散歩
ショッキングな出来事にぼーっとしている子供達。そしてようやく立ち直った大人達。
「いやはや、文献を読んで不思議な事が起きるとは存じておりましたが、まさかこんな事が起きるなんて!」
「本当ね、これも異世界の特異能力なのね!」
目の前の出来事に驚きを隠せ無いカシューとエクレア。
「僕の体、どうなったですか⁉︎」
目覚めたシューは自分の体の変化に、戸惑う。
それにカシューは答えた。
「異世界の客人には、この世界には無い特別な事が出来るみたいなのだよ、シュー君には私達と話が出来る事。それと先程の体が伸びたり跳ね返り出来る事がそれだ。後、帯魔と言うものもあるのだが言葉からすると、多分魔法に関する事だと思う」
「へ〜、じゃあ体が痛く無いのもそうなのですか?」
シューは先程の自分の体にダメージが無いことに気付きそれを報告した。
「そうだな、ダメージ無効があるし防御力がAランクだったから、それもだろう、今までの異世界の客人達はこの世界の人々とは違い比較的に能力が高いのでな」
とカシューは答えた。
「それはすごいです。速く動けたり、空を飛べるです!」
シューの喜びに空を飛べるとはちょっと違うのではと思いつつもカシューは何も言わずにそうだなと相づちを打った。
話が終わるのを見て王 ザッハは言った。
「それはそうと、元の世界への帰り方を調べるのに少なくとも数日はかかる。
それまではこちらに居てもらう事になるが
何かしたい事はあるか?」
「散歩がしたいです!」
シューは答える。
「そうか、私達は仕事があるから他の者に頼む事になるがいいか?」
「わかったです、大丈夫なのです」
「そうか、では。マッシュ、話は聞いていたな! 後は頼む」
「はっ、御意に!」
マッシュと呼ばれた騎士が1人王に近づきひざまづいた。
「では、またな」と言うと王や妃達は扉から出て行った。
マッシュと呼ばれた騎士は王達を見送ると立ち上がりシューに自己紹介した
「俺は、騎士隊、隊長のマッシュだ。こちらについてきてもらおう」
扉を出て2人は城の入り口付近の騎士団の休憩所に向かう。
休憩所には何人かの騎士達は鎧を外して休憩していた。
マッシュはその中に赤い髪をした若い少年を見つけ声を出して呼んだ。
「おい、ボイル!こっちに来い!」
「はい! 隊長!」
ボイルと呼ばれた少年は駆け足でやって来た。
マッシュはシューに、
「こいつはボイルと言う、うちの隊の若いのだ。こいつが世話をしてくれるので、この者に色々聞くといい」
そして、ボイルに、
「この犬はシュークリームと言う異世界の客人だ。見廻りついでに町の案内をしてやってくれ」
と2人の紹介をした。
「……犬ですか……」
「そうだ、だが犬でも異世界の客人だ。粗相のないようにな!」
「………」
「返事は!」
「りょ、了解!」
戸惑うボイルに対し用件を伝えて去って行ったマッシュ。
「………いくら新米でもこれは無いんじゃ無いかな〜〜」
と頭を抱えるボイル。
「いいじゃねーか!」「お前にはぴったりの仕事だな、ギャハハ」
などと茶化す先輩達。
「やめて、下さいよ〜〜、先輩達」
さらっと返しつつも更に落ち込むボイル。
するとシューが足元から
「よろしくです!」
と言った。
青年は不思議そうに足元を見る。
その場の者達も同じくそうした。
そしてもう一度シューは「よろしくです!」
と言った。
「「「「犬が喋ったーーーー⁉︎」」」」
皆が皆口を揃えて驚いて叫んだ。
隊長マッシュが済まなそうに戻って来て、
「すまん、すまん、言うことを忘れていた。
そのシュークリーム君は犬ではあるが人と同じように喋る事が出来るので、普通に接しても大丈夫だ。後、客人の特徴として体が伸びたり跳ね返ったりするので気を付けるように」
と告げ、また去って行った。
その後ろ姿わ見送りながらボイルは呟く。
「なんじゃそりゃ……」
中世ヨーロッパの様な街並み、太陽は真上から少し傾いているお昼過ぎ、道幅は広く、商店や住宅がが並んでいる。
人々は買い物をしたり、通行したり、子供達が遊んだりしている。
隊長の命令通り町中を警護の見回るボイル、
装備は見回りの為、肩当て、小手、胸当て、
腰当て、脛当ての軽装備とショートソードを左腰に差している。
右手にはシューを繋いだロープを持っている。
恥ずかしいのか俯いている、顔も少し赤い。
毎日見回りをしているので町中の人々に顔を覚えられてるボイルに色々と声を掛けてくる。
「よう、坊主どうした! 元気ねぇな、ちゃんと飯食ってっか? どうしたんだ、その犬?
落ちてたのを拾って来たのか?」
「まぁ、どうしたんだい、犬連れて散歩なんて! あんた、仕事サボってるのかい?
