食堂での風景
ここは城の食堂、 この食堂は受付で金券を買う、現実世界の立ち食いそばと同じシステム。今日もこの食堂の奥の炊事場では料理人達があわただしく動き回っている。
今はピークを少し過ぎ客足が引いてきている所へシューとボイルがやってくる。
「シュー、何が食べたい?」
「僕はいつものお肉を食べるです」
いつもの様に受付にやって来て、受付の料理着で頭にコック帽をかぶった中年男性に声をかける。
「チップスのおっちゃ〜ん! いつものちょうだい‼︎」
「おお、坊主に犬っころ‼︎ 今日は仲直りしたのか⁉︎ よーし、いつものだな!
肉定、肉ダブ、1つガリ玉抜き一丁‼︎‼︎」
「「「肉定、肉ダブ、1つガリ玉抜き一丁 ‼︎‼︎」」」
受付のチップスと呼ばれた男性が争ってた2人に、言葉を返すと注文を受けて厨房に通した。
すると厨房にいる料理人が3人声を揃えて復唱する、いつもの光景だ。
お金を払い、手書きの金券を受け取り料理が出来るまで待つシューとボイル。
ちなみにボイルが頼んだのは焼肉定食、牛の魔物の肉をガーリックや玉ねぎと炒め塩やソースで甘辛く味付けした物で、それにサラダと小さな切り込みの入れたコッペパン2つ付けた定食。この食堂は、体が資本の騎士隊もよく使う食堂で基本量が多い。
ボイルはその肉をパンに挟んで食べるのが好きだ。
で注文の際の肉ダブは肉ダブル、つまり肉の量が倍、ガリ玉抜きはガーリックと玉ねぎ抜き。1つと付けたのは、ダブルで頼むと2皿でサーブされる、そのうちの1つをガーリック抜きの焼肉に変えると言う事だ。
今は受付に誰も並んでないので待ってる間、ボイルはおっちゃんに話しかける。
「いやぁ、参った参った。こいつあまりにしつこいわ、次第に強くなってくるわで大変だったんだよ。終いには、ものっ凄い速さで飛んで来て木の幹を削り取っちゃうしさ、流石に降参するわっちゅう話だよ」
「先にやって来たのはそっちなのです」
ボイルがおっちゃんに愚痴るとそれに返す様にシューが喋る。
シューが喋った時、位置が低くて話辛いだろうと思い、チップスに許可を得てシューを抱き上げて受付の机に乗せるボイル。
「よっと、まあそれはそうだけどよ。ってかどんだけ力付けてんだよ‼︎ 飛ぶって何‼︎? あれ避けなかったら俺の首が飛んでたわ‼︎‼︎」
「そうなったら、美味しく頂きますです」
「怖いわーーー!!!!、止めろ、そう言うの、冗談でも笑えねえから‼︎」
ボイルとシューのやりとりを聴いているチップス、実際起きた事とチップスの頭の中の映像に齟齬があるのか、ほのぼのと2人の見ている。
「まあまあ、もうそろそろ出来るだろう、もうその辺にして、席に座って待っとけ、持ってってやるから」
そろそろ出来上がる頃合いを見て2人を止めて席に着く様に促した。
そして、出来上がった焼肉定食を持って2人のいる席へと向かって行く。
ボイル達のいる席は受付から見て右手奥の2人用のテーブル席、店内がごった返しても、足元で食べるシューが邪魔にならない位置にある。
「へい、焼肉定食、肉ダブル、うち1つガーリックと玉ねぎ抜き一丁、お待ち‼︎」
「待ってました‼︎」
チップスの持って来た料理を喜んで受け取るボイル。
もう一皿を床に置きシューに食べさせる。
「ありがとうです!」
と言うとシューは肉を食べ始める。
ボイルはまず始めに付いているフォークで肉を突き刺しそれを口に運ぶ。
「やっぱ、いつ食っても美味え‼︎」
「当たり前だろ! 俺がこの目で見て仕入れた食材を使って、俺が仕込んだ料理人達が作ってんだ、不味い訳ない‼︎」
ボイルの感想を聞いてチップスが、さも当然と言わんが如くに言葉を返す。
そしてボイルの座ってる前の椅子に腰掛けた。
「もう慣れたとはいえ、不思議なもんだな、
喋る犬がうちの食堂で飯を食ってるのを見るのは。 俺も若え頃は、色々世界中を見て来たが喋る犬は初めてだ」
チップスが不思議そうに呟いた。
それを聞いたボイルが付属のトングを使いコッペパンの切れ目に肉を挟みながらチップスに聞いた。
「へぇ〜、おっちゃん、旅をしてた事あるんだ!」
そして、肉を挟んだパンをかぶりつく。
「ああ、この仕事に就く前にな。まあ、ちょっと色々あって辞めちまったがな」
遠くの方を見ながらチップスは答えた。
一口食べ終えたボイルが、
「ふーん、色々って?」
そしてもう一口かぶりつく。
「まあ、色々だ」
と答えを濁すチップス。
ふと目線を感じ、目線の先の足元に目をやる
と、肉を食べ終えたシューが涎を垂らしながら尻尾を振ってお代わりを求めてこっちを見ていた。
「なんだ、お代わりか? だったら言えよ、
喋れんだろ?」
とチップスが微笑みながら言うと、
「なんか話をしてたから言いづらかったです」
「お前、もう食い終わったのか⁉︎ いつもより早くないか‼︎? 俺まだパン1つ目だぞ‼︎ 」
とボイルが驚いて言った。
「ははは、よーし、じゃあ肉のガリ玉抜きお代わり一丁な。お代は後は頂くぞ」
とシューが食べていた皿を受け取り厨房に下がって行った。
それからお代わりがやって来るまで一身にシューのお代わりコールの目線を受け続けながら、気まずい気持ちで食事を続けるボイルなのであった。