高次元の魔法使い達
お待たせしました!1周年記念です!!!!!
時間軸はカーマインと水澪が戦う前くらいです。
「…っぁ!?」
自分でも情けないと思える声が出た。
夢を見た。
覚えてはいない。
かなり夢を見ることが多くなった。
セリルがいるからだろうか?
…単純に疲れているだけだ。
最近は貿易関連で執筆作業、血の国、和の国、他散らばってある町や村全ての現地に赴き何かあれば状況を改善するための手立てを考える。
大事ではあるが疲れる仕事ばかりだった。
よく見ればまだ日は登り始めたばかり。
疲れていながら眠りに付けないのは少し行けないな。
しかしなんだか眠気が冷めてしまった。
いつもなら寝れてしまうのだが。
…少し外に出ようか。
ベッドから出て礼装に着替える。
服も何かとこれしか着ていない。
いつか買いにいくのも良いかもな。
…私に似合う服なぞこれか鎧だけだったのだが。
部屋のドアに手をかけ扉を開ける。
廊下はしんとしている。
天井が高いため私の足音がよく響く。
大きな廊下の窓を覗く。
「…星もまだ見えるな。」
本当に早く起きすぎた。
何をしようか…。
突如背後から気配。
「…ッ!」
咄嗟に回避行動。
いたのは漆だった。
「うおっと…すみません魔王様。」
慌てて膝をつき謝罪する。
「…私も漆のことは言えないがこんな朝早くにどうした?」
「それは…たまたまとしか。ふと目が覚めたらこの時間、今日も色々仕事があるので考え事をしていたらいつの間にか気配を消していたようで…。すみません。」
「漆も、か。」
「もしや魔王様も?」
スっと顔を上げてこちらを見る。
「膝は付かなくていい。流石にそこまでされるとこちらも困る。」
「失礼しました。」
ゆっくりと立ち上がる。
「私も目が覚めてな。何かの縁だ、付き合い願おうか。」
「承知。」
~魔王城 外周~
色んな話をしつつ外へ出た。
「…さて。突然だが…最近体が鈍ってはいないか?」
「鍛錬は欠かした事はないですが…実戦などは最近全く。」
「なら。」
ルドベキアを不意打ちで投擲。
難なく漆は避ける。
状況を察したようだ。
「あの時以来ですね。なら加減は要らず、と。…紅葉。」
目の前から姿が消え、紅葉が舞う。
高速移動か?
いや違う。
姿が消えた。
しかし微小だが気配を感じる。
…来るっ!
「そこッ!」
ルドベキアを手にもどしそのまま迎撃。
「流石!…漆黒。」
再び姿を消す。
今度は本当に何も感じない。
ならば棒立ちは非常にまずい。
仕方ないが魔法を使うか。
このような朝に瞑想をせず魔力が高まっていない時でも戦う時はあるはずだ。
その演習と思えば!
「…燃ゆる花。ラヴァ・リリー!」
設置する炎の花の魔法。
独自に改善を重ね爆破するようにした。
自分の周囲、不規則に発動させて破裂。
咲いた花は全て跡形もなく爆発し溶岩に変質する。
「…これでも反応はなしか。まだッ!」
次はルドベキア本体に魔力を込める。
「ヴァッサーショックッ!」
剣を構え自分を中心に全力で回転斬り。
水の魔法を少し応用したもの。
剣の軌跡通りに水を発現させ、衝撃波のように飛ばす。
回転して描いた軌跡は自分を中心に波のように広がる斬撃となる。
まだだ。
一瞬も気を抜かない。
相手は漆。
暗殺者であったもの。
耳を澄ます。
これほどのものを一気に行えば少しは何かが見えるはず。
気配を感じることに数秒魔力を使う。
後方3mに何かとの地面の擦れ。
「そこだッ!」
地面を蹴り間合いを詰め攻撃。
「くっ!流石は魔王様…真正面からじゃ歯が立たない!」
刀で防御される。
「ルドベキア、形状変化。」
手から剣状のルドベキアは消える。
そして再び手に現れるのは2つの剣。
ルドベキアの性質上持っている質量以上のものに変化させることは出来ない。
しかしそれ以外なら何にでも姿を変えられる。
二刀流だ。
私の剣を受けていた漆は剣が消えたことによりバランスを崩している。
ここで決める。
「せいッ!!」
前に倒れる漆の首元へ攻撃。
だが、上手くは行かなかった。
くるりと体を回転。
「我が技お見せ致す。其ノ壱、羅刹ッ!」
刀で切り込まれる。
回避が間に合わないっ…!
「あぐっ…ん…?」
手首が切断されている。
切断面は何故か黒い。
痛みもなければ流血もない。
「あの頃はまだ暗殺者と言ってない。バレたくなかったからこういうの使ってなかったんです。」
「…む。今回は私の負けだな。…それはそうとこれ…戻るのか?」
「この技は羅刹。ただ切断されるだけの技。30分経つか俺が故意的に戻すかで治りますよっ…と。」
ふと目を離した隙に手が戻っている。
「不思議な感覚だな。…しかし、流石は漆と言ったところだ。生半可な気持ちで戦っては殺される。」
「何をおっしゃいますか魔王様。貴方が1番とてつもないじゃないですか。初見で気配を消す俺の技を見切って反撃までする。こんなの普通は出来ない。」
「自分で言うのもなんだが…魔王だからな。強さを持って当たり前だ。」
だからといって慢心するのは良くないが。
「ふー。そろそろ戻った方がいいんじゃないですか?だんだん明るくなってくる頃…っ…。…何者かの反応が。」
漆が何者かを感知したようだ。
私にも感じられた。
人間1人、魔族1人。
動物の反応もある。
…どういうことだ…?
