夢のような死
休むと言ったな、あれは嘘だ。
「…ん。」
朝ね。
吸血鬼はやっぱり朝に敏感。
セフィロトが起こしに来ることもあるけど数は少ない。
大抵はイルミナの方を起こしに来るわ。
ベッドの隣で寝ているイルミナを見る。
ぐっすりね。
…今日は覚悟の日。
やらなくちゃ行けない日。
とある作戦の日。
〜魔王城 謁見の間〜
扉を開ける。
力が少しいるのが苦だけどそんなこといってられない。
「ミナリか。早く来て貰って助かる。」
玉座には魔王様が。
隣にはセリルが。
「早速、作戦の内容を説明してくれる?」
「あぁ。行動はなるべく早くしたい。作戦だがまず、先日送った手紙の返事が来た。水澪を受け取りに勇者一行が来る、と。」
勇者一行…。
私はあの時動けなかったけど…。
確かに感じた。
とても強い気配を。
「だがミナリには…別の任務を同時進行してもらう。セリルも同行だ。」
「分かりました。」
セリルも一緒なら心強いわ。
「吸血鬼の生き残りが発見された。」
「…ッ!」
吸血鬼は私で最後だったはずなの。
私の目で見た。
血の国にいた吸血鬼は全員もう居ないはずなの。
「人間達に拉致された吸血鬼、他にも魔族がいる。」
「それを救って欲しい。」
なるほどね。
「でも…それじゃあ喧嘩を売ることになるんじゃ…?」
「それはあちらも同じだ。勇者一行が来るのだろう?強い戦力をこちらに回して殲滅を測るという事だ。これには私が全力を尽くして対処する。安心して欲しい。」
魔王様なら…大丈夫なはず。
どんなに強くても。
魔王様ならやってのけるって…信じてる。
「場所は…聖都ソル。人間側の中心都市だ。セリルは先に潜入してもらってある程度の位置を把握してもらった。そこでなるべく多くの魔族達を救って欲しい。…心苦しいが、死にかけは見捨ててくれ。」
「っでも!生きてるなら私が何とかできる!」
「ミナリ、お前の命が先なんだ!…分かってくれ。」
威圧的な声だ。
魔王様も本気。
その気持ちはわかると言わんばかりの苦痛の表情。
「…分かったわ。ごめんなさい。」
「逃げるのに足でまといになるような者は救えない。…あの拉致施設では魔族達が実験体にされている者もいるからだ。」
…なんでそんなことをするのかな。
私達は何もしてないはずなのに。
「…救えるだけ救う。それだけは約束させて。」
「頼む。」
「ミナリ様…その身は私がお守りします。ご安心を。」
「ええ。背中は任せたわ。」
「なるべく道は遠回りをしてくれ。勇者一行に勘づかれることだけはしたくない。そして救出方法だが…あるのだろう?」
「えぇ、あるわ。私の魔法に空間を作る魔法があるの。普通なら何千人も出来るけど…展開しながら逃げて、戦ってを想像すると数十人、出来ても百人程度が限界ね。」
空間魔法。
モーントナハトヴェルト。
私の後悔が産んだ守る為の魔法。
役に立つなら…なんでもする。
「そしてセリル、戦闘が予想される。最悪の場合は奥の手を使え。」
「仰せのままに。」
セリルも1つ大きい何かがあるみたいね。
私が危なくなっても何か出来るみたいだけど…使わせてしまうと何かのリスクがあるかもしれない。
出来るだけ私がやらなきゃ。
「…それではそろそろ行ってもらう。健闘を祈る。私の代わりに…出来るだけ…救ってやってくれ。」
〜人間側の領土〜
…そろそろ気を抜けないわ。
「ミナリ様、日光は大丈夫ですか?」
「ええ、無事よ。傘、差してくれてありがとう。」
「いえ、お気になさらず。」
セリルもよく出来た従者よね。
セフィロトとはまた違った形で。
「そろそろ聖都に入ります。翼は魔法で消した方が良いのではないでしょうか?」
「そうね、忠告ありがとう。」
視認をできなくする魔法。
翼に掛けて普通の人間のように。
