夢、朔
〜???〜
「…どこだ?」
分からない場所。
謎の浮遊感に駆られている。
水中だ。
息ができる水中?
深い。
とても深い。
先が暗い。
体の自由が効かない。
暗黒の底に堕ちていく。
見えない。
…。
何も見たくない。
いらない。
何もいらない。
このまま沈んでしまいたい。
…。
この先の方が心地良い。
暗闇。
だけど心地良い。
私の居るべき場所なのかもしれない。
輝かしい大地など…大切な仲間など。
投げ出して…。
『なあ、ごめんな薺。』
…何故思い出す?
不愉快だ。
思い出したくない。
何も知りたくなかった。
あの時そのまま殺せば知らずに済んだ。
感情なんか捨てればよかった。
アァ、そっか。
簡単な事だった。
全て殺せばいいのか。
全て消せばいいのか。
そうすれば何も知らずに楽に生きていけたんだから。
今からもう全てを壊してしまおうか?
どんどん深い闇に堕ちる。
この海はどうやら底がない。
行けば行くほど楽になる。
堕ちれば全て楽になる。
より深く堕ちていく。
闇。
力だけが溢れる。
何もわからなくなる。
意識すら遠のいていく。
駄目だった。
この道は駄目だった。
私が私ではない。
私が私を分からない。
這い上がろうとしても駄目だ。
体は動かない。
全てが暗闇。
何も見えない。
文字通り右も左も分からない。
仲間を見捨てる?
1人では何も出来ない私が?
馬鹿げている。
さて、どうしたものか。
段々と意識を保つのも難しくなってくる。
…なにか見える…?
黒い…何か。
顔を隠している人間…?魔族?
意識が薄いせいで認識ができない。
その何かがこちらに来た。
手をこちらに差し出してきた。
私は動けなかった。
微動だにしない。
そのうち何かは手を差し伸べるのを止めた。
そして目の前で消えさった。
分からない…。
再びまた目の前に現れた。
視界がより一層霞んでいく。
見えたのは人型ではなく獣。
それも大きい。
だが何かは分からない。
ここはなんだ…?
あれは…なんだ?
思考すら…疎かに…。
〜???〜
ふと目が覚める。
今度は意識がはっきりとしている。
「…ルドベキア。」
反応がない。
剣も出せなければ魔法も何故か使えない。
辺りは黒い空間。
暗いという訳ではなく自分の体は見える。
原理は分からない。
果てがあるのかも分からないこの空間を歩き始める。
自分の足音だけが聞こえる。
「…。」
ただひたすら歩いた。
唐突に黒い空間に境目が見えた。
と言っても白い空間が現れただけ。
その空間に踏み入れようとした。
目の前で黒い渦が巻き起こった。
「…漆?」
「…。」
目の前に現れたのは漆らしき物。
外見の特徴は全て同じだ。
警戒はしなければならない。
「…裏切り者。」
「…ッ!」
酷く頭に響いた。
すごく痛い。
イタイ。
「なん…っだ…?」
もう一度目をやると今度はミナリがいた。
「…信じてたのに。」
「ぐぁっ…!?」
頭痛が増す。
痛くてイタクテ耐えきれない。
「やめて…くれ…うっ…。」
意識の線が途切れた。
〜???〜
ふと目が覚める。
今度は意識がはっきりとしている。
「…ルドベキア。」
反応がない。
剣も出せなければ魔法も何故か使えない。
辺りは黒い空間。
暗いという訳ではなく自分の体は見える。
原理は分からない。
果てがあるのかも分からないこの空間を歩き始める。
自分の足音だけが聞こえる。
「…。」
ただひたすら歩いた。
唐突に黒い空間に境目が見えた。
と言っても白い空間が現れただけ。
その空間に踏み入れようとした。
目の前で黒い渦が巻き起こった。
「…漆?」
「…。」
目の前に現れたのは漆らしき物。
外見の特徴は全て同じだ。
警戒はしなければならない。
「…裏切り者。」
「…ッ!」
酷く頭に響いた。
すごく痛い。
「なん…っだ…?」
