魔王城の休日
やりたいことをしまくった
「......様...魔王様!」
「.....ん。」
私を起こす声だ。
気だるい。
寝ていたい。
「朝ですよ。起きてください。」
「.....今日は魔王城の業務は休みだろう...何も無いはずだ...だからもう少し...。」
「ダメですよ、魔王なんですから!」
体を揺さぶられる
「...わかったわかった...。」
目を擦りながら起きる。
日光が眩しい。
快晴だ。
今日は魔王としての仕事もなし。
城にいる皆も今日は休日。
だから私も久しぶりに遅くまで寝ていたかったが...
魔王というものはそう行かないようだ。
...知っていたが悲しい事実だ。
「...すまない、まだ眠い。珈琲を頼む。砂糖は1つでいい。」
「そういうと思ってました。どうぞ。」
そう言うと持ってきていた運搬用のワゴンに置いてある珈琲を私に差し出す。
「ありがとう...ふぁ...」
休みというせいか気が緩んであくびさえ出てしまう。
休日は恐ろしいな。
珈琲を口に運ぶ。
少し苦味があるが朝にはちょうどいい。
1度飲みかけの珈琲を棚に置く。
「着替えるか...」
「今日はどちらにしょう?私手編みの黒いセーターに灰色のスカート。もしくは魔王様の礼装ですか?」
「さすがに休日に礼装は着たくないな...というか私も子供じゃないんだ服ぐらい自分で...」
「そう言うとすぐに適当な服を選んで着るんでしょう?魔王である前に女の子なんですからしっかりしてください!」
母のようだ。
正直過ごしやすい服が一番いい。
「楽だからよくないか?」
「よくありません!」
「わかったわかった着る。着るよ。」
ベッドから立ち上がる。
寝間着...というかパジャマ...の方が合うだろう。
それを脱ぐ。
廊下が少し騒がしいな。
誰かが走っている音が聞こえる。
そして同時に私の部屋の扉が空いてしまう。
「魔王〜様〜!食堂開いたぜー!一緒…に......スゥー。あっ。」
勢いよく扉を開ける漆がいた。
この前と同じように翼で体を隠している。
「捕らえろ。」
…どうにかならないのかこの男。
「既に。」
仕事が速い。
流石は私の誇る従者。
「うわっいつの間に後ろに!?ってか手錠!?あだっ!?足も拘束されてる!?」
「たしかに休日位敬語は使わなくていいと言ったが誰も覗いていいなどとは言っていないぞ。処罰しろ。」
「かしこまりました。私は漆をつれていきますのでお先にどうぞ。」
「まって!本当にごめんなさい!!!!勘弁してくれぇぇぇええ!!!!!!!!」
また引き摺られて行く。
部屋に入る時はノックくらいしろ...まったく。
さて、着替えなければ。
〜魔王城 食堂〜
食堂はそれなりに大きい。
全員の魔物達が入る訳では無いが食事を取らないものもいるのでこの大きさが妥当だろう。
料理を作っているのはセリルとエルフ数名、そしてミナリが担当していると聞いたが。
...噂をすればなんとやら。
「あら。おはよう魔王様。私服、とてもいいわね!」
煌びやかな笑顔だ。
「まあ、着せられてるっていう表現が正しいのだが...褒めてもらって嬉しいよ。ミナリもなかなか吸血鬼って感じがしていいじゃないか。」
ゴシック...とでも言うのだろうか?
白い髪は2つにまとめてツインテールに。
「魔王様のお墨付きね。嬉しいわ。じゃ、注文受けるわよ?この前の食堂のメニューと一新してるからそこにあるメニューを見るといいわ。」
...食堂というよりレストランになっていないか?
メニューを見る限りセット物しかないのは昔の食堂と変わらないんだな...。
前の食堂は自ら取りに行く方式だったのだが…。
人手もそれなりにいないのに運送は間に合っているのは何故だろうか…?
