朧月に見ゆ
人間の街からの帰路。
背筋が唐突に凍った。
「っ…!流石にこれはまずいわ…。私でもわかる…!」
私はあまり魔力を感知する能力がない。
そんな私でもおぞましいほどの魔力を感じた。
「ミナリさま、お一人にさせるようなことはしたくなかったのですが…私は後からでも追えます。今は速く行ってくれると幸いです…っ。」
そう、あくまでもセリルは私の従者じゃない。
「自分の身は自分で守れるわ。先に行かせてもらうわね。」
少し小さめの翼をはためかせ、空を飛ぶ。
幸運なことに今は日が差して居ない。
空を飛んで移動するにはちょうどいい。
「一体何があったの…?」
〜魔王城〜
「…っ。」
思わず息が詰まる。
形容できないおぞましい気配。
何がいるの…?
「っミナリ様ッ!ご無事で…!?」
「セフィロト!今の状況は!?」
「魔王様が…暴走しかけています…!」
嘘…。
魔王様が敵にやられたの…?
「他の皆は?」
「漆、イルミナ様は魔王様と交戦中、何とか食い止めています。カーマインさんは見張りの警備強化のために見張りに配置しています。そして私はミナリ様を待ちつつ軍への指示をしていました。」
安定策ね、それなら基本は何が起きても恐らく耐えられるはず。
「わかったわ…っ。私は魔王様の所へ向かうわ。」
心配そうな目でこちらを見る。
「ですがミナリ様…!とても調子がいいようには見えません!危険です!」
「いえ、大丈夫。私がやらなきゃいけないの。そして、セフィロトにお願いがあるの。」
「空間魔法…解除…っ。…うぅ…く。」
負荷が凄い。
でも今は耐えなきゃ。
空間魔法でできるだけ救った人間や魔物たちを解放する。
多くが重傷。
少なく見積っても50人はいる。
「…私は本当に大丈夫。この人たちを…街へ!」
「分かりました…。お気をつけて。」
とりあえず私にかかっていた負荷はある程度消えた。
いくら私といえど大魔法の展開、空間魔法を使用しつつ移動。
それらを無で受け入れることは出来ない。
今の私の魔力は通常の状態の3割しかない。
でも…魔王様を止めなきゃ…!
「あああああ!!!!!」
魔王様が暴れている。
何があったのかは分かっていない。
見境なしに周囲を闇で飲み込んでいる。
魔王様自体すら見えないほどの闇の魔法と防壁。
嫌な魔力ではあったがそういうものだと思ってしまっていた。
「気をしっかり持ってくれ!…は…ッ!」
「私は…ッ私は…ああああああああぁぁぁ!!!!!!!!嘘だ!!!!!!っ違う!!!」
正気がない。
今の魔王様は俺たちを俺たちとすら認識できていない。
「蝶月!…っさすがに光魔法でもここまでだとキツイよ漆!」
光の蝶が舞う。
イルミナがいなければかなりキツかった。
光魔法なんて俺たちは使えないからな。
闇は光を飲むし。
光は闇を打ち消す。
「俺もこの闇の守りは流石に抜けられねぇ!今は…耐えてくれッ!」
多分…いるんだ。
ミナリがそろそろ来るはず。
魔力で分かる。
「…ァ…アア!!!!」
でかいのが来るッ!
「避けろよッ!」
「分かった!」
その後すぐに巨大な闇魔法が飛んでくる。
正直異常なレベルだ。
到底勇者なんかの存在くらいじゃ歯が立たない。
いや、事実そうだったはずだ。
何せ死体が転がっている。
恐らくは何らかの原因があって暴走したはずだ。
「…秘術 災禍!吹き飛べッ!」
刀に魔力を込めて抜刀。
俺の技は全て風魔法の延長。
光じゃなくともある程度の魔法なら打ち消せるだろう。
「うらっ!…ッ埒が明かないぜ。」
後ろから誰かがよってくる。
「みんなっ!」
ミナリだ。
…ようやく助けが来たな。
これできっと幾分か楽になるはずだが…。
頼ってもいられない。
「状況は聞いているわ。私に策があるの。」
「何をすればいい?」
流石、対処まで持ってきてくれた。
「漆は少しの間気を引いて。イルミナは1人で魔王様と戦ってもらうわ。」
「待て!…容認できない。いくらなんでも無茶だ。」
「そ、そうだよ…!いくら光魔法があるとしても…私には出来ないよ!」
当然のことだ。
策があるとは言ったがそれは流石に危険すぎる。
「イルミナ、貴方なら出来ることがあるでしょう。私は知ってるわ。魔王様とイルミナを別の空間に送るわ。…月のある空間に。」
…月?
