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年を越す宴

明けましておめでとう

今日は1年の最後の日。

何かと祝う日は人間もこちら側も騒ぐのだ。

休戦状態というのもありこの時期に襲われるということはない。

我々は年を越すだけだと思ったが和の国はそうでは無いらしい。

雹華が元々いた社。

あの周辺全てを使って祭りをするらしい。

魔王城の仕事はもうない。

…たまには皆で行くのも良さそうだ。




~魔王城 漆の部屋~

そうなるとまずは詳しい者に聞くのが良い。

ドアをノックする。

「はーい。」

「薺だ。」

「どうぞー。」

ドアに手をかけてそっと開ける。

「どうしたんだ?急に来るなんて珍しいな。」

「いや何、今日は年越しだろう?皆で和の国にお邪魔するのもいいかと思ってな。」

何気ない会話を交わす。

「あーなるほど。いいと思うぜ?雹華も絶対暇してるだろうしな。」

許可は取れたな。

「時間帯はいつ頃が良いだろうか?」

「そりゃ夜だな。暗くなってからが本番だし。…あそうだ!なんなら今から連絡すりゃ魔王城主催で宴会開けるな。あの村長気がいいからな。どうする?やるなら連絡取りに行くが。」

宴会か。

前に和の国でした以来忙しくて出来ていなかったな。

気晴らしにもなるし気持ちを切り替えられそうだ。

何より楽しい。

「それはいいな。頼む。」

「うし!任せろ!許可取れたらまた伝える!」

私も皆に伝えようか。

…和服、あっただろうか…?

