とある夢魔
予定変更!ちょっと書きたくなってしまいました
〜魔王城 セリルの部屋〜
「...朝ですね。」
私の朝は早い。
魔王城の中で1番早く起きるのは私です。
たまに雹華さんやミナリさんが起きていたりしますけど。
私は寝ずとも夢魔なので大丈夫なんです。
仕事は魔王様の側近、メイドとして働くこと。
魔王様に貰ったこの名前と救ってもらった恩を返すべく毎日働いています。
もちろん任意です。
やりたくてやっている。
やらなきゃならないからやっている。
やってあげたいからやっている。
全て私の意思でやっていますを
私が起きてまずするべきこと、それは...。
「着替えないと。」
給仕の制服はメイド服...らしいので自分で作ったものをいつも着ています。
長めのスカートがポイントです。
しょうがなく戦闘用のためにこのスカートの裏にはたくさん武器があるんですけど...。
それは置いておきまして。
因みにメイド服を着ていない時は大凡寝る時だけではありますがその時は適当な洋服を着ています。
メイド服に着替えて、白いカチューシャを付け。
正す所は正す。
見た目はしっかりしないとですから。
「今日も頑張りましょう。」
私の仕事は沢山あります。
まずそのひとつとして朝の弱い魔王様を起こしに行かなければなりません。
昔、魔王様も子供だった頃は朝はずっと寝ていたりもしていました。
今となっても苦手なのは変わらないようです。
〜魔王城 薺の部屋〜
私の仕事用のカートを運びながら廊下を歩く。
魔王城はかなり大きいです。
大きさは基本どの部屋も同じ。
階数は1階2階3階とあります。
1階には私たちの部屋、食堂、雹華さんが無理やり時空を曲げて部屋を増設して作った酒場撫子、魔王軍の訓練室そして謁見の間が。
2階には魔王軍の宿屋。
大きく設置されています。
3階には倉庫、そして見張り場があります。
こちらはあまり使ってはいませんが雹華さんが見張りの仕事で良くいらっしゃいます。
少しして魔王様の部屋へ到着。
部屋の前に立つ。
「魔王様、朝です。」
ドアをノックして魔王様の声を待つ。
「...ん。」
かすかに声が聞こえた。
声が聞こえたら了承の合図と決めてあるので直ぐに部屋へ入る。
「失礼致します。」
入ってみるといつものように起きてはいるもののまぶたは閉じていて体を起こそうとする気配がない。
「紅茶ですか?珈琲ですか?」
大抵は朝起きて目を覚まそうとするので紅茶か珈琲かを魔王様は飲みたがります。
「...珈琲。」
少し間が空いて返答が帰ってくる。
私にできるのは後押しくらいですから。
「分かりました。」
「...うー...。」
いつもの魔王様とはかけ離れたこの姿。
私以外ではまず見られないでしょう。
この前の森の街遠征の時はおそらく寝たのでしょうが気は張っていたはずです。
私だけの特権ですね。
「どうぞ。」
「ん...っと.....ありがとう。」
目を擦りながらもベッドから起き上がって珈琲を受け取る。
「本日も通常通りの日程です。私は今日かなり忙しいので魔王様のお手伝いは出来ません。申し訳ございません。」
「分かった。よし、気を張っていこう。セリルも頑張ってくれ。」
「ご心配ありがとうございます。魔王様もお気をつけて。」
そう言って部屋から出る。
「今日のお仕事は...っと...。」
今日やることを頭の中て整理する。
「まずは...お庭の掃除ですね。」
魔王城はコの字型の城になっています。
外からは城の城門のおかげでとても大きく見えますが門をくぐってもそこにはお庭があってそこから更にもう1つの門、と言った風になっています。
そこのお庭の掃除です。
定期的に掃除をしないと枯葉が落ちていたり漆さん達の部隊が走って付いた足跡など...。
汚れてしまうのでまず朝に掃除です。
〜魔王城 庭園〜
お庭は左右に噴水。
噴水を分けるように道が。
そして壁際に花などを植えてあります。
ほうきをもっていざお掃除です!