まあいいか。
「じゃあ…そうだな。このヘルシーセットで。」
「あら?ベジタリアンなの?」
「いや、朝に沢山肉とか食ったりするのがキツいだけだ。」
割と朝に揚げ物や肉はキツい。
「分かったわ。申し訳ないけど飲み物は流石に回らないからセルフサービス、そこの席に座って待ってね!Hセット1人前よー!」
「はーい!」
...勢いが飲食店だな...。
〜数分後〜
しかし…。
漆が戻ってこないな。
???「お、お待たせしました...ヘルシーセットでーすぅ…ぐ…!」
「...何してるんだ漆。」
「ウェイトレス!!!!!!!!見てわかって!!!!」
「似合って…ぐっ...すまない笑いが...!」
明らかに大きな肩幅なのに顔が女の子に近いせいかマッチしている。
タイツも履いていて妙に似合っているのがまた面白い。
俗に言う両性類。
「クソ...ッ!自業自得ではあるが屈辱…!」
「どうです?」
満面の笑みで問いかけてくる。
随分と重い罰を…。
「傑作だ傑作。」
しかし覗きは重罪。
同じぐらいの羞恥心を味わってもらわねば。
「この衣装どこにあったんだ…?」
「年長のエルフさんのお下がりです!要らないから使っていいと許可を得たので。」
「似合ってるぞ漆隊長ー!」
ヤジまで飛んでくる。
「…もう辞めさせてくれー!」
そんな話をしているとミナリがこちらに向かってくる。
「魔王様〜!隣いいかし...くふっー!」
「畜生!!!!!!!!」
悔しさからか地面を蹴る漆。
まあ…気持ちは分からんでもない。
「では早速頂くとするか。」
サラダと鶏肉、フレンチトースト。
いかにも朝食らしい朝食だ。
「...ミナリはいいのか?」
吸血鬼とはいえ食べ物も取った方がいい気もするが。
「言ったでしょう?血をちょっと頂ければいいって。ご飯は食べても食べなくても変わらないの。」
「...あー。飯の時毎回か?」
「朝と晩だけ...いいでしょう?」
横から私の顔を伺うように聞いてくる。
「それくらいなら大丈夫だ。別に気にしない。」
「では私もいただきますわ。.....んん!?」
突然の謎の口調。
「ふっ!(笑)」
「っ!(笑)」
私もミナリも思わず笑ってしまう。
「今言葉を自動的に綺麗にする魔法をかけました。」
「なんだその魔法...っ(笑)」
飯を食う前にお腹いっぱいになってしまうっ!
「お腹痛くなる...はーっ!」
ミナリもすごく笑っている。
こんなに笑えるんだな。
「土下座するから許してくれ...」
「ご馳走様。美味かったぞ。」
「大体はミナリさんと私が共同め作ってますよ。」
「洋服と料理までお墨付きなんて...嬉しい限りね。」
「この和食も作ったのミナリなのか。スゲーなクオリティ高いぜ。」
和食まであるのか。
今度食べてみるか。
「魔王様の血のた...んんっ!みんなの健康のためよ。」
まさか血のために来たとか...。
いやまあ…助けになっているからいいのだが…。
「...まあいい。で、吸血するんだろ?ほら。」
腕を差し出す。
「多分腕だと痛いわよ?私が腕から血を吸うの慣れてないし...肩辺りでいいかしら?」
薺「ちょっと待ってくれ。今肩を出す。」
セーターを少しずらす。
私の肩に刻まれている紋章があらわになる。
そもそも私の体には紋章が刻まれている。
首から下はほぼ紋章だらけと言ってもいいかもしれない。
肩、腕、胸、太もも、足と多くの場所にある。
魔王一族は遺伝としてある。
母上の体にも父上の体にもあった。
母上は謎の突然変異で浮き上がったものらしい。
母上はその紋章のせいで同じ人間から悪魔扱いされ人体実験に使われることになったのだが...。
「ちょっと失礼だけど…これ噛んでも大丈夫よね?何か魔法が発動したりは...。」
「大丈夫だ。」
まあ…少し不安になるのはしょうがないな。
「じゃあ...いくわよ?...あーむ」
肩に刺さる感触がする。
牙だろうか?