もう一度目をやると今度はミナリがいた。
「…信じてたのに。」
「ぐぁっ…!?」
頭痛が増す。
痛くてイタクテ耐えきれない。
「やめて…くれ…うっ…。」
意識の線が途切れた。
〜???〜
ふと目が覚める。
今度は意識がはっきりとしている。
「…ルドベキア。」
反応がない。
剣も出せなければ魔法も何故か使えない。
辺りは黒い空間。
暗いという訳ではなく自分の体は見える。
原理は分からない。
果てがあるのかも分からないこの空間を歩き始める。
自分の足音だけが聞こえる。
「…。」
ただひたすら歩いた。
唐突に黒い空間に境目が見えた。
と言っても白い空間が現れただけ。
その空間に踏み入れようとした。
「…待て。待て。違う。何かがおかしい。」
既視感がある。
絶対になにかがおかしい。
唐突に黒い渦が巻き起こる。
「くっ!」
すぐさま振り払った。
『『そうやってみんなを殺す』』
…違う。
気にしてはいけないものだ。
あれは漆じゃない。
あれはミナリじゃない。
違う何かだ。
振りほどいた。
黒い渦は無くなった。
「ガっ!?」
動悸が激しくなる。
クルシイ。
意識が消えていく。
〜???〜
目が覚めた。
…服装が鎧だ。
群青色の鎧。
魔王になる前の姿だ、
今度は白い空間に出た。
何がなんだかわからない。
ここはなんのためにある?
『分からないのか?』
後ろから声がした。
私の声が。
すぐに振り返った。
私だった。
全て私と同じだ。
翼も、角も、髪の色も。
「何故私が…2人いる…ッ!」
『本当に分からないか?』
「どういうことだッ!」
私なんか2人いるわけが無い。
私という存在は私だけだ。
『分かっているじゃないか。私はお前だ。しかしお前ではない。』
「…私の…裏?」
そんなものあるはずがない。
いつだって本心だった私に裏なんてあるはずがない。
『そうだ。裏ではない。私はお前の負の感情だ。そしてお前はお前だ。』
…私の負の感情…?
私は…私?
『簡単な話だ。私は2人いらない。』
「くっ!」
すぐさま翼を使って蹴りを入れる。
もう1人の私は消えた。
また意識が遠のく。
一体なんなんだ…ッ!
今度は何か違う。
気を失う…?
そんなんじゃない…。
何か…魔法のような…。
〜譛ャ蠖薙?蠢〜
縺、繧峨> 縺上k縺励> 縺ォ縺偵◆縺 縺溘☆縺代※
縺翫°縺ゅ&繧
繧サ繝ェ繝ォ 繧サ繝ェ繝ォ 繧サ繝ェ繝ォ?
〜黒い空間〜
深く堕ちる。
沈んでいく。
私は力に身を任せた。
力に溺れた。
仲間を…信用しなかった。
私でなければならないと自分にいい聞かせた。
違う。
私一人では意味が無い。
私には…力なんていらなかった。
必要なのは…仲間だった。
…もう遅い。
きっとこのまま堕ちていく。
もはやここが何処だろうと関係ない。
全て自分の過ちだ。
…。
…。
わたシは…。
ダ…れ?
…。
眩しい。
光、丸い光。
優しイ。
キレイ
欲しい。
…。
…。
ダメだ。
諦めてはいけない。
私はそんなもので堕ちたくはない。
光の方向を見る。
気づけば黒い空間は段々と眩しく光っている。
意識がまた消えそうになる。
『…!…!!…。…?…!』
何ががいる。
何が喋っている。
少し体が動く。
精一杯の力を出した。
体が動いた。
あの光の方へ手を伸ばした。
届くのか届かないのかはどうでもいい。
藁にもすがる思いで必死に藻掻いた。
『…だから朧月!』
聞き覚えのある声がした。
明るくて、優しい。
輝かしくて、元気。
子供らしくて、可愛げがある。
周りが光で包まれていく。
闇なんかより…ずっとこっちの方がいい。
力なんかやはり…要らなかった。
辺りは輝いている。
雲は…見えなくなった。
〜魔王城 薺の部屋〜
「…っはぁっ!…っはぁ…ぐ…っ…はぁ。」
飛び上がるように起きる。
「魔王様…!」
セリル…?
