表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/43

殴リアイ 後編

今更なんですけど会話文の前に人物名置く書き方やめれば良かったとおもってる。

後編です!

私は人間だった。

まだ子供、歳は14の頃。

私は両親と山越えをしていた。

楽しい遠足のようなものだった。

何にせよ私は()()人間だった。

私は不運なことに山賊に誘拐された。

そして私の両親を騙した。

金目の物を寄越せば私を返すと。

金品を奪い取った。

私は野山に放り捨てられた。

森の深くに行けば凶悪な魔獣。

出ようとすると山賊がうろつく。

せいぜい生きて2週間ほどだっただろうな。

そうだ。

私は1()()()()()()()

食べ物にもありつけず。

誰も助けに来ず。

だが今、私は生きている。

何故か?

蛟の存在だ。

水神、とまで言われる怪物。

この世界に唯一1匹だけ存在する。

私はその怪物に救われた。

死んだはずの体は生き返った。

餓死で痩せこけた私の体は元に戻った。

蛟は言った。

「元の居場所へ帰れ。お前は人として生き、人として死ぬべきだ。」

私は大急ぎで和の国の家に帰った。

これでのやっと普通の生活に戻れる。





そんな甘い話ではなかった。

2週間も行方が分からずじまいだった子供が無傷で帰ってこられるわけが無い。

「貴方は私の子じゃないわ!!来ないで!あの子はもう…いないのよ!」

私は私だ。

母の娘だ。

でも私の母は私を娘ではないと言った。

私は母の子だ。

それなのに母にお前は子ではないと明言された。

私の中で何かが崩れる音がした。





国の中の集落で住む場所を探した。

だが、皆に恐怖された。

両親にさえ見捨てられた。

…知っていた。

こうなること、何となく知っていた。

私の生きる国は私を受け入れてくれない。

死んだはずの人間が帰ってきたのだ。

死者を待つ国なんてない。

住むならもうあの山しかない。

救ってくれた蛟のもとへ私は向かった。

あの方は受け入れてくれた。

私は恩義を尽くそうと誓った。





だが、それも叶わぬ願いとなった。

1年も立たず、私達の居場所がバレた。

私を嫌に思った奴らがいた。

蛟の言われるがままに隠れた。

誰にもバレない場所へ。

数時間後、安全を確認し蛟のいる場所へ戻った。

あるのは死体だけだった。

ここいっぺんは蛟が支配していた。

結界もあった。

全て蛟によって管理、守護されていた。

今、すべてが途切れた。

無法地帯となったこの山。

私には帰る場所はない。

また死が見える。

あるのは蛟の死体だけ。

私はソレを食った。

何故か分からない。

どうしてか分からない。

でも、相反して腹は減る。

文字通り背に腹はかえられない。

そうしていつの間にか…()()()()()()()