「…恐らく馬車かと。敵意も感じられない。今日誰か来られる予定は…?」
今日は誰も来ないはずだ。
しかもこの朝方だ。
何か緊急かもしれない。
「少し様子を見に行こう。」
魔王城は崖の上に作られている。
ある程度の敷地、魔王城の出口から真っ直ぐ進めば城下町へ繋がる道が。
城下町は本当に城の下にある訳ではなく少し離れた町のことを指している。
普通ならばある程度近くにあるものだが先代魔王は侵入されることをかなり嫌っていたようだ。
その作りのおかげで魔王城への出入りの様子などが見やすくなったのもある。
何者か、はその道を通っている。
出待ちする形にはなるが行ってみよう。
~城下町へ通づる道~
「そろそろ接近するはずだ。」
城から少し歩いた。
道は整備されているがほかは森。
「一応俺は隠れておきます。何かあった時不意打ちできるよう。」
流石、と言うべきか。
考えることは暗殺者そのものだ。
奥から馬車が見えてくる。
馭者は男の老人。
そして荷台にもう1人。
「止まれ。」
すんなりと止まってくれた。
「これはこれは、もしや魔王様でございましょうか。」
身軽な動きで降りてこちらまで来る。
見た目は老人ではあるがこの身のこなし。
そして姿勢の良さ。
老兵かと思わせるほど。
「どうも私ベルジュ、と呼ばれているものです。」
私に向けて礼をする。
「その辺はどうでも良い、何用だ?場合によっては捕らえることになるが。」
「これは失敬、急用でございまして、連絡等をすることができませんでした。お嬢様、こちらへどうぞ。」
念には念を押す。
漆にハンドサインでいつでも動けるように伝えた。
「この者が失礼をしましたわ。許してくださいまし。私の名前はこのような場では明かすことは好ましくありませんの。身の潔白を何か証明できれば良いのですが…今はまだ出来ませんの。」
怪しくはない。
ないが仮にも私は国を治める王。
簡単に受け入れては流す垂れる。
「行け。」
漆に指示を出す。
あくまで捕らえるだけ。
「きゃあっ!?」
後ろから短刀を首元へ突き付けている。
「殺しはしない。今はとにかく着いてきてくれ。」
「お嬢様っ!」
「っいいですの。大丈夫ですわよベルジュ。」
「見た所何処かの貴族だと思うが少しの間来てもらうぞ。」
~魔王城 謁見の間~
「さて、この場所まで来たのだ。ある程度のものは伝えられるのではないか?」
万が一に備えて漆にアンチマジックをかけてもらった。
魔法等を一切使えなくする魔法。
聞こえは不思議だがその効果は抜群。
「えぇ、ここでなら私の招待も明かせますわ。私はレーヴァ・イグナイト。現イグナイト家の当主であり、唯一の生き残りですわ。あまり外等の公の場では名前も出したくはありませんので…こうなってしまいましたの。」
そう明かすのはダークエルフの彼女。
整った白色の長髪に美しく白いゴシックドレス。
更にはまた白のカチューシャ。
装飾にはルビーが。
しかしダークエルフ。
肌の色は褐色でより一層白が際立ち美しく見える。
「イグナイト家…!…失礼なことをした、非礼を詫びよう。」
「いえ、魔王としての最善の動きだと私は思っておりますわ。気にしないでよいですわ。」
「漆、解いてやれ。」
そう言うと漆はレーヴァから離れ、小さく例をする。
「魔法の名家として名高いイグナイト家か。しかし勇者襲撃により全ての魔法の名家は壊滅したと聞いたが…?」
「魔王城からの支援もありまして、何とか無事でしたわ。」
「そうか…良かった。…立ち話も失礼だな。応接室がある。そちらに場所を移そう。」
~魔王城 応接室~
私とレーヴァは椅子に座り、漆とベルジュ、と呼ばれたものはそれぞれ付き人として立って話を聞いている。
「…なるほど。そのような状況だったか。今後そちらの方にも支援を多めにしておこう。ある程度続けば生活も楽になるはずだ。」
「ありがたい限りですわ。私の近くに住む子供たちを見放せはしなくて…。」
ドアのノックする音が聞こえる。
「失礼します。」
セリルが入って来た。
おそらく察して来てくれたのだろう。
「紅茶を淹れてきました。どうぞ。」
「感謝しますわ。」
「これはこれは麗しいメイド殿、お疲れ様です。」
レーヴァは紅茶を口に運び、ベルジュはセリルに向けてお辞儀をした。
最高級、なんてものでは無いが口には合うだろう。
「良い味ですわ。そろそろ本題に入ってもよろしくて?」
「む、これが本題ではなかったか、まあいい。何用だ?急用でもあったようだが。」
「前々期三魔将の1人、アルマス・フロストが見つかりましたの。」
「フロスト…!?」
漆が驚いている。
何か関係があったのだろうか。
「アルマスか、私の前の…。」
アルマス・フロスト
それが彼の名前。
前々期三魔将の1人であり、氷の魔法の名家、フロスト家の10代目。
そして私が務めていた魔将の前任者でもある。
交友は少しある程度だったが。
フロスト家やイグナイト家等の魔法の名家や貴族は私達魔王城からの支援を受け、魔法研究、技術研究などを行っていた。
他にも沢山いたのだがあの勇者の襲撃でほぼ全滅。
