木々生い茂る森の街
遅れて申し訳ない!
時は朝方。
魔王城周辺は森がある。
いや、森のある所に建てたというのが正しいだろう。
そして正面だけをわざとに木を伐採し、威圧感のある城がそこにはある。
先代魔王がなにを考えていたかは分からないがこのような作りになっている。
しかし、ここに来るまでにも和の国を通る必要がある。
和の国は人間側の領土と私たちの領土を分ける川沿いにある。
位置的にはこちら側にある。
和の国には人間もいるが滅多にこちらに来るものはいない。
そのためここに来るものはほぼ魔族や魔物たちのみだ。
勇者、という存在を抜かしてならの話だが。
奴らは意味もなく魔王を討伐する任を受け意味もなくここに来ることがある。
ほぼと言っていいほど成り行き来るものが多ければ強いものなど到底いない。
殺してしまえばいいのではとも皆は言うがそれでもここに来る勇者は全て人王が関係している。
何かを毎回聞かなければ人間側の情勢も分からない。
私にとってはメリットになってしまっている。
ついこの前も勇者を名乗るものが来たがその時に気になることを言っていた。
森を盗る と。
〜魔王城 謁見の間〜
「...という訳だ。現在その勇者とやらは地下で捕虜としてまだ居る状況だ。それでだ。何か森に関して知っているものはいるか?」
現在緊急の話し合い中だ。
魔王なれば情報をまとめその上どうするかを効率的か、なおかつ確実に良い方向へとことを進めなければならない。
森を盗る となると人間側の領地には盗むような森はないはず。
あらかた全て伐採し開拓。
そう聞いていた。
「...でしたらこちら側の森の街辺りを奪いにくる、ということでは?」
そう喋り出すのはセフィロト。
彼女の母親はアルラウネ。
基本的に森に住んでいる種族で体が植物で出来ているものも入れば人間のような体をしているものもいるらしく多種多様だ。
セフィロトも少しばかり何か知っていることがあるのかもしれない。
「森の街...か。街としては機能はしていない。どちらかと言うと村のようだが。」
住民はさほど多くはない。
「確かにそこだけを見ると盗む必要性を感じられませんが...されど森、身を隠すには最適、その上あまり機能していない、というのも隠れるのに相応しいのでは?」
住民が少ないことを利用して見つからないような隠れ家を作る。
そこで体制を整えこちらを襲撃…と言ったところか?
「それではわざわざ私達に盗む、と公言した理由が分からない。その話で行くならば誰にも言わず静かに盗むのが普通だ。」
「...となると罠でしょうね。こんなに公言するのは逆に怪しいわ。」
ミナリの言う通りだな。
わざと誘き寄せるという意図だろう。
「しかし何かしらが来るという時点で私たちは行かなければならない。私が行くのは確定だ。森の街をそれなりに知っているセフィロトもだ。」
「承知しました。」
小さくお辞儀をしてくれる。
「城の守りは現在幹部クラス...。つまり私たちレベルの者が3人ほどいなければ防衛は辛いと見ます。防衛に長けているのはセフィロトさん、雹華さん、ミナリさんの3人ですがどう致しましょう?」
補足するようにセリルが詳しい話をしてくれる。
頼もしい。
…しかし正直前のように人王が来られては為す術が無いかもしれない。
「セフィロトはこちら側で確定だ。そしてミナリにも来てもらう。他の皆は城で待機だ。」
「分かりました。お気をつけて行ってらっしゃいませ。」
こちらに向かって大きな礼をする。
「ではわしはいつも通り見張りに回る。」
「俺はセリルさんの手伝いを。」
「では皆、気を付けて活動してくれ。」