…私は…?
ここは…私の部屋だ。
私は…魔王。
私は薺。
父上の跡継ぎの。
そう、私は魔王薺だ。
「ご無事…ですか?3日間も眠ってらっしゃいました。」
「そうか…私は…どうなったんだ?」
何も記憶が無い。
あるとすれば…。
兄を討った。
そこからの記憶が無い。
「魔王様は…勇者と交戦した後、暴走しました。」
そうか…私でも扱えなかったか。
力は…ダメだ。
「顔色が優れないようですが…何処か痛んだり苦しかったりなどはしますか?」
セリルがこうしてかなり心配してくれている。
「…悪夢を見ただけだ。…恐らく問題な…い!?」
起き上がろうとしたら思い切り押さえつけられた。
「ダメです!魔王様は魔力暴走よりも酷い過剰魔力暴走を起こしたんです!動くことも苦なはずです!」
「…本当か?」
魔力暴走…。
私は勇者…。
いや、兄を討つのにより一層の力をルドベキアに求めた。
それがこの始末だろう。
「本当です!医者にも来てもらいました!…そしたら魔力崩壊を起こしたって…普通ならもう魔法が使えない聞いて私…心配したんですからっ!」
涙ぐんでいる。
1人の女性を泣かせてしまった。
失態だ。
いいや1人だけではない。
皆にも絶対に迷惑をかけただろう。
…。
「本当に…。すまなかった。」
啜り泣く声が聞こえる。
私に顔を填めて泣いていた。
優しく抱いて背中を撫でた。
「分かった。しばらく休むよ。」
「…っ…はいっ…。絶対に…無理はダメです…っ…!」
「ごめんな、セリル。」
「心配したのっ…本当に…っ!」
敬語では無い。
紛れもなく私はとんでもないことをしでかした。
仲間を傷つけ、心配させ。
本当に魔王失格だ。
「っ…。ごめんなさい…私情を挟みました。…ともかく、暫くは安静に、です。魔法も今使ったりすると本当に魔力崩壊を起こして二度と魔法も使えなくなります。」
確かに、それは困る。
私は世界のために動かなければいけない。
まだ人間達を救い平和な世界を作るという目標が。
「私とセリルに誓って約束する。」
今は…休息だ。
体力、肉体的にも。
……精神的にも。
何を見たかは覚えてない。
だが明らかに良くない夢を見た。
兄を殺してしまったという事も相まって精神が不安定で崩れそうだ。
…今は過ぎたことは仕方がないと考える。
ただ、今は休むことだけを。
「…約束ですよ。」
セリルは私の手を持ち上げた。
「力が上手く入らないな…。」
やはり相当無理をしたようだ。
「魔王様の手、綺麗です。」
そっと口を近づけ、手の甲にキスをされた。
「これできっと忘れません。」
「…きっと忘れないさ。治っても、な。」
「…そーいうこった。盗み聞きという形にゃなるが黙って帰った方がいい。んじゃ、先戻る。」
「そうね。明日またお見舞いに来ましょう。私もやることがちょっと多くなっちゃったから戻るわね。」
漆にミナリ、2人ともすぐに去っていく。
「…お主らは空気を読みすぎるのう…。わしはいくがな!」
あえて扉から行かずに時空を曲げて魔王の部屋の中に入る。
「わるいのー!邪魔するぞ。」
「…雹華さん。何がございましたでしょうか?」
「何、魔王に見舞いの品じゃ。暫くは安静にしていた方が良いと聞いての。観葉植物…とまではいかんが美しい花じゃ。」
再び時空を曲げて収納しておいた少しだけ大きめの植木鉢を取り出す。
「あ、…それは確か…。」
「「朧月」」
「だな。」
「とても形が綺麗です。」
なんじゃ知っておったか。
そんな気はしとったがの。
