表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/43

紅い記憶は黒い光へと

とくになし

朝だ。

いつもの朝だ。

いや、何か違う。

胸騒ぎがする。

窓を見ればまだ暗い。

朝方の様だ。

精神統一を始める。

無心で、何も考えずに。

目をつぶった先の闇。

光が漏れ出す。

「...!.....!」

誰かが何かを喋っている様子が見られる。

何かを訴えているようにも見える。

ミナリ...か?

「...私には...記憶が無いの。」

無心を貫く。

「...ふぅ。」

一つ息を吐く。

目を開ける。

いつもの光景。

いつもの部屋。

窓を見れば少し明るくなっている。

ミナリは記憶が抜けている。

そう彼女から告げられた。

何故か記憶がぽつんと。

大きく空いた穴のように。

この夢…前例がある。

気を付けようか。

...よし。

今日の支度をしよう。

何事も早く行動を。




〜魔王城 謁見の間〜

今日は準備が出来次第調べ物をしに行かなければならない。

魔王城にある図書館だけでは限度がある。

規模の大きい図書館を雹華に探してもらい時空を繋げて直行する。

もともと、雹華の時空を歪める魔法は行ったことのない場所には基本的に繋げられない。

今、手探りで図書館のありそうな場所を調べている。

何故地図などがないかと言えば人間の侵略でおおよその情報媒体。

地図や歴史が書かれた本、それらを強奪されたからだ。

魔王といえど全ての場所を把握するのは無理だ。

行くのは私、セリル、雹華、漆。

ミナリとセフィロトには残ってもらう。

城を空けるのは不味い。

前までは襲撃されてから時間がさほど経っていなかった。

故に大丈夫な期間でもあった。

しかし今はもうそれなりの時間が経っている。

誰かがいなければ襲撃されては何も出来ない。

「お待たせ致しました魔王様。雹華さんと漆さんをお連れしました。状況は説明しております。」

漆は胸に手を当て待機。

雹華が喋り出す。

「探すのに苦労したわい。もう時空を繋ぐこともできる。もう行くのかえ?」

早く行くに越したことはない。

「頼む。」

「あいわかった。繋ぐ故しばし待ってくれ。」

「しかし俺は何故ついて行くことに...?」

「簡単なことだ。女だけでは辛いものもある。」

「げっ、本持ち?」

絶妙に嫌そうな顔をされる。

「嘘だ。これは感だが何か良くない気配がする。用心するだけ安心するだろう?」

「なるほど、そういう事でしたか。善処します。」

「善処するのは当たり前じゃろう漆?魔王様の護衛という自覚を持たんか...と!繋げたぞ。」

歪んだ時空。

目の前には大きな建物のようなものがある。

「では行こうか。」



〜???〜

森の良い香りがする。

通った先には建物と木々が。

空は曇。

あまり良い天気ではない。

「...この辺りはどこだ...?魔力であまり感じたことの無い場所だが...」

普通の場所とはちがう魔力を感じる。

「どこにあるかなどわしは知らぬぞ。」

「とりあえず入るとしよう。」

大きな扉を押して開ける。

高さは30mくらいだろうか?

そして大きい本棚。

奥行も長い。

これならある程度のことは全て記されていそうだ。

「おや。利用者かい?いらっしゃい。」

「管理者か?」

木の机と椅子がいくつか並べられていてそこに座っていた。

「そんなところだね。ゆっくりしてくれたまえ。調べたいものがあるんだったら教えてあげられるよ!」

爽やかな笑顔を向けてくる。

「兵器、武器、防具。などの本はあるか?」

「それならそこの階段を上がって2階。階段を上がったすぐ先の本棚だね。」

「助かる。セリル、手伝いを頼む。漆と雹華はそこらで自由にしていていい。」

「分かりました。」

「まぁ分かってはいたがしばらく暇になるのう...。」





「あのー管理者さん?」

「なんだい?」

「実は俺...天狗なんだけど...」

「ほう、珍しいね。となると言いたいこともわかるよ。色々この世界のことが聞きたいんだろう?」

「...なんでわかったんです?」

「ここにも1度天狗が来てね。その天狗は天狗一族は世界との関わりがほぼないから色々教えて欲しいと言われてね。それでわかったのさ。さて、何から知りたい?」

「ええっと...」

「ははっ。同じ反応だ。では少し勉強と行こうか。...っと。この本をとりあえず見てくれるかい?魔族達の間で使われている教科書のようなものさ。説明していくから聞きながら読んでくれ。」




