奪還せよ、和の国
新規キャラ詰め込みすぎた
〜魔王城 謁見の間〜
「...しばらくはやることが無いな。せめてだ。いずれ行くはずになる和の国の奪還作戦でも考えておくか」
魔王城周辺、合併した血の国も落ち着いてきてしばらくはやることがなかった。
ミナリは魔王城の基本的な防衛術を防衛軍の魔物達に教え終えたと言っていた。
漆も常に訓練していたり、はたまた異常がないか周辺を警備していたりする。
セリルは仕事が終えれば私の側へ来て何かと忙しそうにメモを記したり掃除をしたりなどみんな忙しそうな中私だけ何もしないというのも気に触る。
私はここで座って報告を待つ。
それだけだ。
「セリル、作戦書はあるか?そろそろ和の国の奪還を考えている。」
「ただいまお持ちします。しばらくお待ちください。」
現在和の国は人間と魔物が両方いる国である。
しかし漆によると魔王城陥落と同時期に魔物の大虐殺が始まったらしい。
その生き残りも漆なわけだ。
い今は人間の中立にいる立場のものがなんとか引き止めていると聞いた。
魔物に反対するものはかなり少ないと言うが危険なのには変わりはない。
いつ崩れてもおかしくはない。
なるべく早く国の平穏を保たなければならない。
その為にも救う方法を考えなければならないのだが...
「魔王様!大変だ!和の国が...和の国が!!!!!」
「落ち着け、簡潔に伝えろ。」
慌てた様子で息を切らしながら伝える。
…悪い予感が的中した。
「...はい。和の国で...内戦が始まりました。」
若干うつむいたまま今にも飛び出しそうな表情をする。
「...まさか今日とはな...。セリルを見つけたらその趣旨をセリルに伝えてくれ。この剣の号令は魔王城外部には届かない。魔王城外部にいる魔物達を呼んできてくれ」
「はッ!」
小さく礼をしすぐさまとてつもないスピードで出ていく。
さて、どうするか。
「状況はお聞きしました。この場合作戦書も必要ないと思われますが。」
「あぁ、無しでいい。皆、よく聞いてくれ。これから和の国の内戦を止めに行く。魔物反対派、賛成派と魔物達の軍による戦いだ。支援軍は我々に合わせず今すぐに支援、物資を届けに行ってくれ。」
「「はッ!」」
支援軍のもの達が一斉に出ていく。
「戦闘も予想されるが基本的には話し合いで解決させたい。指揮は私と漆でとる。準備が整い次第魔王城入口に集合、セリルは私と来るように。以上だ。」
「...始まったか...」
悲しげな表情をする漆がいた。
「大丈夫か?」
「俺は大丈夫なんだ...でも...和の国に残ってる旧友が...心配でならないんだ。」
「そうか、では指揮はいい。和の国の生存確認作業を頼む。その流れでその旧友とやらを見つけてくれ。だが優先順位は考えてくれ。」
「...!ありがとうございます!!」
「さて私達も急がなければ...」
〜和の国〜
なかなか酷い有様だ。
魔物の住居と人間の住居、そして中立派の住居が別れているらしいが見事に魔物達の住居が壊滅に瀕している。
建物はどちらも和風で同じだ。
「血迷ったか...漆はいるか?」
近くにいた魔物に聞く。
「漆隊長は現在戦線にて交戦中との伝達です。」
「セリル、即刻支援だ。ミナリ、交戦区域で防衛戦を行ってくれ。私も加勢する。...なるべく殺すな。」
「分かりました」
「分かったわ。」
〜戦線〜
「もうすぐで魔王様が来るはずだ防衛ラインは下げるなよ!こっちからの無駄な攻撃は避けろ!」
漆が忙しなく指揮をしている。
「待たせた、生存確認作業はどうなった?」
「簡潔に言うとそんなことをしてる場合ではない、とだけ。」
そこまで危険な状態か。
信用ならないな…人間。
…いや、たまたま指導した人間が悪いだけだ。
普通は…私の母のように優しいはずだ。
「敵も味方も戦闘による死者は出ていません。負傷者は多数、防衛のみをしていました。この戦いを収めるにはある程度の攻撃は避けられないかと...」
「...悔しいが私も同じ考えだ。漆、セリル、聞いてくれ。この戦いを収めるにはお前達が敵地に潜入して司令官に脅しをかけるしかない。頼めるか?」
敵には恐らく司令する物がいる。居ないとこの戦いがそもそも成り立たない。
そいつを何とかして戦線から引かせる。
「分かった。」
「行けます。」
二人とも頷いて敵地の方を見上げる。
「転移魔法は得意ではないが...漆、空を飛んで大体の距離感覚を頼む。」
ある程度の座標が分かれば魔力で空間を認知する。
それで転移が安易に行える。
