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勇者到来

修正更新は5話目まで終わっております!

「…それではそろそろ行ってもらう。健闘を祈る。私の代わりに…出来るだけ…救ってやってくれ。」

行けるのなら私が行きたい。

だが私にはやるべきことがある。

私は動けない。

ここを守るため。

ここに来るものを止めるため。

私がやらねばならない。

魔王なのだから。

セリルを後ろに付けてミナリは去っていく。

…ここに、遅からず勇者たちがくる。

勇者、それは人間側の正義の存在。

不特定多数の勇気ある物が私達魔王を討ちに来る。

弱い者もいた。

強い者もいた。

弱い者は事前にあちら側からの情報など一切なかった。

強い者は自然と情報が出るものだ。

その情報をあちら側が自ら提示してきたのだ。

表向きは水澪の引き取りとある。

が、私達も、あちら側もそういう訳には行かない。

こちら側は水澪の引き換えに情報の提示、あわよくば人間たちとの戦いを終わらせて友好な関係を築く。

あちら側は私を討ち、私の首を持ち帰る。

それだけだ。

ここに来るその時まで、ただ待つのみ。



〜魔王城 収容室〜

ここは収容室。

ただの檻に小日光が入るくらいの小さい鉄格子の窓。

そこにポツンと囚われた少女が1()()

「よっ!怪我は治ったか?…ま、その様子じゃ大丈夫そうだな。」

「…失せろ。」

おお怖い怖い。

カーマインと戦い、相打ちになった相手だ。

手枷、足枷、天井から鎖を吊るして膝をついている状態。

小柄だが力は俺以上。

そして感じるのは神の断片的な気配。

こいつは蛟らしい。

どこかの山でひっそりと暮らしてるって言う龍?なんだそうだ。

最近…つっても魔族の感覚の最近だ。

何十年も前だろう。

蛟が死んだって言うのは俺の師匠から聞いた。

今後蛟がまた現れるかどうかはわからないとも聞いたがな。

こいつからはその気配をしっかり感じる。

「ま、やらないとは思うが逃げようとしないでくれよ?一応捕虜なんだからお前。」

「…。」

ま、動こうとしないのを見ると上からの指示があるんだろうな。

人間側のやつだし。

逃げようと思えば逃げられる力があるはずだ。

俺を警戒してるのかもしれないけど。

…まぁ…この際思うことではないんだが…。

案外見た目は好きなんだよな。

うん。

敵じゃなかったら一目惚れしてそうだ。

俺が未熟なら『お前が好きだ!なんでもしてやる!俺と一緒に逃げよう!』

なんて言うんだろうな。

残念ながらそういう感情はとっくに消え失せた。

まあ、生まれはするんだけどな。

…しっかし、カーマインさん。

異様にこいつを気にかけてたよな。

「聞きたいことがあるんだが?」

「…。」

「こえーなその目。カーマインさんとなんか知り合い?見つけた時なんか仲睦まじい親子にまで見えたけど。」

「…ッ!」

鎖が擦れる音が響く。

「わ、悪かったって!そんな恐ろしい目で睨むな!…蛇睨みとは言ったもんだ…。」

そんなことをしていると収容室の出入口が開く。

出てきたのはオークの兵士。

「漆隊長!そろそろ連れ出して欲しいとの要請です!」

「おっし、ちょいと手伝え。」

「了解です!」

吊るしてる鎖を外して…ついでに足枷も…っと。

「どっか痛むかも知れないが、我慢してくれ。ほら、歩けるだろ?()()歩けよー。」

「…。」

その場に立ち上がり俺の前を歩く。

「う、漆隊長…いいんですか…?前を歩かせて…。」

「安心しろって、俺があいつより遅いわけないだろ?それに逃げないし。ん、そこ左な!」

言う通りに動く。

やはり素直に行動してくれる。

ま、楽でいいんだけどね。






〜魔王城 謁見の間〜

…私は待つ。

ただ黙々と。

心を落ち着かせる。

そっと魔力を感じる。

右隣にいるセフィロト。

さらにその隣にいるイルミナ。

1秒1秒をはっきりと認識出来るほど今は冴えている。

…何故だ?

