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狂気、故に戦

だいぶ遅れました...

...朝?

私の部屋に窓はない。

何せ太陽の光が弱点だもの。

でも分かる。

長年吸血鬼やってるんだから朝の時間なんて感覚でわかる。

ベッドから体を起こす。

本当に朝なら彼女が来るはずなんだけど。

「おはようございます。起きてますか?」

ドアをノックする音が聞こえた。

相変わらず敬語は止められないのね。

「入っていいわよー。」

「失礼します。」

ついこの間私の執事的な役割に当たった子。

セフィロト。

初めて見た時はかなりクールな感じの子だと思ったんだけど...

なかなかどうして可愛げがある。

「おはよう。」

「朝の身支度はどこまでいたしましょう?」

「じゃあ髪だけ頼むわね。」

「承知しました。」

私は普段ツインテールなのだけどさすがに寝る時は髪は解く。

「本日は基本的な活動はなし、ということで休日となっています。私も同様ですのでお供します。」

髪を束ねて形作りながら今日の報告をしてくれる。

この子本当になんでもできてしまう。

料理に掃除、力仕事に裁縫、家事全般出来てしまうから羨ましくなっちゃう。

「そうね…セフィロトのお部屋ってもう片付いてるの?自分の時間あんまり取れてないみたいだけど。」

「初日に終わらせています。後々にすると色々と面倒になりますから。」

ほら、本当に出来る子。

髪を整え終わった様子。

「ありがと。...あなたって身長意外と大きいのね。」

「失礼な物言いになってしまいますがミナリが小さいだけなのでは...?」

本当のことを言われてしまっては何も言い返せないわ。

140cmと少しだもの、私。

「ほんとに失礼ね。罰として朝食の準備変わってね!」

「...分かりました。」

「...もう!元々自分だって主張してよ!私が気付いてないみたいじゃない!」

「ふふっ。普段のお返しです。では準備をしてきます。」

少し笑みを浮かべて部屋から出ていく。

「...ほんとに可愛い子ね。」



〜食堂〜

「おはようミナリ。昨日はよく眠れたか?疲れていたみたいだが。」

食堂の席に座っている魔王様に出会った。

「疲れなんて魔力があればすぐ回復する。というわけで失礼するわ。」

魔王様の服装は袖無の洋服だったので腕を1噛み。

「...他の皆の血は吸わないのか?」

「...ん。そうね。確かに試したことは無いわ。」

試しにみんなを襲いに行こうかしら。

「あれ?セリルさんが見えないけど。」

「珍しく寝坊だ。1年に何度かやらかすんだ。」

「意外ね、完璧主義見たいな所あるのに。」

「そもそも寝ることすらしないはずなんだがな。どうだ?吸血するついでに起こしにでもいくか?」

ああ、サキュバスは寝る必要が無いんだったわね。

「...楽しそうね!」


〜セリルの部屋〜

「しかし…本当に起きないんだ。」

「...」

ぐっすり寝ている。

「寝る姿勢も華奢ね...。どうやって起こすの?」

綺麗な姿勢を維持したまま気持ちよさそうに寝るのはさすがメイドと言った所。

「こうやるんだ。」

魔王様がセリルに馬乗りになる。

そして耳元に顔を近づける。

「そういう関係...!?」

「…違う違う。」

一体何をするつもりなの...

