【エピローグ:1杯の思い出】
部屋で珈琲を飲んでいた。元々あまり好きではなかったけど、エリムが私に淹れてくれていたからいつの間にか飲めるようになっていた。彼が居なくなってからは自分で淹れるようにもなったけど、彼が淹れたものには遠く及ばない。粗末な味だ。それでも飲んでしまうのは、これを飲んでいるとエリムを思い出すからだ。けど、買ってきた豆もこれで底をつく。決めたんだ。これを最後に自分では淹れるのをやめる。彼を忘れることは私にはできない。だったら、もうきっぱりやめてしまっても私はいいと思う。
カップを見る。この1杯を全て飲んでしまったら、私もあのエリムのことを忘れてしまうのだろうか。そんなことはないけど、もしそれがエリムの望みだったら、嫌だな。もしかしたら、私もこれから他の誰かを好きになって、結婚して、子供とか授かったり、世間でいう一般論的な幸せを送るのだろうか。でもそれはニュア、私じゃない。確かに、これからはどうなっていくのかはわからない。それでも、ほんの少しエリムと過ごした日々は私にとっての一部であり、私というものを作っているのは間違いないんだ。でも、本当に忘れるなら傷跡をこの世界に残しておきたい。一旦飲むのをやめ、私は彼と昔作った糸電話を手に取った。二人で糸を紡いで作った、私たちの思い出を形にしたものなんだ。私はこれがあれば、エリムとのつながりを思い出せる。けれど、もう手放そう。彼も、話の中でそう言っていたんだ。そして、それが彼の望みなら、私は叶えるべきだ。自分の心境の変化に驚くよ。一昔前なら誰かの願いを叶えることは愚かだと思っていたんだ。人は変われる。君の言っていたことは本当だったんだね。被っていた仮面も、被り続ければ本当の自分になる。私は変われたよ、エリム。
糸電話を燃やして捨てた。手放したんだ。でも、手放したことにより彼と別れたことを思い出して胸が締め付けられる。いざ、本当にもう会えない思うと涙が止まらない。自分で自分の首絞めていただけなのに、あふれる涙が頬を伝っているのが分かる。カップと向き合う。もう、熱が失われたそれは夕刻の日を受けて今、輝きを持っていた。迷わない。向き合うべきものには向き合った。手も震えない。口に運ぶには時間はかからなかった。でも、喉に通すには緩やかな時間を、無限と思える瞬間を紡いだ。
「やっぱり私には苦いよ、エリム」
もう、そのカップには飲むほどの量は残ってはいなかった。そう、思い出も、後悔も、連れだって行くしかないのなら、私はずっと歩いていく。
グーっと伸びをして、窓から外の景色を眺めると、いくつかの小さな雲が流れていた。この言葉が届くのなら、私は言うよ。
「不思議な旅の終着点は、本当に素敵なものだったんだ」
君の旅はどうだったの?私はそれが知りたいな。
ここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございました。人生初小説ということで、不慣れな部分も多く、読みにくいと感じた人もいらっしゃると思います。今後も書いていきたいと思っていますので、できれば感想をいただければありがたいです。
ニュアとエリムの物語はこれで終わりますが、実はこの小説内でこの世界の真実を全てかいた訳ではありません。部分部分で読者の方々がこうなのかな?と思って考えたりしていただければ、私は本当にうれしいです。真実は何、ここが分からないと思っていて自分なりの考えに辿り着いたら、それもまた一つの正解なんだと思います。それに関してのコメント、考察に関しては口出すつもりは全くありません。どんどん考察を広げて行って下さると、私が考えもしなかったようなことが出てくるかもしれないので、それもまた楽しみにしています。
最後にここまで読んでくださった方々に、是非もう一度あらすじを読んでいただきたいです。きっと、このあらすじっぽくないあらすじが違う風に見えるかもしれません。
ではでは、また次の作品で会えることを楽しみにしています。