そして今、イグナイト家とフロスト家の生存が確認されたのだ。
「何故今まで来なかった?私達も捜索には手を貸したのだが。」
「私もできれば手を借りたかったのですがアルマスから聞いていた勇者襲撃以前から存在があった暗殺者、彼もまた情報をどこかで聞きつけるかも知れない…という危険性がありましたので…。」
漆が小難しい顔をしている。
「どうした漆、何か言いたいことがありげだが。」
「ん…まあ。白状しておきます。そのフロスト家の暗殺者、多分俺です。」
「えっ!?」
「なっ!?」
私のレーヴァ揃えて声を出す。
「予想で話します。あくまで予想。依頼主は光の魔法の名家なんだろうと思う。魔力の気配からそんなんだった。んで殺した方は氷の魔法の9代目だろうな。そのアルマスが10代目なら。」
「確かに…あの2つは揉めておりましたし。可能性は無くはないですわね。」
「まあ…その殺した殺してないはその実どうでもいい。アルマスはどこにいる?」
それが1番大事なのだ。
救える者がいるのなら私は誰だって救う。
「人間の国の研究所で囚われていますわ。」
人間の国か…。
「研究所だとしたら主都市から離れている場所か?」
人間の国は私達魔族とは違う作りで国は1つ。
だが規模が違う。
巨大な都市1つが国となっている。
ある程度離れても人間はいるが都市ほどでは無いのだ。
そして研究所など都市のような場所に大々的に作るものでは無い。
仮に事故があったとしたら責任を取れない。
故に町の外れ、都市の外れなどに設立する。
「そうですわ。ベルジュがはっきりと確認しましたもの。ねぇ、ベルジュ?」
「はい、この目でしっかりと、若干の老眼ではありますがな。ハッハッハ。」
「ベルジュ…か。つかぬ事を聞くが何者だ?」
「この子は私がに拾いましたの。80年前ですわよね?魔の国が崩壊してしばらくの頃、生き残って住んでいたんですの。」
魔の国の崩壊。
魔族全体を通してみた時に統率が取れていない国であった。
大きくわけて3つの国。
和の国、私達が住む魔王城の城下町、そして魔の国なのだ。
森の街などは大方どこかの国に属している。
1番大きいのは城下町。
言うなれば町、などと言うよりは城下国だが。
2つ目に和の国。
人間も住んでいるため比較的多い人口になる。
そして1番少なかったのが魔の国。
少ないとはいえ国。
数はかなりの物になっていた。
だが魔の国の統率者が相当の悪党だった。
私達魔王城側には媚び諂い、自分以下の物には傲慢な態度。
悪事を尽くしていた。
それの一環で救ったのがセリルだったのだ。
奴隷商売など良くやろうと思ったものだ。
私の父、前代魔王は魔の国への支援を全て断ち切った。
貧しい人達は全て見捨てた。
私はまだ幼かった故、止めることも、その事を知ることすらなかった。
その国の生き残り…か。
魔族は愚か人間にまで手を出していたか。
…なんとも言えない気持ちだ。
「名前もフランベルジュ、というとても良い名前もつけて頂きましたとも。もう少し時が経てば死に体ではありますがな!」
「随分と元気なようで。」
「ははっ!若い少年殿に言われるとはまだまだ私も行けますかな?」
「無理はしないこと、ですわよ。」
しばらくアルマスについて話し合った。
どう助けに行くか、作戦は、戻る場合の足は。
など、色々話し合った。
疲れも見え始める。
「…ふむ。皆疲れが見える。そろそろ休憩にしようか。気を楽にしてもらって構わない。」
「お言葉に甘えさせていただきますわ。貴族、とは言われましても苦手なものは苦手でして、きちんとした姿勢は特に苦手ですわね…。」
同感…だ。
魔王として威厳ある姿を見せなければならないからな。
誰も猫背で声が聞こえにくい魔王なんて見たくないだろう。
「あ、そうですわ。少し、個人的にお聞きしたい話が。」
「なんだ?答えられるものならいくらでも良い。」
「魔王様含め、この魔王城にいる皆様、どのくらい魔法が使えますの?ある程度なら私も教えられることがありそうですので。」
「そうだな。簡単に説明すると私達には幹部クラスという物がある。実力、先導力等。それらが備わった人材達に付けられるものだ。ここにいる漆、外で待機しているセリルも幹部クラスだ。そして幹部クラスは天才的な魔法を必ず1つは持っている。」
例外もいるがな。
カーマインは忍耐力、圧倒的な怪力。
セフィロトもカーマインには及ばずとも怪力、技術もあれば種族が覚える専用魔法も習得している。
その他の皆は魔法等の能力が平均よりずば抜けて強いもの達に幹部クラスは付けられる。
「なるほどですわ。魔王様はどれくらいでして?」
「私は…光魔法以外なら自己流に扱える程度はある。さしずめその程度だ。私は剣技と身体強化魔法を主として戦っているのでな。」
「っ!?」
「…まあ驚くのも無理はないよね…。俺も聞いた時はびっくりした。こんなに恐ろしい程の才能を持っているんだってね。」
我ながらそう思ってしまう。
精霊王直々の教えだった、というのもあるが。
彼奴は魔法の創設者と言ってもいい。
そんな奴から教えられたのだ。