月に何かあるのか?
「…!それなら…。出来るよ!」
「いや…いくらなんでも…ッ!無茶だ!」
こう話している間にも魔王様は暴走して攻撃が飛んでくる。
「漆、大丈夫だよ。私にしか出来ないことがあるの。」
…小さい子に可能性を掛けたくはない。
でも…そうするしかないのか…?
「…出来て30秒だ。それまでには出来るのか?」
「行けるわ。…お願いね。」
そうなりゃこっちは力の限りをぶつけるだけだ。
「よし…行くぞッ!」
魔王様に向かって攻撃をしようとする。
すぐさま反応し迎撃される。
この程度でへばってたらみんなに合わせる顔がないからな。
「こんなもんかよっ!」
分身しようかと思ったがこの攻撃範囲じゃ意味が無い。
「真っ向からの勝負は苦手なんだが…ッな!」
持ち前の速さを活かして素早く後ろに移動すると同時に斬る。
到底闇の魔法で覆われた防壁を破ることは出来ない。
今は注意をこちらに向けるだけでいいからな。
「頼むから…正気を取り戻してくれ…ッ!」
「…」
少し防壁が薄くなり顔が見えた。
俺は戦慄した。
「…ッ!闇に侵食されてるのか…!?」
顔には何かが蝕んでいるような跡。
目は黒く変色していて怪物そのもの。
腕は闇によって肥大化、巨大な闇の腕を作り上げている。
本物の腕ではない。
魔力を感じ取って見るとあの腕はどうやら鎧を着けるように腕に付随している。
「…おぞましいな。」
「アアアア…ッァァア!」
本体が襲いかかってきた。
「不味いッ!?」
とっさの判断で避けることは出来た。
俺やセフィロトのような危機判断能力に優れてるやつじゃきゃ死んでたな。
ミナリなんかは特に避けられないだろう。
そのくらい速かった。
「…ただ。理性はほぼないようだな。本当に怪物みたいだ。」
「漆!離れてッ!魔法を発動するわ!」
「あいよッ!」
「座標確定…イルミナ!」
「うん!舞えっ月影蝶!」
魔王様の周りを囲うように蝶が舞う。
「空間魔法…転移!」
「…消えた…?」
「…私の作った空間に転移した…わ…っ…。」
発動した反動なのかは分からないがそのまま後ろに倒れていく。
「ミナリッ!」
既の所で体を受け止める
「大丈夫か!?」
「…少し…魔力を使いすぎたみたい。」
「…だろうな。魔法使う前から弱ってたみたいだし。」
「ちょっと…休ませて…。今は…動けない。」
「これだけ聞きたい。魔王様達はどうなってるんだ?」
「私が空間魔法を維持している間は大丈夫よ。維持するのは簡単。あとはイルミナが何とかしてくれる。この私の空間魔法は…イルミナにとって無敵の場所なんだから…。」
…よく分からないがそれだけ言っているなら大丈夫なのだろう。
「…信用するとしよう。このまま運んでいくぞ。」
「…お願い…す…」
「…っと。」
気を失ったみたいだ。
部屋でしばらく看ておくか。
〜月のある草原〜
「…っと!…わぁ…。綺麗。」
心地よい風が吹いてる。
周りはほとんど木がない草原。
目の前には湖があってそれなりに大きい。
何も音が聞こえなくて草が風でなびく音がよく聞こえる。
そして…月が輝いている。
明かりが月だけなのにすごく周りが見える。
湖に反射して写っている月が眩しいくらい。