()()()()()()()()()()

わからない。

何故こんな気分になっている?

心の乱れだ。

落ち着くんだ、私。

目を閉じて感情を整理する。

この何かわからない感情を止める。

無心、何も無く、そこには暗闇が見えるだけ。

目を開く。

「ん、お目覚めかの?」

目の前には雹華がいた。

魔力を感じられなかった。

今さっき現れたのだろう。

「こんな時に寝られる者はいない。」

「カッカッカ、そうさな。報告じゃ、もうすぐ来るぞ。魔力を認識できる距離までにいる。女1人、男2人。どれも強い魔力を感じるぞ。」

「そうか。()()()()()()()。」

「本当にいいんじゃな?」

「あぁ。どちらにしろ、出来ることは変わらない。」

戦いは避けられない。

恐らく、ではない。

絶対にだ。

私達は戦いを避けられない。

これから起こるのは必要最低限の戦いであり、意味の無い戦いでもある。

己の意地を通す為だけの戦いになる。

「失礼します、水澪を連れてきました。」

「ご苦労だ。漆は外周の守りに徹してくれ。兵士は多めに使ってくれ。」

「分かりました。」

すぐに走って外に出ていく。

「わしも行く。」

雹華は次元を歪め、その歪みに入っていく。

「頼んだ。」

…私はただ、玉座に腰を下ろして前を見る。

その来る時を待つ。

「…おい魔王。」

「なんだ。」

「…なぜ私を殺さなかった?」

答えはひとつだ。

これ以外に何もない。

「お前をこう使わねば私の望み通りにならないからだ。」

「…腐っても魔王か。」

嫌な笑いをする。

いくら私が戦いを避けたいとはいえ、必要な犠牲は払う。

その犠牲が有意義な物で有れるように私は全力を尽くす。

私の前に再び時空の歪みが出来る。

「連れてきた。」

そう簡潔に述べて私の近くに来る。

時空の歪みから3人の人間が出てきた。

「…貴様が魔王かッ!」

あぁ、始まるのだな。

「いかにも。私は13代目魔王、楼薙 薺だ。」

勇者と思われる者、傭兵と思われるもの、魔法使いと思われる者の3人。

魔法使いに至っては女だ。

この人数で私を倒すつもりなのか?

「さあ、そいつを引き渡してもらう。」

「分かっている。行け。」

水澪が自ら人間側に歩いていく。

誰の顔も見ていない。

私も、人間も信じていないとも捉えられる。

「…何が企みだ。」

勇者と思われる者が問いかけてきた。

「簡単な事だ。もう()()()()()()()()()()()。だから貴方達も私達を襲わないでくれ。」

「ふざけたことを言わないで!私達の国を襲っているのは貴方、魔王の仕業でしょ!?」

魔法使いが声を荒らげる。

「…何を言っている?私はお前たちの国に攻め入ったことは1度もない。」

事実だ。

私は1度も攻め入っていない。

国の中を進軍するようなことは1度も。

どういう事だ…?

「…アホが。あれは人王の自作自演だ。」

水澪がそう喋った。

…彼奴はどこまでクズなんだ。

自作自演までして私を殺したいのか?

そうまでして魔王を憎むのか?

