召喚の儀
石で造られた大きな部屋、周りには松明があるがそれでも薄暗い、広さは小学校の教室程だろうか。
そこでローブを纏った人物達が10人ほど円を囲う様に立ち何か呪文の様なものを唱え続けている。
しばらくすると、囲まれた場所が円形に輝き始めた。
周りをよく見るとローブの人物達とは別に少し離れた所に2人、男女が1人づつ見守る様に立っている。
男は30代くらいだろうか頭に冠をのせマントを羽織っている、髪は金髪、顔は整っており勇ましそうだが今は頬が少しこけて疲れ果てた表情をいている。
女は、1人は男と同じく30代位で頭にティアラをのせ服はドレスを着ている、髪は同じく金髪。顔は綺麗なのだがこちらもう疲れ果てた表情だ。
祈る様に俯向き手を前に組んでいる。
次第にローブの人物達の体から靄のような物が上っていく、それにしたがい声も大きくなってくる。
円形の光が強くなってくる。
そして次第にバチバチッと火花の様に小さな爆発を起き始める。
ローブの人物達はそれを気にせずに呪文を唱え続ける。
円形の輝きと爆発が次第に大きくなる。
高貴な男女2人はその輝きと爆発に顔を隠す様に手を前に出す。
そして声と輝きと爆発が最高潮に達したその時、ぼうっという音と共に光の円から煙が吹き出し辺りに立ち込めた。
息も絶えだえのローブの人物達、しばらくしてその中の1人が召喚の儀の成功を告げる。
皆の表情が歓喜に染まる。
ローブの人物達が歓声を上げた。
ある者は抱き合い、ある者は頭上で手を叩きあった。
男と女は歓声こそ上げなかったが安堵の表情を浮かべながら、男は膝を付き暗いはずの部屋で空を仰ぎ、女は涙を浮かべ手を組み神に感謝の意を示した。
次第に煙が晴れてきた。
皆が皆、期待と不安を胸に円の方を見始める。
しかし、煙が完全に晴れ円の中心に居たのは1匹の毛玉の様な犬だった。
皆の表情が固まる。
「あれ、誰もいないぞ?…」
「そんなバカな…、 召喚の儀は成功したはず!辺りを探してみよう」
ローブの人物達が辺りを見回した。
しかし、それらしい人物は見当たらない。
次第に歓喜は薄れ絶望が顔を出し始める。
ローブの人物達は次々と先ほどの男とは違う意味で膝を付き、男は地面に手を付き、女は先ほどとは違う意味で涙を流した。
「もう、どうすればいいのだ…」
男は押し出す様な声で呟いた。
静寂の時が流れる。
すると、その静寂を打ち破る様に声が聞こえてくる。
「あの、ここはどこですか?」
気のせいか?声が聞こえる様な気がする。むしろその声を信じなかった者もいる。
するともう一度。
「あの、ここはどこですか?」
間違いない声が聞こえる。
皆は辺りを見渡し声の主を探す、
しかしいるのは犬1匹だけ。
男は恐る恐る犬に話しかける。
「今、お前が喋ったのか?」
すると、
「はい、僕が言いました!」
と犬が喋った。
その瞬間部屋の空気が凍り付いた。