一刀一殺
「補習室ー!ちょっと分かりにくいのが出てくるから補足しておくぜ。」
「魔族と魔物の違いですね!」
「そんなに違いはないんだ実はな。人の体の特徴が大きく出ている魔族だ。俺とかわかりやすいな。ほぼ見た目人間。」
「魔王軍にいたりするオークだとかは魔物ですね!人の体ではないですが人型なのでややこしいです。」
「でもだいたい魔族で統一してるぜ、それじゃ本編!」
〜魔王城 謁見の間〜
時刻は朝頃。
私の一日はここから始まる。
「集会の時間だ。集まっているな?よし、始めよう。」
私の座っている王座の前には軍の魔物や魔族達が。
隣にはセリル。
先頭に漆、ミナリ、セフィロト。
イルミナと雹華は見回り。
カーマインが暇そうにあくびをしている。
軍数報告に間違いなし。
王座から立ち上がり口を開く。
「今回は重要な話だ。先日より近辺の森にて人間の立ち入りが報告にある。基本、和の国以外は人間の立ち入りは基本的に禁止されている。意図は分からないが今の段階で既に侵入者、と見ていいだろう。」
「それは以前セフィロトが襲撃にあったと言っていたものと同一でしょうか?」
「その通りだ。更にもう2人セフィロトが感知した。3人の人間が侵入している。」
「大体の場所は分かる?私のバンならある程度の索敵はできるわ。」
そう言ってバンをあらわにする。
突然どこからともなく現れて不思議だ。
一体どこから…?
「…んん、1人は既に撤退済み。残りの2人は未だ森から出たという情報が一切ない。恐らく出てきていないと見て間違いないだろう。」
「分かりました。ありがとうございます。」
深くこちらに向かって礼をする。
「2人の人間の発見を目的とする捜索を行う。発見した場合まずは捕らえろ。傷はつけても構わないが殺しだけはするな。戦闘が予想された場合即座に救援を呼ぶように。これにあたり捜索班を結成する。集会終了後セリルからの指示を受け取ってくれ。残りのものは城の護衛に徹してくれ。以上だ。」
セリルと目線だけで会話する。
あちらもすぐに目が合い、軽く会釈して何も話さずに終わる。
「遊撃部隊からは報告無しです。」
「防衛部隊も無しよ。」
「支援班より、許可なく食料庫から食料を持ち出した者がいます。素直に手を挙げてください...」
辺りを見ると明らかに激しく動揺しているのが1体。
「...カーマイン。」
「ひゃいッ!?」
…犯人だな。
全く、真剣な話をしていたというのに気が抜ける奴だ。
そういう部分では...まあ。
ムードメーカーなのかもしれないな。
「...次からはちゃんと許可を得てからですよ?何も食べたらダメなんて言ってないですから。」
「う。...ごめんなさい。」
悲しそうに肩を竦めて謝る。
意外さはないが、やはり竜というのは大食いだな。
「各自、仕事に励んでくれ。何かあったら私に報告するように。」
〜魔王城 周辺〜
現在は城門の前で待機中。
「んーさってっとー。」
漆が背伸びをしている。
「随分呑気ね?これから捜索なのよ?」
「んま、気ぃ抜くって訳じゃないが、気を張りつめてちゃ気付くもんも気付かなかったり俺はするからな。そういうこっちゃ。」
腕を後頭部で組んでいる。
こう見るとやっぱり少年って感じなんだけど...。
「お待たせしました。支援班の魔物達も少しお手伝いに回せそうです。」
「ありがとうございますセリルさん。じゃ行くか!」
「えぇ、行きましょう。セフィロトも準備はいい?」
「いつでも。」
2人とも切り替える時は本当に一瞬。
戦闘に慣れている特徴。
「では、お気をつけて。」
いつものように綺麗なお辞儀。
正直憧れてしまう。
「戦闘部隊の魔族は東、防衛部隊は西、支援班は南をたのむぞ。俺とミナリとセフィロトで北側を行く。頼んだぞ、皆!」
「はい!!!」
魔族たちは大声で返事をする。
私のバンは索敵範囲が広いから私たち3人だけで北を捜索。
〜名もない森 北側〜
「...そんな簡単に見つかんねえよなぁ。」
3人...と1匹でバラバラに探索中。
足跡とかあれば辿るんだが、何かが通った痕跡すらない。
上から見てみるか
風魔法を利用して空中へ。
風の勢いを利用して飛ぶ、と言うより浮遊、だな。
「...木しかねぇ。流石に見えない。」
そりゃそうだ。
森なんだからなぁ。
「...んお!カカシか。...なんでこんなとこに?」
土を見てみるにも農作物を作るには適していないように見える。
