再起点
〜聖都ソル 王城〜
「王様…作戦は失敗に終わりました…。傭兵の彼は死んだと…」
「そうか、勇者達よ。ならば今は休め。」
「…いくぞニーナ。」
「…はい。」
「…ッカ〜!おいクソ王様!いつになんだよアイツとやり合うのはよォ。」
「待てばいずれ来る。騒ぐな狂犬。」
謁見の間の外からは鬱陶しい声が聞こえる。
「…戻った。」
「水澪。…どこまで喋った?言え。」
心配など一切されなかった。
「喋るわけないだろう。それにあいつらは死ぬほど甘かった。拷問も無かった。」
「ならいい。さっさと戻れ。」
こんな男が国を総べる王とは。
底が知れるな。
「…あぁ1つ報告だ。ネイシアがいない。」
「あの女などどうでもいい。」
部下をも投げ捨てる。
本当に王かと思うほど。
人を人とすら思っていないんじゃないか。
…私は目的が果たせられればいい。
だから興味もないが。
「そうか、なら私は戻る。」
「…なら私も1つ、お前はいい駒だよ。」
「…クソが。」
とことんクズだな。
あの魔王に刃向かった人間も恐らく仕組まれていたはずだろう。
「おい暇だろクソトカゲ!1つ殴り合いと行こうじゃねぇか?こちとら動きがなくて鬱憤が溜まってんだわ。」
「黙っていろグラン。一度負けて死んだ奴が無駄口叩くな。」
「ア?俺が折れなきゃ負けじゃねぇよ。戦闘狂の俺は永遠に負けないってこった!ヒャハハハハ!!…もっかいその口聞いてみろ。皮剥いで剥製にしてやるよ。」
「さっさと戻れ。」
「チッ…。わーったよ。」
「…。」
何故あいつらは簡単に私を逃がした。
利点などない。
不利益なことの方が多い。
理解ができない。
それほどあの魔王は世間知らずのバカなのか?
…考えるだけでも煩わしい。
ようやっと私の住処だ。
「…どけろ人間。」
あぁ鬱陶しい。
すぐに役立たずになった人間だ。
私の元で匿えと命令があった。
名前など覚えていないが。
「放って置いてよ私なんか。」
「たかが弟が死んだだけだろう。」
引きずりすぎなんだよ。
「…うるさい。」
「次その態度を取ったら殺す。」
「いいんじゃないの、貴方も死ぬけど。」
確か異能力があったか。
痛みを共有する能力。
全く厄介だ。
「…共倒れしかすることの出来ない能無しが。」
「なんとでも言えばいいわ。」
なぜ私の住処でさえ自由がない。
できることならさっさとあの場を離れたい。
…早くあの方を。
〜魔王城 謁見の間〜
「皆、よく集まった。」
魔王城の軍員皆がこちらを見ている。
「集会を始める。まずは…私が休んでいる間、皆には迷惑をかけた。申し訳ない。」
いくら魔王であろうと謝らないなど論外だ。
「これからはもっと動きが激しくなる。それでも皆は着いてきてくれるか?」
「もちろんです魔王様!」
「着いていきます!」
「俺達を導いてください!」
各々が声を上げ出す。
こう、信頼されているのを見ると何だか今までの苦労も良かったと思える。
「ありがとう。ではまず私からある程度報告することがある。まず、勇者は止むを得ず殺した。勇者の仲間は逃げた。捕虜として捉えていた水澪という人間側の者も同時に逃がした。今はこっちに利益がない。あの勇者の仲間の2人を警戒して欲しい。」
「む、待て魔王よ。あの人間2人には釘を刺しておいた。あまり気にする程のことでもなかろうよ。」
雹華が食い気味に割り込んでくる
「そうか…。漆、どう思う?」
「少なくともこれだけ期間があって攻め込まれなかったのを考えるとあちらも一時休戦状態ではないかと。」
では…今度は先にこちらが手を出した方が良さそうだ。
「…よし。今のうちはこちらも状況をある程度整えよう。そして…その後、宣戦布告する。」
皆が一気にざわつく。
「宣戦布告と言っても本当に攻め込む訳では無い。私自らが人王に会いに行く。」
「それはいくらなんでも危険じゃ…!第1魔王様の理想も達成できない…!」
漆が1番に訴えかける。
「勿論人間側は私を打ちのめす機会だ。戦力をつぎ込むだろう。私達も戦力を投入する。総力戦という訳だ。…軽く、紛争のようになる。」
「でも…人王に会って何を話すんですか?」