魔力の使い方に手馴れている魔王一族故の所業だ。
漆が空中に飛んでいく。
「...前方約2km、その後左方向に約1kmです。」
「わかった。こっちに来てくれ。準備はいいな?」
「いつでもいけます!」
「こちらも。」
肩にそっと触れる。
「健闘を祈る。転移ッ!」
〜敵陣地内部〜
「...っと。見事に敵陣地内部に潜入したみたいです。...漆さん?いますか?」
「俺はいるが...呪いでもかけられてるみたいだな。」
部屋の内部にあったベッドの下から出てくる。
「もしかして本当に本意じゃなくあの時ベッドの中に?」
「不本意だって言ったでしょ...」
漆が頭を抱える。
「...うぅん...ふぁ...だぁれ?お兄さん達?」
ベッドで何者かが寝ていたようだ。
見たところ幼い少女と見えるが。
(すいません漆さん、何とかしてください)
「...そうだな...お兄さん達はみんなを助けに来たんだ!」
「...ほんと!?もしかして今起こってる戦いを止めに来てくれたの?」
「そうさ!そんで聞きたいんだがここの建物の中に偉いやつっているか?」
「もしかしてお父さん?なら3階にいるよ!すぐ近くの階段を上がったらすぐ!」
「おぉ!ありがとな!未来のお姫様!助かったぜ!こりゃ将来有望だな!」
優しく頭を撫でる。
こんな世界だけがあればいいのだが。
「えへへ、頑張ってね!」
「おーう!君も頑張るんだぞー。」
部屋を出る。
3階…だったな。
「すみません、全て任せてしまって...その上情報まで即座に掴むとは...流石ですね。」
「何、慣れてんだこういうの。さて、言った通りなら階段上がって部屋をしらみ潰しに探して行けば見つかるが...その前に...」
「いたぞ!転移魔法での侵入者だ!捕らえろ!」
兵士が2人ほどやってきた。
まあ転移魔法と言ったら魔力の隆起が激しいからな、バレやすいわ。
「セリルさんは戦えるか?」
「もちろん、そうじゃないと3魔将になれませんよ。」
にこやかな笑顔をこちらに見せる。
「覚悟し...がはっ!?」
瞬間移動して兵士の首元を刀の鞘で殴打。
「そんな速さじゃ虫も殺せないぞー。」
「ぐ、お前だけでも...殺す!」
セリル目掛けて槍を突き刺そうとする。
しかしそれをサッと回避。
「さて...まだ死にたくない...ですよね?」
後ろから近づいてヘルメットを取り隠し持っていた短剣を首元に当てる。
「指揮官の場所を教えてくれます?」
「教えるものか...!」
尋問程度じゃ動かないと思うが…。
「…じゃあおやすみなさい。ヒュプノス。」
サキュバスが使える相手を睡眠させる魔法だ。
いいなその魔法…。
「う...く...Zzz」
「お、寝た。」
セリルが兵士をそっと床に寝かせる。
「サキュバスだけが使える魔法です。私も情報を探り出しますのでちょっとの間守ってくれますか?」
「分かった。」
あぁ、サキュバスだから夢の世界で聞き出すのか。
〜夢の中〜
「...っ!?ここは...」
「夢の中...です。」
「貴様...サキュバスか!?」
「どうです?気が変わりました?」
「変わるものか...!」
目をキリッとして兵士は言う
「あなたの望むコト...してあげますけど...」
前かがみになり兵士の目をのぞき込む。
「ふん…!」
スカートを膝までたくしあげる。
色仕掛けで堕ちてくれると楽なんですけどね。
「本当にいいんですか?サキュバスなんてこれからそうそう会えませんよ...?」
「...くぅ...俺が...俺に彼女がいれば...。」
…割と早く堕ちそうですね。
本当、男性って単純です。
兵士の後ろからセリルが現れる。
そして頭を優しく掴み耳元で囁く。
「全てを教えるだけ...教えてくれたら...私を...好きにしても良いですよ?」
「うおうっ!?お、教えます!え、えーっと...」
「言葉に出さなくて大丈夫です。頭に思い描いてくれれば私に伝わります。夢の中ですから。」
「あぁ...何だか楽に...」
夢の中ではサキュバスが絶対的支配を得ることが出来る。例え神であろうと、魔王であろうと、夢を見させることさえ出来ればサキュバスは最も強くあれる。
セリルがしたいこと全てなんでも夢の中で出来てしまう。
〜現実世界〜
「...はい。終わりました。ついでに明確な場所も聞き出しました。」
「気になるんだがどうやって?」
夢の中とはいえ口を割らない限りは…。
「色仕掛けです。今のうちに行きましょう。こちらです。」
サラッと言うなぁ…。
色気使われて情報を吐く奴が兵士でいいのか…?
