#4手掛
「その少しかすれた声に。その
丸刈りに近い髪型。そのシルバー
の髪色。その真っ黒なスーツ。」
「極めつけには、その狂った顔面。
とても、とても残念な造形。」
「あなたは、ゴミ処理集団の一員
かしら?。」
女は少し微笑みながら、黒服の男に
そう尋ねた。
「ああそうだ。俺って意外と有名人
なのか?」
「いや、まぁね、君を殺してくれ。
っていう依頼が入っちゃってね。
君に恨みはないんだが、僕のために
死んでくれー。」
黒服の男はそう言うと、右手首の
内側から`セル`を発現させ、一本
のまっすぐに伸びた棒を具現化させ
た。その棒を持った男は、狂喜
じみた笑顔を浮かべている。
「死ぬのはごめんだわ。もっとも
あなたのようなおさるさんに私を
狩れるかしら?。」女は本当のさる
を見下すようなまなざしで男へ笑顔
を浮かべている。
「ああ、死んでくレ。」
男はそう軽く口ずさむと同時に、
勢いよく走り出すと、右手に持った
`セル`を女めがけて振り下ろした
男の右手からシャワーのように
血が吹き出した。
「痛い痛い痛いなー。イタいな。」
「なあ、返してくれー。それは俺の
右手だ。」肘から下が欠如している
欠如させられた男は、上体をのけ
ぞらした状態で女へそう聞いた。
「別にいいけどこんなグチャグチャ
な右手がそんなに恋しいのかしら。」
女の手にしている手は、それはそれは
見るも無惨な姿になっていた。
前腕、前膊肘から手首にかけた場所は
ぞうきん絞りでもされたかのように
ぐるぐるに絞られており、手首は
ペランペランのはんぺんのように
折られている。しまいには、五本
ある指はすべてデタラメな方向を
向いている。女が言ったように本当
にグチャグチャである。
「ああ、それでいい。それは俺のモン
だ。」男は先ほどまでとは違い、
怒りの表情を浮かべている。
「そう、さようなら。」彼女は今まで
にないほどの笑みを浮かべている。
女はすぐ後に、手にしている腕を
ガラス張りになっているビルの窓へ
投げつけた。ガラスは勢いよく割れ
ガラスの破片と腕は夜の闇へと
消えていった。
「返せヨ、それは俺のもんダって
言ってるだろうガ。」
男は大声を上げながら、割れて
ぽっかりと空いたガラスの穴へ
飛び込み、男もまた夜の闇へと
消えていった。
「ぶざまで哀れなおさるさん。」
「さようなら。」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「昨夜未明、都内にある高層ビルで
キメラの犯行と思われる殺人事件
が起きた。と、アポトシスが発表
しました。ビルの警備をしていた
警備員6名の死亡が確認された、
とのことです。以上緊急ニュース
でした。」
都内某所にある高層ビルのある
階層は、赤黒い血に染まっていた。
それから発せられる異様な臭いは、
警察官およびアポトシスの捜査員
の顔を酷く歪ませている。
ただ一人を除いて。
「臭いがきついですね。凪さん。」
「そうかい?長年捜査官をしている
せいか、こういった特有の匂いは
気にならなくなっているんだよ。
まぁ君もじきに慣れるだろう。」
そういったものなのだろうか?
こういったことに対して慣れという
ものを感じてしまっては、それこそ
人間として終わりなのではないのか
僕はそう思った。
「なるほど警備員が6名死亡と、
ただ、妙な位置に血だまりができた
痕があるのが少し引っかかる。」
「キメラ同士で争った可能性が
あるな。そしておそらくこの殺され
方は`ビザーガール`あのメスブタ
の仕業か。」百々凪が事件について
考察をしているところに、階段を
勢いよく駆け上がってくる足音が
聞こえてきた。駆け上がってきた
警察官の手には布で覆われた何か
が抱えられていた。
「捜査員さん、ビルのそばにある
木陰にこんなものが。」
その警官はとても焦りながらそう
言うと、布から少し目線を外しつつ
今まで覆われていたものをあらわに
した。布の下にあったものは青く
変色し、ほとんど原型をとどめては
いなかったが、それがすぐに何なの
か理解することができた。それは
人の手だった肘から下の、前腕に
あたる部分だった。
#4おわり えんd