この世界は人間と魔族が沢山住む世界。

人間は人間だけで。

魔族は魔族で住んでいる世界。

決して交わることは無く平穏と暮らしていた。

しかし「魔王」という存在が現れ人間は困惑し始める。

人間側には王がいて魔族側もそれを容認していた。

人間側は困惑しながらもそれを認識。

魔王も最初のうちは何もせずにあまりどちらとも互いに近寄らないような状況だった。

しかし自体は急変。

初代の魔王は辞め、2代目へと。

その2代目が土地を要求し人間側の領土へ侵略を開始。

そこから人間と魔族との関係は険悪に。

魔王を止めるため猛者を集め倒しに行かせる。

倒したものは勇者と称えられ富を与えられた。

魔族も悪を認め自粛。

次世代からの魔王は意見を混じえての選出となり人間側には接触しなかった。

人間は違った。

魔族を許さなかった。

そして勇者を集い魔王を倒す。

恨むべき魔王を。

我々は抵抗しなければならない。




「...というところが初代魔王が辞める経緯。さっき話したように和の国もそこあたりで作られたね。それで2代目魔王の詳しい説明なんだけど...」

「…ある程度わかった。」

遮るように話す。

「ここから面白い所なんだけど...まあいいか。簡単にまとめると魔王というのを作り出した初代がいて2代目暴走。和の国が1度崩れかける。そこから国の守りを厳重にし始めた。鎖国ってやつだね。そこから独自の文化が生まれたのさ。あの『じゃーじ』とかいうのもそうだし温泉だったり〜」