少し力が抜ける。
血が吸われてスゥーっと軽くなった感覚に陥る。
「...ん。」
「あ、はいひょうふ?」
「...なんというか頭がスーッとするな...。」
「最初だけですので安心してください。」
セリルも吸ったことはあるんだったな…。
…?
その言動からすると…吸われたこともあるのか…?
のちに魔王とミナリの吸血シーンを目撃した魔物はこう言う。
「あれはやべーぜ。なんつーか新しい道が開かれて気がどうにかなりそうだった。」
「何かすげえ気配を感じた。俺はもう恋愛関係とか要らないかもしれない。」
「...ふー。濃厚なのよね...魔王様の血って。とても美味しいし魔力が高まるわ!っと後処理しなきゃ...治癒魔術発動...」
「そこまでしなくても私が自分で治すぞ。」
噛み跡くらいなら治せるだろうし。
「見ればわかると思うけど結構深い後が残るのよ。それを治すのは結構慣れてないとダメだし私よく吸わせてもらってたから慣れてるの。」
「んじゃ、食器とゴミは俺が片付けておく。」
気を使ってくれたのか片付けをしてくれた。
食器を持って調理場へ消えていく。
「私も洗い物の手伝いをしてきます。」
続々といなくなっていく。
「...よしっと。これで大丈夫!じゃあ私はこれで失礼するわね!」
「あぁ。助かった。ありがとう。」
私も朝食はすませたし...何をしようか。
特にやることも無いし城内を回るか。
〜魔王の玉座〜
ここは魔王が座る場所。
人間の国で言う謁見の間。
何をする場所かと問われると何をする場所でもない。勇者が魔王城に攻め込んできた時にはここに座る。
この部屋には侵入者対策の魔法が仕掛けられており精神的な恐怖、肉体の混乱、体を物理的に重くさせる効果がある。
魔王専用の大きな椅子がありその両端には蝋燭の灯火がある。
他には趣味の悪い黒い色の謎の植物が置いてあったり騎士の石像があったりする。
私の趣味ではなく父上の趣味だ。
「フェンリル!」
私がそう呼びかけると椅子の後ろから飛び出してくる。
「グルル...」
こいつは父上が契約していた魔獣だ。
今は私が契約している。
本来魔獣は人間や魔物の元につくことはないが魔法を使えば魔獣側の意思のもの契約を交わすことが出来る。
全身白い体毛をしている。
「よし…いい子だ。」
持ってきた10キロ程の肉を差し出す。
フェンリルは勢いよく噛み付く。
フェンリルは大きな狼で高さは1.5mもある。
私が最初に護衛として契約した魔獣である。
「ずっとここは寂しいだろう?私の部屋に来い。」
ある程度魔法を使えば意思疎通は出来る。
フェンリルはこくんと頷き私の後ろをのしのしと歩く。
〜魔王城 廊下〜
「ふぅ...ひでぇ目にあった...」
漆が頭に手を当てながら歩いている。
服装は和の国の服...と思いきや無地の黒のTシャツ、ズボンを履いていた。
..男は楽ができていいな。
「…脱いでいい許可を取ったのか?」
「じゃなきゃ自分から脱げないって。セリルさん無駄に変な魔法覚えてるから...」
確かにそれは否めない。
「...んお!でっけぇ狼だなぁ。」
「父がフェンリルと名付けた。」
「いいな〜!かっけぇ!俺の部隊に欲しいぜ。」
フェンリルのいる部隊…か。
魔獣を使った部隊もありかもな。
…っと。
休みにそういうことは考えないでおこう。
「残念だが私の物だ。」
「まあそんな気はしてた。どこへ行くんだ?」
「フェンリルを私の部屋に置いたあと、魔王城を少し回ろうと。...そうだ。部屋を見せてくれないか?少し気になった。」