「…性にも無いことをした。何故殺さなかった?」

少し体をふらつかせながら立ち上がる。

倒れ込んで昔話をしてくれた。

普通なら話さずに攻撃の隙を狙った筈。

殺意は感じる、けど。

どうしてもこの子が気になる。

「唐突だけど私ね、魔王様の所にいなかったらきっと貴方を庇ってたよ。」

拍子抜けな発言に呆れた態度を示してくる。

「…ウザったい偽善だ。お前ら竜は戦闘狂だろうが。庇う?抜かせ。」

「だって…貴方のこと、痛いほどわかるから。」

「ッ誰にも私の事がわかるわけが無いッ!ふざけるなッ!私は…ッ私はあの方のために生きると最後に誓った!それを分かられてたまるかッ!」

思いは私へとぶつけられる。

「でも貴方を助けたその蛟は人王についていくことなんて望んでないんじゃない?」

「それを叱ってくれるあの方はもういないんだッ!」

私に殴りかかる。

体力の消耗は回復してはいるようだが怪我などの問題は依然変わらず。

私も水澪も致命傷。

「っが!?…ダメだって分かってるなら…止めるべきでしょッ!」

1発殴り返す。

打撃は直撃するも威力は見ての通り。

人間とさして変わらない。

ただの殴り合いなのだ。

魔法とか、種族の力とか。

そんなもの、今この場所じゃ関係ない。

殴って思いをぶつけ合う。

思いが伝わらないから殴り合う。

そうだ、私は昔からこうだった。

殴リアイ。

「…ッアア!」

体がフラフラだ。

今にも崩れそうな足を固定。

込められるだけの力を込めてアッパー。

流石に効いただろう。

「っぐううああっ!!!」

「がっ…あっ…。」

大きく後ろに仰け反ると思いきや踏みとどまり頭突きを全力で。

ガードもなく素で食らってしまった。

立ち上がってまた数分。

頭突きでダウン。

同じくまた水澪も頭突きの勢いを止められず前のめり。

「ふーっ…はぁ…っ。埒が明かないね。」

「…ぁ……。」

意識が朦朧としているようだ。

「…はは。これでも私はまだ動けるって私の腕が言ってる。」

「…。」

私は仰向けに空を見る。

水澪は私のお腹にうつ伏せ。

動けないのだろう。

私だってあんなの自分で食らったら動けない。

「私ね。…本当に貴方と仲良くなれる気がしたんだ。でも、それは叶わない。私は魔族側だから。昔みたいに…人間に竜達が支配されている時代だったら。私は…貴方と友達になれた気がするよ。」


私は意志なんてなかった。

ただただ強いだけの竜の一族。


「う…るさ……ぁ…。」

「…本当はあなたの気持ちなんて、知ろうとしても分からない。私ってバカだし。でも、なんでか助けてあげたいって思ったの。」


ある日知った、()()


