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忙しくて更新遅くなりました(;^_^A
僕達が入った路地はビルの間で、路地の途中に片方のビルの裏口がある。
そこだけ広くなって、そこに連れてこられた。
月夜見は相変わらず口を結んで、真っ直ぐ前を見てる。
「そんな恐い顔しないで……せっかくの可愛い顔が台無しだよ?」
チーマーがからかうように言う。
「そうだよ……これからいっぱい気持ち良くなるんだから、楽しみにしといてもらわなくっちゃ」
そう言って月夜見の肩を抱くチーマー。
抱かれた瞬間、月夜見がびくっとする。
「あらぁ?もしかして初めてかなぁ?」
「大丈夫!すぐ気持ち良くしてあげるから!」
そう言いながら、手が月夜見の胸に……
「い……いやだ!」
月夜見がチーマーの手を払う。
すると手を払われたチーマーは、月夜見の顎を持って引き上げる。
「あいつがどうなってもいいのか!」
そう言われて、月夜見は静かに目を閉じる。
「分かりゃあいいんだよ……」
チーマーはまた、月夜見の胸に手を伸ばした。
その時、どこからか声が……
「もうそのへんでやめとけ!お前等!」
すると、僕の目の前に、小さくて光り輝く玉が飛んできた。
「体、借りるぜ」
そう聞こえた後、僕を羽交い締めにしてるチーマーの力が緩んだ。
「大丈夫だったか?」
あれ……さっきと声が違う……
そう思って振り返ると、全くの別人が立っていた……
月夜見がその人を見て驚きの声をあげる。
「す……素盞嗚!」
この人が素盞嗚……なんで筋肉を誇示するようなタンクトップにジーンズ?
「月姉、久しぶりだな!」 月夜見の瞳から、涙が溢れだす。
「素盞嗚……生きていたのか?……」
「話は後だ、月姉……まずはこいつらを片付けてからだ」
素盞嗚はそう言うと、月夜見を囲んでるチーマーに向かって走り出した。
ここからは"瞬殺"だった……
気付いた時にはチーマー達はみんなのびてた。
「素盞嗚……」
月夜見の顔は涙でぐしゃぐしゃ……
「悪かったな、月姉……挨拶もなく中津国に行っちまって……」
素盞嗚も目にいっぱいの涙をためている……
「素盞嗚は……死んだと聞いておったから……」
「ああ、死んだ……肉体がな。今はこうして、魂だけだよ……」
「あの……」
「何だ……裕一郎……」
「とりあえず、家帰らない?まわりが……」
さっきの乱闘のせいで、まわりに人集りが……
「俺に任せろ」
素盞嗚はそう言うと、ジーンズのポケットから銀色に光る棒みたいなのを取り出した。
「はい、みなさん!これはニューラライザー。この先を見て」
ニューラライザーの先からフラッシュが。
「あ!こんな所で貧血で倒れてる人が!みなさん!早く助けてあげて!」
まわりの人達は、何事もなかったかのようにチーマーを介抱し出す。
僕達は逃げるようにその場を離れた。
繁華街を離れて近くの公園までやってきた。
「ここまで来れば一安心だろ……」
「さっきの……この間テレビで見たような……」
「お!よく分かったな!やってみたかったんだよ、これ」
……テレビ見てるの?
「で、その装置は本物?」
「記憶を消したのは俺の力だよ。ニューラライザーは適当」
軽いな、素盞嗚は……
「素盞嗚……お前は相変わらずだな……」
月夜見が泣きそうになりながら言う。
「いつものらりくらりしおって……生きているなら、なぜ便りぐらいよこさん!どれだけわしが心配したか分かっておるのか!」
月夜見の目からは涙が止まらない。
「俺だって便りぐらいは出したかったけどよ……高天原を追放された俺にはそれも出来なかったんだよ……」
素盞嗚には素盞嗚なりの思いがあったんだね……
「でも、月姉達の事は、片時も忘れた事はねぇ!」
月夜見は顔を伏せたままわなわなと震えてる……足元には涙がぽたぽた落ちていく……
素盞嗚は月夜見に近付き、そっと抱きしめた。
「……二度と月姉には触れられないかと思ってた……会いたかったぜ……」
月夜見は素盞嗚を強く抱き返す
「バカ野郎!わしとて二度と会えぬと思っていたぞ!」
月夜見は子供みたいにわんわん泣き出した……素盞嗚も歯を食い縛って泣いてた。
しばらくして月夜見が素盞嗚に聞いた。
「なぜ……わしが中津国に来ているのが分かったのだ?」
「月姉……中津国の神のネットワーク、ナメちゃいけねぇぜ」
「……ねっとわぁく?何だそれは?」
「ここから少し行ったら神社があるだろ?そこの神がうちにすっ飛んできて教えてくれたんだ」
そう言えば、そこ通学路だ……いつも深々と礼をしてくれるおじさんって、もしかして神様?
「そうだったのか……ならその神も、素盞嗚がいる事教えてくれれば良いのに……」
月夜見がぷうっと膨れる。
「いや……そいつも俺の事教えるって言うから、口止めしたんだ」
「何!?何でだ!?」
「……びっくりさせようと思って」
素盞嗚がニッと笑う。
「でもまさか……完全死亡説が流れてたとは……」
「言っておくが、高天原の神は、みんなお前が死んだと思っているぞ……それもこれも、お前が私にだけでも便りをよこさんからだ!」
ドス!
「ぶ!?」
月夜見が素盞嗚のお腹をグーパンチ……仲がいいなぁ……一人っ子だから羨ましい……
素盞嗚が僕を見る。
「……で、あの人間が月姉の良き人か……」
良き人って!?
「バ……バカ!ち、違うぞ!」
「今さら隠さなくてもいいだろ……」
真っ赤になった月夜見に、素盞嗚はからかうように言う。
「昔の月姉なら、あの状況でもおとなしくなったりしなかっただろ?」
「そ……それは……」
「ん?正直に言ってみ?」
「だあ!うるさい!」
ボグッ!
「ぐえ!?」
今度は素盞嗚の顔面に月夜見のグーパンチが……
「それより素盞嗚!……これからどうするんだ?」
「俺?家に帰るよ」
『家!?』
ハモる僕と月夜見。
「うん。嫁にも息子にも何も言わずに出てきたからな、帰らなきゃ」
僕は敢えて聞いた。
「家ってもしかして……」
「おお、出雲。今、一緒に住んでんだよ」
さいですか……
「じゃ、俺帰るわ。たまに遊びに来ていいか?」
「ああ、いつでも来い。なあ、裕一郎」
「うん!いつでもどうぞ!」
「ありがとう!じゃあな!」
飛んでいく光る玉……崩れ落ちる脱け殻のチーマー。
「大丈夫かな?」
「いずれ目を覚ますだろ……さあ、帰るか!」
「うん!」
僕達も家に向かって歩きだした。
「ねぇ、月夜見」
「何だ?」
「さっき、素盞嗚が言った……良き人って……」
月夜見の顔が、一気に真っ赤に……
「わわ、忘れろ!」
「で、でも……」
「いいから忘れろ!頼む!忘れてくれ!」
「……分かったよ」
月夜見の良き人がもし僕だったら……
僕も月夜見に見合う、強い男にならなくちゃ!
無理か……たはは……