「んあーいいけどなにもないぜ?」
〜漆の部屋〜
「和室だぞ。」
「...和室だな。」
畳、座布団、低いテーブル。
ベッドなどはなく簡素な部屋にも見える。
「まー和の国の生まれだしな。なんかこっちの方が落ち着くんだ。」
壁掛けに水墨画。
漆の刀も置いてある。
「刀置くんなら和室だしなんなら統一した方がいいと思ってな。ちなみに名前は風魔刀って言うらしい。」
「いいセンスしてるな。」
「へへっ、そうだろ?おっそうだ。これ。本格的なやつじゃないが和の国のお茶…の元。口に合うかどうか分からないけどな。」
今度飲んでみようか。
割と紅茶や珈琲は嗜むのでな。
「近いうちに感想を伝えよう。それではまた。」
「うっす!じゃあ!」
〜魔王城廊下〜
ふむ。皆の部屋巡りをするのもいいかもな。
となると次は新しく住んだミナリも気になるな。
行ってみよう。
〜ミナリ部屋前〜
ドアをノックする。
「薺だ。」
「あら?魔王様。どうぞ。」
扉を開ける。
「暇つぶしに皆の部屋を回っていてな。」
「それで私の部屋...と。」
ミナリの部屋は吸血鬼というのもあってか窓はなく全体的に暗い色だ。
だが照明は赤い炎と紫の炎で飾られたシャンデリアで明るくなっている。
ベッドもある。
ゴシックな仕上がりになっている。
「なかなか吸血鬼って感じだな。」
「日光とかあると...ね。別にちょっと当たるくらいならダメージはないんだけど長時間当たると致命傷よ。」
「少し気になったが…外に出る時どうしてるんだ?」
「あぁ、それはね。」
そう話すとどこからがコウモリ?が飛んできてミナリの肩に止まる。
「この子。ヴァンパイアバットのバンよ。眷属みたいなものなの。この子が守ってくれるの。」
「かなり小さいが...。」
見た目はコウモリと変わらない。
到底なにか守るすべを持っているようには見えないが。
「可愛いでしょう?でもこの子が使うのは変化の魔法。それも最上位クラスよ。魔王様でも出来ないレベルに達してるわ。傘になって!」
「キィー!」
みるみる変形していき傘の形をかたどる。
「強さもなかなかよ?噛みつかれたらほぼ死。人を死に追いやるレベルの病原菌を噛み跡に付着させる。吸血の速度がとても早いしそもそもの顎の力も見かけによらずそこら辺にいる野良犬よりはあるわよ。」
なかなかに凶悪だな。
吸血鬼の眷属は伊達ではない。
「なるほどな。」
「魔王様は居ないの?そっちの形で行くと…契約魔獣?」
「いるぞ。私の部屋に。」
「魔王様の契約魔獣...とても強そうね。」
「私と付き合いが2番目に長いからな。強さも私と一緒に鍛えられてきた。」
「...1番は?」
「それはもちろんセリルだ。私がこの世に産まれた同時期位にセリルも産まれたはず。だから年齢も同じくらいだな。...一時期サキュバスとして成長するためにいない時期はあったが。」
「...ここで聞くのは失礼かもしれないけど何歳くらい?」
年齢の話か…。
漆は見た目通りの17、8歳くらいだったか…?
「私は大体150歳くらいだから同じくらいじゃないか?」
セリルには聞いたことがなかった。
今度聞いてみようか。
「あら、意外と若いのね。」
「...見かけには十分注意するとしよう。魔獣も魔物も。では失礼する。」
サラリと爆弾発言を…。
一体何歳なんだ…?
「またいつでもどうぞ。」
〜魔王城廊下〜
なかなかに休日とはやることが無い。
図書館にでも行くか?