続けて漆が質問を投げかけてきた。
「勿論、和解についてだ。そして…まず納得はさせられないだろう。故にこちらが襲う意志を見せずにこちらまで来る。つまりは襲われるまで襲わない。単純ではあるが分かりやすくていい。」
「それであの人王がはいと答えるとは思えないのだけれど…。」
確かにミナリの言う通りだ。
こんな事までする人間がまともなはずがない。
「…私の命を使ってでも、私は和解を求めに行く。無理ならば私が贄となればいい。」
「っダメです!それは私が…っ。…ごめんなさい。」
すまないなセリル。
本当の最終手段はこれしかないだろう。
そうさせずに何処までやれるか。
できるなら私だって死にたくない。
この先の平和な世界をすごしたい。
だが、私は王だ。
魔族を統べている王。
民の為に命を尽くせずして王とは言えない。
「まあ、割とあの人間は要求を理解出来る王だと思うんじゃがな。もし、平和が目的ではなく、違う物が目的だった場合、全て無駄になるがの!」
別のもの…か。
確かに私達魔族が人間に攻め込んだことがあるのは過去の1度。
二代目魔王の時代だ。
それは1000年ほど前。
水澪から聞いた人王による攻防の自作自演。
なにか裏があると考えるのが妥当かもしれない。
「なるほど、裏か。探ってみよう。…だがまあ、この話は少し後になる。今は別のことをする必要がある。」
「別の事…?」
皆が顔をしかめて考えている。
「各々の戦力増強。…簡単に言えば強くなる必要があるということだ。」
「むむーーっ!カーマインちゃんの角がビビっと来たよ!面白そう!」
いつもあぐらをかきながらくだらなそうに話を聞いてるカーマインが食いついてきた。
直さなくていいのか、とかさすがにあの態度はダメじゃないのか。
とかはよく言われるが私はあくまで強制などしない。
対象者がそれがいいと言うのならそれまでだからな。
「誰を強くするか、というより皆強くならなければならない。というわけで漆。より厳しめに頼んだ。」
「お前ら覚悟しろよー。今までと同じだと思って甘く見てると地獄を見るぜ。」
見栄を貼りながら誇らしそうな顔をしている。
「では、漆達にも地獄とやらを見てもらおうか。カーマイン、雹華、ミナリの3人で漆、セフィロトに付き添う形で個人の力を強めろ。」
「ええっ!?それは…まあ…はい。こなしてみせましょう。俺も1人の男!」
堪忍したようだ。
前からだったが何かと誰かに教わろうとしなかったからな。
師からの教えだったのかもしれないが。
「私も構いません。出来れば魔法についての方を学びたいところですが。」
「全て教えてやるわい。武術、魔法、わしはどちらも行けるんじゃぞ?古い友に夜叉がおる。相手には困らんじゃろう。」
夜叉…?聞いたことがないな。
「ねーねー。夜叉ってなに?」
イルミナがひょこっと出てきて問いかける。
私も聞きたかった所だ。
「簡単に言えば和の国にいる戦いにしか目がない怪物のことじゃ。ああ、でも彼奴は魔法なんかは使えんのう。そこはわしやミナリが見てやるがの。」
「そして、イルミナは私とだ。」
「ま、魔王様と?…頑張れるかなぁ…。」
「大丈夫だ、私もイルミナに教わらなければならないことがある。」
「…?分からないけど…とにかくよろしくね!」
「…っし!そうとなれば訓練内容を手っ取り早く厳しくして…ラミア!オーク兄弟!ちょっと会議だ!」
「うっす隊長!」
「なんで私なのよ。こういうのはナーガお姉ちゃんの役目でしょ。」
「あいつが関わると死者が出るぜ。」
「…確かに、正しい選択ね。」
と、少し騒がしくなってきたようだ。
「セリル、お前はいつも通り。皆が安心して帰れる場所作りだ。私達には…ここが必要だ。」
「…はい。あの…さっきのことですが。」
「私は本気だ。投げやりにも聞こえるが私が死んだならイルミナに契約してもらうといい。…私も簡単にお前を見捨てたりしない。」
既に私達二人は繋がっている。
私が死ねばセリルも死ぬ。
セリルは直ぐに死ぬ訳では無い。
魔力が残る限りは生存できるが無くなるとそのまま力尽きる。