満月で…綺麗で…。
落ち着く場所だね。
そして湖の前には魔王様がいる。
「…!」
さっき蝶月、私の月の蝶々で闇の魔法をうち消せたみたい。
直ぐにまた治っちゃうけどね。
「魔王様。お話しよっか!」
「アアアっ!!」
私の声は聞こえてない。
襲いかかってきた。
「ねえ…魔王様。私気になってたんだけどなんでこのお城って月下の魔王城!って言うの?」
体に魔王様の攻撃が触れると同時に私は光になって避ける。
「ごめんね、今の私は何も当たらないよ。なんたってこれでも…月の妖精だからね!…まだ見習いだけど…。それで次期精霊王でもある!へへーん!」
「ヴァァァァ!!」
また襲いかかって来る。
闇雲に私を攻撃。
「私には月の加護があるの。この加護はね!月の光が当たってると魔力がすごーく湧いてきて、なんでも避けられちゃうの!すごいでしょ!」
すぐさま闇が増幅した。
私を覆い尽くそうとしてるみたい。
「蝶月!舞え!月影蝶!」
さっきと同じように蝶達を呼び出す。
「これ、私のお気に入りなんだ!可愛いし、頼りになるの。こうやって…指にも止まってくれるし…」
蝶達を光にして向かってくる闇を払う。
「こういう事も出来ちゃうの!」
「…ッァ…アア!!!」
未だに何も聞いてくれない。
「ちょっと…酷いことするよ。…ごめんね。」
魔力を沢山集める。
体の中身いっぱいいっぱい集める。
「行くよ!闇を消しちゃえっ!星鈴蘭!」
私の中から蝶が何千も出ていく。
辺りがとっても明るくなる。
眩しいくらい!
沢山光が出来て魔王様に狙いを定める。
「…痛いよ!ごめんね!」
あらゆう方向から光が刺さる。
槍のような光。
「でも…痛いだけだからね。傷はつかないから…ごめんね。」
胸や足、腕などに貫通している。
でも全部幻痛。
光が刺さっているだけ。
傷跡なんかは絶対に残らない。
私の魔法は…全部痛いだけの魔法。
殺し…とかそういうのは…私出来ないから…。
私なりの答え。
「アア…ぁ…」
「ちょっと…動かなくするよ。」
光の帯が魔王様に巻き付く。
私のさっきやった魔法もあってかなり動かない状態。
腕にあった太い闇の腕は消えた。
「これでお話できるね。よい…しょっと!」
「ぁ…。」
光で磔になっている魔王様の隣で膝を抱えて座る。
「魔王様って…朧月って…知ってる?」
ちらっと顔を見て話しかける。
返答は帰ってこない。
こっちを見てもくれない。
ただ抜け出そうとしている。
だけど続けて話しかける。
きっと聞こえてることを信じて。
「満月は知ってるよね?まんまるで綺麗なお月様!今お空にあるあれだね!綺麗だよね。」
本当にここの空は綺麗。
お星様も見えてお月様もキラキラ!
もし外で寝るなら絶好の場所!
「朧月はね、雲とか…霞んで見えにくい月のことを言うの!あと…そういう名前のお花もあるんだったけ?私は…お花に詳しくないけど…魔王様なら分かるかな?」
「あ……ぅぐ…ワタ…し……はッ……殺…し……タ…」
「落ち着いてね。大丈夫だから!…それでね、今の魔王様は朧月なの。前までの魔王様は満月!綺麗で何も見えなくなるようなものがない!」
「う…ぁ…?」
…!
少しづつ戻ってきてるかも!