「…は?」

「…うそ…。」

「…。」

1人を覗き、驚いた顔をする。

「ふざけるなッ!」

勇者が剣を抜いてこちらへ走ってくる。

「手出しは私が許しません。」

セフィロトが横から割って入る。

「てめェ!」

「はッ。」

鎧の上から拳を叩き込んだ。

見事に腹部の鎧がめり込んでいる。

鬼の懇親の一撃だ。

直撃しなくとも振動は伝わる。

「がぁっ!?」

その場に倒れ込んだ。

恐らく猛牛が腹部目掛けて突進したほどの衝撃はあるだろう。

「く…そ…。」

「勇者さん!?ッ!炎よっ!」

魔法使いが炎を呼び出す。

「…ごめんね。気持ちは分かるけど、そうはさせないよ。」

イルミナが追撃する。

蝶月(ちょうげつ)っ!」

光り輝く蝶が現れる。

その蝶は魔法使い目掛けて炎を消しながらヒラヒラと飛んでいく。

「いけっ!」

その掛け声と同時に蝶が小爆発を起こす。

「いたぁっ…い…。」

魔法使いもその場に倒れ込む。

「…残るはお前だけだが…。話を聞いてくれないか。」

傭兵のような男に問い掛ける。

「…おい勇者。お前らはさっさとそいつを連れて帰れ。」

「…でもお前が…っ。」

「やかましい、俺は元々魔王を殺す気で来たんだ。死に損ないはさっさと王の所に行っとけ。」

「…くっ。…おいニーナ!撤退だ…ッ!」

「ん、帰るのかの?安心せい、外までは送ってやるぞ。」

「…え?」

「それではの、魔王よ。あとは任せたぞ。」

そう言うと勇者達と共に時空へ消えていく。

…さて。

ここからが問題だ。

「…その殺気。どうしたものか。」

「どうもこうもないだろ。俺とお前が死ぬまで殺り合う。それだけだ。」

「魔王様っ…。」

「大丈夫だ。イルミナと一緒に外の見張りに回れ。」

この戦いは私だけでいい。

「…はい。」

イルミナを連れて外へ走っていく。

「…名前はなんという?」

「魔王なんざに教える名前はねえよ。さっさと殺り合うぞ。」

「私はお前と殺し合いをする意味がない。」

「はーめんどくせぇ奴だ。殺し合いに理由がいるのか?」

「少なからず、私は必要とする。」

私は戦闘狂ではないのだ。

無闇に殺しなどしたくない。

「…チッ。こちとら妹の命がかかってる。お前を殺せば王は妹を救ってやると。」

…ありえない。

あの人王がそんなことをするか?

ましてやこの男、人王が悪だと知っているようだった。

「っあの人王を信じられるのか!」

つい大きな声で反論してしまう。

「信じられるわけねぇッ!…でも…ッ!それしかねぇんだよ!望みはそれしか…っねえんだッッ!」

「…私は貴様を敵と認めたくはない。私のすべきことはお前と戦うことではなく、このような戦いを無くすことだ。」

「…だったらなんだ?大人しく殺されますってか?」

()()()()()()()()()()()()()()お前と戦い、お前を止める。」

「はっ。言ってる事がめちゃくちゃだぞ。」

「私でもそう思うが、王は屁理屈を通すんだ。人王も魔王も。自分の望む未来を描くためにな。剣を握れ、人間。」

殺さずに生かす。

この男の妹は救えない。

私の必要な犠牲となる。

…クソが。

「城を壊したくはない。森に出る。」

「この後に及んで背中を見せんのか?」

「攻撃をしたいのならすれば良い。」

玉座の後ろにある出口に向かう。

後ろからはおぞましい殺意。

男の武装は鎧、盾、剣と兵士と同じだ。

実力は分からない。

まだ未知数だ。

一歩一歩意識して外を歩く。

周りが全て木々になった。

目の前が少し開けた場所になる

「なぜ攻撃しなかった?」

「あ?隙がないからに決まってるだろ。わざわざいっせーので殺し合いを始めるってんならその方がよっぽど楽だわ。」

足を止める。

ある程度の広さ、ここなら何も邪魔にならずに戦える。

「…始めようか。」

「絶対に殺して妹を救う。」

私が信じる者の為に今、剣を抜く。

戦いを止めるための戦い。

矛盾はあれどそれを無理やり貫き通し世界を作る。

平和な世界を。

戦いのない世界を。

これが正しいとは思わない。

むしろ正しくない。

正解はといえば私がここで殺されればいい。

だがそれは出来ないのだ。

私の我儘でいくつもの人を殺し、世界を作る。

それが私の道の正解だ。

…行くぞルドベキア。

次回、謎の男VS魔王!

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