「暫くは見てて飽きぬじゃろう?」
「そうだな、ここが華やかになる。気分も良くなるよ。ありがとう、雹華。」
「うむ、気にするでないぞ!それではまた今度じゃ!」
無理、せぬと言いが。
魔王というものは総じて無理をする。
そういう傾向。
…あいつもな。
セリルが見ている間は安心じゃな。
暫くはわしも見張りだけになりそうじゃ。
然し、久しぶりの戦は良かったの。
鈍っていた腕が解けたわ。
〜翌日〜
「…ん。」
朝のようだ。
日差しはそれなり。
日が出たと思えば雲で隠れ、といった様子。
まだ自分で体はあまり動かせない。
手助けしてもらってようやくと言った所。
「…あ。おはようございます。よく眠れましたか?」
セリルは何事もなく挨拶を交わす。
「体は動かしにくいが…。休むのなら大丈夫だろう。…ずっと見ていてくれたのか?」
「はい。私の仕事は魔王様の護衛ですので。サキュバスは寝なくてもいいんです。」
「…そうか。ありがとう。すまないが少し体を起こすのを手伝ってくれ。ずっと寝ていては体が弱くなりそうでな…。」
本当に寝ているだけ、というのもあまり好きではない。
「はい、起こしますね。腰、失礼します。」
私の腰に手を入れ、そのまま動きの手伝いをしてくれる。
気を効かせてクッションを腰に当てて体を起こした状態を保たせてくれた。
「…あ。服、替えてくれたんだな。」
寝た時は礼装のままだったが今は病衣だ。
寝てる間に着替えをしてくれたのだろう。
至れり尽くせり、だ。
「あの礼装では寝にくそうでしたし、先日来たお医者さんに借りました。」
「助かるよ。」
…さて。
私はこれからどうすれば良いだろうか。
考えるべきことが沢山ある。
兄を討ったこと。
ルドベキアの力。
今の状況や私の代わり。
色々聞きたいことがあるが。
「なぁ、セリル。」
「はい、なんでしょうか。」
「セリルはこの前の任務の時、無事だったか?」
「私は…あの魔法を使いました。」
「そうか…使ったんだな。」
私がセリルに教えた魔法。
…教えたと言うよりは作るのを手伝った魔法。
はっきり言って生きているものなら絶大な効果を誇る。
私の魔力、サキュバス特有の魔法。
それらを組みあわせた物。
セリルの魔力は平均より高いがその程度。
私やミナリ、漆などは平均よりずっと高く魔法の適正も高い。
それ故に強力な魔法を使える。
セリルにはそれが何も無かった。
それでもセリルは役に立ちたいと言った。
だから作った。
私のような強いものでさえ、あわや神さえも眠らせることが出来る。
眠って死んでいく魔法、ハナベリアラジアータ。
「反動は何も無かったんだな?」
「はい、何も異常はありませんでした。」
「使ってよかったんだな…?」
「もちろんです。私は魔王様にしか興味がありませんから。」
笑って語りかける。
嘘偽りのない目だ。
使う条件はない。
ただセリルが使うには魔力の要求が多すぎた。
解決策は私の使い魔となること。
「そうか、ならいいんだ。」
使い魔になる、ということは既に魔族でも、人間でも無くなる。
私が死ねば消える。
私が裏切れば消える。
私が使い魔という状況を断ち切れば消える。
私という存在を要に生きることになったのだ。
「言ってしまうなら私は魔王様とずっと一緒に居られるので本望です。…もうあの魔法は使えませんけど。」
消耗品の魔法でもあった。
1度しか使えない。
セリルはたった一度の魔法のためだけに私を信じてくれたのだ。
これからは魔力が私とセリルの間で共有となる。