上達してしまう、理解してしまう。
憎たらしいほどにわかりやすいと言ったらありはしなかった。
教えられては身につけの繰り返しでいつしかこうなっていた。
「どんな魔法の使い手でも極められるのは1つですわよ!?…いえ、魔王様ですものね。不敬な発言をしましたわ。お許しくださいませ。」
驚いた様子だったが直ぐに落ち着きを取り戻した。
「何、貴方達ほど上のレベルのものを使える訳では無い。尊敬するのはこちらの方だ。」
何しろ1つの属性を研究しつくし、使い、極めた彼女たちには到底叶わない。
「で、では炎の魔法はどれくらい!…あ。失礼しましたわ…。私とした事が…興奮してしまいましたわ。…魔法の名家はどれも変人ばかりと言われたものですが今のは自分でもそう思えてしまいますわね。」
また落ち着きが消え去る。
「イグナイト家は炎の魔法の研究をしていたのだったな。私は…っ。…と。こんな感じだ。」
部屋の中では炎は危険なのは当たり前。
手のひらの上にラヴァ・リリーを作り出す。
あくまで完全な発動などは見据えずの使用なので破裂などはしない。
「わぁっ!これは…っ!」
ガタッと席をたちこちらに迫る。
髪はふわっと揺れ貴族特有のいわゆる高級そうな匂いが。
どちらかと言うとまだ私自身感覚は庶民だからな。
如何せんまだ高級品などは慣れていない。
「なるほど…そういう…ではこうすれば…?いえ違いますわね…ならばこう…ッ!」
レーヴァが近距離にいる。
私の手のひらにできた炎の百合を見ると同時になにか呟き出したと思えば私の魔法を即座に模倣してくる。
「…把握はしましたわ。それにこれは完璧な発動ではないのですわよね?」
「あぁ。ここから更に精密に魔力を即座に込めると爆発のようなものを起こす。普段は地面などに発動させる。発動後は溶岩のように熱い物体が出来る。足場の制限などでも使えるな。」
思わず魔法トークに花を咲かせる。
「…!私の炎の魔法の研究の最高傑作である炎の更に上。爆発を不完全な形ではありますが…それを逆に利点とした魔法ですわ。…私以外に爆発というものに着眼した方達はいませんでしたのですが…。流石は魔王様ですわ。私が何年もかけてできた魔法を独学で出来るなんて…!」
饒舌も饒舌。
舌が止まらない。
どれだけ貴族であっても好きな物は止められないな。
「ふふっ。やはり根は研究者か。どこにいてもその探究心、調査能力、伊達ではない。」
「あっ…。私またやってしまいましたわ…。申し訳ございませんわ…。」
ふと素に戻ったのか肩を竦めて元の席に戻る。
「話を戻すが…。そうだな。魔法技術支援はかなり助かる。魔法の訓練というのはまだ1部しかやっていない。アルマスを救った後で詳しくのその話をしよう。」
「えぇ、そうですわね。失礼を掛けましたし…そろそろアルマスのいる研究所へ足を運びましょうか。」
「では俺はカーマインを呼んできます。」
漆がドアを開けて部屋から出ていく。
「頼んだ。私たちは先に行こうか。セリル、皆にある程度の事情を伝えておいてくれ。」
開いたドアを確認してそのまま部屋外にいたセリルに話しかける。
「かしこまりました。行ってらっしゃいませ、魔王様。」
〜研究所 付近〜
馬車で移動している。
荷物検査は無理やり押し通った。
メンバーは私、レーヴァ、ベルジュ、カーマイン、漆、だ。
アルマスの状況は詳しくはわからない状況である。
優位的なのか、それとも危険な状態か。
作戦はこうだ。
まずはカーマインに囮として行ってもらう。
ただ行くだけでは襲撃と変わらない。
そこである程度認識がベルジュが弱った魔族を捕獲した、というていで潜入。
その間に漆にも潜入してもらいアルマスを探す。
戦力はベルジュだけでは劣るのでカーマインが適任だった。
もしアルマスが何かがあって暴れていたとしても氷を使うカーマインならばある程度は耐えられるだろう。
そこは臨機応変なのだが。
プラスしてこの研究所からの人間の国へ行く情報を全て経断つ為に研究員を全員こちらに引き入れなければならない。
失踪という形で人員を全て抜き去り、こちらで保護、そして私たちのために研究を続けてもらう。
理不尽ではあるかもしれないが私達の仲間を捕らえた罰としてはちょうどいいだろう。
殺しは私が容認しない。
しないが、使えるものは使う。
それが魔王だ。
あくまで捕らえるだけ。
「…頃合だな。頼んだ。」
「頼みましたわよベルジュ?」
にこやかな笑顔でベルジュを見送る。
「ええ、必ずや。」
応えるのように更に笑顔を見せてくる。
長年の付き合いなのだろうな。
「私もやるんだかんねー!このおじさんだけじゃないよ!もー!まあいいや!いくよー!」
「元気なようで!ハッハッハ。では…そろそろ静かになさってくだされ。」
〜研究所〜
森の中にあるのは古臭い石の家のようなもの。
研究所としていかにもらしい雰囲気を醸し出している。
「ご苦労だ爺さん。まさか半竜人を捕まえるとはな。」
なーんか拍子抜けー。
凄そうな器具とかありそう!と思ってわくわくしてたけどしょぼーい。
拷問器具っぽいのはあるね…。
痛いの嫌いだから興味無い!