森の街は城をでて近くにある森を進んでいくと集落がある。
そこを基盤として点々と村や集落などが多くある。
速く行かなければ。
〜魔王城 周辺 森〜
小鳥の鳴き声が響く。
木々の葉は掠れて音がする。
「静かね。気持ちが安らぐ。」
「森自体には異常はないと思われます。」
ミナリ、セフィロト共に周りを見渡している。
なんの変哲のない森だ。
だが。
「...なにか異質な魔力を感じる。気をつけて進むぞ。」
獣道、という程ではないが整備はされていない道ならざる道を一歩一歩進んでいく。
少し歩くと足元に光を放つ緑色の物体を見つける。
「...これは。エメラルドか...?」
触って確かめてみる。
色は緑。
硬さはそれほど硬くない。
透き通った色をしている。
重さもさほどある訳では無い。
「いえ...鉱石類ならもっと硬いはずよ。」
「...少し見せていただけますか?」
持っていた謎の物体を差し渡す。
「...これは植物系統の魔物の死体です。」
「...何?死体…なのか?」
「はい。植物系統の魔物。トレントやマンドラゴラ、私も同じくアルラウネ。死が確定すると体は朽ちていきこの結晶を残し散っていきます。いわば本来その魔物達に残されていた生命の結晶、と言うべきでしょうか。」
「...なら何かこの先であったんじゃ...?」
その通りだな。
なるべく急がなければ。
「ならば急ごう。」
「私は供養をします。直ぐに追いつくのでお先にどうぞ。」
「なるべく早くね。」
少し足を速める。
だんだんと道が開けてくる。
遠くには建物のようなものもある。
魔物たちの魔力も感じる。
何も起きていなければいいが。
〜森の街 第1集落〜
「ここが集落か。それなりに魔族達がいるようだが。」
「特に異変を感じるわけでもないわね...。」
後ろから走ってくる音が聞こえる。
「お待たせしました。街はどうですか?」
「特に問題は無さそうだ。住民に聞いて回ろう。」
少し見て回った。
エルフ、植物系統の魔物が住んでいた。
話によれば異変はないが怪しい人影を見たという。
「待たせたわ。こっちも聞いて回ったけど特には。」
「朗報...とまでは行きませんがこの集落に精霊王か来るようです。」
精霊王。
人王とも魔王とも違うもうひとつの王。
あまり世界には干渉しないが世界を直ぐに塗り替えるほどの実力を持つ。
まだ幼い頃に1度会った限りだが...。
「何か分かるかもしれないな。しばらく待っているとするか...。しかし精霊王自ら来るとは...何かあったのか?」
「住民達が言うには次期精霊王の様子見、と皆さんは口を揃えて言っていましたが...」
そうこう話していると前にあった家から1人のエルフのような子が出てくる。
...羽根?
精霊...と言っても見る機会などほぼないが。
精霊によく見られる羽根が付いている。
見た目は幼くツインテール。
花飾りを髪にしており色はクリーム色、服は黄がメインで白のラインがあるワンピース。
「...?もしかしてお客さん?珍しいね!」
「あぁ。客、と言うよりは見回り...?か。私は現魔王の薺だ。」
「えっ!?魔王様?ごめんなさい!失礼な口調で話してしまいました!」
なんとも子供らしい可愛い動作をする。
大袈裟な身振りが愛らしい。
「何、いいんだ。私自身もあまり敬語というのは好まない。気楽に話してくれ。」
「は、はい!えっと...あっ!そうそう!私はイルミナ!精霊王様の跡継ぎに任命されたの!」
「...!?そんな若いのに!?...とエルフだったわね。」
(ミナリ様もそんなこと言える見た目ではないのですが...)