「ちょっと俺も調べ物をしてくる。自分で学ぶのも大事だしな。」

「あれれ...行ってしまった...。」

「かっかっか。すまんのう。彼奴は話を黙って聞けないやつでの。わしが話し相手をしようではないか。」

横槍を入れる。

「…ああ...なるほど...。」

「気づいたか?」

「まだ何も話していないけど...何もかも言うこと全てお見通しってわけだね。」

書斎の男は少し困り顔をする

「ならちょうどいい。少し話を聞いてくれるかの?老人の独り言だと思って聞いてくれ。昔の友人がいての。約束をしたんじゃ。」

「聞くと入ってないんだけど…まあいいか。それで?」

「この世界すべてを見て来てくれ。とな。わしは各地を回った。」

「それはまた君もよくやるね。」

「まだ果たしてない約束がある故な。魔王を救ってやってくれというな。…まあ今の今まで助けられてないんじゃがな!」

「僕も約束してるんだ。とある友人をここで待ってる。僕かなり長寿の魔族だけど何年経ったか分からない。未だに役目を終えられずにここに来てくれないのさ。」

「酷い話じゃのう!かっかっか!」

「君のも相当無理難題だと思うけどね!ははっ!」

「と!そろそろ時間のようじゃ。…また来る。」

「あぁ、()()()()狐さん。」

「なるほどなるほど...歴史はだいたい分かったな...」

「雹華、調べ物が終わった。...漆も居るようだな。帰るぞ。」

薺とセリルが見える。

2人とも本をいくつか束ねて持っている。

「ではの!管理者さんよ。」

「はいはい。またのご利用を。」

「こちらを借りていく。」

「俺もこれ借りたいんだが。」

「全ての本の複製がある。魔王、なんでしょ?今知ったよ!気にせず持って行ってくれ!」

「おっいいのか?ありがとさん!」



〜魔王城 謁見の間〜

「...よし戻ってきたな。」

見たところでは異常なし。

魔力も普通だ。

「随分仲良さそうに話してたな」

「なに、長く生きてると知らぬ奴との世間話が好きになるんじゃ。老人には良くあることよ。かっかっか!」

笑顔を見せながら喋る。

まあ、元気なのは良い事だ。

「昨夜現れたあの男が付けていた装備、正体が分かった。創世の武装、というものらしい。調べていてわかったのだがこのルドベキアもそのひとつだ。」

「ではあの男の付けていた装備、なにか特殊な物があったりはするのでしょうか?」

「この本によればあの装備を付ける以前すべての記憶とおぞましい程に続く痛みを代償に治癒能力を格段と増幅させるものらしい。」

「...待ってください。ならあの人が言っていたことが本当なら永遠と強くなり続けているんじゃ...」

そうだな、あの男は痛みがあるほど強くなると言っていた。

嘘か誠かは分からないが本当なら洒落にならないだろう。

「うわっ...恐ろしい人間...」

「恐ろしいのは武具の方だ。装備するだけでほぼ死ななくなる。」

「同じ分類の魔王様の持っている剣、ルドベキアは...なにかあったりするのですか?」

「剣が覚醒すると望むものを手に入れるほどの大きな力を手に入れることが出来るらしい。加えて所持者が望む形にも出来る。剣ではないものも型どれる。」

今のところ力の解放、と言うべきものを感じたことは無い。

ただ、既に覚醒している可能性もある。

どちらにせよ、強い武器ということに変わりはない。

「それにしても...静かすぎるな。」

いつもなら魔王軍の訓練の騒音があったりフェンリルが寝ていたりするが...。

一切音がしない。

何かをあったのか...?

「...っ!門付近に何者かの魔力を感知!ミナリさんとセフィロトさんもいます!戦闘しているようです!」

「...クソっ!やられたか!?急げ!セリル、それに漆と雹華は他の場所の安全を確保しろ!」

「今すぐに。」

「時空は繋げておく。急ぐが良い。」




〜魔王城 門付近〜

「...くっ!ブラットカーテンキューブ展開!遠距離攻撃はこれで効かないわ!...想像以上に辛いわね...」

声が聞こえる。

ミナリが防衛術に長けている理由の魔法。

魔法などの攻撃はおおよそ無効化出来る。

魔力が続く限りは。

急がないと不味い。

なぜ魔力で感知できなかったッ!?

「...っこれ以上は危険です!一旦逃げた方がいいかと!」

「私達がっ!守らないとっ!」

「どうした、魔王の配下はこんなに弱者ばかりか?守るだけじゃ倒せないぞ?」

そこには貴族が着るようなローブを着ている誰かがいた。

頭には冠もある。

「ミナリ!セフィロト!...ハァッ!」

門を開けた刹那、大きく踏み込む。

背を向けていた何者かに攻撃。

「おお、危ない。ようやっと魔王のお出ましか。」

「貴様...人王...ッ!」

いたのは人間の王。

人間の住む国を統べる王だ。

私たちの憎むべき王だ。

こいつなら魔力を消すくらいなら容易だろう。

「...何をしに来た。」

気を落ち着かせる。

まだだ。

まだ殺すと判断するな。

今はその時ではない。

少なくともまだその時は早すぎる。

「はっ。怖い顔して。何もしないさ。...と思っていたのだが。」

そう言った瞬間姿が消える。

「クッ!?どこだ!」

「まだ周囲にいるはずです。警戒を高めて...ぐっ!?」

一瞬でミナリとセフィロトのいる場所へ移動。

セフィロトを片手で吹き飛ばす。

単純な力ではない。

確実に魔法の類だった、

「魔法を使えない雑魚に用はない。」

「っ!バレット!」

人王に向かって紅い光線が飛ぶ。

「血の魔法か、到底俺達には使えんものだが...そんな魔法で倒せるとでも?」

「いやっ!?」

胸元を掴んで持ち上げる。

「何が望み…..ッ!!」

ミナリを助ける為に無作為に剣を振るう。

「適当に剣を振り回しても倒せはしないのは分かっているだろう?ふむ...望みか...お前はそこで黙って見ていればそれでいい。そうすれば殺しはしない。動いたらこの小娘を殺す。」