だが、セリル自体の魔力は自分で供給出来なくなる。
私が適度に魔力供給をしなければならない。
方法は特段変わった事はなくセリルに向けて魔力をあげる感覚。
「…それと、救った人達やミナリはどうなった?」
「それなら様々な国へ既に送られています。救った者のうちの死者も出ていません。ミナリ様も少し無茶をして倒れましたが…今ではすっかり元気です。」
ミナリにも悪い事をしたな。
どんな方法でも大勢を運ぶのは辛いだろう。
「ですが…1番感謝すべきはイルミナさんだと思います。」
「…イルミナ?」
「はい。…あの子が魔王様の暴走をたった1人で救ったんです。」
…あの夢で見た光はイルミナだったのか。
「そうだったのか。…本当に迷惑を掛けてばかりだ。」
扉をノックする音がした。
「魔王様の食事をお持ちしました。」
「どうぞ!」
食事も全て任せっきりになるな。
性では無いのだがこれも仕方ないか…。
扉を開けて出てきたのは食堂にいる女性のエルフ。
「ありがとう、足を引っ張って済まないな。」
「いえ、魔王様はゆっくりとお休みください!私達が頑張ればいいんですから!それでは失礼します!」
部屋から出ていったのを確認してセリルが喋り出す。
「…今食べますか?」
「すまないが頼む。なんだか…赤子みたいで恥ずかしいな。」
「ふふ、確かにそうですね。」
〜数時間後〜
「…なるほど。今はミナリが主となって活動しているのか。」
確かにミナリが適任だ。
漆では割とやらかすことが多かったりする。
申し訳ないが魔王という位置には合わない男だ。
「ある程度の指示くらいなら私がしよう。それくらいなら私の身にも問題ないしな。」
「分かりました。そう伝えておきます。」
再び扉を叩く音がする。
「漆とセフィロトでーす。お見舞いに来ましたー。」
本当に噂をすれば来る男だな。
「入っていいぞ。あと敬語はなくていい。今はそんな立場じゃないからな。」
声を聞くなりすぐに入ってくる。
「まあ、仮にも魔王だから気にする事はないと思うぜ?まあ使わないで行くけどな。」
「敬語を使わないのは無礼極まりないが。」
「えぇー?俺が敬語ガッチガチに使ってんの見たいか?」
「…確かに見たくはない。」
「っと…。話が逸れたな。お見舞いの品だぜ!」
バスケットに入ったたくさんの果物だ。
おおよそ食べやすい小さい果物が多い。
ぶどうやいちご、みかん。
大きくてもリンゴやバナナなど。
「セフィロトと被ってな…。2人同時って訳だ!」
「別のものを用意出来ずすみません。」
謝罪の礼をする。
「いや、その気持ちが嬉しいよ、ありがとう。」
「…先に雹華が来てたのか。早いな〜。」
漆が貰った花を見る。
「雹華さんなら昨日来ましたよ?」
「…彼奴空気読まなかったのか…。」
…なるほど。
本来雹華と同時に来るはずだったが話を聞かれていたか。
「魔王様、大丈夫か?暴走してた時無限に魔力出てたから元に戻ったら相当危険な状態になるんじゃないかって心配したぜ?」
「辛うじてそういったのは回避できたらしい。君達のおかげだよ。ありがとう。」
「でも、本当に無事で何よりです。」
2人ともとても笑顔だ。
「あ、そうそう!別の部屋にいたあの魔王様の契約してる魔獣…なんだったっけ?」
「フェンリルのことか?」
「そうそう!目が覚めてたぜ!魔王様が意識を取り戻す間フェンリルもずっと眠ってたんだ。うなされてたぜ?」
フェンリルにも影響があったか。
…もしかしたらセリルにも少なからずあったのでは…?