「...漆がメイド服着て踊ってるぞ。」

「...!!!!」

セリルの目がハッと開く。



『ぶぇっくしゅっ!!……噂でもされたか?』



「嘘だ。おはようセリル。」

「...私またやってしまいました...?」

「そうだな、やってしまったな。」

横たわりながら頭を抱えている。

本当に寝ていたのね。

「どうだ。あの日にするか?」

「あの日...?」

「そうですね...こうなってしまったら休みますか...。」

「嘘!?セリルさん休むの!?」

「流石の私も気力が無限な訳では無いので...」

まあ…確かにそうよね。

「よし、本当の休日だ。ゆっくり休め。」

「...ふぅ...。」

セリルが大きく深呼吸をする。

「あーー!気が滅入る!あの硬っ苦しい服着たくないよー!」

「...!?」

空気が一変。

あのセリルさんが敬語をやめた。

「あるぞ。私と同じセーター。」

「出してー。」

セリルが魔王様にのしかかる。

「う…嘘…。」

「自分で着れるか?」

「ん!」

いきなりバンザイしだす。

「私より朝酷いじゃないか。」

魔王様が服を脱がせてる...。

何がどうなったらこんな風景を見れるんだろう...。

「数少ないからいいでしょー」

「っと...ほら。これでいいか。」

「ありがとねー薺。あ、一服しに行かない?」

「私は煙草は吸わないんだが...話し相手にはなってやるよ。」

「いきましょーう。」

「すまないなミナリ。セリルが休みの日はこんな感じだ。私は付き合ってくるよ。」

「あ、えぇ。いってらっしゃい…?」

「ふふっ。ミナリちゃんはこんなふうになっちゃダメだよ?」

「...気をつけるわ」

衝撃の新事実ね...