そもそも畑を荒らすような動物もいない。
この近辺はめったに雨も降らないから尚更だろう。
「久しぶりに鍛錬しろってか〜?そんな暇ないっての。」
「...」
黙々と歩き続ける。
気を張りつめ、魔力を感知。
私には危険察知能力がある。
…少し語弊があるが間力の感知が普通より数倍優れている。
魔力を正確に感知することができ、居場所、強さなどがある程度分かる。
「この辺りには動物がいない。...おかしいな。」
周辺を見渡してもあるのは植物のみ。
生物がいた形跡はある。
「もしかしたら何かいるかもしれない...。」
注意して足を運ぶ。
「...うーん。なかなかいないわ。魔力は感じないし。」
空は曇っていて吸血鬼には過ごしやすい状況だ。
少し湿気があるのが難点。
「バンがいると楽なんだけど...そうもいかないわね。...ん?」
遠くに誰かが見える。
「...あ!漆!」
「お?ミナリ?...あー。変に道間違えたなこりゃ。方向音痴ではないんだが...。」
頭を抱えながら喋る。
猿も木から落ちる、天狗も道を間違える。
ってところかしら。
「私は真っ直ぐしか歩いていないわよ。」
「となるともうちょっとあっち側か。ありがとう。助かるよ。気をつけてな!」
すぐに走って向こうへ行ってしまう。
「そっちもね!」
手を軽く振り奥へと消えていった。
「私もあのくらい体力が欲しいわね...。」
ゆっくりと足取りを進める。
「...」
さすがに静かね。
もっと動物とか魔物達がいると思ったのだけど。
突然に物音がする。
「...バン。戻って。」
その声を発して数秒後、すぐにバンが戻ってくる。
明らかに何かの物音、何かではあるけど具体的には分からない。
私には人間や魔物たち、魔力などを感知する能力が劣ってる。
だからバンがいるの。
「...どう?」
(...キケン!キケン!)
この子は基本面倒臭がり屋だけど私が危なくなったらなんでもしてくれるいい子。
「あら。なんかいるなと思ったらコウモリに...魔族?」
「姉さん。あまり関わらない方が。」
「それもそうね。」
片方はピンクのロングヘアー。
私より背が高い。
もう片方も同じくらいの身長、少し高いくらい。
髪色は青でショートヘアー。
加えて仮面を被ってる。
「そうは行かないわ。ここ周辺は魔王城の領土、人間の立ち入りは禁止されているわ。大人しくこちらに来て貰える?」
「嫌ね。誰がついて行くのよ知らない奴に。私にも目的があるの。ちびっ子はどいてもらえるかしら?」
心底嫌そうな顔をしてこちらを通り抜けようとする。
素直じゃない。
何か悪意がある?
「こう見えても私はあなた達よりずーっと生きてるわよ?吸血鬼だもの。あなた達を傷付けたくはないわ。何もしないから来てちょうだい?」
そう言葉を発した瞬間顔色が変わる。
「あぁ...。あなたが...噂の正義被れの吸血鬼さん?会いたかったわ。じゃあ...」
腰からナイフを取り出しこちらに向かって走ってくる。
有名になったつもりはないのだけれど。
「バン!」
私の声に応じて体を変化。
大きく広がり私より遥かに大きい盾になる。
「...チッ。邪魔。」
「魔法は使えないようね。私のことを知っていえそんなので立ち向かおうとしたのは褒めてあげる。」
バンを引っ込めて様子を見る。
こっちの子が何も出来ないとしてももう1人の仮面の子が何をするか分からない。
常に注意を...。
「...私の名前はシーア・ジェロ。名前の意味は嫉妬...。アハ...。アハハハハハ!!!!!!!」
突然持っていたナイフを自分の腹に突き刺そうとする。
「っ!待ちなさい!何をす...っぐぅぅ!?」
確かに彼女の腹にナイフは差し込まれた。
なのに、痛みはこちらにやってきた。
「な...っに!?」
「アハハハハハ!!!いい気味!!!やっと!やっと貴方を痛め付けられる!アッハハハハ!!!!」
何が起きたか全く分からない。
あの子...痛みがないの...?
...う...意識が...痛みで...
「...大丈夫?ごめん。これから辛いよ。僕はジータ。姉さんの双子の弟。」
彼がそう言うと痛みが引いていく。
「っ...は。...何...?」
「あぁ。何も伝えてなかったわね。まあ伝えなくてもいいんだけど。私の目的はただ貴方を痛めつけて思い知らせたいだけよ。」
私がなにかしたというの…っ!?