「私と漆で世話はしていました。ですが一向に目覚めませんでした。先程見に行くと餌にかぶりついていましたので問題はないかと。」
「何から何まで助かるよ。」
「ま、魔王様はゆっくり休んでくれ!俺達は別に特段疲れてるわけじゃないし魔王様が勇者の攻撃を防いでくれたんだ。休むことぐらいしてもらわないとな!」
「ではまた何か伝えることがあったらここに来ますので。失礼します。」
2人の後ろ姿を見送る。
「このままの勢いだと皆お見舞いに来そうですよ?」
「私はしっかりと慕われていたのだな。」
〜昼頃〜
「ようやっと昼頃か。」
日が空の真上に登っている。
窓から差し込む光は暖かく眩しい。
なんとも、体を動かせないというのは辛いな。
セリルがいるから暇には困らないが動けない、何も出来ないという状況が嫌だ。
「お腹は空いていませんか?」
「動いていないからな、実を言うとあまり空いていない。」
いつもの業務で動いているかと問われればそうでも無いが。
「…?何やら騒がしいな。」
『貴様っ!納得いかない!もう一度だッ!』
『やめ、やめろよッ!おいッ!離せッ!離しやがれッ!』
『このカーマインちゃんが捕まえましたー!がっちり捕まえてるよ!』
『いだだだ!!本気でやれって言ったからやっただろ!俺の本気は真正面からじゃなくてどんな手を使ってでも勝つ、だからな!真正面からじゃお前に歯がたた…おい、その拳を下ろせ!それこそ卑怯だろ!』
『…うーん?これ偽物だよ?本物の匂いじゃない!』
『あ、バレちった?さらばだ!二度と追ってくんな!もう鍛錬は終わりだ!』
『…クソ。逃がしたか。』
『まーまー落ち着いて。相手なら私がするよ?』
…ここの辺りはこんなに騒がしいんだな。
主に漆とセフィロトがやんちゃしてるようだが…。
「そうですね、皆さんいつもこんな感じです。魔王様はいつも玉座なので聞こえないんですね。」
「…さらりと心を読んだな。」
「あっ…ごめんなさい。繋がってしまってるのでつい…。」
使い魔になるとある程度の意思疎通が喋らずとも可能になる。
フェンリルも同じだ。
「いいさ、読まれて困ることは無い。」
3度目の扉の叩く音。
魔力がないと気配も分からないな…。
「ミナリよ、イルミナもいるわ。」
「入ってくれ。」
「っ!魔王様ー!大丈夫だった!?怪我してない!?」
扉から走ってこちらに向かってくる。
「ああ、イルミナのおかげで大丈夫だ。」
「へへ、魔王様の為ならへーきだよ!…しかし凄いな。私の暴走を止めたんだろう…?私は記憶が無いが…。」
「月の妖精だもん!…まだ精霊にはなれてないけど…。月があるなら負けないよ!」
月…か。
「…ということは夜まで耐えていたのか?」
「いえ、私の魔法よ。空間を作る魔法、夜の世界なの。」
吸血鬼ともなれば自分の活動できる世界をも作り出すか。
「2人ともかなり無理をしたと聞いたが…大丈夫か?」
「大丈夫…では無かったわ…。」
「うん…。」
姉妹は似ると言うな。
悲しげな表情が似てきている。
…姉妹ではないが。
「でも、魔王様ほど危険な状態に放っていないわ。数日で治ったもの。私もまだ過度な行動はするなって言われてるし。」
「私はもうすっかり大丈夫!安心してね!」
なにか力になれないどころか力を借りる側というのはなんともむず痒いな。
「それで…これ。今は体を動かせないだろうけど動かせるようになったら読んでくれると嬉しい。」
手に持っていた本を渡される。
何かの本かは分からない。
見たことも無い。ら
「これは…?」
「報告書…と言ってもくだらなすぎて報告にもならなかったものよ。おおよそ漆かカーマインの事が書かれているだろうけど。」
「…私もちょっとあるかもー。」
目を逸らし気味。
可愛いところがある。
「気晴らしになったら嬉しいわ。」
「私はこれ!」
蝶のアクセサリーが付いた髪ゴムを手渡された。
模様が綺麗で暗い紫色。
恐らく私の闇魔法を見て色に合わせて作ってくれたのだろう。
「綺麗でしょ?魔王様、髪が長いからあれば便利かなーって!」
「これは助かる。少し邪魔な時があったからな。」
「魔王様、付けましょうか?」
セリルが気を効かせてくれた。
「そうだな、頼もう。」
自力で少し前屈みになる。
「失礼します。」
腰まである位の私の髪。
それをセリルが纏めた。