後に着いていきましょうか...。


〜休憩室〜

「失礼するわ。」

おや、ミナリが入ってきた。

何か用だろうか。

最近は休憩室の出入りが多い気がするな。

「久しぶりの煙草...。」

近頃は煙管や葉巻などのものより煙草が売れるそうだ。

私はそういった趣向は持ち合わせていない故分からないのだが。

セリルが言うには自分の解放の為だとか。

「珍しく2年持ったんじゃないのか?」

普通は1年に何度かこういったようになる。

しかし...長年付き合いがあるとこういうめんどくさい役回りになってしまう。

「あー筋トレしながら訓練指導ってキツイよな...休日は完全に訓練休みにしよっかな...」

「あっ!漆くん!!!!」

メイドとは思えない恐ろしい速さで漆に飛びつく。

「どわああああああああぁぁぁ!!!?」

「すまない漆。」

代わりに謝罪だ。

見事に馬乗り。

さっきの私と同じ状態になっている。

「何!?なんだ!?」

「私には助けられないものだ。安らかに死を迎えるといい。」

「え!?俺死ぬの!?」

まあ死にはしないだろうが漆的には死と言ってもいいだろう。

…多分。

「漆くん...ちょっと一緒に遊ばない...?」

「セリルさん…どうしたの??夢でさえ敬語だったのに??」

「今日はそういう日!さぁ!私がいつも着てるメイド服着ようね!」

着せ替え人形、だな。

惨い。

「なあ!!!!!セフィロト!!!!見てないで助けてくれ!!!!」

漆と一緒にいたセフィロトが出てくる。

「あぁ、ごめん。忘れていた。」

「忘れてたってなんだよ!!!!」

セリルにセフィロトが近づく。

漆に抱きついていたセリルをそのまま引き剥がした。

「セリルさん、失礼。」

「ああぁぁぁ!!!!やだ!!!!着せ替えで漆くんを弄ぶのが夢だったの!!!!」

ずるずると床を引きずっていく。

「この前やっただろ!あれで勘弁!!!!」

「魔王様。すみませんが。」

「足だけ拘束させてもらうぞ。」





「うぅ...」

机に伏せてしまった。

「全く歯止めが効かなくなるんだ。私にでさえどうしようもない。」

「おぞましい。」

身震いさせて言う。

「…いつの間にか沢山集まってるな。」

周りを見れば休憩室にはたくさんの魔物達がいた。

面白おかしく見るものもいれば気にしないものも。

これが魔王城だ。

「そうそう…。今日は皆の士気を高めるために色々やろうと思っていたんだ。」

「士気を上げるために?…何をやるんだ?」

漆が不思議そうな顔をする

「その時の楽しみだ。集合は夜、酒場に来てくれ。」




〜魔王城 酒場 撫子〜

「む?ぞろぞろと集まってきたのう。何があるのか?」

「あぁ。ちょっとな。」

新しく新設された酒場。

雹華はどうやら時空をねじ曲げるというえげつない魔法を使えるらしく勝手に魔王城に空き室を作り酒場を開設した。

部屋の前にはのれんがかかっており入ってみると和風の部屋。

内部が全て木造になっていてカウンターの後ろにはたくさんの酒がならんである

時空をねじ曲げる魔法は攻撃には使えないらしい。

つまみをつくるのもマスターも雹華が務めている。

雹華は休日やることがないといって酒場を勝手に建ててしまった。

まあ酒を嗜む私達には嬉しいんだが。

和の国ブランド品の酒が沢山ある。

セリルも暇があれば手伝いに来るようで。

「イベントらしい。」

真剣な顔で一言喋る。

まあ今回は参加する方になりそうだが。

「ひょんなこともあるもんじゃのう。ついに敬語を使わなくなってしもうたか。」

「そういう日です。2回目ですねこれ。」

顎に手を当てながら喋る。

いつものセリルとは打って変わって雰囲気が違う。

やりにくいと言ったらありはしないが...。

まあ仕方ない。

「さて、早速本題に入ろう。魔物というもの、本性は戦いにある。純粋に強さを確かめ合う。ということで1つ目は腕相撲大会だ。」

「いやわからん。わからんけどいいぞ!」

「くじ引きで組み合わせは決めておいた。まずは漆とミナリだ。」

「え?私もやるの?」

びっくりした表情でこちらを見る。

「仕方ない。」

なんだかんだで理由をつけるより無理矢理やって貰った方がいい。

「負け試合じゃないのよ!」

「ルールはなんでもありだ。」

「………勝てるかもしれないわね」

「待ってくれなんだその間は?何をするつもりだ??」

両者が肘をつく。

「力を抜いて...1が開始の合図だ。3、2、1!」


「セェエエエッイ!!!!」

速い。

「きゃっ!?」

「短期決戦か。まあその判断は妥当だな。」

「手加減してくれてもいいじゃない!」

「悪ぃ、何されるかわかったもんじゃないからな。」

魔法でなにかされるかもわからないからな。

「戦いと聞いたら負ける訳にも行かないし。許してくれ!」

「次、私と蛇姉妹の...ナーガの方か。魔物の男どもを差し置いて筋力が桁違いと有名な。」

「おっしゃあ!なんでもありなんだろ?」

腕をぶんぶん回して聞いてくる。

「あぁ。手の甲が付けば負け。それだけだ。ルールはほぼない。」

「じゃあ...。」

と一言、私の右手に両手を添える。

よくある手だ。

子供が大人に力に勝てない時にやる行為。

「いいだろう。身体強化...100%!」

「女筋力No.2を舐めるんじゃねーぜ?今はセフィロトの姉貴に抜かれちまったが...」

「では私が変わって...レディー...ファイトぉ!」

「うらァ!!!!」

テーブルが軋む。

「...まだまだだな。」

力はとてつもなく強い。

「う、動かねぇ!?」

「では同じ方法でケリをつけてやろう。」

ナーガの手を払い除けて両手で押し付ける。

「かんかんかーん!余裕の勝利!なずなー!!!!」

「その程度じゃ魔法に劣る。」

「本当にお主ら楽しそうじゃの。んで漆よ。飲みすぎるでないぞ。人間だったら酒飲むだけでアウトな年齢じゃし。」

カウンターからこちらを除くように見ている。

「大丈夫だ魔族じゃ合法、前より全然強くなってるしな。」

そして漆はいつの間にか酒を飲んでいる。

「そういう問題ではなくてのう...」

ため息をついている。人間は20歳にならないと酒が飲めないんだったか?