合図があるまで暴れちゃダメらしいしー。
弱ってる演技とか1番苦手なんだけど!
「ぐー。…がぅ!」
「…チッ。人語すら喋れねーのか。研究材料としてはまあ…言葉覚えさせるとかにはなるか。どうせ体を研究することになるんだがな。」
あれ、喋ってよかったんだっけ。
まーいいか!
「おい爺さん。コイツ運ぶの手伝え。」
「弱っています故。さほど手間はかからないかと」
「あ?…んなら首輪でも付けとくか。取ってくるわ。待ってろ。」
研究員が奥へ消えていく。
「さて、カーマイン殿。作戦の確認は必要ですかな?」
「だいじょーぶ。」
小さな声で答える。
ただじーっとその時を待つ。
何をされても耐えれるし私なら大丈夫!
大事なだいじーな任務だからね!
「これ錆びてんな。弱ってんなら問題ねぇか。っと」
私の首元をがっしりと掴み首輪を付けようとする。
それだけはダメ。
「…ッァ。」
「んだようるせぇな。…あーそういやぁ竜とかって逆鱗があんだっけか?ハッ。首元肌なのに逆鱗?笑わせるぜ全く。」
どうしようもなく。
本当にどうしようもなくそこは嫌。
何かが煮えたぎる。
ふつふつと。
なにかが溢れそうになる。
まだその時じゃないの。
耐えて私。
あぁ。
それでも何かは煮えたぎる。
それでも何かが溢れそう。
あ、もうダメだ。
耐えられない。
意識の糸がぷつんと切れた。
〜研究所外〜
「ッ!」
「…?どうされましたの?」
「…ああ、これは非常に不味い|。」
おぞましい程の殺気を感じた。
誰のものなのかすら直ぐに分かってしまった。
形容しがたいなにか。
怒り?苦痛?憎しみ?
そういったものがぐちゃぐちゃになったなにかが。
この近辺に流れ出す。
「カーマインが不味いことになっている。」
「…助けはいりますの?」
「いや…私でも無理だ。」
レーヴァが慌て出す。
「それほどの人間が強いのですか!?」
「いいや…。カーマインが手をつけられなくなっている。」
「…え?」
きょとんとしている。
それもそうだろう。
私も噂程度には聞いている。
逆鱗。
良く逆鱗に触れる、という言葉があるだろう。
竜には一つだけ鱗が逆向きに生えているのだそうだ。
その存在は私達魔族が竜族、半竜人達と共に生きると決めた後に知られ始めた。
お互いの情報を交換し合うのだ。
それで知った。
ある竜とある魔族が喧嘩をしたらしい。
それで取っ組み合いになったとか。
そこで初めて私達は本当の逆鱗に触れるという意味を知った。
その竜は豹変したように怒り狂い、嘆き、暴虐の限りを尽くしたのだという。
何百年もの昔の話だ。
私が産まれる前の。
事実だった。
この殺気。
それ以外では説明がつかない。
「恐らく…だが研究員か誰かがカーマインにある逆鱗に本当に触れたのだろう。止められはしない…が。できるだけ抑えよう。ベルジュや漆のためにも急ぐぞ。」
漆は姿を消して潜入してもらっていた。
何も知らず…というのは無さそうだが。
万が一だ。
何かあってからでは遅い。
馬車の中から出る。
…が。
私は足を止めてしまった。
「…酷いな。」
研究所はある程度の大きさはある。
教会などの建物くらいの大きさだ。
強度も研究所なのだ。
そう簡単には壊れるはずがない。
…はずはがないのだ。
壁に穴が空いている。
「レーヴァ、支援を頼む。」
背中を任せる。
叫び声が聞こえた。
カーマインのものでは無い。
人間の声だ。
翼を総動員させる。
思いっきり地面を蹴って思いっきり羽ばたく。
急げ。
なるべく死人は出したくない。
カーマインの姿が視認出来る1まで来た。
速く。
もっと速く。
「があああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!!!」
「…。」
無言だ。
カーマインが無言なのだ。
ただ冷酷に。
人間を破壊していた。
人間は無惨になっていた。
四肢は切断はされていない。
…いや。
切断された方がマシだろう。
見える関節は拳で破壊。
普通は曲がらない場所までも破壊。
「だず…げ…っハッ…ああああああああぁぁぁ!!!」
腹に指を突き刺す。
鱗で固く。
鋭く尖った爪だ。
包丁などよりよく刺さる。
「カーマインッ!正気に戻れ!カーマイン!」
肩を揺らす。
「はっ!?」
一瞬にして殺意が消えた。
戻ったのか…?
「…カーマイン。」
「…あ。…私…もしかして…これ…やったの?」
「あぁ。…覚えているか?事の顛末は。」
「ごめんなさい…喉元を思いっきりぐっと掴まれて…そこから記憶が無い。」
「そこが逆鱗なのか?」
「…鱗はないけどそう。…すごく嫌なの。ここ。ましてや思いっきりやられたから…。」
後からレーヴァが駆けてくる。
「お二人共っ!…っ。」
レーヴァも察したようだ。
「…気にするな。私たちはもとより人間達の敵だ。殺す時は殺す。殺してしまった今、人間達もおそらく聞く耳を持たず襲いかかるだろう。生かしていても意味は無い。…やりたくは無いが作戦変更だ。アルマス以外は…全て殺せ。」
殺しはしたくない。
穏便に済ませたい。
だが今放って置いたとする。
何らかの方法で本都に伝わったら?