廊下を駆けて階段を駆け足で上がっていく。
コツコツと音をたてながら階段を上がる。
そしてまた廊下を歩く。
「動きにくくないのか?そんな長いスカートで。」
「慣れてしまったものですから...それに」
と言うとスカートの裏側を見せる
「うおっ!?武器めっちゃあるな...全部使えるのか...?」
スカートの裏側には様々な武器が閉まってあった。
ナイフに短剣、チャクラムまで。
あと…なんだ?見たことも無い武器がある。
「このスカートこれのせいで重いので重心は取りやすいんですよ。」
「なるほどなぁ…慣れ、か。」
「さて...着きましたよ。」
〜和の国 戦線〜
「行ったな...よし。私達もなるべく被害を拡大させないように進行を食い止める。」
「正面は私、遠くにある東拠点が魔王様が守ってるからいいけど西拠点は大丈夫なの?」
和の国は川を境目に種族の住居が別れている。
入口としていた場所がいまは拠点になっている。
「腕っぷし自信があるものが集まって交戦しているらしいが...なるべく早くに対処して支援に向かった方がいい。魔物達。数十名西拠点へ支援兼戦闘をしに行ってくれ。」
「はい!」
「太陽、大丈夫か?傘は確かにしてるかもしれないが…。」
うーんと考えそして口に出す。
「正直に言うと朝とか昼とかはそんなに役に立てない。夜とか室内戦なら力を発揮出来るわね。さすがに動きにくいし1歩間違えたら自滅になっちゃうし。」
「後方支援だけの方がいいんじゃないか?」
「私もほぼ動いていないの。何せ漆くんの育て上げた部隊がかなり優秀だから...ね。」
確かに訓練はしているとは聞いたが私も今日このように初めて軍としての戦闘で戦うがかなり使い勝手というか個々の能力が高められている。
漆もよくやるな。
「救ってもらった身だもの。何とかするわ。」
そう言って守護する拠点へと向かって行く。
が。
大砲の音が鳴り響く。
空中を見上げると砲弾がこちら側に飛んできている。
落下地点は...ここか!?
「ミナリ!!離れろ!!!!」
「え...?」
ミナリに向かって砲弾が撃ち込まれる
障壁が貼れれば...ッ!
クソ!ダメだ...やはり間に合わない...
私は守れないまま見殺しにするのか...!?
「...っと。大丈夫ですか?」
何者かが砲弾を素手で粉砕する。
爆発は起きるがその何者かは傷を負っていない。
目の前に現れたのは緑の髪をした魔物だった。
上半身は胸にサラシを巻いているだけ、下半身は黒い袴を履いている。
鍛え上げられた身体だ。
筋肉質の肉体、頭の角からして鬼だろう。
「...ごめんなさい。...油断していたわ。」
「大丈夫ならいいんです。...魔王様、ですね。お会いできて光栄です。」
こちらを向き深く礼をする。
「こちらも救ってもらって本当に助かる。味方1人も自分で助けられないなんてな...」
魔王失格だ。
魔法による攻撃だけだと思い違いをするとは。
「...私が悪いの…。ごめんなさい。」
「誰にだって気の緩みははあります。気にしないで頂きたい。私もある程度は戦えます。...と申し遅れました。セフィロト・グラズリーと言います。この国に住んでいるものです。」
「今は一緒に戦ってくれるという認識でいいな?」
「問題ありません。」
目に見える強い戦力が増えることはこちらとして安心出来る。
…あの砲台、厄介だな。
「よし、私が今から砲台を潰しに行く。加えて制圧もしてくる。その間この正面の防衛を頼まれてくれるか?」
セフィロト「もちろんです。」
胸に手を当て礼をして返答をしてくれた。
「ミナリも気をつけてくれ。...では行ってくるッ!」
足に力を入れる。
地面が少し潰れる。
地を蹴り空を飛ぶ。
翼をはためかせる。
最高速は時速80km。
敵の砲台の位置は恐らく700m程先だ。
高台にあって見えていなかった。
すぐ着く。
敵の攻撃を避けながら砲台の位置へたどり着く。
「敵だ!...あれば魔王!?どうしてここに!?」
言うなれば王騎将軍、だからな。
「聞いてくれ、人間達。私達は人間を襲うつもりは無い。出来ることなら共存を望んでいる。どうか戦いは終わりにしないか?」
あくまでこちらが下手にでる。
「何が共存だ!お前達はいつも嘘をつく!」
「私達は何もしていない。お前達は何故魔物を狩る?お前達は何故私達を責める?私達が何かをしたか?」
「だが王様がそういったんだ!間違いはない!」
やはりそうか…あの腐れ外道がッ!
民をも騙すか!