「おーセリルさん!お疲れ様ー!」
城門から漆が出てくる。
この時間帯の外の出入りは余りないので少しびっくり。
「おはようございます。どちらへ?」
「朝の運動がてら外に行く予定だった...んだが。掃除手伝うぜ!1人じゃ辛そうだし俺も朝はやることないしな。」
強力な助っ人が来てくれました。
だいぶ楽になりますね。
「ありがとうございます。お言葉に甘えて手伝いをお願いします。では左側の枯葉を掃いて、噴水に汚れなどがありましたら綺麗にして、というふうにお願い致します。」
「分かったぜ!」
漆さんの仕事っぷりは流石というもの。
速さ、丁寧さ、どれをとっても凄腕です。
なんでも出来るのは憧れますね。
〜魔王城 廊下〜
漆さんのおかげで早く終わってしまったので廊下を掃除中です。
1階と3階は私が。
2階は軍に所属して宿屋にいる魔物の皆さんにおまかせしています。
と言っても毎日やっているのであまりゴミなどは見つかりません。
どちらかと言うと見回りの方が近いかも、ですね。
「...あら。セフィロトさん。おはようございます。」
自室からセフィロトが出てきた。
「おはようございます。」
礼儀正しく礼をする。
執事用の服がとても似合っています。
「これからミナリさんとイルミナちゃんの所へ…ですか?」
「はい。そろそろ時間ですので。お仕事お疲れ様です。」
「そちらもお気をつけて。」
この時間は大抵の方たちは起きています。
起きないのは吸血鬼であるミナリさんと朝の弱い魔王様くらいでしょうね。
ミナリさんは起きている時と起きていない時があるのでよく分かりません。
セフィロトさんなら分かるかもですね。
漆さんも起きる時はかなり早いですし。
雹華さんは
『歳を取ると早く起きるものじゃぞ?』
と仰ってました。
「おぉ。セリルか。お疲れじゃの。」
噂をすれば、部屋から雹華さんが。
…部屋というか酒場ですが。
「おはようございます。朝食でしょうか?」
「そうじゃ。ではまたの。」
手をこちらに降って食堂へ歩いていく。
後ろから見ると尻尾と耳がぴこぴこ動いている。
「...ちょっと可愛いですね...漆さんに付けたい。」
「さて...次は...。お部屋掃除ですね。」
皆さんのお部屋を掃除する。
それだけです。
ですがかなり少ないのです。
セフィロトさんは自分で掃除していますし。
ミナリさんはセフィロトさんが掃除しています。
雹華さんも
『わしの店でもあるしのう...自分でやるわい。』
とのこと。
カーマインさんはこの前ここに来て
『暫くは外でいいや!なんか部屋で寝るって慣れないんだよねー!』
と、軍に所属した竜族の皆さんと一緒に近辺の森に今のところは住んでいます。
なので私の部屋と漆さんの部屋と魔王様の部屋のみです。
しかし、漆さんの部屋はとても綺麗ですし、魔王様の部屋は常に私が掃除しているのでかなり掃除の仕事がないのです。
宿屋は利用者の魔物たち皆さんで掃除してもらっています。
ですので残りの3階の倉庫を掃除。
早く終わらせてしまいましょう。
「よし...これで全部屋終わりですね。次は倉庫...っと。」
倉庫はあまり掃除をしていないのでかなり大変そうです。
3階は武器や防具、備品に食料、そして物置と。様々なものが保存されています。
2階、3階と階段を上がり倉庫に到達。
「...かなりちらかってますね...。これでは骨が折れそうです。救援を呼びましょうか...。」
私一人では片付きなさそうなので魔王様に協力や助っ人を呼ばせていただきます。
〜魔王城 謁見の間〜
大きな扉を開けて謁見の間の間に入る。
魔王様は堂々と王座に座っている。
「魔王様、倉庫の清掃にて問題がありました。」
「ふむ。倉庫は暫く放置していたからな...。なんだ?」
「それほど大きいものではないのですが...。私だけで清掃をするのはかなり辛いものがあるので...」
「なるほど。手伝いか。魔王軍の皆が今は休憩中だ。手伝ってもらうように言うといい。快諾してくれるはずだ。私も後に手伝いに行こう。」
