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月夜見は僕が入るまで何もせず待ってたみたい。
「まずは髪の毛洗おうね」 僕はシャワーを取ってお湯を出した。
「おおー!」
「じゃ、その椅子に座って」
「おう!」
「頭を下げて…じゃ、いくよ」
ジャー……
「手を出して……それを髪の毛につけて洗って」
しゃかしゃかしゃか…
「ん……何だこれは!?」
「どうしたの!?」
「なぜ、こんなにも泡が!?」
「それがシャンプーだよ」
「そうなのか……あ!?ああ!?痛い!目が!」
「シャンプーしてる時に目は開けない方がいいよ」
「だぁ!た、助けろ……」
「はいはい」
桶から手で湯をすくい月夜見の目にかけてやり、親指で泡を拭ってあげた。
「すまん……もう大丈夫だ……」
「気を付けてね。じゃ、続けて」
しゃかしゃかしゃか…
なんか可愛いな…
あ…月夜見の裸、気にならなくなってる…この調子だ!
月夜見が頭を洗ってる間、僕も頭をささっと洗い、二人で頭を流した。
その後、リンスの仕方も教えてあげた。
次は体を洗う。
ナイロンタオルに石鹸をつけて泡立てて手渡してあげる……やっぱり泡が出て驚く月夜見。
僕も隣で体を洗う。
「おい」
「何?」
「背中、洗ってくれんか」
「え……いいよ」
僕は月夜見の後ろにまわる。
傷一つない真っ白な背中……その下は……お尻……
またドキドキしてきた…ヤバい…
「おい、まだか?」
「あ、はいはい」
しゃこしゃこ……
「お前は幸せ者だぞ、神の背中が流せるんだからな!ハッハッハ!」
月夜見、ご満悦だな……なんか、僕のドキドキも治まってきた。
「洗えたよ」
「よし!次はお前の番だ!」
「え!?いいよ!」
「いいじゃないか!風呂の入り方を教えてくれた礼だ!さあ、座れ」
「……じゃあ」
今度は僕が椅子に座り月夜見が後ろにまわる。
しゃこしゃこ……
「神に背中を流させるなど、本当にお前は……」
「幸せ者だよ」
「……分かっていれば良い……ふふふ……」
僕もつられて笑う。
「しかし、久しぶりだな……こうやって背中を流すのは……」
「そうなの?」
「ああ……昔は父上や姉弟の背中を流したものだ……」
「今はしないの?」
「父上と姉とは馬が合わんからな」
「弟さんは?」
「弟は……死んだと聞いている……」
「……ごめん」
「いやいや……あいつは下界に降り、天寿を全うしたらしい……寿命なら……仕方のない事だ……」
月夜見か泣いてる……
「……さあ!洗えたぞ!」 ジャー!
「うわ!?何するの月夜見!?」
「泡を流してやる!」
「だからって、頭からかけなくていいでしょ!」
僕は月夜見からシャワーを奪い取って、月夜見の頭から湯をかけた。
「わ!?やりおったな!」
月夜見は浴槽に行き、手でバシャバシャと浴槽から湯をかけてくる。
しばらく湯をかけあった後、二人で浴槽に浸かる。
「湯に浸かるのは気持ちが良いな」
「普段、入らないの?」
「いつもは沐浴だからな」
「そうなんだ」
月夜見は、ホントに気持ちよさげに目を瞑ってる……歌でも歌い出しそうだ……
「よく暖まった?」
「おう!」
「じゃあ出ようか」
「そうだな」
二人で脱衣所に出た。
「はい、タオル」
「すまん」
「あ…これ使う?ドライ…」
「何をだ?」
振り向いた月夜見の髪の毛はさらさら……これも神の力?
「いや……なんでもない」 僕が服を着だす前に、月夜見はいつもの"部屋着"になってた。
リビングに戻ると母さんと父さんがテレビを見ていた。
「あら、お帰り……聞こえてたわよ……仲がいいわね」
「父さん、羨ましいぞ」
恥ずかしいなぁ……
「おい」
「何?」
「早く部屋に行くぞ」
「何で?」
「お前……昨日の約束、忘れたわけではあるまいな?」
「……憶えてるよ」
「なら良い♪」
「じゃ、僕ら部屋に行くね」
「はい、おやすみ」
「早く寝るんだぞ」
「はーい、おやすみ」
「父上殿、母上殿、おやすみなさい」
部屋に戻ると、早速スケッチに取り掛かった。
椅子を窓際に持っていき月夜見を座らせた。
「わしはどうしてれば良い?」
「何もしなくていいよ。窓の外でも見てれば?」
「じゃあそうする」
月夜見は窓の外を見てる……窓から入ってくる風に髪をなびかせてる様が凄く美しい……
「家族とは良いものだな…」
月夜見は遠い目で外を見てる。
「…お姉さんやお父さんとは馬が合わないって言ってたね……喧嘩別れ?」
「姉とはそうだな……」
「例の保食神の時でしょ?」
「そうだ……"もう会いたくない"と言われた……」
「月夜見はお姉さんの事好き?」
「……どうだろう」
「え?」
「もう、昔すぎて忘れてしまった……」
「じゃあお姉さんも、その時の事、たぶん忘れちゃってるよ」
「……」
「今なら、普通に会って話が出来るんじゃない?」
「……ありがとう、裕一郎……」
初めて名前で呼ばれたかも……
「裕一郎は優しいな……」
月夜見が凄く柔らかい笑顔を見せる……僕はそれを脳裏に焼き付け、鉛筆を走らせた。
「お父さんとも?」
柔らかい笑顔から一変、月夜見の顔が曇る……
「父上とは喧嘩別れではない……一緒にいると……疲れる」
やっぱり伊弉諾は厳しいんだろうな…
「よし!出来たよ!」
「出来たか!早く見せてみろ!」
スケッチブックから描いた絵を破り取り、月夜見に手渡した。
「……おお……」
「どう?」
「良く描けているぞ!」
「そう?良かったぁ」
「貰って良いのか?」
「どうぞ」
「これは一生の宝にするぞ!」
紙が保つかな……
「あ……こんな時間……もう寝なきゃ……」
「もう、そんな時間か……寂しいのう……」
「ごめんね……」
「いや……裕一郎には裕一郎の生活があるのだ……仕方あるまい……」
「ホントごめんね……じゃ、寝るから」
「わしはまた散歩に出かけるか……」
「気を付けてね……おやすみ」
「ああ、おやすみ」
月夜見が可愛く書けてたら幸いです(*^_^*)