「魔王様、よろしいでしょうか?」
「なんだ?...敬語は使わなくてもいいんだが。」
「私はこちらの方が合うんです。それより、漆さんが銭湯を作りたいと言い出すんです。」
「和の国のあれか?」
和の国にはお湯が湧き出す場所を利用して温泉、もしくは銭湯などのようなものがあるらしい。
「そうです。私も皆様の要望には応えたいので許可はしたいんですが魔王様の許可がない限りこの城の増設は認められていないので...」
「いいぞ。私も和の国の文化には興味があったんだ。それに私もやることかない。建設に協力しに行こう。」
〜魔王城空き部屋〜
「おー魔王様!許可ありがとな!!いちいち部屋の風呂にお湯ためて入るの面倒でさ。」
壁に漆がよりかかっていた。
「私も入ってみたくてな。それくらい構わないさ。」
「設計図はこんな感じだ。男と女が別れてて左右対称になる感じだな。お湯の管理は魔法でなんとかなる。衛生面も大丈夫だ。」
と言い設計図を広げて見せてくる。
「案外なんでも出来るんだな。」
「...そうじゃなきゃ遣いとして送られてこないからな。料理に戦闘、工作、戦略なんでもござれだ。」
自慢げに話す。
自慢しても納得できるほどの才能だ。
「では、早速制作に取り掛かろう。」
「私も時間には空きがありますのでお手伝いしましょう。」
「うっし!分身!」
漆が4人になる。
たしか風魔法を応用すればできるんだったか?
「出来はいつになるだろうな…。」
「へへっ、そこは任せとけ!俺がいれば改築なんて1日もかからねぇぜ!」
〜魔王城 大浴場〜
「ふー!完成だな!魔王様がいるだけでもっと早く終わったな。」
「久しぶりにこんなに錬成したな...。」
部品や部屋の構造、必要な設計にも魔法を活用し尽くした。
木彫りの浴槽を作り出した時は流石に漆の有用さを感じざるを得なかった。
しかもほぼ1人で完成させてしまうんだからな。
床はタイルで固めただけだ。
これでわざわざ井戸水だったり魔法だったりをいちいち使わずとも風呂に入れるのは良いな。
「分身までも自分で魔法を使ってすごい速さで動くなんて…。びっくりでした。」
完全洋風なこの魔王城に和が出来るのは何か変な気もするがよしとしよう。
「今日中には風呂に入れるぜ!浴槽のお湯は魔法で常に暖かいし綺麗。あとは体とか洗う用のお湯…はっと。うん、それくらいなら俺だけでもできるし…。あとはいいかな!ゆっくりしててくれ!」
あとは任せても良さそうだな。
「ならば、晩くらいにお邪魔するとしよう。」
〜夜 大浴場 男風呂〜
「ひゃっほう!!!!!1番のりぃ!浴槽はひとつしかねぇけど十分だろ!まずは体を...」
「おー漆隊長ー!」
「おっ!オーク兄弟の...長男か!」
「正解だぜ。覚えるの速いな。」
「そっちが次男だな。」
オークの兄弟が最初の客だな!
「それなりに集まってんな。デカい風呂とやらができたと聞いたがこれか!」
続々と魔物達が集まる。
今度はウルフの隊員。
「ウルフの兄貴めっちゃ筋肉質だな!憧れるぜ。」
「へっ漆隊長も結構だぜ?それに俺は毛の方が目立つしな。」
「...女の子みたいな顔と声してるってよく言われんだ。男を見せるには筋肉しかねぇだろ!」
「そりゃそうだな!」
威勢よくオーク弟が体を押してくる。
「...なんかお前ら体洗うのめんどくさそうだな。毛とか若干あるし。」
「隊長からみりゃ面倒くさそうにみえるだろうがずっとこれで生きてるからさほど気にならないぞ。」
〜女風呂〜
「...湯気が凄いな。こんなになるのか...?」
かなり湯気が立っている。
それだけ熱めのお湯なのだろうか。
「お手伝いしましょうか?」
「...子供じゃないんだ。...と言いたいところだが翼だけお願いしよう。」
「失礼します。」
セリルが翼に手をかける。
空を飛ぶ時に汚れがかなり着きやすい。
これがなかなか取れない。
「痛くはないですか?」
「気にしなくて大丈夫だ。」
こう見ると...魔物達の事情がよく分かるな。
エルフはあまり特筆すべき点はないのだが蛇の獣人は体を洗うのは大変そうだ。
何せ下半身が蛇だ。
長いと洗うのも一苦労だろう...。
脱皮はするのだろうか...?