「人間の街では出来るだけ堂々とお願いします。それでいて顔を隠すようにできれば尚良です。」
「得意よ?そういうの。」
優雅な歩き方、なんて物じゃないけどこれでも長い間生きてるから美しさはわかっているつもり。
「でしたら良かったです。これから私は傘を持てません。警戒に入ります。」
「ええ、持ってくれてありがと。」
「…門が見えてきました。私が対処しますのでなるべく喋らないようにお願いしますね。」
ここに入る時の設定は和の国の人間の貴族、という形で入る。
見かけは和じゃないけど案外そういう人、多いらしい。
「止まれ。検問だ。」
「お待ちください門番さん。お嬢様は貴族です。なるべく触れないようにお願いしたく申し上げます。」
振る舞いは完全に私の従者。
そう見えてしまう程完璧。
「こ、これは失礼しましたっ!お荷物などは内容なので!どうぞっ!」
「ありがとうございます、門番さん。お勤めご苦労様です。」
「はっ!」
敬礼をしている。
案外簡単に黙せるものなのね。
門を潜りそれなりに歩く。
その先には活気溢れる街。
奥に見える巨大な城。
開けた場所には噴水。
「…ふふ、セリル、なかなか様になっているわね。」
「本職ですからね、メイド。」
他愛のない会話はすぐに途切れる。
少しだけ傘を深く。
目が紅いから少し疑われやすい。
堂々と歩きはするが目を隠す。
周りの目は少し向いている程度。
でもこういうこと、人間側では普通らしい。
「あそこの噴水広場を右に曲がってその後、衣服屋があります。その裏道を通ると地下に通ずる道があります。そこに行けば拉致施設があります。」
「わかったわ。なるべく速く、自然に行きましょう。」
足取りは軽やかに。
上品に。
なおかつ少し速く。
「…おぉ…。どっかの貴族かあれ。綺麗なメイドさん連れて…いいなぁ俺もああいうの欲しい。」
人間の声が聞こえる。
人間は普通だ。
当たり前。
異常なのは私たち。
偽装している私たちが異常。
「曲がります。」
指示をしてくれるから大体の方向はわかる。
見ているのはセリルの足だけ。
前は見ず。
貴族風の歩き方をすれば誰も寄ってこなく、誰も前をあるかなくなる。
「裏道が見えました。行きましょう。」
人が少なくなる。
裏道には完全に誰もいない。
建物の影に隠れて日光は当たらない。
確認してバンに変化を解かせる。
「キーッ。」
「ありがと、バン。」
「この扉です。私が先に確認します。」
扉に手をかけて開く。
奥は少し暗い。
「誰もいません、行きましょう。」
〜地下〜
中に入ると階段がすぐにある。
地下へ続いているようだ。
一歩一歩足を落とす。
コツンコツンと足音は響く。
私とセリルの物。
少しではあるけどバンの羽の音。
私は気配の感知が上手くできない。
だから側近が居ないと奇襲を受けやすい。
加えて殴り合いなんかじゃ絶対に無理。
体は子供と同じだもの。
魔法を使えば別だけれど。
「…っ!」
「…何かあった?セリル?」
「っ…魔族の気配が1つ消えました…。」
「…なるべく急ぎましょう。」
足音は少しずつ大きくなって感覚も狭くなる。
階段の終わりが見え扉がまた見えた。
「…行くわよ。」
「準備完了しています。いつでもどうぞ。」
勢いよく開ける。
目の前には地獄が拡がっていた。
磔にされた魔族。
四肢のない魔族。
いいえ、それどころか人間までもいる。
ここは拉致施設じゃない。
拷問室。
屠殺場。
そんな印象が取れた。
目の前には女の人間が1人立っていた。
「…んぁーなんスか王サマ。始末書は出したじゃないで…ぉおーお。そっちでスか!」
髪は茶髪でボサボサ。
白衣を着ていて血で汚れている。
「魔族サン達が来るとは聞いてないでスね!…あ、どうでス?遊んでいきますス?」
耳を疑った。
遊ぶ?
これが…遊び?