「さて...次はセフィロトとセリルだ。メイド執事対決だな。」

「セフィロトが圧勝じゃないの?」

「だろうな。」

想像に容易い。

「酷い!辛辣!」

「お手柔らかに。」

「321ー!」

「私も身体強化!!!!…っー!ダメだ動かない!」

「セフィロトのやつ力すら入れてないぞ。てかセリルさん身体強化しても何もしないセフィロトに勝てないのか。」

「はっ。」

ペタッという音をたてて終わる

「正直あれ勝てる気がしないな」

「流石だな。鬼のハーフと言うだけある。」

セフィロトは鬼のハーフ。

純血でなくても純血ほどの力を引き出せるのは少ない。

「実際あいつ腹筋バッキバキなんだぜ...俺より...腕も力こぶやべえし腹筋とかすごいし。」

「くじ引き終わったぞ。第2回戦じゃ。まあ3人しかおらんがの。漆とセフィロトじゃ。魔王は休みで勝った方が魔王と対決じゃの。」

「本気で行くか。」

上着を脱いで部屋着だけになる

「おぉ。彼奴も成長したのう。あんなに筋肉が。」

見た目からは想像出来ない筋肉。

普通のトレーニングなどでは到底手に入らないような努力の賜物と言える。

彼なりに頑張っているのだろう。

「では私も。」

上に来ていた執事用の制服を脱ぎ同じく部屋着になる。

しかし驚くべきはその筋肉量。

遥かに漆を上回っている。

女性物の服だから筋肉で少し張って見える。

ましてや鬼の混血。

力も凄まじいものだろう。

両者が肘をつく。

「これはなかなかに見ものだな。」

「ほれ頑張れ漆よ。勝てたら酒がタダじゃぞ。」

「絶対勝つ。」

「セフィロト!勝てたらご褒美よ!」

「善処します。」

「それでは!レディー...ファイト!!!!」

「さて...どうなるか...」

と口にした瞬間信じられない光景が目に映る。

テーブルが割れた。

「あっ。」

「どうやら木製では辛いようです。」

「おいマジかよ...」

魔物たちが騒ぎ出している。

それもそうだろう。

力を入れた瞬間に割れるなんて聞いたことがない。

「じゃ、鉄のテーブル用意するからそれで我慢してねー。錬成!」

目の前におおきな鉄の塊が現れる。

「ほれ漆よ。勝てば酒がタダじゃぞ」

「流石に無理かなぁ...恐ろしいもの見た…」

「準備が出来たよーですねぇ!それではレディ...ファイト!」

両者が力を入れた瞬間肘の部分の鉄が凹む。

どちらも動かない。

「牽制し合っているな。」

「力を図られずに勝つ。それが1番いいものね。」

「オラァ!!!!!」

「勝ちに行った!...行ったが...。」

その腕はまだまだびくともしなかった。

「まだまだだな。」

「ぐううううううううビクともしないぞおおおおお。」

「はっ!」

勢いよく漆の腕を叩きつける。

「はぁ〜無理だなぁ。まだ本気すら出されてない。」

「酒の値段2倍じゃな。」

「おいまて聞いてないぞ。」

「さて。私だな。」

いよいよ最後だ。

「魔王様だからといって加減はしないつもりでいます。」

「構わない。全力で来い。身体強化...200%!」

腕に力を込める。

これほどの強化魔法の倍率だと時間はかなり少ない。

短期決戦になる。

「両者準備完了!レディ...ファイト!!!!」

力を入れた瞬間に城自体が揺れた。

「えっ!?城が揺れることってあるの!?」

「さすがにとんでもないな...」

しかしセフィロトは一切動かない。