その間にまた誰かに主従関係になり魔力を得る。
それが使い魔だ。
「分かりました。…私はなんだってします。魔王様が望むのなら。」
深くお辞儀をして少しにこやかに笑った。
私もいつか覚悟を決めなければならない。
〜魔王城 薺の部屋〜
「ルドベキア。」
お呼びでしょうか。
「あの剣はどうなった?」
私が力を欲して作り替えたあの剣。
今の私が扱うには早すぎた。
お望みならもう一度あの剣に成り代わることができます。
しかし推奨出来ません。
「聞きたいことは聞けた。」
私は所持者の思いに合わせて姿や形、強さを変えます。
怨念があればあるほど非情に。
それだけは覚えておいてください、魔王。
「そうか、ありがとう。」
恐らくあの状態の剣を握るのを鍵に力が暴走する。
恐ろしい能力だ。
使い方次第で強力なものにも爆弾にもなりうる。
そうこうしていると扉をノックする音が聞こえた。
「魔王様!イルミナだよ!」
「入っていいぞ。」
「お邪魔しま…あっ。失礼します!」
言い間違えて即座に訂正している。
「どちらでも構わないさ。」
「魔王様の部屋、すごく綺麗!あ、ミナリお姉ちゃんの部屋が汚いって訳じゃないよ?」
「分かっているさ。置くものは大抵倉庫にしまってあるからな。殺風景というのが正解だろう。」
前は使っていた鎧や剣を置いてあったが今はもう使わないからな。
「そんなことないよー!私こういう部屋好きだもん!」
「嬉しいよ、ありがとう。…ではそろそろ行こうか。」
「うん!」
私の部屋を出て森まで行く。
〜魔王城周辺〜
「ここらでいいだろう。よし、始めようか。」
「何をするの?あ!精霊王に関すること?」
「そうだな、私がイルミナに教えられるのはそれくらいだろう。精霊王は圧倒的な力を持っている。そうだろう?」
「うん!物凄く強い!」
「あいつが精霊王になったのは必然だった。魔法なんてものを創り出したのがあいつ、精霊王だからな。」
「そ、そうなの!?初めて聞いた…。」
私も初めて聞いた時は驚いた。
あの男がそんな偉業をしているとは思いもしなかった。
「全盛期の力ならば誰よりも強いだろう。前代勇者の襲撃の際に隙を突かれて深手を負ったらしいが。」
何しろ
油断した。まさかあの勇者くんが普通に毒盛って来るなんて思ってなかった。
と言い始める。
危機感のない男だ。
「それほどの偉業をなした。だが精霊王になる条件ではない。」
「じゃあ…なに?」
「優しさ。それだけでいいんだ。」
「優しさ…?」
「あぁ。イルミナはもう条件を満たしている」
あいつは油断するほど勇者を信じていた。
本心の優しさ故の信頼だったようだ。
「決してその優しさを忘れないでいてくれ。」
「で…でもそれじゃあ強くなれないよっ!私強くなりたい!」
「む、そうか…。ならば私よりミナリや雹華に聞くのが良い。私はあまり当てにならないぞ?独学だからな。」
他者に教えられるような魔法もない。
イルミナ関して言えば光魔法は私の専門外だ。
だからこそ、今回呼んだのだ。
「うーんそっか!分かった!今度聞いてみる!」
「そうしてくれ、…では私もひとついいか?」
「あ、そうだね。何か言ってたもんね!なんでもどうぞ!」
「私に光魔法を教えてくれないか?」
「魔王様が!?…うーーん…どう教えるんだろう…。」
顎に手を当てて考え出す。
私達魔王一族は光魔法を使えない。
弱点でもあった。
ならば克服するのが強くなるのに1番近い道だろう。
「魔王様って…光魔法以外は使えるんだよね?」
「ある程度はな。何か関係あるのか?」
「魔王様が使ってる闇魔法って…どんな風に出すの?」
「…悪い話だが憎み、恨み、妬み。負の感情をイメージする。そして私の場合体をある程度代償にして使う。」
「そうなんだ…。じゃあ真逆だね。」
真逆…か。
「言葉にするなら…うーん。喜ぶーとか。嬉しいーとか!光ってそんな心がホワホワするような感覚なの!それを魔法にするの!」
「なるほど…。」
本当に真逆の感情、感覚だな。
「ちょっとやってみようよ!物は試しってやつ!」
「そうだな。試してみよう。」
喜びや嬉しさ…か。
…さて、どう出す?