人間の国も、私達魔族の国も。
根本的に汚いところは変わらない。
証拠は消し去る。
だから殺す。
私は世界を救う。
争いのない世界を作る。そのために動いている。
そのためには殺しはいいのかと聞かれたら答えはいいえだ。
だが私たちが不利になる情報が簡単にいきわたることは好ましくない。
殺すしかない。
「わかったよ。」
「魔王様がそうおっしゃるのならそうするまでですわ。」
戦闘態勢に入る。
「私は漆に伝えに行く。」
空いた穴に飛び込む。
「敵襲だ!迎え撃…っ魔王!?」
「すまないが今回は死んでもらう。」
数は6。
喋った物がおそらく今この現状を仕切っているのだろう。
空から斬り込む。
1つ首が飛ぶ。
驚きの様子で動けなくなっている守護兵士。
腹に1突き。
抜いてもう1人。
「クソっ!うおおおおおああ!!!」
槍をもった兵士が走って襲いかかる。
素人だ。
槍の使い方を知らない。
持ち手の部位を壊して落とす。
そして刺す。
「挟み撃ちだァッ!」
剣をもった兵士2人。
…確か前にもこのような状況になったな。
その時は殺してはいなかったが。
素早く逃げる。
避けることは不可能だ。
2人同時なのだから。
斬る動作に移る前に逃げる。
そして反撃する。
背後を刺す。
体から抜き最後の一人。
首を斬ろうとするが防がれる。
「ぐっ…そぉっ!」
「甘い。」
思い切り力で押す。
仰け反った所、首を刺す。
「か…が…」
刺した部位からヒューと呼吸が漏れている。
…殺しは嫌いだ。
自分が自分で無くなる。
私が三魔将の頃は殺しをし尽くした。
何せ魔王が力による圧政だったのだから。
反逆すらない程の力。
ねじ伏せねじ伏せ、それで均衡を取ろうとした。
結果破れたが。
今は違うのだ。
戦いを無くすために魔王になったのだ。
殺しをするなぞ本末転倒。
無駄な殺しはしたくない。
先に急ごう。
「魔王様ッ!一体何…が…っ…。」
「情報の拡散を防ぐための殺しだ。アルマスを救い出すのを優先。アルマス、ベルジュ以外の人間は殺せ。」
「…承知。アルマスは監禁されているらしい。俺はその方面に向かいます。」
「わかった。私は殲滅を行う。」
〜数分後〜
「…カタはついたか。」
気配はしない。
周囲にはベルジュ、カーマイン、レーヴァ、漆、そしてアルマスらしき気配以外はない。
「…殺した者へ…新しい世界へと行くがいい。私を恨むがいい。…浄化せよ。」
供養の魔法。
効果はあるかと言われたら分からない。
しかし気持ちだけでも。
殺した者のことを思わなければならない。
そう思わなければ殺しは合法となる。
「魔王様…。…火葬しますわ。」
「頼む。」
ゆっくりと全ての死体に火がつく。
死体は燃える。
燃えるのは簡単だ。
魔法による炎なら直ぐに灰になる。
「お許しくださいまし…。」
「…。」
カーマインも目を瞑っている。
決して怖いからなどでは無い。
当たり前だ。
殺したのだ。
好き好んで殺したのではなく。
仕方なく。
ごめんと謝るのなら殺すなという話。
せめて次の正で良い生活をと願っている。
「魔王様!アルマスを見つけました!」
「っアルマス!」
「おー薺…っと。今は魔王っすね。この度は救ってくださりありがとって感じだわ。」
黒いコートとズボン。
黒く短めの髪だ。
手には手錠が付けられて身動きの取れない状況。
「逃げようとは思ったんすけどこの手錠、付けると魔法が使えなくなるみたいでね。よくできてるわ。俺には力はないしでどうにもならなかった。助かる。」
「アルマスッ!心配しましたのよっ!」
「…俺にしちゃこの状況の方が心配なんすけど…。こんなに派手やっちゃって…ってその方がいいのか。バレない。うん。流石は魔王。、全て合理的っすな。」
「良く生きていてくれた。帰還を喜ぼう。」
「これ…後始末必要っすねー。後でやっておくっすよ。礼ぐらいはな。」
「手伝おう。私達が殺したのだから。」
〜魔王城 応接室〜
「ふー。疲れた疲れた。」
アルマスが椅子に座り込む。
「…改めて、よく無事でいてくれた。」
「どうもどうも、こっちも助けられて嬉しい限りでございますよっと。」
昔からフランクな喋り方をするのは変わっていない。
上のものであろうと下のものであろうとこの口調だ。
「魔王様、私からも感謝申し上げますわ。」
「何、気にするな…っと。私はそろそろ仕事をしなければならない。元々あるものを放って行ったからな。漆をここに置いておく。何かあったら言ってくれ。」
「えっ俺なの!?自分で言うのもなんだけど結構気まずいよ!?」
「あー親父だろ?殺したのは気にしてないっすよ。むしろクソみたいな野郎だったから嬉しいぐらいだ。」
何か事情があるようだが。
「それではまた。今日のところはゆっくりしてくれ。部屋も貸し出す。」