「…っあっ…!」

鉄のように思い腕を振り上げて私の胸へ叩きつける。

痛い。

「…これは私からのお願い。聞いてくれたら嬉しい。…寝ていいよ。」


竜の一族の中で私が最初に知った『思い』

これをあなたに伝えるまでは。


「…っ…ぁ。」

いつか必ず貴方を助ける。

それが今の私の思い。

拳に入れていた力が抜けたようだ。

完全に気絶した。

張っていた気も途切れたのだろう。

この子にあった思いもボロボロで。

何をして生きるのか分からなくなってた。

それだけは馬鹿な私でもわかる。

蛟…それは確かひとつしか存在できないもの。

神のような存在は、ひとつだけ。

この子はその蛟を生き返らせたかったのかな。

でもこの子はもう人間ではなく蛟の力を受け継いだ化け物。

この子自体が既に蛟。

戦ってわかった。

もし生き返ってもどちらかが消えてしまう。

それはこの世界の真理。

正しい物は一つだけ。

偽物なんていらない。




…私の昔は戦って、戦って、戦って。

怪我して、戦って。

帰ってきて、戦って。

竜の血を持つものは人間に1度支配された。

人間の生物兵士。

騎乗生物。

奴隷。

都合のいいものとして。

改造、実験、研究。

鼠が如く使い回された。

それまでの私の生きる意味は戦って戦って戦い尽くす事だったから。

ただ戦って、魔族を殺して。

また私は戦って。

殺して。

戦って。

殺して。

それで皆を解放できて。

『自由』を知った。

広大な草原。

巨大な山。

木々生い茂る森。

私は自由を知って初めて…。

初めて今までなんのために生きてきたんだと考えた。

なんのために戦って生きたんだと考えた。

その時の私は戦う事が生きがいだった。

殺した人間のことなんかどうでも良かった。

…なんのためになるかなんて考えたこともなかった。

分からなかった。

生きるため、私は戦い続けた。

そしてあの森で。

私は変わった。

殺してしまった人の分も生きたい。

そう考えられるようにもなった。

考えることが、思うことが、優しさというモノが。

…この子には生きることになんの意味も持たせずに死なせたくない。

敵と言えど元は人間なんだ。

私は…私の思いを信じる。

この子を守りたい。



「今だけは甘えさせてあげる。…なーんて。」

魔王陣営に知らせないとだけど…。

私も正直しばらく動けなさそう。

救援筒…なんてのは持ち合わせてない。

氷を打ち上げたらなんとかなるかな。

「はぁ…っ…あ…っ!」

私の体内器官も限界だったみたいだね。

この氷1発で限界。

高い空に向かって打ち上げる。

力がらすっからかんになるのを感じる。

手は動くのだが他が一切ダメ。

首は上がらず足は動かず。

「私も…ちょっとだけで寝ちゃおっか。」

今だけは私の体もこの子に…水澪に。

預けても…大丈…夫…だよ…ね…。

「…。」








〜魔王城 見張り台〜

「…!あれは…カーマインの氷か?随分と高く上げておる。救援代わりか?ともあれ急がぬと。」






「報告じゃ。恐らくだがカーマインからの救援要請。一刻を争うはず。わしは足でまといになる。漆と防衛を変わろう。速度なら漆の方が速い。」

魔力の微かな動きを感じたその瞬間、雹華が現れた。

「把握した。直ぐに向かわせよう。万が一に備えてセリルに医療班の要請をしておいてくれ。今は避難所として利用している宿屋にいるはずだ。」

私は間違っていなかったようだ。

カーマインからの救援要請か、もしくは戦闘中なのか。

「位置はどの辺りだ?」

「近辺の森の東側周辺じゃな。」

「カーマインを優先して、救助が出来次第すぐに退避だ余計なことはしなくていいと漆に伝えて向かわせてくれ。」

「あいわかった。」






〜森の奥 東側〜

速く、できるだけ速く。

俺の取り柄は速いくらいしかないんだからな。

風魔法を利用した高速移動。

100mも一瞬だ。

気を避けつつ最速でいるとされる場所へ向かう。

だんだんと何者かの魔力が強くなる。

2人ほど。

しかし魔力を感じるにどちらも弱っている。

相打ちかまだ戦っているか。

「間に合ってくれよ…っ!」

もっと速く。

足がもげそうなほど速く。

そして開けた場所にたどり着く。

そこに居たのは倒れ込む2人。

派手に倒れているカーマイン。

そしてカーマインに寄り添うように倒れている青髪の少女。

「…。」

ゆっくりと近付く。

まずは青髪の少女だ。

首元に手を当て脈を。

少し弱いが気絶しているだけだろう。

そして…カーマインさん。

…まあ見れば分かるのだが寝ている。

しかし傷はかなり酷いものだ。

相打ちになり共倒れしたのだろう。

「カーマインさん。…カーマインさん!」

揺さぶって起こす。

「…んぁ…っあたた…。」

腹部に手を当てて痛みを感じている。

「大丈夫ですか?」

カーマイン「いやぁ…結構限界かな…。えへへ。」

見ればわかる。

出血。

腕と足の鱗の損傷。

腹部に弾丸のようななにかに撃ち抜かれた痕。

基本竜は自然治癒が速いらしいが。

「その気絶している方は。」

「この子が襲撃して来た子だよ!コテンパンにした!…まぁ…私もされたけど。捕虜として捕らえた方がいいね。あと危険だからしっかり監視できるところにね。」

「カーマインさんは動けるか?」

「情けないけど…翼も足もダメ、ちょーっと動けない!」

「俺が担ぎます、これでも男ですから。」

…とは言ったものの2人を担ぐとなるとやりにくいな。

「…肩車でいいですかね?」

「肩車!?お、おことばにあまえて…」

姿勢を低くして肩に乗ってもらう。

「だ、大丈夫?重くない?」

「天狗の名は伊達じゃない…っしょっと。」

少女の方はお姫様抱っこ。

これなら持ちやすい。