王としての資格があるように思えない。
人間の王は私の母を追いやった張本人でもある。
王の癖に闇を許容する。
いや許容するどころか認識して利用すらしている。
あいつが魔物達が悪いことをしている、とでも吹き込んでいるのだろう。
人間すらを技術開発の道具として扱った。
...母上だってそうだ。
「やる気か!?」
「私は人間を襲うつもりはない。」
「じゃあ死ねッ!」
剣が降り掛かってくる。
それを素手で弾いて吹き飛ばす。
「ただ死ぬつもりもない。お前達にはしばらく動かないでいてもらう。」
「クソ!全員、かかれ!」
4人の人間が攻めてくる。
「身体強化...20%」
後ろから来る人間の兵士を足払いで転ばせる。
「こんなものか?」
「2人で!!!!」
今度は左右両側から。
しかも右の兵士は私の前に剣を。
左の兵士は私の後ろに剣を。
人間なら確実に死ぬだろう。
「甘い。私は魔物達を統べる王だぞ?」
高く空中に飛び前後から来る剣を回避。
剣同士がぶつかり合って隙が出来る。
落下を利用してそのまま1人にかかと落とし。
そのまま振り返ってもう1人に回し蹴りを食らわせる。
3人目がいる。
「魔法でどうだ!」
炎を飛ばす魔法。
火傷を追わせることが出来るため殺傷力も高い。
だが私には通用しない。
「ルドベキア。」
手にルドベキアを呼び寄せる。
炎を斬り払って消滅させる。
そしてそのまま剣を最後の1人にに向ける
「生きるか死ぬか、!どっちだ?」
「し、死にたくない!」
「あぁ、私も殺しをしたくない。拘束魔法発動。」
全員を拘束する。
「ついでにこの大砲は壊しておく。」
10個程あった大砲を全て壊す。
「はぁッ!」
半円状に並べてあった大砲は粉微塵に壊れる。
「...そうだな。命が無事だったなら王に伝えておけ。『お前を許さない』とな。」
さて、戦線に戻らなければ。
〜敵陣地 司令室〜
「...という訳です。作戦はこれで行きましょう。」
「分かった。先にセリルが潜入合図で俺も潜入。俺はテキトーに合わせればいいんだな?」
「見つからないように隠れていてくださいね。では、行ってきます。」
ドアにノックをする。
コンコンと2回ノックし
「失礼します。」
と言いながらドアノブに手をかけてドアを開ける。
(敵の人数...司令官1人...護衛2人のみ...行けますね。)
部屋の構造は作戦室とは言えずただの部屋に大きいテーブルを置いているのみだ。
「どうした、メイドか?何しに来た。要件を伝えろ。呼んでいないぞ。」
司令官と思われる人物が声をかけてくる。
「お疲れかと思い紅茶をお持ちしました。」
「...ふむ。おいそこの護衛。毒味しろ」
案外、頭が回るんですね。
すんなり飲むかと思いました。
毒は用意してないんですけどね。
「...はっ。」
護衛がカップに手をつける。
そのまま口元へ運び液体を口の中へ。
「異常ありません。」
そりゃあそうですもん。
私が作ったんですからね!
「よし。では有難く頂こう。そこに私専用のティーカップがある。それに注いでくれ。」
「かしこまりました。」
さて…この護衛をどう対処しましょうか。
大抵司令官自体には戦闘能力はないはず。
しかし魔法を使うのはあまり良くはないですし…。
対魔力の鎧であったりそもそも魔法を使えない部屋かもしれません。
だからまずはあえてこの司令官を利用する。
食器棚からティーカップを取り出す瞬間。
スカートから銃を取り出す。
私が唯一出来た魔法、それが錬金術。
それで作りあげた未知の技術の弓。
不意をついて銃口を向ける。
「皆さん動かないでください。不振な動きをしたら即撃ちます。」
「なにっ!?」
守りをするなら知らない顔は即返す等をしないとダメですね。
「漆さん!」
「あいよっと!」
扉を開けて出てくる。
「誰だぁはっ!?」
状況を把握したのか護衛2人を即殴って気絶させる。
「さて、司令官さんよ。」
「なんだ貴様ら!」
「...死ぬか?」
刀を取り出して首元に当てる。
「ヒイッッ!?」
「死にたくないなら質問に答えろ。答え方間違えたら首飛ぶぞ。」
「わ、分かりました!」
いい脅しです。
私はあまり威圧的にならないので無理なんですよね。
あとは漆さんに任せておけば大丈夫そうです。
「その1、主犯格は誰か。その2、この戦いを仕切ってるのは誰か?嘘ついたなら首飛ばす。」
「ど、どちらも私だ!許してくれ!」
怯えた様子で訴える。
「はん、さっさと戦ってる兵士全員撤退させて降伏しろ。」
「わ、分かったから殺さないでくれっ!」
「兵士戻すまで首は預かるぞ。」
〜戦線 拠点〜
「段々と引いていくぞ。...あの2人がやってくれたようだな。」
戦線から兵士達が次々と引いていく。
「ふぅ...。太陽が雲で隠れてきてようやくいい感じに戦えるの思ったのに。」
吸血鬼の本気はまた今度、だな。
見なくなるくらい平和になってくれるとこちらも助かるんだが。
「仲間が敵陣に行っていたのですか...?あの防衛が硬いアジトを…?」
「私が転移魔法でな。後は対処してくれたのだろう。皆、ある程度の防衛線を維持しつつ休め。」
「はっ!」
...うん?...漆から魔法で転移信号が送られてきた。