「お言葉に甘えさせて頂きますわ。」
「うす。お仕事頑張ってくれっすよー。」
扉が閉まり数秒の無言が続く。
最初に口を開いたのはアルマスだった。
「なああんた!俺の親父殺したんだろ!?どうやったんだ!?俺でさえ殺そうとしても隙なかったんだぜ!?」
「うおぉっ!?」
「あ、私も気になりますわ!見たところあのゲテモノ、あくどい癖に隙だけはなかったんですもの!私も幾度か殺してやろうかと思いましたのに常に見られてる感覚でして…。」
「確かに、私が若い頃、お嬢様にやれる?なんて聞かれた時もありましたな。到底無理でありましたが。」
「…お…お前ら容赦ないんだなほんと…道理で暗殺依頼が届くわけだ。」
「で、どうなんだよ!聞きたかったんだよどう殺したか!」
グイグイ来るな…。
じゃ、みせたりますか。
「見てろよー。」
姿を消す。
漆黒を発動した。
攻撃するまでは完全に姿も気配も遮断できる。
「おぉ!?いねぇ!?…気配もねぇ!?流石は暗殺者だな!どこだ?どこにいるんだ?」
「本当ですわ…全くわかりませんのね!」
へへ、なんか新鮮だなこういうのを褒められんの。
それではちょいとレーヴァの背後に…。
「ッ!」
「ゴハァッ!?バレたの!?いま明らかに肘入れたよね!?」
どういう原理か分からないが位置がバレた。
「なるほど…原理は分かりませんが温度の変化までは誤魔化せませんのね。私、炎の魔法を得意としておりますから…温度には敏感ですの。」
「なるほどなぁ。魔王様にもバレたしこれもまだまだ完全じゃねぇなあ。」
俺も成長の余地がまだありそうだ。
鍛錬をもっと積まないとな。
「それはそうと暇っすね。」
「ですわね。」
「…俺は別にいいんだけど。」
…っ嫌なよかーん。
「漆さん、荒らしても良い場所、ってありますの?」
「あるぞ。俺の使ってる鍛錬場がある。外にな。案内するか?…どうせやり合うんだろ?…何となくわかるぞ。」
「ハッハッハー。暗殺者さんにはバレバレの様っすねー。俺たちは元々研究するより戦って高めあってたんでな。」
「案内お願いしますわ!」
「私はあのメイド殿の手伝いをしてきましょう。存分に楽しんでくださいな、お嬢様。」
〜鍛錬場〜
まあ当然俺は見物するだけ。
魔法の名家同士のぶつかり合いなんて見られないからな。
魔王様にも許可取ってきたし。
『やっぱりか。好きさせるといい。』
なんて言ってたし。
んで、お互い魔力を高めてる。
まずそこで驚きだがあのアルマス。
魔力の許容量が異常だ。
何となくわかるんだ。
空気中の魔力があいつに一気に引かれてるっていうか。
魔王様でもそこまでならない。
なっても一瞬とかそのぐらい。
アルマスはこうだ。
ずっと引き寄せてる感じがする。
恐ろしいな!
「ゥラァッ!いくぜ!」
「よろしくてよ!っせい!」
先に動いたのはレーヴァ。
普通の炎の魔法………なんだよな?
魔法の初級。
魔法を属性に変えて飛ばす。
中級。
位置を定めて発動させる。
上級。
自由に操作出来る。
これが鉄則だ。
魔力の消費量からも初級の炎魔法なんだ。
けどだ。
あの速さと威力はやべぇって。
見えねぇ速さで飛んで行った。
「フンっ!」
アルマスも応戦した。
ひえーっ。
もう流石としか言えないぜこれ。
俺その域まで達っせないぞ。
「飛ばしていきますわよ!オニキス…ッ!」
そう叫ぶと黒い炎がアルマスを追尾する。
大きさは大小どちらもある。
追尾するものは避けても追って、しない物もある。
「まだまだ行きますわッ!そろそろタガが外れますわ!」
「っ!ほっ!よっと!…どしたどしたァ!テメェ鈍ってんじゃねぇのか!?そんなもんじゃぁねェだろ!クリスタルオーダーズッ!標的は…戦闘狂のお嬢様だぜ!」
アルマスの背後に無数とも言える氷柱が現れる。
「うるせェ!…っですわ!」
あっ。あれ作ってたんだ。
見た目お嬢様どぅみてもだったから素なのかなと思ったけど。
ダークエルフって自分を隠せないって言うらしいけどほんとだな。
「ハハっ!ですわ?油断してっと死ぬぜ!」
「燃えよッ!まだまだ燃えますわよッ!プラチナッ!」
今度は白い炎だ。
しかも自分に纏うタイプの。
飛んでくる氷全てを殴って粉砕。
燃やして粉砕。
避けては粉砕。
お嬢様…なんてのはもしかしたらあってないのかもな…レーヴァって。
「お嬢様ぽくない…と。そんな顔をしておりますな?」
「お、来たか。気配は感じてたぞ。」
「私から何も言うことはありません。ただ見に来ただけですな。」
レーヴァが間合いを詰めた。
手に纏っていた白炎は突き放すような動作でアルマスに向かって飛ばした。
「ぐあぁっ!?あちちちち!!!!」
「その無礼な言葉、万死に値しましてよ!ペリドット!!!!!!」
っ!?