エルフは年齢と見た目が合致しないことが多い。
…人間基準で考えてしまえば更に。
「うーんでも私生まれてから20年しか経ってないし若い方だよ?」
「...時々若いの概念が狂ってくるな...。漆やセフィロトよりは年上なのがまた。」
しかしエルフは精神の成熟も遅い。
同じくまだ幼い子供と扱っても差し支えないだろう。
「えーっとそこのおふたりさんの名前も聞いていい?お客さんなんて久しぶりだからお話したくて!」
満面の笑顔で聞いてくる。
なんとも微笑ましい。
「私はミナリ。まぁ...年齢はだいたい700は超えてるわ。あまり覚えてないのよ年齢なんて気にすることもないし。」
「す...すごくお姉ちゃんだ!」
「...!」
今何かミナリの表情がおかしくなった気がするが放っておこう。
(お姉ちゃん...うん...いいわね...。)
「私はセフィロト・グラズリー。母がアルラウネ、父が鬼の珍しいハーフと言われています。」
「本当!?力持ちなんでしょう?凄い!」
目をキラキラ輝かせてこちらの話を聞いてくれる。
聞き上手だな、まったく。
なんでも話してしまいそうだ。
「...っと。聞きたいことがある。最近怪しい人影を見ていないか?」
「うーん。わかんないなぁ。精霊王様に聞けば分かるかも?もう少しで来るし待ってるといいよ!」
「ありがとう。では少しの間滞在させてもらうよ。」
時間は夜。
月は登っている。
上弦の月。
美しく見える。
集落は明かりで照らされてはいるがそれでも多少暗い。
少し空いた場所にある木のベンチで休憩。
魔王様がそんな所で座るなんて!
という声も聞こえた。
私は自然豊かな方が好きなんだがな。
たまには高級な椅子ではなくこういった木の香るベンチもいいだろう。
「しかし、とても穏やかな街だったな。」
「えぇ、とても。」
「ミナリもすっかりイルミナのことを気に入ったみたいだ。遠くから見れば同じ歳の友達…のようにも見える。」
ミナリの傘となっていたバンは今度はベンチにされて木下でイルミナとミナリ2人で仲良く話し合っている。
一体何を話しているのやら。
「精霊王はどんなお方なんでしょうか?」
「.......」
「...魔王様?」
困ったな。
アイツをどう形容すればよいか。
難しいな...。
一言で言うなら...
「...へ」
「誰が変態だ!100年と何年...?ぶりだね薺...!大きくなったねぇ!うーんほら飛び込んでおいで!」
突然として後ろから現れる。
「…行くわけないだろう。私も成長したんだ。」
そう。
色んな意味で変態だ。
行動、言動、魔法。
どれも変態的なのだ。
「こんにちは、精霊王様。」
「ふむ。なるほど?筋肉娘...か?良い!私の胸に飛び込ん...あ。もう実体がないのか我。」
「え...えっと。」
見た目は完全に男。
だが木でできた謎の仮面を付けて顔を隠している。
服装は男性用のローブを着ている。
「あまり困らせるな。...父上から聞いてはいたがもう弱っているのか。」
「んーまぁ。あのクソ勇者に騙されなければ全然ピンピンしてたんだけどね。なんだよ呪い使って来る勇者とか許さないからな我。」
前の勇者の話はもう聞きたくないな。
「聞きたいことがある。」
「我もだ。先に聞く。12代目はどうした?」
食いつくように私の質問を遮って聞いてくる。
全く、私の話は後回しのようだ。
「...もう居ない。」
12代目魔王。
つまり私の父親だ。
「やはり逝ったか。さすがにあの勇者は太刀打ち出来ないと我も思っていた。それで今は薺が魔王か。勇者は倒せたのか?」
「私と父上でようやっと。呪いをかけられた父上は抗いはしたが...。」
「分かった。アイツとて善戦はしたのであろう。それで、薺の質問とは?」
「この周辺で何か怪しい人間の気配を感じなかったか?」
「ふむ...。人間2人、堕ちた人間が1人が最近頻繁に森を出入りしている。堕ちた...と言うよりは人間をやめた?正確には分からんが。」
「ならば盗む、と言ったのもその人間たちで間違いはないな。」
「また人王か?」
呆れた声を出す。
「...まったく。加減して欲しい奴だ。」
頭を抱える仕草をする。
人王には私達も参る。
「その言い草だと前にも被害が?」
「我の住む森が全焼しかけたな。」
「...そろそろ人王にもカマをかけないとな。」
そろそろ歯止めが聞かなくなってくる。
もちろん力で圧政というのは私には合わない。
さらに問題を呼ぶだけ。
それでも何かしらの手を打たないといけない。
被害を増やす訳には行かないのだ。
「よし分かった。定期的に城に使いを送ろう。近状報告を兼ねてな。何かあったらすぐに使いに知らせる。それで構わんか?」
「助かる。それで使いとは...?」
「我の次期だ!イルミナちゃーん!いるかねー?」
遠くでミナリと話していたイルミナは呼ばれた瞬間に立ち上がりこちらに向かってくる。
「精霊王になるための試練だ!魔王城に定期的に我の使いとして行ってもらう!いいな!」
そう言うと途端ともじもじしはじめる。
そして口を開いた。
「あ、あのー...わ...私も魔王城に行きたいの!」
衝撃の告白...でもないか。
ミナリがさっきから
魔王城に欲しいわね...!