「終わりました。それでは流します。」
「助かった。ありがとう。」
用意されている桶にお湯を入れ体の泡を流す。
体にある紋章がしつこく主張する。
「凄いわねあれ...」
「あぁ...すげぇな...」
「胸」「紋章」
「は?エルフのテメェは胸にしか目がいかねぇのか?アホがよ!」
「へ?逆にアンタあの胸に目がいかないって言うの!?」
「やかましいぞ。私の体で争うな、馬鹿らしい。」
「…すんません。」
「ごめんなさーい。」
「それに…胸はあっちの方がな。」
セリルの方に目をやる、
「…?どうかしましたか?」
「胸は私よりひとつ上のランクだしな。」
大きい、その一言に限る。
「くぅ...羨ましい...私のも育たないかしら...」
…胸の大きさに関しては私が口出しすることではない…。
出したら魔王の私でも命の保証がない…。
「諦めろ。そんな長く生きてでかくなんねぇなら無理だろ。」
「うるっさいわね!ほっときなさいよ!」
「...?私も今気付いたんだが...セリルも紋章...?あるんだな。」
腹部に目をやると紫色の紋章のようなものがある。
「あ...。これは...紋章というか...淫紋です。サキュバス、夢魔特有のあれです。知らない内に出来てるんですよ。サキュバスやってると。」
「...なんかすまないな。」
「大丈夫ですよ、サキュバスですから!」
「なァ何かに使うのかそれ?」
「現実世界じゃあんまり使ったことないんですが...まあ色々...です。」
〜男風呂 サウナ室〜
このサウナ室は俺の特製!
石を炎魔法が得意なやつに熱してもらってお湯をばしゃっとかけるのを繰り返すと…!
この密室の部屋は熱気最大!
熱いのなんの!
しかーーし!しかし!そんな話ではないのだ!
「さあ諸君...。この時が来た。」
「なんだ?」
オーク兄が聞く。
「わからんのか兄貴?」
「ついに来たか...」
オーク弟、ウルフの兄貴も続いて話す。
「...覗きだ!!!!」
「ッ!ヒューッ!やっぱり男だぜ漆パイセン!!!!」
「よせやいよせやい...。さあ説明してやろう。タイミングは一瞬だ。俺がわざと石鹸を向こう側の浴槽に投げる。その時に視線がそっちに向くはずなんだ。そこを狙って一瞬だけ覗くんだ。いいな?」
「完璧だ...」
「やるじゃねぇか隊長ォ...!」
「作戦開始だ。サウナを出るぞ。」
このために大浴場を作ったと言っても過言ではないのだ。
…失敗したら何があるかと一瞬考えてしまったがもう止まれぬのだよ!!!!
そのためならば死をも選ぼう!
馬鹿らしい?いいや馬鹿で上等!
全ては俺の一瞬に...!
「準備は出来たか...?」
「全員OKだ。」
「タイミングを見計らう…今っ!」
大きく振りかぶって石鹸を投げつける。
「あら?石鹸...ですか?」
セリルさんが拾ったな…!
まだ待つ…。
魔力を感知する…。
いける…。
行けるぞっ!
「行くぜっ…。」
「まて!!!!今は不味い!!!!」
オーク兄が止める。
ふん、腰抜けめ。
俺だけが見る最高の景色…。
いざ...天国の先へ...!!!!