「でもね…今の魔王様は多分…その闇に覆われてるの。だから朧月。」
「……私…は…ァ」
「だから…私がその闇を頑張って消すから…魔王様も…頑張って闇を出さないようにして!」
「…ううぅ…ああぁぁ…ッグ…」
すごく苦しそう…。
今すぐ助けなきゃ。
「魔王様の中に光を流し込むの。それで今体を覆ってる闇を消す!無理矢理やるから苦しいかもだけど…魔王様のこと信じてるから!」
「………!ァァァァァァア!!!!!!!!」
途端に暴れ出す。
「いくよ…!」
集中。
光を沢山集める。
暖かい光。
優しい光。
苦しくないように感情を込めて。
「月影蝶…!戻って!」
周りにいた月影蝶が全て消える。
綺麗な光の鱗粉が舞う。
それらが私の体に戻ってくる。
「はぁぁぁあっ!」
一気に流し込む!
魔王様だからできる無理矢理の技!
普通の人だったら光を耐えきれずに魔力暴走を起こしちゃう。
自分の魔力の限界を超えて魔力が全部消えちゃう。
そうなるとこれからずっと魔法が使えなくなるけど…。
魔王様なら魔力の許容量はすごく多い!
だからギリギリできる!
今ある魔王様の闇をより光を多くすれば必ず消せるはず!
「…ぅああああああああああああ!!!!」
「ごめんね…っ!苦しいよね…っ!」
一気に光が流れ込んでいく。
闇と光はお互いに消しあおうとするらしいから闇を見つければすぐに入っていく。
「…これで…終わりっ!」
持ってる魔力をほぼ流し込んだ。
「…うわっ…とと。…ちょっとフラフラする…。」
支えていた光の槍が消えていく。
「あっ!」
魔王様は気を失っているのか立とうとせずそのまま地面に倒れていった。
「…あわわわ…大丈夫かな!?傷は…ついてない…。良かったぁ…。…ふふ。私にできたよ。ミナリお姉ちゃん。」
魔王様から闇が消えた。
蝕んでいた闇も顔にあった闇の跡が消えていることから完全に消えたとわかった。
「このまま寝かせちゃちょっと汚いよね…。そうだ!お膝に乗せよう!…えへへ、膝枕。なんだか私がお姉ちゃんみたい。」
乱れた髪を整えてあげる。
角が私の太ももにちょっと当たって痛いけど我慢我慢。
「月が…綺麗だね、魔王様。」
…私も魔力を使い切っちゃったから…ちょっと眠いや…。
でも…見ててあげ…な…きゃ…。
〜魔王城 ミナリの部屋〜
「お邪魔するぜ…。」
少し小さな声で。
魔力切れでぐっすりらしい。
起こさないよう扉をーっと。
「…漆か。」
「セフィロト!…重傷者達の移動は済んだのか?」
ベッドの傍に椅子を置いて座っていた。
ミナリはベッドで寝ている。
「お前がミナリ様を運んできた後、直ぐに魔法研究のレーヴァ様、アルマス様が駆けつけてくれた。見張りを増員してくれたおかげで竜族、半竜人の少しを重傷者達の移動に回せた。それで早く済んだ。」
「…そうか。良かった。…だいぶ無茶してたな、ミナリ。」
「…あぁ。私は心配だ。まだ魔法を展開し続けていると聞いた。」
主のこととなりゃそうだろうな。
俺でさえこんなに心配なんだ。
心配過ぎて倒れんじゃねーかなセフィロト。
「展開の維持は簡単なんだとさ。つっても、こうやって寝てても展開出来るってのは流石に才能だろうよ。俺にゃ出来ん。」
「…他の状況はどうなっている?」
「あぁ、セリルさんが戻ってきた。すんげぇそわそわしてる。まあそりゃ魔王様が凄いことになってたからな。雹華は勇者達を送り終わって既に戻ってきてる。多少交戦があったらしいが『返り討ちにしてやったわい!人間など取るに足らんわ!かっかっか!』だとよ。悪役みてぇだ。」
「…そうか。」
「…ん…。」
ミナリが起きた。
「…ミナリ様。」
優しく語り掛けている。
飛びかからないあたり、流石って感じだ。
「…私の部屋…ね。みんな無事かしら…?」