私は…私は何も。
「僕は姉さんの言うことを聞いてるだけ。」
「ほら...!ほらぁ!今度はァ...っ足!!ゥッーハァ!!アハハハハハ!!!」
見れば彼女にあるはずの腹の傷がない。
「ぐぁ...っいっ.....っレッドレイバレット!」
とっさの判断で魔法を打つ。
ある程度の手加減はして死なない程度の火力で。
「いった...ぁ...アハハハ!!!!!無駄!無駄なのよ!!!」
確かにあちらにダメージは通った。
しかしこちらにも同じ箇所に痛みが走る。
腕が痛みで痺れる。
足が痛みで重い。
でも。
すぐに痛みが消える。
「…簡単に説明してあげるよ。僕は異常なほどの回復能力を持っている。他人にも分けることが出来る。姉さんは痛み分けが出来る。それだけ。誰に何をしても無駄だよ。恨みはないけど、苦しんでもらうよ。」
姿勢1つ変えずこちらを見て言う。
「私ね。子供の頃に魔族と仲良くなったのよ。それはもう大親友よ。でもね、その子私の親に殺されたわ。」
途端に悲哀の感情が流れ込んでくる。
痛みだけではなく感情までも痛み分けってこと...?
「私の親は悪くないわ。悪さをしていると思われている魔族が悪いの...よッ!アハハハハハ!ほんっっとにいい気味!憂さ晴らし!最高ッ!!!」
「ァああぁぁッ!?」
ナイフは心臓に差し込まれた。
感じたことの無い激痛。
意識がまた飛びそうに。
でもまた、意識は戻らずも痛みは引いていく。
「それで聞いたのよ。風の噂で。人間に親を殺されて、それでもバカみたいに人間を信じる魔族の話をね。」
「...っ何がいいたい...のッ!」
ぐっと足に力を入れて何とか立つ。
頭がふらふらしていつ倒れてもおかしくない。
「アンタのことよ。」
「...え?」
「コレを聞いた時すっごく憎たらしく思ったわ。そんな馬鹿がいるなんて、聞いただけでイライラする。人間を恨むのが普通でしょ?...っでも!」
「ぁ.....あっが...ぅ...。」
無限に続く痛みとそれの治療。
「アンタはッ!人間をッ!信じるのッ!?...そんなわけないのよッ!!!私がおかしいの!?私の親は正当な判断よ!?魔物は!魔族は!恐怖の存在よ!何されるかわからない存在!それを消しただけ!悪いのはアンタ達でしょ!なのに...アンタは...っ!アアアアアアア!!!」
「ぅあァああぁッ!?」
連続で襲いくる痛み。
耐えられない。
逃げ出したい。
「なんで!!アンタは人間を信じられる!?そんな考えおかしいッ、狂ってるッ!だから私がっ...!教えなきゃァ!!…ッならないのよ!!!!アハハハハハ!!!!!」
何度も何度も自分の体に刃物を突き刺し、自傷する。
その度私に痛みが来る。
あっちも痛みを感じているはずなのに。
「言っておくけど僕は姉さんに従うだけ。」
ここで弱音を吐いて楽になってしまいたい。
痛みをもう感じたくない。
でも...自分の考えは曲げたくない。
「...はぁ...っ。...ぁ」
足に力が入らない。
そのまま前に崩れ落ちる。
また痛みと意識だけが戻っての繰り返し。
精一杯の声を振り絞る
「誰…か…ぁ。」
掠れている。
こんな声じゃ届きやしない。
「あー。これっぽっちの痛みでもうおしまい?全然痛くないじゃないこんなの。アハハハハハ!!!!」
意識が薄れていく。
もう駄目みたい。
「黒の教 其ノ壱 刀一振で一殺。」
何かがそこにはいた。
そのものは刀を一振。
ジータの首を一閃。
見たことがある。
「刹那。」
生首だ。
仮面を付けた生首がそこにはあった。
そしてその後ろにもまた仮面を付けた者が1人。
...正体は知っている。
「...漆...?」
「あぁ。助けに来た。」
「…え。」
目の前が赤く染る。
血の匂いだ。
少し意識が戻ってきた。
「其ノ弐 そこに慈愛を。」
漆が生首に付いていた仮面を手に取る。
「随分と愛用してるもんだ。俺と使用意図は違えどな。」
その仮面を拾った。
「ジータぁ!!!!!!!...っジータァ!!!」
次第に喚き始める。
当然、家族が死んだんだから。
目の前で殺されて、おかしくならないわけが無い。
「人間、去れ。お前を殺しかねない。殺しは出来るだけしたくない。」
「なんで...何故殺した!!!私の...私の弟を…ッ
…ッ!」
「お前はこいつが居たら殺せない。それだけの事。」
「ぁ...ぁ...。」
シーアが膝から崩れ落ちた。
「...すまないが運ばせてもらう。行くぞミナリ。」
「ありが...と...う。」
お姫様抱っこで持ち上げられる。
驚く程に早く移動している。
「部隊のみんなは既に撤退済み。知らない魔力を感じたもんで、セフィロトに頼んで位置把握して俺が来た。怪我はないか?」