喜び…。
私にとって嬉しいこと。
仲間だ。
仲間がいることが嬉しい。
…それだけか?
喜び。
私は何に喜ぶ。
…何も無い。
私は素直に喜べるものまだがない。
…そうだな。
まだない。
これから先の未来を喜ぶべきだ。
争いのない世界は嬉しい。
私の理想であり楽しい世界のはずだ。
戦いなんてなくて。
誰もが自由に過ごせて。
何にも怯えることの無い世界。
仲間の未来。
ミナリはどうなる?
吸血鬼として有名になるのだろうか?
漆はどうだろう。
暗殺は恐らくやめて剣の師になっていそうだな。
セフィロトは…そう。
親元に帰るのだろう。
変わらぬ日常を過ごすのだろう。
なら雹華はまた和の国に戻るのか。
それとも世界を旅するのか。
どちらもありそうだ。
カーマインはすぐに分かる。
夫であるファフニールと過ごすのだろう。
私はどうだろう。
何か先にあるとしたら。
家族は欲しいな。
となると私も夫が必要になるのか。
私なんかに出来るだろうか?
いや、いる。
家族はもういる。
私にはセリルがいるじゃないか。
セリルが悲しまなくていいような世界。
何にも気にせずただゆっくりと毎日を過ごす日常。
…いいじゃないか。
理想の世界だ。
それが私の喜びだ。
嬉しいことだ。
「あっ!そうそうその感覚!」
「ここからどうする…?」
「あとはその感覚を形にするみたいに魔力を込めるの!」
なるほど…つまりこう…かっ!
「…む。」
魔力を込めたら少し光ができた気がしたがすぐに散ってしまった。
「あちゃ〜。魔力は一気に込めちゃだめだよ!光だから優しくすると上手くいくよ、!…はっ!だから優しさが必要!なるほどぉ!…あ、ごめんなさい!」
考えてもいなかったが思わぬ形で力になれたようだ。
「しばらく練習の手伝いを頼みたい、いいか?」
「まっかせて!沢山練習しよう!」
〜和の国 神の社〜
「我が家じゃ〜〜!!!」
社の縁側に飛び込んでいくちっこい狐。
全く、似合いすぎるにも程があるな。
「随分とご機嫌なようで。」
「そりゃそうじゃろ。自分の家じゃしのう!」
「大人数で来るのは久しぶりね。」
和の国を救いに来た時以来だなそういや。
雹華とセフィロトもあの時か。
半年以上は経ってる…よな?
なんだか早いような遅いような。
「へーこんな感じなんだねー。」
そういやカーマインさんは初めてだったな。
「んで…何すんだ?剣の稽古なら俺は間に合ってるが。」
「私もどちらかと言うと剣は専門外ですので…。」
「セフィロトは私と一緒に魔法の勉強と実践よ。ここの近くにレーヴァさんの研究施設があるらしいの。そこにレーヴァさんがいるわ。色々教えてもらいましょ?」
魔法研究の専門家なら得られる物も多いだろうな。
「分かりました。精一杯頑張ります。」
「全く硬いんだから。」
「そんなに硬いと怪我すっぞ!」
「お前こそ。」
「俺は結構柔軟でな!」
「それなら私だって負けていない。」
おっと癖で張り合ってしまった。
いつまで経ってもコイツとの喧嘩癖は治りそうにない。
「漆はわしとカーマイン、そしてわしの友と猛特訓じゃよ。文が届いておればもうすぐ来る頃合いじゃし。体を温めておけ。」
「あいよ。」
「…。」
精神統一。
魔力を高めたり集中できるようになったりする。
効果は出てるか分からないがやる価値は少なくともあるだろう。
終えたら立ち上がって気配を感じ取る。
俺の正面に社。
座布団に座ってる雹華と屋根であぐらしてるカーマイン。
風が少しあるな。
「よし。」
気分は上々!
