呼び出された理由
再び男は犬に問いかける。
「お前は人の言葉を喋る事が出来る犬なのか?」
すると犬は今度は首を傾げて言った。
「え? 僕の言う事をみんなが分かるんじゃないんですか?」
何か違和感のある会話、しかし男ははなしを続ける。
「そうだ、お前が人の言葉で喋っていて、それを聞いて我々はお前の言う事を理解している」
すると犬は驚いた様に、
「僕は今人の言葉で喋ってるのですか⁉︎
すごいです!すごいです!これならご主人とお喋り出来るです‼︎」
と、その場で喜び飛び跳ねクルクルと回り出した。
そしてキョロキョロと辺り見回し、
「ご主人!ご主人は何処ですか⁉︎」
しかし、辺りにはそれらしい人物は見当たらない。
「あれ? いないのです!」
辺りを走り回りご主人を探すしかし見当たらない。
犬は元の位置にもどり思い出した様に男に尋ねた。
「ここはどこですか?あなたは誰ですか?ご主人は何処でしょうか?」
犬は矢継ぎ早に質問質問をする。
男は漸く話が出来ると、息を吐き、一瞬間を置き喋り始めた。
「ここはトルテ王国というお前の住んでいる世界とは違う世界の国だ。
そして私はその国の王でザッハと言う者だ。
で、お前の主人とやらは、お前を呼び出した時には一緒にいかなった、と言うことはお前の住んでいる世界に残ったと言うことだろう」
すると犬は言った。
「これは、これは、ありがとうです。
僕の名前はシュークリームです。
僕の住んでいる世界って何ですか?」
すると王は答えた。
「こことは違う異世界の事だ。
お前は我々が召喚の儀によって招かれた
異世界の客人ということだ」
シューは「なぜ僕は呼ばれたのですか?」と聞くと。
王はすまなそうに「それは……」と言おうとすると、1人のローブの人物が近づいて来た。
「失礼します王様、ここは私が説明します。」
とローブのフードを外し王に断り入れて話に入ってきた。
人物は男性で白髪で長い髭を生やしていた。
王は無言で頷き一歩下がった。
白髪の男は、
「初めまして、シュークリーム君。私はカシュー。君を呼び出した者だ。
で、なぜ、呼び出したかと言うと、
この国の神託が降り、そう遠く無い未来に魔族がこの地にやって来ると出た。
この国は小さな国で力の強い魔族なんぞがこの国にやってきたとて太刀打ちなぞ出来ない、そこで我々は古文書を調べ上げ、過去に魔族に襲われた時に召喚の儀
を行ない、異世界から勇者を呼び出し魔族を退けたという記実を見つけた!
そこで我々もそれに倣い!召喚の儀により勇者を呼び出そうと 術式を行なったのだ‼︎……」
カシューがじいさんとは思えないほどの気迫を持って鬼気迫る勢いで熱弁していた。
そんな中シューはというと…
「すーぴー、すーぴー……」
「寝るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎」
全力でカシューにつっこまれた。
周りのみんなは、まあ犬だもんなと優しい目で見守っている。
後ろで女は何か笑いを押し殺している。
シューはめを覚まし、伸びをしてこう答えた。
「話が長いのです。僕は何故呼ばれたのですか?」
カシューは「少し熱くなってしまったな、君が呼ばれたのは、悪い奴をやっつけるためだ」
「そうだったのですね。
でも何故僕だったのですか?他に人間の方とかの方がいいと思うのですが?」
カシューの答えにシューはさらに疑問をぶつけた。
その質問に答えが詰まる、そして答える。
「それなのだが、今回も前回と同じ方法で術式を行ったので人間の勇者が召喚されるはずなのだがどういう訳か分からないが君が来たのだ。」
「そうなのですね。そういえば、ご主人と遊んでた時、ご主人が光ってた様な気がするです。
でもご主人に近づいたら僕の目の前が真っ白になったような気がするです。」
訳を聞き納得するシュー。
そしてここに来た直前のことを思い出した。
「と言うことは神が他の人間よりお前を選んだと言うことだろう、お前には何か不思議な力があるかもしれない。事実、お前は今、我々と話をしている。お前とお前の主人には悪いことをしたが、こちらも必死だったのだ、許してほしい」
カシューの代わりに王が謝罪の言葉を告げ、頭を下げた。
「王様⁉︎、 何と言うことを!異世界の客人とはいえ犬に頭を下げるなどと‼︎」
カシューは驚き声を荒げて王に言う。
しかし、王はそれを制し、
「いや、犬とはいえ客人は客人。礼を失してはならん。それにこちらの都合で呼び出したのだ頭を下げるのは当然であろう!」ら
王の言うことに反論できないカシュー。
王は続けてシューに言った。
「今、我々は魔族からの侵略の危機に瀕している!私はこの国を!国民達を!魔族の魔の手から守りたいのだ‼︎そこで、異世界の客人であるお前の力を借りたいのだ、頼む我々と共にこの国を守ってはくれまいか⁉︎」
「お断りします‼︎」
…………………………………。
「……理由を聞いてもいいか?」
間髪入れず答えられた解答にその場の全員の開いた口が塞がらず、ようやく立ち直った王は絞る様に聞き返す。
「お家に帰るのです!帰ってご主人と散歩に行くのです‼︎」
意気消沈する王とカシュー、
まあ犬だもんなと温かい目で見つめるローブの人物達、
口を押さえて笑いお堪える女。
その堪える笑いに追い打ちをかける様にシューは王に喋りかけた。
「ザッハくんも色々あって大変なのですね」
「「「ザッハくん‼︎⁉︎」」」
「お前は王様に向かって何と言う口のききかたをするんだーーーーーー‼︎‼︎‼︎」
流石のカシューも怒号と唾を飛ばす。
そんな中。ぷーーーーーーと言う吹き出す様な笑い声が響き渡る。
「クスクスクス、あーはははは!、くっ苦しい!こんなタイミングで寝るって!どんだけ犬なの⁉︎お断りしますって!お断りしましって!あーはははは!おまけに王様に君付けって!ふふふふ、あーはははは!お腹が、お腹が痛いぃ!」
と、女の笑い声が辺りに響き渡る。
周囲は唖然とするが王は今まで自分の空気により、周りの空気を読んで自分の言いたい事を押さえていた妻が思いのままの久しぶりの笑い声に次第に頬が緩む。
「ふふふふ、はははは、」
その風景に周りの人物達もフードを外し笑い出す。
カシューも難しい顔をしていたが次第に場の空気に流される様に頭を押さえつつも頬が緩み始める。
暫く、和やかな空気が場を覆う。
女の呼吸が落ち着きを取り戻し、改めてシューに話しかける。
「あなたって最高ね、感心したわ!」
「わたしはエクレア、よろしく、異世界のお客人様。」
女は自己紹介をする。
「妻の笑い声を久しぶり聞いたな!
流石は異世界の客人だありがとう。」
王は嬉しそうに喋り出す。
そして、
「シュークリームよ、やることがないのなら、今暫く我が城に留まれ。お前を元の世界帰す方法を、探してみる! カシューよ、シュークリームを元の世界帰す方法を探してみてくれ!!」
「かしこまりましてございます。」カシューはそう言うと、部下に命令をし、後ろに下がった。
「ありがとうなのです。あと僕のこと呼ぶ時ははシューで良いのです」
そうして、シューのお家に帰る大作戦は始まる。