とか言っていたからな。
何か言ったんだろう。
「なんとっ!」
とは言うもののそんなに驚いていない様子。
「じゃあ定期的にテレパシー送るからよろしく!」
サラッと並のものではできないテレパシーによる会話ができることを暴露。
底知れないな。
「…!」
「魔王様。」
刹那、何者かの気配を感じる。
気配は1人。
セフィロトも気づいたようだ。
どこかで見られている。
「セフィロト、ミナリの守護を。なるべく私
の近くへ。」
「承知しました。」
言葉を発した時にはもうミナリの方へ走っていった。
「狙いは我だな。参った。」
「なら私の出番!見えないなら...照らすだけ!」
イルミナの魔力が高まる。
徐々に手元が輝いていく。
「月光!」
辺りが次第に明るくなっていく。
「...光の魔法...?」
「まだ暗いね。なら...舞え!月影蝶!」
どこからともなく黄色い蝶が現れる。
その蝶は自ら光を発している。
「この蝶々で周りを明るくするね。」
「...少しずつ魔力遠ざかっていく。この距離なら大丈夫だ。集落の死角がないように散らばって防衛しよう。セフィロトで北東。 私は南西を見る。イルミナは今の状態を維持、ミナリはその護衛だ。」
「分かったわ。あまり離れないでね。」
「我は上から見る。戦闘は期待しないでくれ。」
しばらく緊迫した状態が続く。
動きがあったのはセフィロト側。
「...。」
気配を探すのに集中する。
人が動くような物音さえすれば体を反応させる。
「...何者かの魔力が高まった...?」
そしてその出来事は一瞬。
「...はッ!」
セフィロトに向かって神速とも言える速さで何者かが間合いを詰めて殴り込み。
雷の如くおぞましい轟音が鳴り響く。
しかしさながら鬼のハーフ。
それ見切り腕で受ける。
だがセフィロトは防御から一瞬で攻撃に切り替える。
「甘いッ!」
受けるので気力を使ったセフィロトだがそれでも追撃を喰らわせようとする。
が。
敵も敵。
「まだ...ッ!」
さらに速度を上げて連撃。
何発かの殴りは直撃するが防御は成功。
「ぐっ...!」
流石のセフィロトも堪えたか、受け終わったあとは少しばかり怯んでしまう。
敵も同様、諸刃の剣だったのか動きが鈍っている。
「くそ...失敗か。」
そう呟いた何者かはその場からまた消え去ってしまう。
「セフィロト!大丈夫か!?」
「えぇ...なんとか無事に。」
多少の怪我で済んだ模様。
「鬼の体を色濃く受け継いでよかったと強く思いました...。並の魔族なら受けて即死でしょうね。」
「先程の敵、誰か分かったか?」
「見たことの無い顔でした。髪は青く私より小柄。それくらいしか情報は掴めませんでした。...それと魔法は雷でした。」
「殺意は依然として我に向いてはいたが空は攻撃できないようだ。我を狙わなかったからな」
「大丈夫?イルミナ...。」
「大丈夫...だよ!」
ミナリがイルミナに心配をかけている。
「気配は消えたようだ。夜も深い。見張りは精霊王に任せて私達は休もう。」
「いやいや我、仮にも王なんだけど?」
王、という身分を主張してくる。
私も王なんだが。
なんなら私の方が動き回っているのだが。
気にしないでおこう。
「昔の恩、忘れたか?貴方のせいでどれだけ酷い目にあったか...」
「わかった。その話は忘れたいんだ引き受けよう心ゆくまで休め!」
昔、精霊王の教えのままに魔法を使ったところ禁術を教えたようであり死にかけたことがある。
「精霊王様...いいの?」
流石に精霊としてなのかコイツを心配する。