「大丈夫...ぅ...ぐ。」
「じゃ、無さそうだな。あまり喋るなよ、休んでいてくれ。」
〜魔王城 謁見の間〜
急ぎ目で漆とミナリが謁見の間に入ってくる。
「魔王様、報告です。ミナリが襲撃にあい応戦。救援に行き危険な状態だった為やむを得ず片方を暗殺、もう1人はまだ森の中。保護は難しいかと。目的も人王は絡んではいますが主として本人の目的が多かったようです。」
「...報告ありがとう。」
「...申し訳ありません。」
深く礼をする。
「いや、いい。良い判断をしてくれた。きっと、そのままではミナリが死亡していたかもしれない。どちらにせよ報告通りなら捕らえても意味がなかっただろう。ミナリは無事か?」
襲撃を受けたというミナリも心配だ。
「敵が特殊な攻撃だったから、外傷はなしよ。脳が痛みで混乱してるだけ。...でもしばらく無理は出来そうにないわ。」
「敵の情報を聞かせてくれ。」
皆に共有できることは知っておかないといけない。
「今生きている方は、ジェロ・シーアと言っていたわ。魔法は使えないようだけど特殊な能力を持っていたわ。あの子は痛み分けと言ってた。痛みだけじゃなく感情も流れ込んできたわ。もう1人の方は異常なほどの回復能力。私やあの子の傷を瞬時に癒していた。おそらく自分にも使えたはずだけど意識範囲外の攻撃だったから使えなかったみたいね。」
仮面の子が自分で回復能力を使えなかったのは漆が不意打ちで首を切ったから。…か?
視認できていたら即座に回復できていたはずよ。
「分かった。しばらく休んでいいぞ。」
「...ありがとう。」
そう言うと謁見の間から出ていく。
「...別件だ。漆の事情を聞かせてくれ。そこまでの能力の所以を。」
「...そろそろ隠せないですね。とは言っても単純です。天狗一族には裏稼業があり暗殺をしていた、それだけです。」
仮面を取り外して真剣な目をこちらに向ける。
「俺は天狗一族の優秀な親から生まれました。もちろん。俺も優秀だった。。天狗の中ではもっとも優れているとも言わた。」
刀を抜いて魅せる。
「言われた通り、俺は優秀でなんでもできた。暗殺も魔法も。...ただそれだけです。」
「...そうか。殺したことに心は病まないのか。」
「ここに来る前、天狗がまだいた頃に何度も、数えられないくらい殺しを。人間も、魔族も。」
その顔に悲しさも苦しさもなかった。
「辛くはないか。」
「正直、汚れ仕事が身の丈に合う。」
「...分かった。深くは聞かない。ただ...なんでも1人で追い込むな。それだけは注意してくれ。私はお前の過去で見方を変え足りしない。」
「ありがとうごさいます。」
〜魔王城 ミナリの部屋〜
魔王様に休みを言い渡されたのでベッドで安静に。
無理をしても足を引っ張るだけだし。
…と、扉を叩く音が聞こえた。
「入っていいわよ。...漆じゃない。どうしたの?」
「調子はどうだ?」
真剣な表情をして入ってくる。
「さっきも外傷はないから痛くもなんともないけど肉体的疲労があるわね。今日は休ませてもらうことにした。」
「ゆっくり休んでくれ。」
「...移動中に言っていたことは本当?」
「そのことを話に来た。全て事実だ。」
漆が暗殺者だったってこと。
人も、魔族も殺したことがある。
そういう話を聞いた。
「...私に...私に人は殺せない。」
「あぁ。分かってる。それなりに付き合い長いしな。」
気まずいのか違う方向を向いて喋りだす。
「いざと言う時、殺さないっていう選択肢はない。大を無くして小を取るか、小を無くして大を取るか。それしかない。自分を無くして、なんてのは魔王様が許さないだろ?」
「分かってる。...分かってるけど...。まだ覚悟出来ないの。殺すって。」
殺したくない。
殺すなんて考えられない。
だって…その生きている道を消し去るということ、その責任を私は負える気がしない。
「...俺は殺し慣れてる。だからそこの詳しいことは言えない。...ただ。覚悟はしておいた方がいい。それを伝えに来た。」
「ありがとう。...優しいのね。」
「...性にあわないことしたな。っし。今度差し入れ持ってくる!それじゃあまた。」
漆は...人間も仲間も殺す時は殺さないといけないと言うことを伝えに来たんでしょうけど。
私も、いずれ覚悟をしなきゃいけないのかしら。
漆。
天狗一族の生き残り
殺しの才に恵まれ殺しをして生きた男。
それでもなお心は腐らず誠実。
彼のうちに秘める感情はどれほどのものなのか。
知る由もないが。
一つだけ知れるのは。
彼は心の底から優しいのだ。