漆も使えたのか。
ただ私よりはあまり正確に出来ないらしい。
出なければ信号は送ってこない。
こちらからも魔力でおおよその位置を知らせる。
そうしてから10秒後、漆とセリル、そして男の人間が現れる。
「やはり司令官が仕切っていました。命令もさせたので戦いは収まるはずです。」
「くぅ...、は?...ま、魔王...!何故ここに...!」
かなり怯えた表情だ。
まあ、魔王だしな。
無理もない。
「魔物のいる国で内戦が起きたら私が来るのは必然だろう。さて、何か言うことがあるんじゃないか?」
「ひぃっ!?すいません!!!!もうしませんから!」
ペコペコと頭を下げ続けている。
「…次はないぞ。また何か起こしたら命はないと思え。逃がしていい。」
これくらいの圧を与えておけば反逆はしないだろう。
「良かったなー。俺が魔王だったら確実にお前死んでたわ。」
〜和の国 会議堂〜
「今回の内戦は魔物反対派による暴動がきっかけという訳です。では協力関係を元通りにしましょう。時間はかかると思いますが…。それでも1ヶ月程かと。」
和の国の代表が談話を求めて来た。
私も平和的に済ませられるのならそれが一番だと思っている。
「街の魔物達もそれで良いのか?」
「大丈夫です、元より魔物反対派は少数でしたので。」
恐らくこれで一件落着だろう。
人間を裁くのは魔物ではなく人間だ。
今回の件で主犯の人間達は全て人間たちに任せた。
私が手を出せるのはここまで。
しかし無事に事が終わって良かった。
これでもう和の国で何も起きることは無いだろう。
「ふぅ。...良かった良かった。これであいつらも救われる筈だな。」
「天狗一族の仲間たち...か?」
「大虐殺から数年前経ってはしまいましたけど…。ほれでも、報われると思います。」
漆が空を見上げている。
心残りは少しでもあるはずだろう。
どんな魔物にでも心はある。
「...っと、漆の友人は大丈夫だったのか?」
出撃する前そんなことを言っていた。
「ッ!忘れてた!」
「こちらはしばらく用はない。行ってくるといい。」
「ありがとうございます!」
そう言うと一瞬にして姿が見えなくなる。
「さて...貴方にも感謝しなければならない。セフィロト...と言ったな。本当にありがとう。貴方がいたおかげでこの国を救えた。」
彼女のおかげで救えなかったものを救えた。
それだけで本当に助かったのだ。
「結局は支援をしたまで。魔王様が敵陣地に行かなければ私達も辛かったですし。」
「それでも、だ。何か1つ褒美でも差し上げたいのだが...何がいいだろうか?」
「そ、それなら1つ我儘を聞いて貰えますか?」
「あぁ、なんでもいいぞ。」
「私の小さい頃からの夢だったんです。みんなを守るという夢。これを叶える為にも...どうか魔王様の配下にしてもらいたいのです。」
深く礼をして語る。
うーむ、そう来たか…。
「あ、頭を上げてくれ。…貴方のような強い魔物はいた方がいい。貴方の両親がいるのなら確認をとってきた方がいい。」
「ありがとうございますっ!今すぐ準備をしてきます!」
そういい住宅街へ消えていく。
後ろ姿はとても勇ましい。
彼女になら魔王城を守ることが出来るだろう。
「どんどん仲間が増えていきますね。」
「あぁ。なんだか嬉しいものだな。仲間というのは。」
「安易に受け入れちゃっていいのかしら…?」
「問題ない、彼女の心には悪しき心などないだろう。」
和の国
それは平和に暮らす魔物と人間が共存して暮らし始めた最初の国。
その初めは1500年にも前に及ぶという。
途中人間と魔物との分裂が起きしばらくは離れ離れだったと言うが今こうして再び共存し合った。
和の国には神がいた。
和の国を作ったのはその神と言われている。
人間の愚かさを知り、魔物の愚かさ知り、人間の優しさを知り、魔物の優しさ知る唯一の神の使いが。
〜和の国 神の社〜
「ハァ...っハァ...相変わらず階段長ぇっての...」
ここは和の国にある神社。
通称 狐神の社。
人間も魔物達もよく来る場所だ。
「うーん?そこにおるのはもしや...天狗の白夜坊かの!」
社と小さな女の子が見えてくる。
「えっ…雹…華…だよな…?」
獣耳がついていて胴体より少し大きめの尻尾6つがある
金色の髪に黄色と白色の巫女服。
そして小柄だ。
「…嘘だろ…?お前が…あの?」
「そうじゃそうじゃあの雹華じゃぞ?」
えへんとでも言いそうに胸を張っている。
「いやいや何言ってんだ...おれの知ってるのはめちゃくちゃ冷たくて何にも無関心の…あだっ!?」
げんこつがとんできた。
「ほぼ神と同じくらいの立ち位置じゃぞ?言葉を慎まぬか!ちょっと前にわしは改心したのじゃ!」
腰に腕を当てて威張る。
「ちょっと前って10年も前だろ。今俺18!天狗も短命なんだからな!」
「阿呆、こっちにすれば短い時間よ。」
「へーいへい。わかったぜババうわぁぁぁっ!?」
サラッとげんこつが飛んでくるかすっとよけた。
「それで、ほかの天狗達は生きておるのか??」
「...人間側の虐殺で俺以外は全員殺されたさ。数年前にな。」
ほんと、助けてやりたかったけどな。
「...で、助けを乞いに来たのか?」