「...っ!」

「そうだ。…ハハ。いい目をするじゃないか。...仲間に感情移入する魔王なんて人間が知ったら笑いものだぞ。」

「離…してっ!」

魔法を使っても直ぐに殴り倒される。

ミナリは魔法に関しては随一だが自衛能力が非常に乏しい。

今すぐにでもあの腕を切断して助けたいが。

動けない。

動けないのが嫌だ。

最悪のパターンは逃がしてはならない。

やつが殺すと本当に決めたその瞬間でしかうごいていけない。

「ふむ。少しばかり頭を覗かせてもらうぞ。」

そう言うとミナリの頭上に手をかざす。

「…。」

「...くぁっ!?...い...いだ…い、苦じ。」

唐突にミナリが苦しみ出す。

「…記憶が途切れているな。情だ、蘇らせてやろう。」

「...え?」

「記憶蘇生開始。」

急激に魔力が高まっていくのがわかる。

「...!あ...あぁ...っ...やめ.....ぐ...ぁ...」

「ミナリ!...貴様何をした!」

「記憶を蘇らせているだけだ。脳が多少パンクするかもしれんがな。事実的には回復させてやっているのだぞ?」

ミナリが苦しんでいる。

この状況で私は何も出来ない。

自分の力不足を。

自分を恨む。

力があれば。

「…なるほど。なかなか面白い小娘だ。もういい、記憶を返してやろう。」

「...え?」

そう口から言葉が盛れた矢先、人王が手を離す。

上手く着地出来ずに地面に打ち付けられる。

だがその痛みを感じないほどにミナリは記憶を見ていた。

「がふっ…!」

「ミナリッ!」

「ミナリ様ッ!」

私とセフィロトは直ぐにミナリの元へ走った。

「あ...あぁ...ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい...私が...これを...全て私が...?嫌...嘘...こんなの...許して...っ!いやあああああああ!!!!」

「いい声を出すじゃないか。私はこれで帰らせてもらおう。次はお前だ。魔王。」

目の前から姿を消す。

「待てッ!…クソ。逃げた。」

急いで駆けつけたが間に合わなかった。

「私はなにも...何も出来なかったの...?私は...どうすれば良かったの...?...え?...お父様...?...お母様?嫌だ...嘘よ...そんな...っ!」

極度の混乱状態にある。

事実を受け止められないのだろう。

「落ち着けミナリ!気を取り戻せ!」

「いや...嫌だ...」

目からは涙が。

過去に辛いものがあったのだろうか。

記憶を処理していると思われる。

だが情報量があまりにも多く処理しきれていないのだろう。

今彼女は過去の無かった記憶を全て旅している。

それ故に私たちの声も届いていない。

私に出来ることは...。

ない。

「魔王様っ!ご無事ですか!?...ミナリさん!セフィロトさん!」

セリルも後からかけてくる。

「私は大丈夫です...が。ミナリ様が…!」

そっとセフィロトが抱き抱える。

「...セリル、一旦眠らせてやってくれ...。」

「分かりました。ヒュプノス...!」









...何?

森の焼ける音。

叫ぶ声。

なんで聞こえるの?

脳から離れない。

私は...何?





「...どこ?」

気がつくとベットに横になっていた。

「...お気づきになりましたか?」

「私の部屋...?」

「そうです。襲撃で気を失って。」

「...私は...私は。」

「...大丈夫ですか?記憶が...蘇ったとの事ですが...。」

…..私は殺したんだっけ。

...たくさんの魔族を。

命を。

たった一つの間違えで...。

それで記憶を失って...なんでっ!...こんな...っ!

「は…ハアっ…はッあぐ…ふっ…あっ…」

酷い過呼吸を引き起こす。

涙が入り交じり、醜い顔をしている。

「落ち着いてください!記憶を受け入れるのは酷かと思いますが...落ち着いて。」

国を潰して...。

また記憶が無くなって...。

お父様とお母様は...。

狂いそうだ。

何もかもが分からない。

「セフィロト…っ…」

「はい…そうです。セフィロトです。落ち着いて…ゆっくり呼吸を。」

「…はーっ。…ふ…ぅ。」

落ち着いて…。

私は吸血鬼で...