体を動かさずにこちらを見る。
大体は察したようだ。
「無事です。」
「ミナリは無事じゃあないがな。」
「…ふふ、こればっかりは言い返せないわね…。」
「どうすれば良いでしょう…?」
「じゃあ…セフィロトの血を頂こうかしら。」
そっか、吸血鬼だしな。
魔力源はぜーんぶ血だった。
「分かりました、お体を起こします。」
「…んじゃ俺は邪魔しちゃ悪いんでセリルさんを呼んでくる。一応悪い所ないか見てもらった方がいいしな。」
「助かる。」
そそくさとその場から去っていく。
見張りの手は緩めちゃ行かないからな。
こういう時に攻め込んでくるのは定石だ。
直ぐにセリルさんを呼んで警備に入らないと危険だ。
…っと。
呼びにいかなくても良かったみたいだな。
「漆さん…!」
「魔王様はミナリの空間魔法の中だ。イルミナが何とかしてくれているらしい。ことが済むまでミナリを看てやった方がいいと思う。」
「ありがとうございます…!」
「…あんまり気を張りつめんなよ。いつかぶっ倒れるぜ
。」
さて、直ぐに行くか。
「失礼します。」
漆が出ていったあと直ぐにと入れ替わりで誰かが入ってきた。
「セリル…。」
「ミナリ様…。無事でしたか…?」
「ええ。…何とかね。」
「お守りすることが出来ず申し訳ありません…。」
あの後、心配だったのね。
「いいの。こうして無事なんだし。」
「少し、失礼します。」
私の手首を持って脈を測っている。
「脈は正常ですが魔力が極端に少ない状況ですね。他に異常は見当たりません。」
「よかった…。」
「心配させてごめんね、セフィロト。」
「…はい。」
素直に頷いた。
いつもなら大丈夫、というはずだけど。
相当心配だったみたい。
こんな表情を見せられたらこれから無茶は出来ないわね。
「セフィロト、首を近づけて。」
「分かりました。」
セフィロトの首元、動脈あたりを噛む。
「…。」
吸いすぎてはいけないから少しだけ。
魔力がある程度復活するくらい。
残りはまた今度にすればいい。
「…ありがと。これなら明日にはいつも通りになるわ。…ほんとよ?」
「でも、無理はなさらぬようにお願いします。」
「もちろんよ。…それで、魔王様とイルミナのことよね?セリル。」
すごく聞きたそうな顔をしていた。
「…申し訳ありませんがその通りです。」
「いいのよ、貴方の主は私じゃなく魔王様なんだから。…それでなんだけど。空間魔法内部の魔力の起伏が無くなったわ。恐らくだけど終わったみたい。セフィロト、あなたを送るから見てきて頂戴。」
「…それは大丈夫なのですか?」
「ええ、動く物をそのまま転移するのはかなり辛いけど受け入れているなら楽よ。すぐにできる。大丈夫だったら魔力で無事の合図を送って。いい?」
「分かりました。」
正直私もイルミナが心配。
「…じゃあ…行くわよ。セリルは魔王様を運ぶ準備をしておいて。」
「承知しました。」
〜月のある草原〜
転移をした。
魔力を少し離れた場所に感知した。
何か暴れているような反応ではなくどちらとも落ち着いている。
辺りに目をやると草原、湖。
湖の前に2人がいた。
「…寝ている…?」
…否、魔王様は気絶。
イルミナは…魔力切れのようだ。
みんな無茶をする…。
でも…良かった。
これで一安心。
「それにしても…なんで膝枕なんだ…?…まあいいか。」
魔王様はお嬢様のように抱き抱える。
イルミナ様は背中で背負う。
半分鬼の私なら余裕だ。
魔力でミナリ様に合図を送る。
「…景色が薄れていく。」
だんだんと周りが歪んで行く。
次第に景色が真白くなっていく。
目を閉じで転移に備える。
〜魔王城 ミナリの部屋〜
セフィロトさんが戻ってきた。
「っ魔王様…。」
思わず駆け寄ってしまった。、