「んなわけあるまい。そうやって助けだけで生きるなって教えたのは誰だ?まさかボケでも始まったのか?」
「試しただけじゃ、というとあれかの?本当にただ会いに来ただけかの?」
「…今ちょうど内戦があってそれを終わらせて今ここに来た。この社が壊れてたらお前も死ぬだろ?封印されてんだから。だから様子見ってわけ。」
雹華はこの社に封印されている。
誰にされたかは知らんが。
社を壊して逃げようとすると雹華はこの世に存在出来なくなるらしい。
よく分からんが。
「壊されることはない。魔物達より人間達からの方が信仰は多いからのう。しばらくの仮眠を取れぬほど神頼みする人間が多く来てやってられん。」
怒った表情で漆に訴える。
「俺に言われてもな。ま、とにかく無事で良かったわ。」
「で、供え物は?」
「...ったく。ほらよ油揚げ」
「うむ!よろしい、褒めて遣わす!」
尻尾と耳をぴょこぴょこさせて嬉しそうに頬張る。
「む、立ち話もなんじゃ。そこの賽銭箱の隣の所に座るといい。座布団はわしのじゃぞ。」
「ふー。懐かしいな。しばらく来れなかったし。」
血の国に派遣されてから5年が経っている。
故郷に帰るとなると懐かしくもなる。
「ほんと、変わったな、雹華。」
「よせよせそんな話。それで、今何をやっておるのじゃ?一人旅か?」
「魔王城3魔将だ。」
ま、色々あった挙句の結果なんだけどな。
「そうかそうかー子供騙しは通じぬぞ?」
疑ってら。
「本当だっての。」
「嘘じゃろ?あの白夜坊が?」
「その呼び方やめてくれよ〜漆だって言ってんでしょ。」
満更でもない雰囲気で訴える。
「せっかく良い名前を持ってるのじゃから誇ればよいのじゃ。...でそれは本当か?...魔王は今何代目じゃっけ。」
「うーん...わからん。その辺詳しくない。」
天狗一族は山篭りしてるからな、世間知らずなんだ。
?「13代目だ。」
階段から薺が上がってくる。
「魔王様!?なんでここに!」
「用事も終わったからな。様子見を兼ねた観光だ。」
「ふむふむ...13代目...。随分と多くなったのう...わしが魔王城の配下になった時は初代だったのにのう...時の流れは早いものじゃ...」
「し、初代!?1000年以上前では無いのか!?」
魔王様がすごい勢いで驚いている。
こんな表情初めて見たぜ…。
「まあわし1500歳くらいだしのう...」
「オイオイ嘘だろ?昔600歳とか言ってなかったか?」
「わしとて女よ。あまり年齢を聞くでないぞ。」
魔王様がはっと思い出したような顔をした。
「もしかして...支配の雹華殿...!?...初代3魔将の...!?」
「む、分かっておったか。わしのことをまだまだ現世に知る人がおるとは。」
「えぇっ!?!?!?」
驚いた声と顔で雹華の方を見てしまった。
「嘘だろ!?雹華が!?」
薺驚きたいのは私の方だ...。何故そもそも漆が初代3魔将の1人、雹華殿とこんなに仲が良いのか...そして何故ここに雹華殿がいらっしゃるのか...。」
困惑した様子で喋る。
そんな事言われてもなぁ…。
「語る前に、敬語はやめてくれぬか?あまり好きではない。」
「...失礼した。これから気をつけよう。」
「わかる子はいいものじゃ。どこかの泣き虫天狗は敬語すら使おうという意思が見えないのじゃがな。」
さらっとバカにされた。
昔のことは忘れて欲しいな!!!!
「まあ何があったかを話せば一日は続けて話せるくらいなのじゃが、まとめて言うと初代魔王が死んでその後、封印されたのじゃ。何も出来ず暇してた所に...」
「…俺が色々あってここに来たのさ。」
割り込んで話してくる。
「まあおかげで数年は暇しなかったのう。」
「なるほど。それじゃ漆の言っていた友人というのは...」
「雹華です。」
「わしに敬語を使わないくせに現魔王には敬語を使うんじゃな。」
「いや、強制だな。不敬罪として敬語にな。」
「違いますよ!あれは...って言っても今更取り消し気かないし...そういうことにしておこう。」
社の庭に立つ。
「あぁ。そうだ。やっぱ見つかんなかったよ封印解除の方法。」
「1000年以上前のものだしのう。見つからんのも頷ける。」
実は魔王城の図書館、ちょくちょく行ってたけどそういった類の本はなかった。
「封印魔法の解除なら私でも出来るが...」
えぇっ!?
ま、魔王…すげぇ…。
「本当かの!?流石は魔王じゃのう!」
「いや...まだ分からないがとりあえずやってみよう。」
社の正面に向かって手をかざす。
まずは魔法の形式を魔力で感じ取る。
...恐らく呪縛に似た魔法だ。
呪縛を一つ一つ魔力で払っていく。
まだ何かあるらしい。
しかし魔力を感じ取れない。
もっと繊細に感じ取ろうとする。
...妙だな。
感覚を鋭くしても魔力が周りから一切感じられない。しかし魔力を使わないと封印は出来ず封印魔法は永続的に魔力が残る。
「...なるほど。これは時間がかかりそうだ。」
「何か手伝うことは...?」
「今のところは大丈夫だ。気にしなくていい。」
押してだめなら引いて見るか。
魔力を感じる範囲をより大きくする。
この社よりも大きく。
この社のある森よりも大きく...