刀の素振りと行くか。
「…はッ!せいッ!」
ひとつひとつ全身全霊で。
「お主こんなふうにやっとったのか。見るのは初めてじゃ。」
「ガキん時に1番最初に教えられた鍛錬だ。初心を忘れない為にずっとやってんだ…よッ!」
腕の筋肉が鍛えられるし普通に良い。
セフィロトには及ばんがな。
「ほーう。…炎舞 龍火!」
雹華がひらりと舞うと例によって火の龍が。
「斬ッ!」
なんでか俺に向けて攻撃して来やがったので斬って振り払う。
「やるのう!見応えがあるわい!」
「俺で遊ぶな!」
「修行の一貫じゃぞー。」
「…ならいいか…。」
「その意気じゃな!」
まあ…修行と言われちゃ受けるしかないしな。
実際いい鍛錬になりそうだし。
「ドンと来い!」
「よし、稽古をつけてやろう。」
「応。」
「全て避けるか斬れ!花舞、木花咲耶姫。」
どこからともなく風が吹き始めた。
気づくと魔力で何かが出来ているのを感じ取れた。
見渡してみると桜の花びらが舞っている。
しかし魔力で出来ている。
避けるか斬る。
…まあ危ないというのはわかった。
「よっ…ほっ!」
軌道が読みにくい。
花びらだから風も読まないと避けられない。
ならおおよそ全部切ればいいだけだが。
最後まで目視して避ける。
避けてる間もさらに花びらを把握して避ける。
避けきれない物は隠し持っていた小刀で払い除ける。
そんな簡単にやっちゃ修行にならないからな。
「…うぉっ!?」
謎の異音がしたので音のなった方を見てみるの服の繊維が切れている。
「鋭い桜の花弁じゃ。面倒じゃろ?本当はもっと多いぞ。」
普通に恐ろしいもん使うよな…。
あくまで俺用って感じか。
「雹華の魔法?って綺麗だよねー。」
「花がないというのは悲しいじゃろう?見応えというのもわしは必要だと思うんじゃ。まあ誰に見せる訳でもないが。」
「みんなー!」
早くもミナリとセフィロトが帰ってきた。
「お、なんだ速いな。」
「急用だそうだ。仕方なく私もこちらに。」
「いいのう、大数なら学べることも多いぞよ?」
〜数分後〜
「そろそろわしが直々に教えるとするかの。セフィロトよ、お主に教えられるものがある。少し漆と離れるぞ。」
「分かりました。」
「ん、じゃあ私は漆と力比べだね!」
「うす…。」
勝てる気がしない。
どんなに筋肉がついても勝てないぜこの大物。
「大丈夫だってー。手加減はするから!」
「…手加減、ってのは納得できんな。本気で来い!」
「いい勢いだね!いくよぉっ!」
「ぎいいいっ!?」
感じたのは壁。
でかい壁が走って迫ってきた。
圧倒的な力すぎる。
「やっぱり無理じゃん!段階を踏まないとね?」
「はい…すんません…。」
「んじゃその1!棒立ちの私の片手!力はそんなに入れないよ!1歩でも動かせたらいい感じ!魔法とかのズルはダメだよ?」
流石に楽に行けそうだが。
「うおおおおおっ!!!!」
無造作に添えられた手に向かって全力で助走をつけて押す!