「わかりました。ありがとうございます。」
1礼して直ぐに倉庫へ向かう。
〜魔王城 倉庫〜
「セリルさーん!このガラクタ捨てて大丈夫ですかー?」
誰かは分からないがお手伝いさんの声が聞こえる。
「はいー!大丈夫ですよー!」
たくさんの魔族に来て貰って片付け中。
非常に助かります。
いつかお礼をしなきゃですね。
「...なるほど、これは確かにセリルだけでは無理だったな。」
3階に上がってくる階段から魔王様が現れる。
「魔王様...。お仕事は一通り終わったのですね?」
「あぁ。血の国...今は合併して城下町にはなった。そこから物資の要請が来てだな...私と漆とセフィロトで直に行った。なかなか栄えていたぞ。もう襲撃時の損傷の後は修復されていた。」
自分のことのように嬉しそうに語る。
「本当に良かったです。ミナリさんはご一緒されなかったのですか?」
「ミナリは別件だったのでな。和の国へ戦術指南だ。戦えるものは多かったのはこの前の奪還戦でも分かっていた。後々漆も行くことになっている。」
「なるほど...。そろそろ物資の支援も必要ですね。用心しておきます。」
こういった気づける気の使い方はすぐにしてかないと。
「あぁ。その時はまた頼む。...っと。手伝いだったな。」
「何も魔王様がやる必要は無いんですよ?お疲れでしょうし。」
「いいんだ。疲れていないし、こっちの方が正直身に合う。」
気遣いか本音か、私にはまだ分からないがその言葉を私に向けられた。
「ありがとうございます。では...」
魔王様もあの夜、魔王となってからより一層凛々しさが増した気がします。
「私が今整理して置いてあるものを備品庫へお願い致します。」
「任せてくれ。」
そう言って荷物を持ち備品庫へ歩いていく。
本当に...頼もしいばかりです。
「さて...私も整理をしなければ...。」
古臭い本から食器、武器から防具、様々なもの出てきます。
正直この部屋は物置なので色々なものが出てきてしまいます。
「この武器は...まとめて...と。誰かこちらをお願いしまーす!」
「今行きます!」
それに加えて前代魔王様がいなくなってしまってから1度も手入れをしていなかったようで、掃除しがいがあります。
「よし、この本で最後...と。...あ。...この本...もしかして...。」
ページを開こうとする。
すると後ろから魔王様の声が。
「どうした?何を見つけたん…っと。その本か。懐かしいな。」
「...えぇ、本当に懐かしいです。私からしたら魔王様の馴れ初めとも言えます。とても...とても懐かしい。」
これは、とある壊れていた人形のお話。
彼女は無だった。
人形。
いや、それよりも酷かった。
壊れた操り人形。
操ろうとしても動かそうとしても出来ない
彼女は壊れたのだ。
生まれてすぐに壊れてしまった。
あるべきものが全てが無かった。
両親は無く。
愛もなく。
友もなく。
孤児院暮らし。
孤児院ですらも周りに馴染めず独り。
感情は...恐怖のみだった。
部屋に入る音がする。
「...誰?」
「私?私は〜...んー。家族?」
「.....」
「あぁえっと!薺!楼薙 薺っていうの!あなたを引き取った家族!」
「何をする気...?」
「え、えっとぉ...あ!そう!友達!友達になろう!」
恐怖だ。
何をされるかわからない。
どんなことを考えているかわからない。
そう思うはずだ。
「おはよう!名前が無い〜って聞いたから今日は名前を考えてきたの!」
「...」
「あなたの名前は芹!どう?」
何故だ。
何もしてこない。
きっとあの時と同じだ。
いずれ暴力を奮われる。
奴隷のように扱われる。
怖くて怖くてたまらない。
喋れば何をされるか分からない。
「おはよう!今日は本を持ってきたの!お花とかの本!とても綺麗なの!」
「...いらない」
「そ、そっか...で、でも!面白いと思うの!ここに置いておくね!」
何故ここまで私に話しかけてくるの...?