…これは!
...とんでもない大きさだ。
この国の領域全てを使って封印している。
社の封印自体は後付のようだ。
「ふう...精神を集中させる。漆。少しでいい。魔力を私に流してくれないか?」
「分かりました。」
漆の分の魔力も体内に流れてくる。
もっと...もっと大きく感じるんだ。
...さすがにこの規模で呪縛の鎖をかけるのは2つで限界だったようだな。
封印に大切な魔力の鎖のようなものを作り封印する本体とリンクさせることで封印が出来るがそれをこの規模でやるとなるとかなり厳しい。
2本もできるとなればその時代の魔王、もしくは勇者と呼ばれる存在くらいしかないだろう。
「...封印解呪開始。」
鎖をゆっくり、ゆっくりと魔力で剥がすイメージ。
私が魔力でこれほど大きな魔法の規模のものを相殺するのは初めてだが。
私も魔王である。
その器を見せなければ、
集中...。
「......っ...。」
「大丈夫ですか!?」
即座に漆が駆け寄ってくれた。
「あぁ。魔力を消費しすぎただけだ。休めば治る。」
過度な魔力消費はだれでもこうなる。
いや、私が未熟なだけかもしれないが。
「おぉ...おぉ!力がみるみる戻ってくるぞ...この感覚...本当に何年ぶりかのう!...おおと、魔力の補給、いるじゃろう?持っていくといい。」
体の中にみるみる力が入っていく。
「この量...尋常じゃない...。流石は初代3魔将だな。」
恐ろしいほどの魔力量だ。
「まあ...わしは天狐じゃからのう。魔力は神にも通づるぞ。」
「えっ…俺そんなやつと...こんな関係に?怖いよ...」
「ふむふむ!この勢いなら初代の頃の勇者を圧倒出来そうじゃな。漆坊!今までの恨み受けてみるかの?」
「...やめろォ!」
謎の間を置いて止めにかかる。
「これなら...漆の心配もいらないな。」
正直安心した。
今日の漆の急ぎようは尋常ではなかった。
その元が解決したのだから今は問題ないがまたこうやって大切なものが関わると歯止めが効かなくなりそうだ。
「んで、雹華これからどうすんの?解放されたけど、旅とかすんの?」
「ふーむ...そうじゃのう...。行くあてもないんじゃ。旅をするにも今のことは全てわからん。どこがどうなっているかもの。というわげお前さん達について行くことにしよう!飽きたら帰るさ。それでいいかの?」
下からの目線で聞いてくる。
この姿だけ見ると本当に小さい女の子のようだ。
「私は全く構わない。むしろ歓迎だ。...歓迎なんだが...」
「大丈夫かよ?戦ったりすんだぞ?確かに昔は強かったかもしれないけど今と昔じゃ全然違う。」
「甘く見とらんか?わしが使うのは魔法じゃない。妖術じゃ。まあ魔法と似たようなもんじゃが。主として使うのはわしら...と言っても少ないが妖狐や天狐が使える術。逆に対処法も1000年以上埋もれとるんじゃ。漆坊より強いじゃろうな。」
妖術、噂には聞いたことがある。
なんでも昔に使われていた魔法の一種だとか。
「ほんとかぁ?いまいち俺は信じられ」
「妖術、炎舞 龍火!」
雹華が手をかざして、円を描く。その先には炎の龍が出現した。
漆「どあぁ!!?ごめんなさい!!!!俺が悪かった!!!!!」
咄嗟に漆が回避。
「触ったら多分その触った部分が灰になってたぞ。惜しかったのう...」
「惜しかった…じゃねぇ!怖ぇ!本当怖ぇよ!」
「妖術...か。なかなか興味深い分野だが...あいにく専門外だな。一体どうやって...。」
「そうじゃのぉ...簡単に言うと魔法は色々複雑なことをやるが妖術は妖力というのをそのまま直結させて炎にしたり何にしたりって感じじゃ。」
体を使って説明をしている。
手を動かしたりすこし多めに体を動かしたり。
「...なるほど。長年の知識がないと無理そうだ。む...そろそろ皆が心配する頃だろう。街の中心部に戻ろうか。」
「了解しましたー!」
「かっかっか!楽しみじゃのう久しぶりの街は!」
〜和の国 中央街〜
そろそろ中央街が見えてくる。
人間側の住居だったため損害はない。
魔物と人間との交流許可も出ているため今は誰でも行き来出来る。
和の国を醸し出す家や店の作りになっている。
みんなの姿が見えてきた。
何やら店の前に集まっている。
店の看板には「団子屋」と書かれた文字がある。
「お待ちしておりました魔王様。」
「あら、魔王様!おかえりなさい!」
「もう用事は済んだのですか?」
ミナリは店の前にある長椅子に座っている。
セフィロトは長椅子の隣で一切姿勢を崩さず待っていた。
セリルは店の手伝いをしていたようだ。
「あぁ。そして新しい仲間だ。」
「天狐の雹華じゃ。この漆坊の知り合いというか腐れ縁というか...まあそんな繋がりじゃ。魔王に助けられてのう。やることがない故着いてくることになった。よろしく頼むぞい!」