「ふざけないで。何が遊びよ。ここに囚われている者たち全て解放しなさいッ!」
「囚われている…?はて、どういうことでス?これは私のオモチャでスよ?…あーっ!私のオモチャ奪う気でスね!?あげませんよー!あはアハ!!!アハッ!!!!!!!」
狂気だ。
目が笑っていない。
「正気とは思えません。不本意ですが殺しましょう。」
「それしか無さそうね。」
「んー?違うスか?…あーそっスか。」
「レッドレイバレット!!」
私の血の魔法。
急所に当たれば大怪我。
「ぉ。吸血鬼サンスか。いいです…っネッ!」
叫んだと思えば彼女の手には四肢のない魔族が。
「ァ…ッァァァ。」
「…うそ…。」
「落ち着いてくださいミナリ様。既に死体です。気にしては行けません。目の前の敵に集中してください。」
…そうね。
今だけは気にしないであの女を…殺す。
「んーなら生きてるオモチャのほうが盾になりそうでスね!」
四肢のない魔族はゴミのように投げ捨てられた。
そして新しい魔族が彼女の元へ突然現れる。
「ぃぁ…ァァアア!!!!!!っごわいよっだずげでっぁぁあアアアアア!!!」
「ちょっと静かにでスよ!」
何の躊躇いもなく何らかの方法で現れたノコギリで切る。
勿論ノコギリは切れるものでは無い。
削って切り落とすもの故に半端な位置で止まっている。
「アアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」
「もーやめてくださいよそういうの。後でお仕置きでスよ?」
「っ!っ!ぁ…っふぅぁぅ…!」
顔が恐怖で歪んでいる。
それを私は見ることしか出来ない。
盾にされている以上攻撃出来ない。
…こうなったら1人ずつ私の空間魔法で保護するしかっ!
「モーントナハトヴェルトッ!」
空間が歪む。
対象物はその空間へ吸い込まれる。
その空間の先は綺麗な夜。
どうかその場所で落ち着いて欲しい。
ある程度の自然治癒も期待出来る場所。
「セリルッ!攻撃をお願いッ!」
「はい!」
取り出したのは未知の技術の弓。
銃と言うらしい。
鉄の玉を飛ばして攻撃するというもの。
殺傷力はかなり高いらしい。
その鉄の玉は彼女の頭へと打ち出された。
「んー盾せんぽーもダメでスか。じゃあ戦うしかないでスね。」
何がが現れた。
泥のような。
血の塊のような。
得体の知れない何か。
武器を持っている。
「アタシ…こうやって生物で遊ぶの好きなんでスよ。楽しくて楽しくてでスね。いつしか遊びまくってたら名前が付いたんでスよ。ユーサネイシアっていう。その名の通り、遊んであげたオモチャ達みんなは安らかに死んでいくからそう付いたんでスかね?アタシわかりませんけど。」
…許せない。
人間を…魔族をもののように扱うなんてッ!
「やっちゃってくださーいアタシの怪物サン!」
「…ルインレッドライトピラーッ!消えっ…なさい!」
魔力と血を総動員。
大魔法だから…使う量は異常。
この魔法だけでも国1つ滅ぼせる。
そんな魔法をこの怪物一体に。
天井に魔法陣が現れる。
そこから柱状の闇の魔法がいくつも怪物へと放たれる。
怪物の体が削れて溶けていく。
私の魔法は魔力と血を使う。
使えば使うほど減るけど。
今は限度なんて考えない。
空間魔法は展開している。
「あれ…そんなにスぐ終わっちゃうんスか!強い強い!あ、でもアタシ具現魔法使ってるんでなんでも出来まスよ!」
「具現魔法っ!?」
名前の通りなんでも具現できる。
魔力の量があれば。
禁術の1つ。
なぜ人間が覚えているの…!?
「なぜ人間が覚えてるのーでスか?あ、今のは読み取りましたよ!私も覚えてないでスね!」
「悪いけどどうでもいいッ!シャルラッハロート・クリスタランツェ!!!」
毒のある結晶。
それを幾つもの数を生成。
槍のような形。
もちろん刺されば致命傷。
加えて毒もある。
殺すことが出来るはずッ!
