てるやつ、全員ぶっ潰す」
「顔が怖いよ」
そんなことを話しながら、2人のほうへ向かって歩いていく。
泳がないのかと聞くと、日焼けするのが嫌だと返ってきた。それなら、と自分の上着を渡そうとしたのだ。
ジェシカは最初、受け取ろうと手を伸ばしていたのに、急に手を引っ込めた。遠慮してるのかと思っていると、叫び声が聞こえた。
エミリーが、自分のカバンが無くなったと言い出したのだ。この騒ぎを起こすために、わざわざ自分でカバンを隠しに行っていたのか。
「リック、あのカバン」
「すぐ持ってくる」
俺の言いたいことを察して、リックがカバンを取りに行った。たぶんアンナも、この異様な流れに気付いているはずだ。
あいつらがジェシカを疑い始めたとき、リックがカバンを出したことで一応収まったが、あのときエミリーたちの異変に気づかなかったら、本当にジェシカが犯人にされていたかもしれない。
終わってから、ジェシカが不思議がっていたのを、アンナが上手く連れ出してくれた。
その後のバーベキューでは、ジェシカと2人きりの時間ができた。半袖はいくらなんでも寒いだろうと、少し強引に上着を着せた。やはり、先ほどの事件のことが気になっているようだったが、ジェシカの好物の肉でごまかした。
実は、あーん、とかいうやつをやってみたかったのだ。気に入ったので、またやろうと思う。
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