「一気に2人も魔王城に!」
「だんだん賑やかになって行きますね。」
「歓迎します。」
「...ほう。」
何やら言いたいことがありげな顔押して何かを悩んでいる。
ミ「...?私達の顔をみて…どうかしたの?」
「...ああいや。見慣れた顔がのう。」
そう言ってセフィロトとミナリの顔を見る。
「そこの緑髪、セフィロトと言ったな。よく家族で社に来ておったのを覚えている。」
「...姿は見えませんでしたがいらしたのですか。私の目視での認識はありませんでした。申し訳ございません。」
「ん?見えない?」
不思議そうな顔をする。
「ん?あぁ。昔姿を見せたのは漆坊のみじゃぞ。」
「ええっ!?そうだったのか...。」
「うーん...私はここに来たこともないし貴方と会うようなことがあったかしら...」
「...かっかっか。他人の空似と言うやつかのう。」
「おいおいここに来てババアみてぇなこと言うなよ。」
「もう一度妖術喰らいたいかの?」
「お許しを。」
唐突に素直になるの、ちょっと面白いな。
「そうそう魔王様!この『お団子』っていうの美味しいわよ!魔王様もどう?」
「後で頂こう。...そう言えば食べ物は要らないんじゃないのか?」
「それはそうだけどずっと血液だと口が寂しいじゃない?それに食べてと言われたら食べるしかないじゃない!」
「そうだったのか。...っと。ありがとう。」
串団子を受け取る。
「いいのよ!」
この街には平和が訪れた。
辺りを見渡しても仲良くする魔物と人間の姿が見える。
本来世界はこの姿であるべきだ。
「...魔王。話がある。ちと店の裏あたりに。」
「分かった。」
雹華の後ろをついて行く。
薄暗い店の裏に辿り着くとおもむろに雹華が喋り出す。
「...お主は仲間を本当に信じておるか?」
「仲間を加えすぎ、ということか?安直に信じすぎている、ということについて気になるのならば大丈夫だ。」
「...まあ、そういう意味もあるが。もし私が裏切ったらどうする?もし仲間が裏切ったらどうする?」
これはまた踏み切った質問だ。
「操られている、と言うなら話は別だが私は信じたものに手を出さないと決めた。いや、母との約束だ。敵であっても味方で合っても。」
「精神だけ老いたぐだらない話として聞いてくれるとありがたい。いつ何時も殺す覚悟は必要じゃぞ。敵も仲間も。」
こちらを向かず語りかけてくる。
その後ろ姿は何かを悟ったのか、それとも何かを知っているかのような姿だった。
「...忠告受け取っておこう。」
「よし!本当に伝えたかったことはこっちなのじゃが...漆坊が迷惑してなかったか?」
今度はこちらを振り返って聞いてくる。
雰囲気を察したのか話題を変えてきた。
「迷惑はしてない。...してないが...失礼はしたかもしれないな。私の胸を触ったり私の下着姿を盗み見したり女風呂を覗いたり。」
「そんな年頃かのう...。」
「叔母のようになっているぞ。」
「おおっと失礼!女は若いままでいなければ、じゃな!」
慈悲と無慈悲。
情と非情。
それを知った幼き容姿の神。
長い時をかけて得たものは。
助けない
だった。
しかし心は矛盾
助けたいの一心で助けた子に待つのは死。
それは当然、必然。
偶然などではない。
それを知った無能の悲しき神の2つ名。
雹のように突然現れそして花のようにすぐ朽ちる。
傍観者の雹華
翌日
〜魔王城 謁見の間〜
「承知しました。私はミナリ様専属の執事と。精一杯尽くします、ミナリ様。」
「うーん...調子狂うわね...。ですます口調はほぼダメ!様もね!」
セフィロトに指をさして少しムッとした顔で訴える。
「...わかった。これからよろしく頼みます。」
少し戸惑いを隠せないようだ。
まあ無理もない。セリルもそうだったしな。
「治ってない!...まあいいか!セリルさんもそうだしね。」
思うことは同じだそうだ。
「...それでわしは何故警備...なんじゃ?もっとマシな職をじゃな...」
「ダメです。警備はとても重要です。私一人ではこの魔王城全域を見るのは結構大変です!。それに警備は一番大事です。」
「むう...不服だが仕方ない。受けるとしよう。」
「助かる。よし。それでは今日も仕事を頼むぞ。報告は異常や仕事を終えたあと直ぐにするよう。では始めてくれ!」
現在の魔王城魔物数約500体。
魔王直下魔物5体
恐怖の夢魔 セリル
地獄の天狗 漆
謎多き吸血鬼 ミナリ
守護執事 セフィロト
天狐傍観者 雹華
総支配者 13代目魔王
楼薙 薺
彼女の望む世界が訪れるのはまだ速い。
いつまでも追い続ける。
共存を、均衡を、平和を。
しかしそのための手段には殺しは必要か?
要るか要らぬか、全ては魔王の掌に。
次回 ミナリちゃんの真相編????????????