「本当に...ッ!こればかりは...勝てる気がしない...ッ!」

私は全力で押しているつもりだが全く歯が立たない。

セフィロト「十分お強いです。私が戦った中でここまでの力を持つものはいませんでした。流石魔王様です。ですが力だけでは勝てません。技術もいるのです...よッ!」

「くっ...負けたか...。勝てないな。それにまだ本気が見えていなかった。喋る余裕すらあったのだからな。」

「私の怪力は異常ですから。」

「優勝はセフィロトじゃの。」

「おっ終わったか?ちょっとまてや」

聞き覚えのない声がした。

「...誰だ?」

顔がヘッドギアで隠されている。

赤い髪で大柄。

上裸になっていて袴のようなものを履いている。

男だからと言うべきか筋肉はかなりのもの。

「おれはグランってんだ。てかなんだおめェ急に質問しやがって。俺が誰だっていいだろうが。負けたヤツに興味はねぇよ。お前だお前そこの緑髪。俺と同じことしようぜ。」

「ミナリ様...。」

「構わないわ。」

「では本気を。彼はただものでは無い。」

恐ろしく感じるほどの闘気を感じる。

「もう一度確認しますがなんでもあり...なんですよね?」

「なんでもありだ。」

「早くしろ緑髪。」

肘をついてイライラしている。

城の警備はいたはずだが…押し切られたか。

今のうちにこの周囲を出られなくしておこう。

「まさかのエキシビションマッチ!レディゴー!」

そういった瞬間セフィロトが蹴りをいれる。

それに反応するかのようにグランという男も飛び避ける。

飛んだ勢いを利用し思い切りグランを地面に叩きつける。

「あ?」

何が起きたかわかっていなかったようだが無傷。

どちらもまだ肘は着いている。

今度のフィールドは地面だ。

「オラ!」

そう言うとセフィロトの手が床にめり込む。

「がっ!?」

「んだよ雑魚ばっかだな。つえー匂い辿ってきてみれば雑魚ばっか。...俺の鼻曲がったかァ?」

突然現れた怪物。

「...私の城に何用だ?」

「ア…?おめェの城か?はっ、この緑髪にさえ勝てねぇ雑魚がか?」

「私のことを知らないようだな。」

ならば先手を打つ。

「雹華、外に時空を繋げろ。」

「あいわかった。」

次元が歪む。

そこにめがけてこの男を回し蹴りでぶっ飛ばす。

「テメッ!」

と言いながら時空の歪みへ消える。

「私が潰す。待っていろ。」

時空の歪みに入っていく。

「ありゃ...あれはガチモードだね...」



〜魔王城 門外〜

「やるじゃねぇか。こっちも本気出すわ。バスター!ブレイカー!」

そう言うと大剣を2つ無から取り出す。

これは腕相撲などと茶番めいた戦いではない。

本気の殺し合いになる。

「礼装装備。呼応せよ、ルドベキア。」

ルドベキアを手にする。

彼奴がもつどちらの武器も当たれば重症は免れない。

バスター と呼ばれたものは巨大で斬ると言うより叩き斬るという用途の方が妥当と思える。

ブレイカー と呼ばれたものは剣の刃の反対側に凹凸がある。

恐らく並の剣ならば凹凸の部分で攻撃を受けてそのまま破壊できるであろう。

解決策は簡単。

当たらずに行く。

攻撃を受けさせずに行く。

まず投擲。

心臓部めがけて全力で投げる。

その後上空に飛ぶ。

当たる頃をめがけてかかと落とし。

「だりぃ事すんなうぜェ。」

囮は成功。

そのまま喰らわせる。