意味はないはずなのに。
「おはよー!この前の名前のやつ!あなたには和の国の名前は合わないーってお母さんが言ってたの!だから...芹を取って...セリルってのはどう?」
もしかしたら本当に...
私を...?
もし...もし本当なら...
私を救ってくれるなら...
彼女を...信じてもいいのかもしれない。
「...うん」
「...っ!うん!だよね!いい名前だよね!」
1度だけ、1度だけ。
その日、彼女は見た。
明るく輝く笑顔を。
月のような美しい目を。
花のように可愛らしい仕草を。
あぁ、やっと私は...。
普通に...。
「セリル!おはよ!朝ごはん食べる?」
「...うん。」
「お母さんが頑張って作ってくれたの!」
「...ねぇ」
「んー?なーに?」
「...友達って...なに?」
「うーん...。遊んだりお話したり...かな!」
「私...あなたと友達?」
「もちろん!」
あぁ...
本当に優しい人だなぁ。
こんな人に悪い思いなんて...似合わない。
私が何とかしてあげたい。
でもそんな力なんて...。
「セリル!お母さんが洋服を作ってくれたの!」
「...わぁ!...かわいい。」
「でしょ?でしょ?私もこっそり着てみたかったけど...サイズが合わなかった...」
「...だって私のだもん。」
「薺...!」
「どしたの?」
「だいぶ前に置いてくれた本...少し読んだの。とてもよかった...!」
「ほんと?じゃあ...今度は外にでよっ!」
彼女の心は癒えていった。
少しずつではあるが光が灯った。
壊れた人形に少しずつ綿が詰まっていく。
「薺!今日も遊ぼうよ!」
「よーし!今日はお城を沢山見よう!」
彼女はただひたすら明るく忙しなかった。
でもそれだけで救われた。
「薺って...お花の名前だったんだね。」
「そう!お母さんが付けてくれたの!」
思った。
たた一つだけ。
彼女は初めて思った。
『ずっと一緒にいたい』
人形は修復された。
意志を持った。
心を持った。
感情を知った。
友を...大切な人を得た。
「...何があっても一緒にいようね!」
『何があっても一緒ですよ?』
「もちろん!いつまでも一緒に!安心してね!」
『...いつまでも共にいる。安心してくれ』
操り人形は使うものがいないと動かないのは当たり前だ。
人形は意志を持った。
主を求めた。
それは嘘偽りのない感情。
彼女は...。
彼女はそれでも。
それでいてもまだ、操り人形だった。
魔王の妻が死んだ。
薺の母。
セリルは悲しんだ。
「お母さん...!お母さん...っ!うぐ...っぐ...。」
「...薺...。」
でも、それより泣く彼女を見た。
「...薺。...っ...。悲しいけど...。けど!...お母様のために...頑張ろう...!」
「うん...っ...。...うんっ!」
夢魔は主を持った。
彼女を支えて行くと誓った。
どんな事があっても彼女を支えて、生きたいと思うようになった。
創られた夢魔は夢を見ず。
「...あの頃は私もやんちゃだった。今となってはセリルくらいしか知るものもいないだろう。」
「ふふっ。私だけの秘密...沢山ありますね。」
夢魔は願う。
ずっと彼女と過ごしたい。
過ごせればそれでいい。
それだけでいい。
どんな事があっても、どんな形でも。
彼女と居たい。
夢ではない。
夢魔は知っている。
叶わぬからこそ夢なのだと。
叶えるからこそ願望なのだと。
「...片付けは終わりました。もう時期日も沈みます。そろそろ夕食にしましょう。」
「もうそんな時間か。戻るか。...久しぶりに夜、2人だけで話さないか?」
「...たまにはいいですね。」
彼女は夢魔。
サキュバスと言う名の魔物。
夢を見せる魔物。
それだけの存在なのだ。
でも、夢魔としての在り方を無くしてさえもしたいこと。
それはただ大切な人と。
友達とずっとすごしたいだけだった。
次回は予定どうりになりまーす