「なに、もとより寝れる体でもない。気にするな。」
「ではお言葉に甘えて...。」
「...着替えるか。」
魔王用の礼装は2つある。
いつも着用しているドレスのもの。
そして動きやすいもの。
前者はとにかく何もせず普通に生活するのならドレスが鬱陶しい。
後者は私服、とは言得ないが多少の鎧部分がほどこされており腕、足、胸辺りが鎧でその他は布地である。
「見張りはセフィロトと私がする。3時間で交代だ。」
「分かりました。」
そうして見張りをしつつ仮眠を取りながら朝を迎える。
「...様!...魔王様!」
「...む...。...朝か。申し訳ない。」
正直朝だけはいつまで経っても少し寝ぼけてしまうことがある。
イルミナの家のソファを借りて寝ていた。
ミナリに魔王がそんなことしてていいの?
と言われてしまったが気にすることも無い。
...まだ寝ぼけているのか何か聞きなれない声がする。
外に出よう。
いや...現実だった。
明らかに見知らぬ誰かがいた。
「やーやー!お久しぶりみんな!昨日はなんかすんごい爆音聞こえたからさ!雷落ちた見たいな!心配だったからすぐ行こうと思ったら寝ちゃって!今豪速球で来たよ!」
服装は赤いタンクトップに短いズボン。
デニムの生地の。
頭には龍の角。
背中には翼。
挙句の果てに肘から指先、太ももからつま先までは鮮やかな朱の鱗が生えている。
尻尾まである。
完全に半竜人だ。
よく見れば指の数が4本。
爪も長く鋭い。
「どうやらほかの集落からの助っ人のようです。...かなり遅かったですが。」
「ごめん!ほんとにごめん!許して欲しい!私の名前はカーマイン・ウェルシュ!友達からはマーちゃんとかマイちゃんとかウーちゃんとかカーチャンとか呼ばれてるよ!」
すごくどうでもいい情報がたくさん入ってくる。
「...あれっ!もしかして今噂の魔王様!?」
「その通りだが...。」
噂とは一体なんなんだ…?
「私たちの集落じゃ強いって噂だよ!」
見透かしたように答えてくる。
強い…というか…なぁ。
「まあ...魔王として強くあるのは当然だ。」
「ね!ダーリン!...っていない!?」
だ、ダーリン...。
夫がいるのか。
「あっ!そうそう森の街代表として魔王に伝えといてって長から言われてたんだ!」
「なんだ?」
そう聞くとズボンのポケットから紙を取り出す。
「えーっと、魔王軍の魔物の数の減少を聞き、竜族、半竜人族の軍の加入を要請したい!って書いてあるよ。」
「なるほど、いいのか?確かに魔物たちが全長期より少なくなってはいたが...こちらとしては嬉しい限りだ。快諾する。」
「いいよ!って伝えておけばいいの?」
「頼んだ。」
「分かった!すぐ戻るよ!」
身の丈程ある翼を広げ飛んでいく。
ものすごい速さだ。
「...個性的...ね。」
「嵐のような方でした。」
「あの半竜人さん定期的に食べ物とか分けてくれるの!いつも助かってるんだよね。」
「...そう言えば精霊王は?」
ふと気付けば姿が見えない。
「いつの間にか帰られました。」
「もう自分の玉座にいるっぽい!」
精霊王も精霊王で自由だな...本当...。
「たーーーーーだいまああーーー!!!!」
「速い!?」
「よいーしょっと!今すぐ魔王城の周囲の森に移り住みたいらしい!」
「移り住む…!?…誰もいないし問題は無いが…よし。…む、まて。イルミナはどうする?居場所がないぞ。」
「あぁ。その事なら大丈夫よ。私の部屋を一緒に使う事にしたわ。」
すっかりお気に入りのようだ。
「ほんと!?楽しみ!」
遠足ではないのだが...