「うわぁっとと…。流石に無理かー。本気の片手!」
「任せろっ!」
もう一度距離を取ってさっきと同じように押す。
が、さっきと打って変わって様子が違う。
「……動かん!」
「うん、やっぱりここからだね!」
「どれだけ力が…。」
「よぉし!カーマイン直伝!地獄の鍛錬を伝授しよう!さあ!まずは私を背中に乗せて普通の状態で走ろう!魔法とかだめだよ!」
「…こうなりゃヤケだ。行くぞおおおっ!!!」
「元気じゃのー。」
「そのようです。」
「わしから教えるのはもちろん何も無いぞ!」
「は、はあ。ではいった…ッ!?」
突然に空気が歪むほどの殺意に襲われる。
方角は後ろ。
さっき登ってきた階段だ。
注意して視点を向けてみる。
「あらぁ〜久しぶりね雹華〜。」
予想とは裏腹に柔らかい印象の女性が現れる。
頭には赤黒く、おでこから生えた大きな角。
私と同じ鬼だ。
肩を出した艶めかしい大人、という雰囲気を醸し出している和服の女性。
「いつぶりかえ?何百年も会っておらんよな?久しいのう!」
「…あらぁ。あなたも変わっちゃったわねぇ。そんなに楽しそうな目をしちゃって。」
他愛のない会話をしているが俄然、殺気は止まらない。
一体どういうことだ?
どっちが本心だ…?
「わしとて色々あったんじゃ。主にあの坊に影響されてしもうての。」
「じゃあ〜戻してあげる。」
脳の判断より体が先に動いた。
踏み出そうとした彼女の足を狙った。
「…あら?この子は?」
「うぁっ!?」
ダメだった。
前屈み、最速で足を狙いに行ったつもりだが首元の服を掴まれた。
「鍛えて欲しいと頼んだ童の1人目じゃ。不満か?」
「う〜ん。判断と動きはいいけど純粋に歳が足りないわねぇ。あと100年くらいは待たないとねぇ。」
格上すぎる。
明らかに私の力量で叶うような相手ではない。
「…ぅぁ…。」
「ごめんなさいねぇ、ちょっと強く掴みすぎたわぁ。…よいしょお。」
私を地面に下ろしたあと何かを魔法で作り出した。
みるみると姿を表していくそれは…
柄が長く巨大な斧だった。
しかも軽々と片手でを
「弟子は取らないけどぉ、見るならいいわよぉ?」
「ふむ、そうもいかんのでな。1つ久しぶりにやり合おうではないか!わしが勝ったら言うこと聞いてもらおうか!」
「じゃあ私が勝ったら雹華を持って帰っちゃう!」
両者が睨み合った。
空気が重すぎる。
重圧というものを今初めて感じた。
蛇に睨まれた蛙の気分だを
固まって動けない。
「…。」
「…。」
「こい化け物が。沈めてやる。」
「ア゛ァァァッ!!」
恐ろしい程の速さで雹華に襲いかかった。
視認できる限界の速度。
ほぼ目で捉えられなかった。
地面を見れば足跡がくっきりと。
…普通の地盤だったのだが。
大きな斧が素早く振り下ろされた。
軽い木の棒を思い切り振ったような軽い音が聞こえた。
到底斧を降った際の音とは思えない。
雹華様の方を見た。
「…無傷!?」
思わず声にでてしまった。
140cm程度の雹華様。
それに170cmもあろう女性の攻撃など耐えられるはずがない。
ましてや鬼。
筋力は倍以上あるのだ。
何が起きたのか一切分からない。
「昔から変わってない、何も。全て演技、嘘。そのふざけた技量、戦う時のその目。ああ、安心した。」
雹華の手には槍が握られていた。
受け流したのか…?
「今は今じゃし、昔は昔じゃ。…じゃが…思えばお主と会ったのはここが初めてじゃったのー!」
「気に入らないわぁその表面だけの演技。全てに置いて仮面被ってるみたいでぇ…吹き飛ばしたくなる。」
「ああ、来い。久しく私も心が踊る。本気など出そうにも出せる相手が魔王だけ。だが敵対してる訳でもない。…所詮魔族は闘争の化物だな、白夜。」
「程々にしてくれよ、昔のようなあんたは好きじゃない。」
雹華。
名前の由来はなんだったか。
忘れてしまったが、雹の中でも咲く華、だとか。
その辺だろう。
私はなるべくしてこうなった。
ただの化け狐が天狐になったあの日。
私は忘れたい。
次回は雹華過去編!
話続いてるから更新はおそらくそれなりに早いよ!