「気絶しているようです。イルミナ様は魔力切れで眠っています。」
「…イルミナも無茶をしたのね…。」
「寝て起きれば問題は無いかと。ミナリ様と同じベッドでよろしいでしょうか?」
「ええ、その方が私も安心するわ。」
「セリルさん、イルミナ様をベッドへお願いします。」
背負っていたイルミナさんを軽く腰を下ろしてベッドに寝かせる。
それをゆっくり抱えてミナリ様の隣へ。
「…少し失礼しますよ、ミナリ様。」
「ええ。どうぞ。」
上手く枕に頭を乗せて布団を掛けてあげる。
「ごゆっくりお休みください。」
「ありがとう。今日はもう安静にしているわ。」
イルミナを優しく撫でていた。
「セリルさん、魔王様を寝室に。」
「ですね、お手伝いお願いします。」
〜魔王様 薺の部屋〜
「…。これで良いですか?」
「ありがとうございます。あとは私のみで大丈夫です。」
「分かりました。私はミナリ様の部屋にいますので何かあったらどうぞ。それでは失礼します。」
ドアに手をかけてゆっくりと出ていく。
「…魔王様。」
良かった。
とても心配だった。
あの魔力を感じた時、すごく怖かった。
魔王様がどうなってしまったのか。
わからなくてとても怖かった。
その癖私には何も出来なかった。
従者失格…。
いえ、私にできることは今から。
魔王様の状態を見てあげないといけない。
無事に魔王様がいつも通りになるように私が善処しなきゃいけない。
それが私の務め。
どうか…どうか良くなって戻って来てください…魔王様。
〜魔王城 周辺〜
「…。」
木の上。
周囲を見渡せるちょうどいい位置。
じっと、ただじっと待つ。
外敵が来るのをじっと待つ。
「漆、ここにおったかー!」
「うわぁぁぁぁぁ!?!?」
やべ落ちるっ!?
「あっぶね…なんだよ!?」
「おぬしまで辛気臭くなりおって!しゃきっとせんかい!」
「お前は元気すぎるんだよ!」
「む、そうかの?わしはいつもこんな感じじゃが…。」
「周りと比べて、な?」
こんな時でもコイツは変わらない。
流石と言うべきか呆れると言うべきか。
「…お前まで暗くなってどうすると言っている。」
おっと真面目。
こりゃ真剣な目だ。
「…ほれ、雰囲気を作るのが得意じゃろ?そういうのを進んでやるんじゃ!」
簡単に言うけどさぁーそれが場違いな時もあるんだよ…。
「というか俺警備あるし…。」
「阿呆!もう来んわい!わしが勇者の方に言って圧をかけといたんじゃ!」
「言えよ!!!」
「その意気じゃ!」
やかましいわ。
…ま、警備は気にしなくていいってんなら気が楽になるな。
「…そーかー。んじゃ魔王様の見舞いの品でも選びますかね。」
「む、そうじゃそうじゃおぬしはそうでなくてはな!」
うんうんの腕を組んで頷かれた。
「何がいいかねぇ…単純に果物とかか?」
「わしに聞くな。元々もらう側じゃし。」
「…一応言っておくが見舞いはしてあげろよ?」
「当たり前じゃろそこまで性根が腐っておらんわ。わしは花を摘んで帰る。」
「お、花か。なんかそれっぽいな。何の花だ?」
病気になった人らに花をあげるのはよくあるらしいしな。
俺はあんまり街の病院とか行ったことないからわからんが。
「月下の魔王城という名に因んで朧月じゃ。見舞いの花には向いてないがの。長く飾れるし良いじゃろう。」
「へー。まあどんなのか知らないがいいんじゃないか?」
「お主も早めに戻ると良い。いくら安全とはいえ城の中に既にいるかも知れぬからな。」
「おう、分かったぜ。じゃあな!俺は街に行って果物買ってくる!」
朧月
花弁のような葉の形をしている。
主に観賞用として育てられる。
灰がかったような緑色をしていることからその名が名付けられたという。
花言葉は『秘められた恋』