ただ昨日の夜精霊王が言っていた。
イルミナには才能があると。
そのためにもしばらくの間見ていて欲しいと言われてしまった。
その才能...見届けるなければならない。
「ん!準備が出来たら言ってね!ダーリンの背中の方が速いからみんなで乗ろう!」
(...背中?)
(半竜人では無いのか...?)
「あっ!もしかしてファフにぃ?」
そうイルミナが言うと森の奥から黒い何かが飛んでくる。
「左様。我はファフニール。訳あってそこの女の夫だ。戦ができると聞いてだな。人間には我らの強さを見せつけなればならん。昔のような事は御免だからな。」
ファフにぃ…?
ファフニールと兄が混じっている...。
…のか?
このままじゃ私もなず姉と呼ばれたりするのかもしれないのか...?
「深刻な顔をしていますが...どうかしましたか...?」「...いや。報告書に書くことが多くなったなと。気にするな。さて、イルミナも準備が出来たようだ。城に戻ろうか。」
「しゅっぱーつ!」
「あれっ!イルミナちゃんも行くんだ!よろしくね!」
〜魔王城 門前〜
「お...おお...おぉぉぉおおおおおお!!!!!ドラゴン!!!!!すっげぇ!!!!!ドラゴンだ!!かっけぇ!」
やはりまだ心は少年なのか...?
両手をぐっと構えて目をキラキラさせる。
「ふむ。だいたい事情は聞いた通りで良いのじゃな?」
「いよいよ持って大御所ですね。」
「そうだな。仲間がいるのはいい事だ。」
最初はセリルとほかの魔物たちだけだったが...
個性的な仲間からたくさん増えて。
賑やかになってきた。
ただ...。
油断してはならない。
私のやるべき事は皆を救い世界を平和に、平穏にしなければならないということ。
それだけは心に止めておかなければならない。
「なあ...ドラゴンの兄貴...!他にもドラゴン、いるんだろ?竜騎兵...やって見たかったんだ!」
「私の背中は生憎妻と決まっている。ほかのドラゴン達なら快諾してくれるであろう。我も戦闘には参加する。気にせず頼るといい。」
「おぉ...!夢の1つが叶うぜ...!」
「えっとそっちのお姉さんが...」
「私はセリルです。魔王様の側近です。」
「そっちの狐のお姉ちゃんが...」
「雹華じゃ。よろしゅう。」
「...そろそろ人数も多くなってきた。明日、自分のできる魔法について互いに理解し合う場を設けよう。戦闘は必ず起きる。互いに理解し合うのも大切だ。セリル、予定を追加しておいてくれ。」
「かしこまりました。イルミナさんとカーマインさんの仕事は後日お伝えします。ファフニールさん達は森の警戒、もしくは偵察などを頼みます。」
「承知、皆に伝えておこう。」
私が言わずともセリルがしっかり言ってくれる。
本来私の役目なのだが...
楽になるにはなるのだがセリルの事だ。
たまに抱え込みすぎる。
きつくなったときは自ら言ってくれるのだがそれでも心配だ。
「昨日のところは何も無い。各自仕事を頼む。魔王軍は漆の元でミーティングだ。」
新たに加わった半竜人族と竜族。
そしてエルフであり次期妖精王のイルミナ。
これからどのような活躍をしてくれるのだろうか。
魔王は思う。
世界を救えるか。
魔王は動く。
救うために。
救うために何をしても構わないのか?
殺してもいいのか?
否、本当の平和は殺しで作るものでは無い。
魔王は思う。
世界平和を掲げ本当に成し得ることが出来るのか。
世界を救えば皆は救われるのか
魔王は進む。
自分の正義を信じて。
次回はみんなの使える魔法についてやりますよ!