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ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…間に合った……
僕は息を切らせながら教室に入り、自分の席に座った。
「おはよう……珍しいな」
「出るの遅れちゃって」
「そうか……まあ、お前は寝坊はしないわな」
前の席に座る彼の名は大野君。
運動神経抜群で、顔もいいからクラスの女子の人気を集めてる……本人は気付いてないけど。
性格も僕とは正反対で活発だし面白い。
席が前後ろってだけで話し掛けてこられたのがきっかけで知り合った彼だけど、今は大切な友達。
実は彼も漫画が好きで、僕が描いた漫画の自称"ファン"らしい。
「おいユウ、前の話の続き描けたか?」
「家で描く暇がなくて、まだ……」
「頼むよ〜、続きが気になって仕方ないんだから」
「うん……頑張るよ!」
きーんこーんかーんこーん♪
ガラッ
「起立!…礼!…着席!」
「みんな、おはよう。授業を始める前に、転校生を紹介するぞ」
「こんな中途半端な時期に誰だろうな?……女の子だったらいいな♪」
「大野、煩いぞ…さあ、入ってきなさい」
ガラッ
入ってきた転校生を見て思わず叫んだ。
「月夜見!?」
「よう、裕一郎」
僕を見て月夜見が微笑む。
「なんだ森田、お前は親戚なのに聞いてなかったのか?」
「え……あ、はい……」
「今日からこのクラスに入る月夜見さんだ。ご両親の仕事の都合で、こっちに来てるそうだ。で、森田とは親戚になるそうだ」
……なんか、まわりから凄い視線を感じる……
「じゃあ、自己紹介して」
「わしの名前は月夜見、宜しく頼む」
……偉そうだよ、月夜見……
「月夜見さんの席は……おお、ちょうど森田の横が空いてるな……」
その言葉に驚いて横を見る……空いてたっけ、ここ……昨日まで人がいたような……
「じゃあ、森田の横に座って。分からない事があったら……森田、ちゃんと教えてやれよ」
「あ、はい……」
月夜見が僕の横の席に座る。
クラスのみんなは、月夜見に見惚れてる……月夜見、綺麗だもんね……って、そんな事どうでもいい!
僕は小声で問う。
「どうなってるの!?」
月夜見は妖しげに笑って言う。
「造作もない事だ……」
眩暈がしてきた……
「はーい!騒つかない!授業始めるぞー!」
休み時間、月夜見のと僕の席のまわりは人集り……みんな月夜見に興味津々だ。
僕は月夜見が変なボロを見せないかヒヤヒヤしていた……
「大変だね月夜見さん、両親いないんじゃ」
「ああ……まあ、な」
「じゃあ一人暮らししてんの?」
「いや、裕一郎の家で世話になっている」
一瞬にしてみんなの視線が僕に……ひいぃぃぃ!
「女の子の…一人暮らしじゃ……あ…危ないでしょ?……だ…だから…母…さんが…引き取っ…たんだよ……」
訝しげに僕を見ていた大野君が言う。
「じゃあユウ……お前はこんな可愛いコと、一つ屋根の下に暮らしてるのか?」
「……そ…そうです」
「ユウ……月夜見さんに何かしてないだろうな?」
「裕一郎はそのような男ではないぞ。気も優しく、しっかりした男だ」
月夜見……
大野君がにやりと笑って言う。
「月夜見さん、騙されちゃいけないよ。こんなやつに限って、風呂覗いたりしてるかもだから」
「覗く必要はない、一緒に入っておるのだからな」
『きゃー』
女の子達が嬉しそうに叫ぶ。
『何ー!!!!!!』
男達が一斉に、僕を凄い目で睨む。
「わー!月夜見ー!」
「何か……まずい事でも言ったか?……」
「おい、森田……」
「は……はい…」
「今の話は聞き捨てならねぇな……」
「見損なったぜ、森田……」
「おいユウ……今のお前には、死すら生温い……」
大野君やその友達から凄い殺気が!
「みみみみんな……おお…落ち着いて……」
きーんこーんかーんこーん♪
「ほ、ほら…チャイムなったから授業始まるよ……」 女の子は月夜見に"またあとで"なんて言いながら、男達は僕を睨みながら席に戻った。
「裕一郎……」
「何?」
「まずい事を言ったのなら謝る……すまん」
「いいよ……もう済んだ事だから……」
僕……殺されてもおかしくないかも……
裕一郎は殺されてしまうのか!?(笑)