ははは、あんたはそんな事するような子じゃないわねぇ!」
「あ、新米お兄ちゃん、仕事中なのに犬連れてる〜〜! 変なの〜〜!」
「へんなの〜〜!」
「「「隊長の命令なんだよ〜!」」」
八百屋のおじさんが、恰幅のいいおばさんが、いつも仲のいい兄妹に掛けられた言葉にそう返すボイル。
しばらくして気持ちを切り替えるボイル。
「まぁいつまでもうじうじしてても仕方がないか。」
と一度空を仰ぎそしてシューを見る、
そして、恐る恐る声をかけた。
「えっと…、シュークリーム…だったっけ?」
「はい、そうです。 シューでいいです」
シューは歩きながら振り向き答える。
「…じゃあシュー 、さっき隊長が体が伸びたとか跳ね返るとか言っていたけどどう言う事?」
ボイルの質問にシューはこう答えた。
「えっと…、体がびろーーーんとなったのです。そして、ぱって離されてばびゅーーーんて飛んで壁にどかどかどかーんてなったのです。痛く無かったけど痛かったです」
「うん、何言ってるのか分からねー!けど
痛く無かったけど痛かったてどう言うことだ?」
その答えにちんぷんかんぷんになるボイル。
しかし、痛く無かったが痛かったがと言ったのに対し疑問符が出た。
「それも異世界の客人の特別な事だそうなのです」
シューは答えた。
「つまりは当たっても痛く無いって事か?」
「はい、痛く無いけど痛いのです」
質問に対して要点を掴みきれない答えが返ってきた。
「全然、分かんねー‼︎」
あたまを抱えるボイル。
すると突然前方から叫び声が聞こえた。
「泥棒‼︎ 泥棒ーーー‼︎‼︎」
「何! シュー、一緒に来てくれ‼︎」
「はい、分かりました‼︎」
叫び声を聞きつけ急いで駆けるボイルとシュー。
叫び声を上げたのは腰の曲がったおばあさんだった、おばあさんはこけている。
「大丈夫か?ばあちゃん! 泥棒はどこに?」
「あそこ、あそこに泥棒が…、 私の鞄をいきなり後ろから獲って行ったのー‼︎」
前方指差すおばあさん。
遥か前方にものすごい勢いで走っている男がいた。
「あっ待てーーー!!」
慌てて追いかけるボイルとシュー。
「そいつは泥棒だーー‼︎ 誰か手を貸してくれーー‼︎‼︎」
ボイルの声に顔見知りの町人達が泥棒を捕まえようとするが泥棒は器用に避けながら走る。
町人たちのお陰で泥棒までの距離をもう少しの所まで詰めることが出来たボイルとシュー。
しかし、その残りの差をどうしても詰めることが出来ない。
ボイルは新米とはいえ騎士隊の訓練で扱かれている、特に走り込みには自信がある、
しかし、泥棒の方が一枚上手のようだ。
町人の追撃から逃れ一気に加速する泥棒。
まずい、このままでは逃げられる、
その瞬間、ふとさっきの会話を思い出した。
そして、1つの考えがよぎりさっきと同じ質問をシューに問う。
「なぁ、シュー。さっき当たっても痛くないていったよなぁ?」
「 はい、痛くないけど痛いのです!」
「そんで、ばびゅーーーんて飛んでどかどかどかーん、なんだよな?」
「はい、ばびゅーーーんでどかどかどかーんです!」
その答えに俯き、そして思い切り口角をあげ、行動に移す。
走りながらシュー拾い上げ両手で持ちこう言った。
「このままじゃあ、奴に逃げられる!もう方法はこれしか無い!お前の力が借りたい、いいか?」
「分かったです!力を貸すです‼︎」
「そうか!悪いがあいつをぶっ飛ばしてくれ‼︎」
そう言うと、両手からシューを少し前方に放り投げた。
その瞬間、目を見開き唖然とするシューを余所に右脚を大きく振りかぶるボイル。
そして落ちてくるシューに合わせて脚を蹴り出した。
そう、まさにボールは友達と言ったあのサッカー選手のように!
「いっけーーーーーーーー!!!!!!!」
「キャイーーーーーーーーーン!!!!」
そしてシューは泥棒に向かってものすごい勢いで飛んで行った、悲痛なる叫び声と共に。
⚫️
泥棒は走りながら後ろをチラ見して言った。
「へっ、しつこいガキもようやく巻いたか!
騎士隊だがなんだか知らねえが俺様にかかりゃこんなもんよ! それにしてもこの重み!あのババア結構貯めコボォ……!」
戦利品に意識を向けた瞬間何か泥棒の背中にぶつかり泥棒の体はくの字に折れた。
泥棒は何が起きたのか分からず盛大に前に転がる。
勢いが止まり仰向けになった泥棒。
後ろから追いかけて来たボイルや町人たち。
これはまずいと痛めた体に鞭打ち逃げ出そうと起き上がる瞬間何かが顔に落ちて来た。
どか!
泥棒の意識はそこで消えた。
⚫️
泥棒の元に駆け寄るボイルや町人達。
泥棒は気絶している。
町人達は騎士隊の本隊が到着するまで泥棒が目を覚まし逃げないようにロープで縛り上げる。
ボイルはおばあさんの鞄を拾い、そしてシューの元に行った。
シューはボールのようにまん丸になり目を回している。
ボイルはシューをゆすり、声を掛ける。
シューは、はっと目を覚まし辺りを見回す、
程なくボイルを見つける、体を起こし、そして、
がっっっっっっっっっっぶ
思いっきりボイルの頭に噛み付いた。
「痛っっっってーーーーー‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」
シューはガルル唸り噛み付きながら、
「いきなり何するですか‼︎ 痛いじゃ無いですか‼︎ 」
「痛たたた。力を貸すって言ったじゃない
か、それに痛く無いんじゃなかったのか?」
「痛くなくても痛いのですよ‼︎ 目の前がグルグルするです‼︎」
「あ、痛く無いけど痛いって目が回って気持ちが悪いって事?」
「そうです! 目が回るのは嫌なのです‼︎」
「分かった!分かったからもう離せ‼︎」
「分かったならもういいです」
機嫌を直し口を頭から離すシュー。
「走ったら、お腹減ったです」
「おばあちゃんに鞄返したら、帰って飯を作ってやるよ」
程なくして騎士隊本隊が到着し泥棒を捕縛、
ボイルも本隊に出来事を報告し、鞄をおばあさんに返却の後、騎士隊の詰所に帰っていった。