いや、まずは皆を集めて伝えるのが先だな。





~魔王城 謁見の間~

「よく集まってくれた、皆。」

王座から立ち上がる。

皆が私の前で整列している。

あの後すぐ漆が帰ってきて許可が取れたのを確認した。

だから魔王城主催の宴会が開くことが確定した。

「今日、夜から和の国で宴会を開くことになった。そのため城から幾つか宴会用に食べ物を持っていく。準備するぞ。」

「あら、宴会?随分久しぶりね。」

横で立っていたミナリが前かがみになってこちらを見る。

「おぉー!お酒!肉!食べ物ー!うおーーー!!!」

ぴょんぴょんとカーマインが跳ね回っている。

やっぱり食べるの、好きなんだな

周りの魔族、魔物たちも騒がしくなり始めた。

「私そういうの初めて!どんなことするの?」

イルミナまでもが期待の眼差しでこちらを見る。

「その説明は俺からしよう!和の国の年越し行事、通称天令祭(てんれいさい)。屋台がめっちゃ出る。雹華が珍しく人前に出る。こんな感じ?」

イルミナとカーマインが目を輝かせている。

「雹華が人前に、か。」

「そう言えば、雹華さんは通常誰にも姿を見せないんでしたね。魔王城にいることが多かったので忘れていました。」

思い出したようにセリルが喋る。

「早速宴会の準備に取り掛かろう。漆の司令通りにしてくれ。」

ぞろぞろと動き出す。

「セリル、ちょっといいか?…まだ私の和服はあったか…?」

「はい!もちろんあります!毎年仕立てていますよ。」

ぬ、準備がいいな。

「助かる。着ていくから用意しておいてくれると助かる。」

「かしこまりました。」

「ふーん。着物…ね。」

頬杖を着いてミナリが考えている。

「ミナリさんも着てみますか?」

「え…いいの?…でも時間ないんじゃない?」

「私は錬成程度なら直ぐにで来ますのでご希望のものがあれば是非申し付けください。」

「え!私も着たい!」

イルミナも食い気味に迫って来た。

「構いませんよ。では私たちは別行動にしましょうか。よろしいですよね?魔王様。」

にこやかな笑顔でこちらを見てくる。

「あぁ。構わないさ。ゆっくりするといい。時間はあるしな。」

私も運ぶものは手伝ってこよう。




~和の国 祭会場周辺~

「すごーい!!これがお祭り!たのしそう!」

またイルミナが目を輝かせている。

森にずっと住んでいた分、何もかもが新鮮に見えるのだろう。

そして煌びやかに光る着物。

振袖のミニスカートの和服。

黄がベースの色になっていて背中の羽根も出している。

袖が蝶の羽根のようになっている。

「ホントだよ!すごいすごい!なんか食べ物もいっぱい!」

カーマインはどうかは分からないが…。

和服でもない。

いつものタンクトップにデニムのパンツだ。

彼女自身氷を生み出す器官があるから寒さには慣れてる、と言うが見てるだけでも寒そうだ。

彼女に限らずそういう魔物たちはかなり多い。

「ちなみに祭りで雹華の演舞があるんだがそれが年明け前に始まる。まあ頭の隅に入れて置いてくれ。さーて回るか!俺も少しハメ外すぞ!」

漆はいつも通りの黒い装いだ。

「じゃあ行きましょうか!セフィロト、イルミナ!」

ミナリもイルミナと同じ振袖ミニスカートの和服だが色は黒がベース。

白がサブとしてイルミナと揃えたのか蝶の模様がある。

スカートはあまり盛り上がってはいなく控えめだ。

「はい、ミナリ様。では魔王様、また後ほど。」

セフィロトは依然変わりなく執事服のままだ。

「またねー!」

セフィロトを横に付けて奥へ消えていく。

「皆似合っているな、和服。」

かく言う私の和服は普通の着物。

黒色がベースだ。

足元には紅い華の模様。

髪型も合わせて後ろでポニーテールにして結んでいる。

そもそもの髪が腰くらいまでの長さのため、かなりポニーテールも長くなっている。

なんだか和服は新鮮な気分だ。

「魔王様も似合ってるよー!美しさも最強だね!じゃ私も食べ物色んなの食べたいから行ってくる!」

もう1人奥へと消えていく。

カーマインの脳内は食べ物しかないのか…。

「まー美味いもんは沢山あるしな。俺はやることは…ないっちゃないが…案内するか?」

「してくれるのなら有難い。」

「私も楽しみです。」

セリルも久しぶりの催しで気分が高まっているようだ。

そのせいか自分の和服まで来ている。

それでもメイド服風の和服。

自分の地位は揺らがないらしい。

「うし!じゃーあっちからだな!」






~数時間後~

「そろそろ行く場所も無くなってきたなー。…宴会、そろそろ開くか?」

「ふむ。…時間も頃合だろうな。では行こうか。」

「じゃあ俺は開始するってこと伝えておくよ。先に行っててくれ。」

「では行きましょうか魔王様。」

「ああ。」

ゆく人、ゆく魔物、ゆく魔族。

全てが楽しそうだ。

和の国は唯一人間も共存している。

数は少ないが共に生きていくと決めてくれた人々だ。

「…なんだかこうして私達だけで歩くのは久しぶりだな。」

「そうですね。…私がまだ子供の頃時以来でしょうか。…私がメイドとなってからは常に一緒にいることはあっても歩くことはありませんでしたからね。…楽しいです!」

いつになく楽しそうな笑顔だ。

「そうだな。更に久しぶりに酒に溺れようじゃないか。…今回はそれなりに抑えるが…。」

「皆様にあんな姿を見せてはたまりませんからね!」

笑っている。

私も好きでああなっている訳では無いのだが。





~神の社~

続々と見物人が集まってきている。

宴会会場もここなため集まるのも道理。

「今回は魔王城主催宴会に来てもらって嬉しい。どうか楽しんでくれ!」

グラスを乾杯。

カンと高い音が至る所で響く。

「…っ。…ハッー!うんめェ!こういうとこで飲む酒はいいね!」

「それじゃおじさんじゃないのよさ!私も…っ…っく…ぷはー!なにこれおいしー!」

相変わらず酒が絡むと途端にうるさくなる2人だ。

カーマインは分かるが…。

漆は人間の年齢でいえばまだ酒は飲めないであろう。

…まあ種族のことは何も言えない。

「確かに、静かに飲むよりは騒がしい方がいいわよね。」

「ミナリ様、どうぞ。」

セフィロトがミナリへワインの入ったグラスを差し出す。

「ありがとう。セフィロトも気にせず楽しみなさい?」

「お言葉に甘えて。」

「美味しそうな物がいっぱい!誰が作ったの?」

イルミナが不思議そうに聞いてくる

「私と魔王城の食堂の皆さん、そして和の国の有志協力者の皆さんですよ。魔王城の皆さんだけでは辛かったので。」

「すご!んむ…んむ。美味しい!このお肉さいこー!」

「ふふ、よかったです。」







~数分後~

「お、始まるみたいだぞ。」

漆がなにかに気づいたようだ。

徐々に周りが静かになっていく。

そして数秒後、風が吹く。

そして社にある階段の目の前になにかが出来る。

辻風…?