そして髪ゴムをつけてくれた。
髪型はポニーテール…になる。
鏡で見ると蝶のアクセサリーは上向きに着いていて目立ちはしない。
よく見るとしっかりとあるのが分かる。
「似合ってるー!よかったー!」
「2人とも、ありがとう。大切にするよ。」
「早く治ることを願っているわ。暫くは私に任せて休んでね。」
「魔王様、じゃあね!」
イルミナが手を振り先に部屋を出る。
「ミナリ。」
「何かしら?」
「…ありがとう。」
「…うん。」
綺麗な笑顔を見せ部屋を出ていった。
「…ミナリは本当に無理をしていないか?」
「はい、見たところ顔色も良いですしセフィロトさんからこっぴどく言われているらしいので問題ないですよ。」
「よかった。」
〜夜〜
夜になった。
昨日まで見えていた細い月は見えなくなった。
体は少しだが動くようになった。
とは言っても腕のみだが。
おかげでミナリに貰った本は読める。
【カーマインの盗み食い事件その5】
なんかはとても笑えた。
そもそも何度もしてるのは驚いたしこの件に関しては漆が犯人だったという。
漆もやはりどこかでまだ子供らしいな。
「失礼します、セリルです。カーマインさんもいらっしゃいます。」
「ああ。入ってくれ。」
扉が開くと2人が見える。
「夜遅くごめんね、魔王様。」
「構わないよ。私も暇していた。」
「あれ、意外と夜行性?」
「なんせ魔王の一族の元は悪魔族とされているからな。夜の方が好きだと思う。」
「ささ、とりあえずこちらを〜。」
大きな瓶を渡される。
「これは…水か?」
「そう!私たちの住んでた所のきれーいな湧き水!…そのままでも飲めるけどさすがに安全を優先して魔法で…浄水加工?して貰ったけどね!飲むと健康になるって村では有名なんだよー?」
湧き水か。
魔法で精製した水は正直そのまま飲む、ということは余りできない代物だ。
何かしら危険性があったりする。
井戸水も毎度組み上げて飲むとなると今はセリルに負担がかかる。
やはり皆様々な品を送ってくれる。
とても嬉しいな。
「ありがとう、とても助かるよ。」
「たまたま来てたフロストくん…だっけ?にぬるくならないようにしてもらったから冷たいまま!時間も気にしなくていいかはとってもすごいよ!」
フロストも来ていたか。
流石に見舞いは来れないだろうが。
今は特に忙しくなっているはずだ。
いくら魔王城にいたと言えど本職は魔法研究。
私の暴走時の魔法を知ってしまったとなれば調べて応用したくなるのは当たり前だ。
私自身、覚えていない訳だが。
「何、いいのいいの!気にしないでゆーっくり休んでね!それじゃ、おやすみなさい!またね!」
「おやすみ、頑張ってくれ。」
素早く部屋を出ていく。
「なんだかすみません…私もなにか用意したかったのですが…。」
「セリルには今尚ずっと迷惑をかけているからな、きにしなくていいんだ。居て、手伝ってくれるだけで本当にありがたい。」
「そう言ってくれると嬉しいです。」
今は本当にただの足でまといの私だ。
感謝しかできない。
「そろそろ私は寝るよ。」
「分かりました、ごゆっくりおやすみください。」
「…セリル。」
「はい。」
「…私の記憶、全て今なら分かるのだろう?」
「…はい。」
「どうすればいいと思う。」
兄を討った。
それが1番私の心に残っている。
殺さなければよかった。
間違いを遂行してしまった。
私がもっと強ければよかった。
そんな思いが交差して頭の中がぐちゃぐちゃだ。
「…私は魔王様の従者です。魔王様が正しいと思う道について行くだけの従者です。魔王様が正しいことだと思う道があるのなら全て肯定し、正しくないと思うものは否定する。私はそれだけなのです。」
「そうか。」
「…正直、私にも分かりません。…だから、一緒に歩みましょう。後悔のない道を行きましょう。」
「…ああ。そうだな。」
そうだ。
私は言ったんだ。
理不尽を通してこその王。
兄の死という受け入れられない事実を。
『起きたことは仕方がない』
という屁理屈を通して行かなければならない。
そうでなければ魔王という威厳が保たれない。
そうでなければ進めない。
私は兄の死をも糧としなければならない。
…今は休む時だ。
しっかりと休んで万全の状態を整えなければ何も出来ない。
ただ…今は待とう。