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天使の等価交換

 校長室を追い出されたアリエルは、そのまま保健室へと運ばれた。

 初めてやってきたにしては、建物に詳しいゾフィエル。これも密偵の天使という肩書が成せる技だろうか。

 保健室と書かれた扉を開けると、そこには白衣を着た一人の女性がいた。


「失礼します。怪我人を運んできました」

「あら、いらっしゃい……見ない顔の生徒ね」

「はい。この度アリエルさんの協力によりこの学園に通うことになりました。ゾフィエルと申します。よろしくお願いします」

「丁寧にありがとう。私はここの保健室を担当しているラファエルよ。といっても、あなたは知っているみたいね」


 同じ天使の中でも、ラファエルという天使は有名だ。

 それこそ、ミカエルと肩を並べるといって良いほど有名な天使でもある。

 なぜそんな天使がこの学園にいるのかはともかく、天使の中でその存在を知らないものはいないくらいだ。

 例外としては、もし関わりがなければアリエルは知らなかったかもしれない。


「ラファエル様のような偉大な天使までもが、この学園にいるとは……今まで選択を間違えてしまった私をお許し下さい」

「あらあら、いいのよそんなこと。あなたもこれからここの生徒なら……あら、そこにいるのはアリエルじゃない」

「うっ……ちょっと、足をぶつけたから見てもらいたいわ」

「あらあらあら、うふふ」


 未だ目を覚まさないラグエルは放置し、ラファエルはアリエルを椅子に座らせようとする。

 ここまで着たら、抵抗しても無駄だと知っているアリエル。

 ゾフィエルがこちらを眺めて動かないこともあり、アリエルは半分諦めモードでその椅子に座った。


「じゃあ、脱いでちょうだい」

「わかったわ……ちょ、脱ぐのは自分でできるから!」

「あら、私にやらせてくれないの?」

「任せられるわけないじゃない!」


 保健室のラファエル。

 この学園では、可愛い娘に目がない危険人物として有名だ。

 手を触れるだけで、どんな怪我も治せるという天使だが、その代わり心に傷を負った者は多いという。

 男子生徒にとってはまさに天使の存在だが、女子生徒にとっては悪魔にも成りうる天使。それがこのラファエルだった。


「なら、その靴下で勘弁してあげるわ」

「あげないわよ?」

「そんなぁ……そこをなんとか!」

「ダメよ。ほら、ゾフィエルがドン引きじゃない」

「あ、あのラファエル様がそんな……いや、これは夢か。こんなことありえるわけが……」

「アリエルちゃん! お願い!」

「アリエル……まさか、ありえるのか……?」

「あーもうっ! 靴下くらいあげるから、早く治してよ!」


 唯一その場にいた良心も頼りにならなくなったので、アリエルは仕方なく要求を飲むことにした。

 場を収めるためにも、ここはアリエルが妥協しなければならない。


「じゃあ、それ持っていっていいから」

「あら、もう片方がまだじゃない」

「え?」

「そりゃあ、セットに決まっているでしょ?」


 何を当たり前のことを、と言いそうなラファエルの態度に、アリエルはただ絶句させられる。

 しかし、さっさとその場を離れたかったので、無言でもう片方も差し出す。


「じゃあ、治すわね。いたいのいたいのとんでけー」

「……ふぅ、やっと痛みが引いたわ。ありがと」

「いえいえ、こちらこそありがとねー」


 何を感謝されたのか疑問だったアリエルだが、ラファエルが先程の靴下を素早く密閉パックに仕舞った姿を目撃して納得した。

 その光景を見なかったことにして、放心したままのゾフィエルを放置したまま一人退出する。


 素足に上履きという姿になってしまったが、それも寮に帰るまでの辛抱だ。

 元はと言えばルシファー校長のセクハラ発言が悪いので、今後会う時は校長に八つ当たりしようと決心したアリエルであった。




 学生寮の自室に戻ったアリエルだが、その頭の中は校長に言われたことで埋まっていた。


「ミカエルさん……校長の妹さんかー」


 今までも特命で何人もの生徒を増やしてきたアリエルだが、さすがに天使の長と敵対するとは予想外だった。

 天使には、それぞれ神から授かった能力が備わっている。

 しかし、ミカエルは天使のトップということもあり、全ての天使の能力を神から授けられている。

 そんなミカエルに、アリエルは立ち向かえと言われた。


「ウリエルさんの能力無効化も使えるんだろうなー」


 そんな独り言を言いながら、ベッドにごろんと横になる。

 アリエルの部屋は二人部屋だが、ここにルームメイトは存在しない。

 特命任務を受けるアリエルにとって、同居人にその行動を隠すのは難しい。

 故に、アリエルにルームメイトがいないのは、校長であるルシファーの仕業でもあった。


「はぁ……またあたしひとりで任務かー」


 抱きまくら代わりのぬいぐるみに愚痴をこぼすアリエルであったが、その呟きを聞く人はいない。

 そして寂しいという感情と共に、いつしかアリエルはそのまま眠りへと落ちていった。

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