「セリル、合わせてッ!」
「うーん。えーいっ!」
途端に体が重くなる。
体勢が維持できない。
立てない。
立とうとしても足が折れてしまいそう。
「この世界には重力ってもんがあるらしいっス!アタシの専門外でスけど。それを君たちだけ倍にしました!面白いでスね!もっと倍にしたら潰れまスかね?」
ダメ。
立たなきゃダメ。
立ち上がらなきゃ。
私は救うために来た。
ユーサネイシアが歩いてくる。
「よーく見れば綺麗でほそーい体でス。君の泣く声…狂う声…掠れた声…そしていずれは声すら出さなくなる姿を想像すると…っあっはァァァ!アハハハハハッ!楽しくて楽しくて仕方がないっス!」
「はァっ!」
手に鎌を生成。
赤黒く血塗れた鎌。
精一杯の力で振るう。
切り裂いた!
確かに感触があった。
「うわぁっ!?足の断面ってこうなんすね!太股の付け根は見たことありまスけどこの中途半端な場所は見たこと無かったっス!」
けれどそれは虚しく。
その場に座っただけ。
切断したのに痛みすら感じていない。
「どうし…て…っぐぅ!?」
「うぁっ!?」
「そっちのメイドサンは夢魔でスね!どうでス?アタシの作った怪物を孕んでみまスか?アハ!!!」
「バンッ!」
「キーッ!!!」
私の意思をくみ取ってユーサネイシアの背後を取った。
そして剣に変化しそのまま背中を貫く。
「ゲハッ!?刺される…って…痛いっ…スね。まあ無事なんスけど。」
具現魔法。
そんなことを出来るのは知っている。
「あ、そうだ。興味湧いたんでやってみまスか。私実は二重人格なんでスけど。もう1つの人格、もう数十年も出てないんでスよ。出してみまスか!」
え…?
二重人格…?
彼女の表情は徐々に変わって行く。
「アハッ!アハ…はぁ…は…ぁあ、…あああ。アアア!!!!!!!!!!!!嫌!!!嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌!!!!!!殺すのを止めてッ!辞めて!辞めてよ私ッ!あぁぁぁぁ!!!!」
重力が解かれた。
この子本当に…?
なら…それなら…救えるかもしれない…!
「あ、半分嘘で半分ホントでス。」
そう言って立ち上がった私を突き飛ばす。
「あぐっ…」
「名演技でスよね!でも私の中のもう1つの人格はいつもこううるさいんでスよ。」
何か…手は…っ。
一か八か…ッ!
「バレットッ!」
「おや!外しましたね!弱って照準も定まらないでスねー。」
「…狙ったのは…天井…よっ!」
「…んー??あっ!」
地下の天井が崩れてユーサネイシアを巻き添えにする。
「あっぐぁ〜…痛…。魔法魔法…っと。ふぃーこれ便利でスね!」
しかしすぐに回復。
「そろそろじゃないの…?セリル…ッ!」
「ええ、っこれで封じられたはずです。」
「んー?…あっ…。…こーいう終わり方でスか。魔力、スっからかんでス。アハハ。初めて戦うのは良かったでスけど。こういうのも考えなきゃならないっスねー。まあでも、どうせアタシ殺せないでしょ?二重人格のアタシは本当でスよ?私が目覚めたのは親が目の前で死んでる所からでスし。あれば面白かったでスね!」
それは…。
いや今はそんなことを考えない。
「いい加減にしなさい。囚われている人は解放させてもらうわ。」
「おス気にどうぞっス。どうせ動けないっスからね。アハハー。これじゃあユーサネイシアじゃなくてスターヴェイションでスね。」
「…いいえ。貴方も救います。」
「…セリル…?」
…どうやって…?