名前が...ミーハ・ナタッド・リラミィ。

そう...私はリラミィ。

両親を助けられずに逃げた弱い吸血鬼。

あの時無理をしてでも助ければ...っ。

「セフィロト...ごめんね...まだ少し...頭の中がぐちゃぐちゃで...待ってくれる…?」

「もちろんです。少しずつ、少しずつでいいんです。」

おそらく数分は経っただろうか。

薄暗い私の部屋。

当たり前だが時間を示すものはなく、日は暮れて夜。

セフィロトが私をずっと待ってくれていた。

数分なのだろうが私には何時間も経ったように感じた。

「私は...吸血鬼のミーハ・ナタッド・リラミィ。ミーハ家のリラミィ。」

そう。

私はリラミィ。

「はい。」

「私にはお父様もお母様もいた。…でも何もかも...無くなって...」

「...はい。とても...辛いですね。」

とても親身に、全てを同情してくれて、…優しい顔をセフィロトはしていた。

「それで私は...その時代の魔王様に助けられたはずなの。」

涙があふれる。

止まらない。

今まで忘れていたことを思い出した。

感情の制御が効かない。

「忘れちゃいけないことなのに…っちょっと待ってね...。ごめん…ひぐっ…」

「...少し気分転換に外へ行きましょうか。」




〜魔王城 庭園〜

「夜風が気持ちいいですよ。ミナリ様。」

「……。」

今まで忘れていた分の悲しみ、嬉しさ、怒り、いろんなものが混じりあった涙。

何をしても止まらない。

「ダメよねっ!私がこんな泣いていたら!...私が...ねっ!」

私の方が長く生きてる。

こんなダメなところなんて見せたら...

私がしっかりしなくちゃ。

「...っ。ありがとう。もう...大丈夫だから...。」

零れた涙を手で拭う。

涙を必死に堪えなくては。

従者にこんな顔をずっと見せてはいられない。

「...ミナリ。こっちへ。」

「...え?」

そう言った瞬間だ。

抱きしめられた。

優しく、とても優しく抱きしめられた。

「...そんなことされたら...涙が...止まらない...じゃないっ...!うぐっ...」

セフィロトの温かさを感じる。

とても強い心臓の鼓動。

心地がいい。

「1日くらいいくらでも泣いていい。ミナリの事は分からない。けど私は貴方の執事。ずっと傍にいる。」

「...うん。...うん。...ごめんね。」

「泣いていい、1人の女性なんだから。」

いよいよおさえが効かない。

こんな姿...誰かに見せられない。

でも...今日くらいは...泣いてもいいよね...。

甘えても...いいよね。

お父様...お母様。

私は...大丈夫よね。

私が創ったもの。

私が消し去ったもの。

全て受け止めるから...。

今日だけ...許してね。

お父様...お母様...!