な、なんだ!?
何かが来る!?
…上?
っあっ!?
隕石!?
うっそ!?
いや…炎だ!
まさかそんなレベルまで達しているのか…。
神様もびっくりだろこれ。
「がァァァッ!死ぬわけにゃ行かんのでなァっ!こっちも本気だ!!!グレイシャー…ロゼッタ!…行けるか分からんが…魔力半分使っちまうぜッ!」
なんだなんだ今度は!?
床!?
今度は床なのか!?
マジか…!!
床が凍って…氷の床がどんどん上がってる!!
「っ!バランスがっ!」
「そしてこいつを破壊!…そっから…クリスタルオーダーズッ!」
氷の床に亀裂が入ったと思えば今度はまた浮かび上がった。
この砕いて氷塊になったものを氷柱として扱って相殺するつもりだ。
「ぐっ!…やりますわね!」
「っし!相殺出来たな!っへん!っと油断してっと死ぬぜ!アブソリュート!」
刹那、レーヴァが氷の中に。
一瞬でレーヴァごと凍らせたのだ。
「完璧!そんまま数分いたら死ぬぞ。負けを認めちまえよー!」
これは勝負ありか…?
いや…氷が溶けてる!
それもそのはず炎の魔法の使い手だからな!
そりゃ何とかできるだろう。
「本気ですわよ。ルナ・ピエトラ・フィオーレ!」
感じたのは熱気。
凄まじい程の熱気。
白い炎がだんだんとアルマスを中心に渦巻いていく。
「うおっなんだ!?新技!?アブソリュートッ!」
賢い判断だ自分の周りに氷を貼って守る様子だ。
だが炎は分が悪い。
永遠と生成し続けられれば良いが…。
「負けを認めるのはそちらでしてよ!決めますわ!咲け!」
白炎は一気に凝縮した。
次の瞬間爆発した。
見えたのは白い炎の薔薇だった。
技ですら綺麗とは…。
「…知ってますわよ。生きているのは。」
ってかガチで殺し合いになってないか?
大丈夫かこれ。
「っはー。最後にしようぜ。俺はこいつで決める。大魔法…発動。」
「では私もこれを最後としますわよ。耐えてくださいまし?」
強大な魔法を使うようだ。
迫力が凄まじい。
「我が魔法の極地、お見せしよう。」
出来たのは氷の剣だった。
アルマスからはもう魔力を感じない。
あの剣にはおぞましい程の魔力が加えられている。
「私の炎は…消えても。必ず火傷を残しますわ。もしかしたら火傷は愚か体も残らないかも知れませんわね…。」
「へっ、お前も流石にでけぇ魔法作ったか!」
「全て、この身を一槍に。…レーヴァテイン!」
レーヴァからは焼き焦げるような熱さ。
熱が伝わる。
見えたのは紫色の炎…。
いや、炎で出来た槍だ
わかる。
あの槍は必ず貫く。
貫いた部分は燃え尽きる。
そう分かる程の熱量だ。
「アインソフアルマス!」
アルマスは氷の剣を振った。
1振り、アルマスの辺りは凍てついた。
辛うじてレーヴァの熱と相殺してこちらには影響は及ばなかった。
2振り、剣の軌跡は凍る。
3振り、大量の氷柱が一瞬で出来上がる。
来る。
その時が来る。
両者とも踏み込んだ。
「アアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
4振り。
レーヴァに向かって切りかかろうとする。
氷柱はレーヴァへ一斉掃射。
辺りは強烈な光に包まれた。
「はぁぁぁぁぁっっ!!!!!!」
光さえ振り払った。
その投擲は光に勝った。
光を押しのけ唯我独尊。
氷柱すらも全て溶けた。
アルマスの顔をスレスレで飛んでいく。
持っていた氷の剣は消えていた。
恐るべきはレーヴァだった。
鍛錬場の壁。
大きな崖の下にある鍛錬場。
その崖。
一瞬にして2つに別れた。
1kmは割れた。
「…あは…化けもんだぜ…あんた。流石っす。」
ただ俺は呆然と見ていた。
「これの問題点は命中率とコスト、ですわね。その時点で持っている魔力全てつぎ込むんですもの。」
「俺じゃ相性悪かったっすなぁ。」
「あなたも相当化け物でしてよ?今の魔法、確実に氷と光、どちらも極めて居ないと出来ませんわ。それも同レベル。…やはり私たちは行き過ぎたのでしょうね。」
「かもな…。でも、だ。それでも勝てぬ相手がいる。…あの魔王め。俺のいない間も永遠と成長してやがった。恐ろしいっすなぁ魔王の血は。」
俺は忘れない。
この出来事忘れられるわけないだろ。
神の域なんじゃないか?
あぁでも、そんな神様みたいな魔法を使うやつらでさえ恐れ慄く存在がいる。
魔王様。
俺たちの魔王様。
裏切る気なんか毛頭ないが…。
こりゃ裏切れねぇな。
改めまして1周年です!
いやぁ早いもんですね。
これからもこそこそと書きますのでどうぞよろしく!
そして来月はお休みになると思います!
2話から現在に至るまでの文章修正を行いますのでどうか暇な方は見直してみてくださいね!