そしてそれが消えた後には雹華の姿が。

いつもの巫女服ではなく、和服のドレス。

髪型もいつもと違う。

髪はセンターで分けポニーテール。

結び目に(かんざし)が。

雰囲気が違う。

淑やかで、麗しく。

それでいて悲しげ。

動き出す。

手をゆっくりと空へ掲げ舞い始める。

「あれが演舞か。」

「俺もそんな数見てるわけじゃないんだけどすげえもんだぜ。あの雹華が…いや。あれが雹華なのかもな。」

何かを知っているような言い草だ。

あまり深く関わってはいけないのかもしれない。

「しかし、本当に美しいな。」

その動きは見るもの全てを魅了している。

雹華の顔までもが演舞の一部と化している。

動き一つ一つが靱やかで無駄がない。

「綺麗だね…お姉ちゃん。」

「ええ、私には到底出来ないわね。」

話しているうちに雹華の動きがピタリと止まる。

再び辻風が吹き気付けばそこに雹華の姿はなかった。

その場に拍手が鳴り響く。

「素晴らしかったですね。」

「あぁ。…さあ、終わったようだし、いつものやるか。飲み比べだ。」

「うっしゃぁ!やるか!」








~和の国 社の崖~

宴会は終わり年越し寸前。

祭りも終わりに近づいている。

社の奥の林を抜けて崖に出る。

見通しがいい。

崖の下は森が。

目の前には腰掛け。

そして雹華が座っている。

「なんじゃ、来たのか、漆。」

「まーな。久しぶりに話がしてたくて。…うり、年越し…狐うどんだ。」

「気が利くの!カッカッカ!」

器を渡す。

「して、話とは?」

「なに、無駄話だ。…お前、変わったよな。」

「…ふぅ。誰のせいだと思ってる。私をそうさせたのは漆、お前だ。」

「ははっ、懐かしいなそれ。…いやこっちの方が聞き慣れてる。…あん時はビビったぜ?突然語尾にじゃ、なんてつけてるんだからな。」

和の国で戦いが起きて、ここに来た時。

昔とは180度変わっていた。

明るくて、楽しそうで。

「私もこれではいられぬと思ってな。気に止めるな。わ。暗かったの私がケジメを付けられずにいただけの事。」

「そんなら良かった。…ま、話はそんぐらい。」

「ん、ならよいのじゃ!頂くとするか!」

箸を手に取りうどんを口にしている。


月が見える。

完全な形の月。

満月は俺たちを照らしている。

「綺麗だな。月。」

「なんじゃ告白か?古めかしいものを知っとるのう。」

「なわけないだろ。綺麗だったから言っただけ。」

「まあ綺麗じゃの。」

「…なぁ。俺は人を殺しても。魔物を殺しても…許されるのか?」

「知らぬわ。わしはお前を最初はただの泣き虫の童だと思っていた。だが違った。お前は暗殺者じゃ。殺しすのが性じゃろ?ならいいんじゃないのか?…仲間殺しは許されるとは思わないが。」

「…んだよな。変なこと聞いてすまん。」

「殺しを申し訳なく思うのか?それこそ侮辱じゃ。」

「…あぁ。そうだな。すまん。」

俺は…殺しをして生きている。

それだけは覚えていなければ。

「ぬ、恐らく年があけたようじゃな!」

「もうそんな時間か。…んじゃ、明けましておめでとう!」

「わしに言うのか?うむよい!演舞をしたわしへの労いとして捉えておこう!今年もよろしく、じゃな!」

今年もよろしく!

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