月は新月。

まだ何も見えない。

だが、この月下にいた少女は違う。

今全てが見えた。

過去未来、全てが見え始めた。

しかし差し込むのは黒い光。

先に何があるのかわからない。

それでも彼女は進む。

光の先にあるものを探すため。

自分の生きる意味を探すため。





庭園の噴水に腰をかけて座っていた。

ミナリ様は私の肩に蹲り泣いていた。

「...そろそろ戻りましょうか。...ミナリ様?」

ミナリ様自体もどうやら落ち着いてきて来た様子。

「...。」

と思ったけど…。

「寝てしまいましたか。」

この姿だけ見ると幼い少女なのですが...。

私に抱きついたまま寝てしまっている。

白くて美しい髪と肌。

細くて力を入れたら折れてしまいそうなほどの腕に足。

幼い容姿。

それなのに背負っているものは私なんかよりも格段と重く、辛いものだ。

私が...。

私が守らなければ。

何があったのか分からない。

どんなに辛い過去があったのか知らない。

けれど、確実に、私が支えなければ行けない。

この身に受けた命を果す。

「...っと。」

起こさないようにゆっくりと持ち上げる。

お姫様抱っこと言うやつ。

「...本当に子供のようです。」





〜魔王城 ミナリの部屋〜

「...リ様.....ミナリ様!」

「...ん...もう朝...?」

「寝坊ですよ。」

昨日、泣くだけ泣いて寝てしまったみたい。

まるで子供みたいね。

情けないことをしてしまった。

「昨日は...ありがとう。」

「いえ、ご無事で何よりです。」

「気持ちも落ち着いたわ。」

「魔王様からの言伝です。今日一日は自由にしていい、とのこと。」

「...そう。じゃあまずは...魔王様に色々言いに行かなきゃね。」

「承知しました。行きましょうか。」


〜魔王城 謁見の間〜

少しずつ扉が開く。

おそらくミナリとセフィロトだろう。

「おはよう、皆。」

「おっ、ミナリか!具合は大丈夫か?」

「えぇ、良くなったわ。」

話しながらこちらへ歩いてくる。

なにか様子が変だ。

「そうか...!それなら良かった。」

「魔王様、とても心配なされていたんですよ。」

「それは...ごめんなさい。でも、本当に大丈夫、元気が有り余ってるわ。」

本当に落ち着いてくれてよかった。

私にはにも出来なかったからな。

「記憶を取り戻した...ってわけじゃがわしのこと知ってたりするかの?」

どうやらこの2人は顔見知りだったようだ。

その辺も含めて後に話し合いをしなければな。

「もちろん知ってるわ。その話は、また後で...ね?」

「かっかっか。楽しみじゃのう!」

「セフィロトから聞いたと思うが今日は自由にしていい。」

「じゃあ早速...1ついいかしら?」

唐突にミナリが体を構え出す。

「やはりか…。すぐにわかった。操られているのだろう?」

「朝起きたら体が言うことを聞かなくて。この魔法、解くのに時間かかるからまた迷惑かけるわ。」

「なに、仲間の頼みだ。引き受けよう。呼応せよ、ルドベキア。」

...本気を出しては怪我をさせてしまう。

「バレット!」

赤い光線が飛んでくる。

吸血鬼特有の血を使った魔法。

当たれば体を血が蝕む。

避けるにも速度がバラバラ。

おそらく直線にしかとばない。

「これくらいッ!」

幾つも飛んでくる赤い光線をひとつひとつルドベキアで弾く。

「魔力切れになったら多分魔法は解除されると思うわ!それまで耐えて!」

「耐える...か。苦手だな。少し手を加えよう。」

形状変化...