「ちょっとたどり着くのは遅くなります。では行きましょう。」

「おー!…案外いいかもこれ…。」

…確実に戦闘をして。

辛いはず、体も苦しいはずだ。

それでもなお普段のように明るく振る舞う姿を見ると…。

カーマインさんは本当に強い。

精神的にも肉体的にも。

俺がこれほどまでに戦った後ならへたれている。





〜魔王城 謁見の間〜

「ふぅ…着いた…。」

「このままいけいけー!」

「はいよぉー…っと!魔王様ー!今戻りましたー!」

大きな扉を開ける。

襲撃してきた少女、水澪と言うらしいが。

その子は肩車されているカーマインに担いでもらっている。

絵面だけ見ればどんな状況だって感じだが。

「予想より早かった。よく戻った……?」

まあそうだよね。

この絵面普通じゃないよね。

「えーっと。とりあえず医療班の皆さんにこの2人をお願いしたく…。」

「はい、準備出来ています。こちらへ。」

セリルさんが既に担架を持ってきている。

「っし。カーマインさん降りれるか?」

「腕はピンピンしてるからね!倒立しながら移動できるくらい!」

「わかっていると思うがその少女の措置は捕虜扱いだ。まずは治療を優先し、完治するまで見張り兵を付ける。恐らくそれまで動けないだろう。」

「私が見るよ!怪我はこっちの方が少ないし何より安静にしてればすぐ治るしね!」

「よいっ…しょっと!」

カーマインを持ち上げて用意されていた担架へ。

「詳細は漆に話したから、聞いておいて!それじゃ。私…は…………」

「カーマインさん!?」

そっとセリルがカーマインの近くに寄る。

「カーマインさん、疲労ががかなり蓄積しています。無理をしていたんでしょうね。死に関わりはしませんのでご安心を。それでは。」

医療班の魔物達が担架を運んで出ていく。

「……とりあえず一安心ということで。では報告を。」

「知っている限りのもので大丈夫だ。」

「彼女の名前は 淵河 水澪。俺と同じ和の国出身。と言っても俺自身が和の国の離れた集落なので彼女については聞いたことがありません。」

「カーマインと同等で張り合っていたが人間なのか?」

「カーマインさんが言うには人間では無い、とのことです。種族としては蛟、と仰っていました。これに関しては本人から聞いた方が早い。雹華も蛟に関してなら知っているかもしれない。」

「ふむ、分かった。簡潔にありがとう。ではこちらからこれからの方針だ。まず彼女、水澪を餌に人間側の情報を得る。…あまりやりたくない手法ではあるがやむを得ない。」

「人間側が応じるのでしょうか。」

今まで魔王側から人間側にコンタクトを取ったことは過去に1度、二代目魔王が進軍した時以来のはず。

何か困難を起こしてしまうことも有り得る。

「恐らくだが彼女は失いたくない人員のはずだ。戦闘力もそうだ、優秀な人材であることは間違いない。そこで彼女の身柄と人間側の情報を交換する。」

なるほど。

それなら応じる可能性も高い。

「分かりました。それで、どうコンタクトを取るのでしょう?」

「直接行く。もしくは使いを送って貰うの2択だが。 ……前者は無いだろう。」

「使いを送って貰うのが現実的でしょうね。文を送るのはどうしますか?」

「そこは私で大丈夫だ。使いが来ても真実を語らない場合があるだろう。そこでセリルに聞き出してもらう。」

そうか。

この前和の国が危険になった時、セリルさん夢の中に入って情報聞き出してたもんな。

「セリルさんって…なんでも出来ますね。」

「…それは確かに。……っと。そんな訳で彼女の容態が回復出来次第話を聞き出し、使いを送って貰うことにする。」

「分かりました。」

「それで、帰ってきてすぐ申し訳ないが支援が多少人員不足だ。手伝いに行ってくれ。セフィロトもいる。ある程度の情報は伝達を頼む。」

「はい、それでは行って参ります。」

やれることがあって、体が動くのなら。

動けなくなるまでやる。

さあ行くぞ俺、疲れ切るまで手助けだ!





〜夜 医療室〜

「……。」

「んーやっぱり目を覚まさないね……。やりすぎたかな……。」

「話が本当ならこやつは蛟なのだろう?治癒能力はある。気にすることもない。」

最初から心配するような表情ではなかった雹華。

「じゃー安心だね!……みんなに情けないとこ見せちゃったなぁ。」

気を張ってたつもりなんだけど担架に乗せられた辺りで記憶が飛んじゃってる。

無理はダメだねーやっぱり。

「カーマインさんも暫くは動けませんよ?怪我が完治していない状態でまたどこかに行かれても困ります。安静に、ですよ。もしこの襲撃者さんが動き出したとしても私が何とかできます。」

「そうだね!じゃあ暫く楽にする!じゃあおやすみー!」

「はい、ご苦労様でした。おやすみなさいカーマインさん。」

「外に飛び出すなよ?まあ無理じゃろうが。」


むー。

そこまで信用ないかなー。

でも、動けないのも無理に動いて邪魔になるのも事実。

暫くの間は我慢して回復を待たなきゃね。

……あー!!!

ダーリンに会えないじゃん!

ただいまのハグ出来てない!!






半竜人の彼女は生きる意味を知った。

それはかけがえのないものだ。

普通ならば知っているはずのもの。

それを知らなかった彼女。

そして今も尚、探し続けている彼女。

だが、救いは出来ない。

敵なのだから。

敵というエゴを剥せるのなら。

彼女に生きる意味を教えられるのだろうか。

彼女がほぼ魔物でありながらも。

それでも元は人間だったのだ。

彼女の思いの真実は何処にあるのか。

知っているのは彼女のみ。

ただそれを知ることは出来ない。

彼女が生きる意味を知る日が来るのはいつなのだろうか。

補習室はお休みです

ちなみに作者の誕生日です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