「ガっ!?...ってえな...オラァ!」

剣を思いっきり振り回している。

到底技と呼べるものでは無い。

しかし驚くべきは剣が刺さっていても気にも止めないという点だ。

血も流れている。

普通なら致命傷のはずだが。

「戻れ。」

手にルドベキアが戻る。

私の強みは魔法などではない。

剣技だ。

一歩踏み出す。

彼奴も私の動きを見てこちらに来る。

「ハッ!」

両手を上げ剣を振り下ろそうとする。

横に避けるのが無難だが...あえて突撃。

低空飛行。

私の目の前に剣が見えてから上方向に避ける。

「…チッ。めんどくせぇなァオイ!」

剣が地面にあたりその部分が割れる。

当たっていたら死は確実だったな。

剣を持ち上げようとする瞬間に腕ごと切り落とす。

「こんなものか?」

「あ?腕斬った程度で何ほざいてんだ?ヒヒッ!ヒャハハハハハ!!!!!!!!!!!!」

不気味な笑いだ。

やはり並のものでは無い。

攻撃をものともしない所からすると治癒能力か、それとも痛覚を感じないか。

「俺はなぁ?痛みがあればあるほどつよぉーくなんだよなァ...これくっそいてぇなぁ!!!!」

そう叫ぶと腕が生えてくる。

前者だったようだな。

これは到底決着が付きそうにない。

「セリル。」

「はいはーい!お呼ばれですよ〜」

すぐに駆け付けてきた。

「んだよ雑魚呼んでも何も変わりゃしねぇだろ?」

「魔王に対しての不敬罪だ。始末しろ。」

「了解〜。」

にこやかな笑顔をしている。

私には到底こんな状況で笑顔など出来そうなにない。

「処理を開始。...ヒュプノス。」

「カッ...んだこれ...がっ...」

「やはり魔法の耐性はないみたいだな。」

「では!」


〜夢の世界〜

「アァ?動けねぇな。オラァ!...チッ!」

「お前...ゴミの分際で喋るな。」

ゴミを見るような目でグランを見る。

「調子乗ってんじゃねぇぞ今すぐぶっ潰してやるよ!!ヒャハハハハハ!!!!」

「出来るなら殺ればいいでしょ。」

「...っクソが!」

「ほら、動けるようにしてあげた。」

「オラッ!」

セリルの腹に強烈なパンチが。

「どこ狙ってるの?目がついてないんじゃないの?...あぁ。ゴミだから当然か。」

「チッ…うぜェ…オラァ!」

「当てれない癖にいちいち叫ぶな。そろそろ面倒だし殺すけど言い残すことないの?こうやって聞いてあげてるんだから早く。」

「クソがッ!テメェぜってぇ殺す!!!!」

今度はセリルを捕らえた。

「ヒャハハハハハ!!!!ヒッ!!!!ヒャハハ!!!!雑魚じゃねぇか!!!!!!!!腹痛てぇぜヒャハハハハハ!!!!!!!!」

「気は済んだ?…ゴミはどうなるか分かる?処理されるのよ。」

「...あ?」

後ろから現れて不意打ち。

スカートの中から取り出した刀で斬首。

「あぁ...綺麗な刀だったのに。血で汚れちゃった。…夢だけど。」

「ンでだよ!!!!なんで復活しねんだよ!!!!!!!!」


〜現実世界〜

「...もがいているわね。」

「夢の中では私が絶対的支配者だからね。能力とか関係なしなし!復活してしなないなら復活しないように!此奴は夢の中で出血死するよ。」

グランの体をつつきながらセリルが言う。

「海の底にでも捨てるかえ?」

「そうだな。復活されても面倒だ。」

グランを背負って雹華の作った歪んだ時空に投げ込む。

そして歪んだ時空が元に戻る...