長い棒状に型どる。

私より大きめ程度。

棒術はあまり知らないが…見よう見まねでも行けるだろう。

「やられているままは好きではないのでな。こちらも行かせてもらうッ!」

ルドベキアを地面に突き立てる。

そのままの勢いで高く飛ぶ。

魔力を込める。

「テンペスタージッ!」

私が実用化した私だけの雷の魔法。

この棒状になったルドベキアに雷を纏わせる。

そして投げるのではなく落雷のように落とす。

貯めるのには少し時間がかかるが威力は絶大。

魔力を貯めて放たなくともある程度の効果は期待できる。

「うぉおおおやべぇやべぇやべぇ!!!!あんな練度の魔法一瞬で使えるとかやっぱ魔王様やべぇ!!!!」

なにやら1名が大興奮だが。

「セフィロト!バン!お願いっ!」

「はッ!魔王様、申し訳ありませんがッ。」

そういうとミナリを抱きかかえてその場から回避。

バンが大きく体を変化させ2m程の大きな盾になる。

何が起こるか分からない、一旦着地する。

「...バンは大丈夫なのか?」

「戦ってる相手の心配はしない事ねっ!」

ミナリを抱きかかえたセフィロトが高く飛びあがっていた。

「今の主はミナリ様なので...ッ!飛んで!ミナリ!!!!」

ミナリを飛んだ状態で上に投げた。

「えぇ...あれは許されるのか...?」

「作戦だもの!」

収納していた翼を解放。

ミナリが天井近くを浮遊する。

「セフィロト!剣よ!」

血の魔法で作り上げた剣を飛んでいたセフィロトに投げる。

「行きますっ!」

落下を始めたセフィロトはその剣を受け取る。

見た目は鉱石のように煌めいている。

「まずいっ...!」

見たことの無い剣だ。

何があるか分からない。

破壊するのが最適解。

「身体強化...!ルドベキア、形状変化!」

ルドベキアを元の形に戻す。

「はあっ!」

ルドベキアで受ける。

流石はセフィロト。

とてつもない力だ。

正直私でなければほぼ受けられない。

「バレット!」

上から再び赤い光線。

「ぐっ!少し本気過ぎない...かッ!」

魔力をそのまま剣に込めて巨大な衝撃波を出す。

風の魔法、インパクト。

セフィロトの事など気にせず剣を滑らせ吹き飛ばしたを

ルドベキアは血の剣を折り空を斬る。

その場から凄まじい風圧とともに衝撃波が出る。

「くうっ!?」

「きゃあっ!?」

「...操られているにしても自ら本気を出したな?」

「私はミナリ様が起きた瞬間にチャームをかけられてしまったので...」

「魅了魔法か...。」

セリルも同様のものを覚えている。

相手と目を合わせることで発動できる魅力の魔法。

発動出来たらある程度の体の自由を奪える。

「...朝弱いからすぐ魔力無くなっちゃうのよね...。欠点だわ...。」

「これだけ戦えれば十分だろうさ。」

あまりにも戦えている。

私よりは…。

「おぬしら加減を知らぬのか...」

騒ぎに乗じて雹華が覗き込んできた。

「すまない、うるさかったか?」

「うるさいも何も大騒動じゃわい。何かがまたおきてるーとな!」

少し場所を変えたら良かったな。

「...まぁ魔王様だしな...あれで加減はしたんだろ...」「…いやかなり辛いものがあったぞ。敵に回すことにならなくてよかったと思うくらいだ。」

本当に、敵だったら困りものだ。

どうするにも近づけなさそうだ。

「お褒めの言葉ありがとう。それで早速血を分けてもらえないかしら?」

「...本気出しすぎ罪により今日は私からの血の提供はなしだな。」

「なんだそりゃ。」

漆が後ろで手を組みながらフラフラと歩く。

確かになんだろうな。

よく分からん。

「えー...。じゃあ...セフィロト?」

「もちろんいいですが...私のなんかで大丈夫なのですか?」

「血ならなんでも魔力補給出来るからいいの!魔王様は特別血がおいし...んんっ!魔力が多いから貰ってるだけよ!」

(やっぱり美味しいのか...?)

(やはり美味しいのじゃろうか...?)

(やっぱり美味しいですよね...!)

…なんか3人ぐらいから謎の圧を感じる。

「何故か寒気がしたが...。まああまり今日はもう無理はするなよ。」

「分かってるわ!ありがとうね!魔王様!じゃあ!」

「御無礼をお許しください。それでは失礼します。」

セフィロトがミナリを抱えて謁見の間から出ていく。

「...では俺達も用は済んだので失礼します。」

「ん、そうじゃ。忘れとった。この前の酒場の請求は軽く見てやろう。新しい酒の貯蔵分を買う、というのでよろしゅうな!かっかっか!」

「...懐が...。」

「まあ、収入源は沢山ありますし...お酒は士気も上がります。」

「否定はしないが…そこに力を注ぐとむしろ戦力が落ちる。」


とにかく今日はミナリの無事が確認できてよかった。

過去に何があったのかはまだ分からないが。

後々話してくれることを期待しよう。

...あまり無理をさせては行けないからな。




長くの年月を生きる吸血鬼

何を壊し

何を殺し

何を創り

何を失い

何を得たのか

その真相はまだ分からないまま。

彼女の行く末は如何に...

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