「面白いこと言いまスね!アタシ救ったらまたこれやりまスよ?生きがいなので!」
反省の余地は当然の如く見られない。
「生かしはしません。ですが殺しもしません。貴方に起こるのは…永遠の眠り。安楽死でも餓死でもありません。」
「ますます分からないでスね。どうやるんで…あぁ。夢魔。そういうことでスか。聞いたことはありまス。生きるのでもなく死ぬのでもなくずっと眠るだけ。そんな噂を私が体験できるんでスね!」
…いつまでも明るい発想をしている。
恐怖でしかない。
「貴方にはさせません。あなたは夢で殺します。」
「魔法発動。…これは死であり夢。ただの1度も起きることはなく。その世界の終わりまで夢を見る。」
そんな救い方も…あるのね。
セリルにしか出来ないわ。
奥の手は…これなのね。
「終わることの無い安らかな夢を。ハベナリアラジアータ。」
「…あーあ。もっとオモチャで遊びたかったっスね。夢で殺されるんでスよね?私。じゃ、おやすみっス!…もう1人のアタシをよろしく。」
「っ…。」
許せないことをした。
それは当たり前。
人を玩具のように扱い殺した。
許されるはずがない。
でも彼女には…。
それが普通だったのかもしれない。
それが幸せだったのかもしれない。
…なんとも言えない気分だ。
「私は彼女の後始末をします。ミナリ様は囚われている人達を救い出してください!」
「分かったわ。」
〜夢〜
足元が水面のようになっている。
姿が映るほど綺麗だ。
「ここがアタシの…アタシ達の夢。」
「ええ。ここでは私が絶対的です。」
「もう1人のアタシはとーぶん起きないっスよ。アタシがそうしちゃったから。」
呆然と立ち尽くしているユーサネイシア。
そして水面に写っているのはしゃがみ込んだユーサネイシアに瓜二つの人物。
「名前はなんて言うんですか?」
「知らないっス。ホントっスよ。この子だけが本当の名前知ってるっス。」
「悔いはないんですか?」
「…できれば…普通のせーしんじょーたいで産まれたかったっスねー。こんなのになったのはもうどうしようもなく二重人格のせいっスから。どうぞ、サイコパスのアタシを殺してください。」
「…。」
ナイフを取り出した。
「安らかに。」
首を刺した。
血は流れ出ない。
私は夢の中では絶対。
痛みのない死を。
〜地下〜
「…セリル。目が覚めた?わ」
「はい。…この子もお願いできますか?」
「…いいのね?」
「大丈夫です。ただ、その子は眠っているだけ。覚めない眠りについているだけ。保管場所は私が提供しますので帰りの際、寄り道させてください。」
セリルがそう言うなら本当に大丈夫なんだろう。
私は信じる。
仲間を信じないと…ね。
「分かったわ。…汚れ、魔法で綺麗にするわ。」
「ありがとうございます。…速めに戻りましょう。魔王様が心配です。」
「そうね。私の魔法もいつ限界が来るか分からない。急ぎましょう。」
階段を上り外に出る。
〜帰り道〜
「この当たりで一旦あの子を出して頂けますか?」
「分かったわ…っと。ここって…。」
空間からあの子だけを出す。
セリルはそっと抱える。
「魔の国跡地周辺です。良ければ着いてきてください。」
そういうと茂みの中を歩いていく。
何か魔法で作られている。
魔力がねじ曲がっている。
少し開けた場所に出た。
広がっていたのは広大な花畑。
「綺麗ね。」
「魔王様には秘密で作りました。いつか魔王様と魔王様の母様と一緒にここで遊ぼうと決めて…使えずじまいの場所でした。」
「魔法で場所を隠してあるのね。」
「出来損ないの私が頑張って魔法で隠蔽したんです。誰にもバレない。ここなら見つからない。この子には…ここで良い夢を見てもらいます。」
「それがいいわね。」
良い夢が見れそう。
たくさんの花が咲き、夕焼けが見える。
セリルはそっと花畑にユーサネイシアであったものを寝かせた。
「帰りましょう。私達はここで止まっていられません。」
「ええ。魔王様と速く合流しないと。」
ユーサネイシア。
それよりもより楽な死。
それは覚めない睡眠。
起きることも起こすことも出来ない。
眠る中で夢を見て、夢を見て、夢を見て。
それはきっと。
夢のような死。