と同時にフラフラと誰かが歩いてくる。

「あー...やっべぇな...酔った...うっ...」

「馬鹿だな。」

「馬鹿ね。」

「阿呆じゃな。」

「馬鹿で阿呆には喝を入れないとな。」

「待ってくれで具合が...」

そんな言葉もお構い無しに漆の頬を叩きつける

「...ッ!って叩いて気分よくなるかい!」

「それじゃいかんのか?」

「もっといいのあるわよ?」

そう言うと漆の首元目掛けて噛み付く。

「いだいいだいいだい!!急に来ると心構えがっ…あっやっべ...気が遠のく気がする...」

「...うーん。味が薄いわ。ちゃんとお肉とか食べてる?」

「天狗の血は薄いって評判でな。だから純血種しかいないし数少ないんだ。混血だと天狗の血薄すぎて無くなるんだ。」

それが理由になるはずがないと思うが…。

「夜も深くなってきたみたいだ。戻って飲むか?」「俺は話し相手ぐらいにしかならないが...。」

「わしもじゃがな。飲めと言うなら飲んでもいいがわしは酔わんぞ?」

「ミナリ様、どうしましょうか?」「そうね。ここは行きましょうか。」

みんな決まったようだ。

「では、行くとしようか。」



〜魔王城 セリルの部屋〜

...あれから飲みに酒場に戻りはしたがセリルが飲み足りないと部屋で飲むことになった。

...私とセリルだけで。

「なあ。寝かせてくれないか。」

「私酔ってないんですからダメです。」

「酔えないの間違いだろ。」

「いいえ?私だって酔いますよ。酒の飲み比べの時は相当酔いましたし。」

「...瓶まるごと飲み欲しそうな勢いでまだ酔わないと。...正直私の身にもなってくれ。」

一気にグラスに入った麦酒を飲み干す。

「あと半日経つまでもう少しなんですから。休日くらい休ませてくださいよ?」

「...さっきのは嘘だな。もう酔ってるだろ?」

「?なんでそう思うんです?」

「敬語に戻ってる。」

「...あ。」

「お前のそういう根っこは昔から変わらないな...本当に。」

昔からだ。

まだ私の側近として働き始めた時、敬語に慣れておらず直ぐに親しい口調で話しかけてくる。

その時の名残で今は逆に敬語に慣れていた。

酔ってるかは辛うじて分かったのが幸いだ。

やっと寝られる。

「じゃあ...そろそろ終いってことですね...。楽しかったですよ。」

「あぁ。おやすみ。」

ドアに手をかける。

「...待ってください。」

「どうした?」

「えいっ。」

後ろからセリルが飛びついてきた。

「何があっても一緒ですよ?…ふふ。」

「...相当酔ってるの我慢していたな。」

「えへ。昔の私と今の私が混じってる感覚です。」

「...いつまでも共にいる。安心して寝てくれ。」

「...はい。長い時間ありがとうございます。それでは。」

メイド服ではないが綺麗な姿勢で私を見おくる。

部屋を出る。

「...随分と長い間話していたようじゃの。」

「盗み聞きは感心しないがどうした?」

「会計を済ませておらんぞ。」

「...っ...額を聞くのが怖い...。」

いくら魔王であろうと金は払わないといけない。

「かっかっか!魔王にも怖いものがあるとはのう!まあお疲れのようじゃし。請求は明日にするとしよう。また会いに来るぞ。」

「出来るなら安くしてくれ。」

「かっかっか!考えておくわい。」

歩いて酒場の方角へと帰っていく。

恐らく漆がまだ居るのだろう。

飲めないとか言っていたくせにまた飲んだからな...。


〜自室〜

今日の報告書には彼奴。

グランについて詳しく書いておかなければ。

魔力からすると人間のようだったが。

あれほど治癒能力を持った人間は聞いたことがない。

あのヘッドギア。いや兜なのか?

どちらにせよ詳しく調べる必要がある。

腕を斬られても即時に回復する。

ならば死んでも復活可能性はないとは言えない。

...今考えても仕方ないな。

明日は調べ物をしに行くとするか。

そろそろ寝る準備をしなければ。

セリルが居ない。

片付けは全て自分で。

気付けばあいつとの戦闘で魔王礼装を着たままだったな。

直ぐに着られるのはいいが何故か脱衣は直ぐにできない。

その前に着ていた服は何故か収納されている。

礼装を脱ぐ。

肩当を外し礼装と一緒に収納。

脱ぐときに翼が邪魔だと思ったことはあるが慣れれば気にすることも無くなった。

寝間着...部屋着...どちらともそうとは言い難いが着替える。



私の望む世界にはまだ程遠い。

いつしか皆がそれを願い、手を合わせて何かを成し遂げられるような世界を。

少しずつでいい。

何かを変えて行く。

何かを変えて前進する。

そうして願いは叶うものだ。

次回はあまり記述していなかった部分について書きます!楽しみにしておいてね!

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