「...俺はもう生きては行けないようだ。」
天国なかったわ。
地獄だった。
目の前には姿を翼で隠して桶を持っている魔王様がいた。
「お前が落としたのはこの桶か?それともこの中に入っているこの石鹸か?」
「泉の魔王様...!石鹸です。」
正直何やっても詰みだろ。
「正直者のあなたにはプレゼントを差し上げましょう。身体強化…ッ!セリル。縛れ。」
「魔物の皆さんは目をつぶってくださいね。こうなりますよ。」
「「「はい」」」
「裏切りやがったなぁア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」
「何を言ってるんだ?隊長が勝手に見たんだろ。」
ウルフくんさぁ…見捨てるの早いよ…。
「なんで俺だけいつもこうなんだ!!!!!!!!」
「気張れよッ!!!!!」
拳が頭に落ちてくる。
あぁダメだ。
死ぬかもしれん。
くる。
頭にぶつかる衝撃、
少し遅れて痛みが…っ!
「ガァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!!!!!!!!」
〜大浴場 休憩スペース〜
ア゛ア゛ア゛...
「...元気ね。」
「キー!」
バンがいつもの様に私の周りを飛ぶ。
「大丈夫...?私は...お風呂嫌いだから...いいんだけど。」
マンドラゴラのララちゃん…だったかしら?
植物の魔物のはずなのにお風呂は嫌いなのね。
「いいのよ。私は...水に入れないから。あなたは植物だから好きそうだと思ったけれど違うのね。」
「水なら…良い。」
温度の問題なのね…。
ガラガラと戸の開く音がする。
「危なかった。あばよ漆!!!!」
「強く生きろ。」
「死ぬとこだった。隊長、あんたの死は俺たちが紡ぐ。おいオーク兄弟!撤退ィ!」
「あなたたちいったい何をしたのよ…。」
確実にお風呂場で何かあったようだけど。
「ナニモナカッタ」
目が泳いでるわ。
まあいいけど。
「...まぁいいわ...。はい。牛乳よ!」
瓶に入った牛乳。
城下町を見に行った時に沢山あったから買ってきたの。
「おっ!ありがてぇ!風呂上がりはこいつだな!」
「なかなかいい湯だった」
「牛乳飲む?まだあるわよ?」
「む、牛乳か、頂こう。」
「私も頂きます。」
「っ...ふぅ。美味いな。どこの牛乳なんだ?」
瓶を開けてグイッと飲んでいる。
「これは血の国の名産品では無いでしょうか?」
「あたりよ!城下町で売っていたのよ?」
「そうなのか。あまりブランド物には興味がなくてな。」
「魔王様らしいわ。今結構夜遅いけどどうするの?前みたいに飲み会でもするの?」
「いや...明日は休みではないしやめておこう。それに明日は遠征日だ。他の国に行かなければならないし今日は早めに寝た方がいいぞ。」
「...うぁ...いた...い...」
ドサッと漆が倒れ込む
「...えーっとこういう時はーあっ。南無阿弥陀仏!」
「...うちは南無妙法蓮華経だ...。」
「知るか変隊長。」
「変な名前付けんな!」
…本当に何やったのよ…。
もしかして覗き…?
「漆もこれに懲りることだ。それではここで解散としよう。ではまた明日。」
「…はい…しません…もうしません…お疲れ様です…。」
男の子って本当にそういう所あるわよね。
「おやすみなさいませ、皆様。」
皆がだんだんと帰っていく。
「また明日!」
さて、私も寝ようかしらね。
〜薺の部屋〜
日記...というか魔王の報告書を書く。
今日あったことと何かやった場合はその進行度。
色々記述してから寝るのが日課だ。
これを忘れた場合色々面倒になる。
「ふう。やることは終わったし...もう寝るか。」
カーテンを閉めようとし、ふと空をみる。
「...満月か。」
月は綺麗な円だ。
魔王城を再建設してからしばらく経った。
城ができた三日月のあの頃と比べれば満月のように完璧になっただろうか。
いや...完璧などないか。
常に明日に前進しなけらばならない。
「おやすみフェンリル。」
「...ウゥ。」
フェンリルは唸りそのまま丸くなって眠りにつく。
私はこれからも日常を作っていかなければならない。
平和で争いがない。
魔族と人間の隔たりがない。
良い世界を━━━━
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