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天使の兄弟喧嘩

 

 学園に連れ立って戻り、校長室の扉をコンコンとノックする。

 ゾフィエルの場合は勝手に向かってくれたが、このラグエルは未だに落ち込んでいるらしい。

 アリエルは洗濯が足りなかったのかもしれないと不安に思ったが、ここまで連れてきたからには、あとは校長へ丸投げすることにした。


「ただいま戻ったわ!」

「アリエル、おかえり」

「一人見つけられなかったけど……これで二人確保できたわね!」


 そういって、後ろに隠れていたラグエルを差し出す。

 校長の前だというのに、ラグエルの顔は伏せったままだ。


「さて、君があのラグエルか? 知っていると思うが、俺はここの校長であるルシファーだ」

「うるさい」

「ん? 校長に向かってなんだねその口は。君はもう俺の部下だ」

「くっ、こんなことをしてあの方が黙っていないぞ!」

「そうだ。誰の命令だ?」

「言うか!」

「……ゾフィエル、頼む」

「はい、教育が足りずに申し訳ございません」


 ルシファーがそういうと、アリエル達の真後ろから声が聞こえた。

 そのことに、ラグエルだけではなくアリエルも驚愕してしまう。


 そしてアリエル達が後ろを振り向く前に、慣れた様子でラグエルの首に一撃を入れる。

 アリエルが止めようとした時には、既にラグエルが床へ倒れるところだった。


「……あなた、強かったのね」

「ええ。アリエルさんのおかげで改心できましたので。これからは精一杯ルシファー様に仕えていきます」

「あら、そう……」


 ラグエルの顔は見たことがあったが、ゾフィエルに関しては全くもって知らなかった。

 アリエル自体、天使の中でも影が薄い存在だが、それでも他の天使の噂話くらいは耳に届く。

 ラグエルの持つ『終末のラッパ』は、全天使のみならず、全悪魔にとっても要注意として知られているくらいだ。


 しかし、ゾフィエルという天使には情報が何もなかったため、瞬殺してしまっていた。


「さて、アリエルよ。今回監視してきた奴に心当たりはあるか?」

「いえ、あたしも名前を知っていただけで、ほぼ関わりはないわ」

「ゾフィエルよ。君は教えてくれるか?」

「……いえ私の口からも……おそらく、伝えた瞬間に消されます」


 制約で学園に縛ったとはいえ、なにも天使の持つ制約は一つだけではない。

 三つ以上の制約を持つ天使はいないが、アリエル以前に制約をかけられていてもおかしくはないだろう。


「まあそうだろうな。大丈夫だ、予想は大体ついている」

「それって安全なの?」

「ああ。逃げた一人は、おそらくザドキエルだろうな」

「誰よそれ」

「ゾフィエルと共に大天使を補佐する天使だ。監視のラグエル、密偵のゾフィエルときたら、決まったようなものだろう」

「ということは、こいつらの裏にいるあの方って」

「大天使、ミカエルだろうな。あの愚弟め」


 そういってゾフィエルのほうを見るが、彼は何も反応を示さない。

 ルシファーはやれやれといった感じで頭を抱えるが、肝心のアリエルもその大天使というのは名前しか知らなかった。


「えっと、弟さん……でいいのよね? その人って強いの?」

「お前は天使のくせに何も知らないのか。ミカエルは全ての天使の統一者、つまりリーダーだぞ」

「あたしみたいな末端が知るわけないじゃない」

「それもそうか」


 その言葉にアリエルは少しだけ憤慨したが、仮にも校長の弟だ。

 天使に、大天使である弟を知らないと言われ傷つくのは、兄であるルシファーも同じだろう。


「まさか、その弟さんが襲ってくるわけ?」

「ああ。あいつ……いや、今は妹か。妹とは大喧嘩をして、俺はここにいるんだ。堕天使になったのもそのせいだなハッハッハ!」

「笑い事じゃないわよ!」


 ルシファーがここに来た経緯は聞いたことがなかったが、まさか今になってその原因が関わってくる事になるとは、アリエルにとって意外だった。

 それを聞いていたゾフィエルの表情も、わかりにくいが驚いているように思える。


「でも待って、弟さんなの? 妹さんなの?」

「ああ。そもそも、弟だったのに急に女性になりやがってな……それをネタに色々弄っていたら、大喧嘩になってこのザマだ」

「あんたが悪いじゃない!」


 当初は堕天使になったルシファーを見て同情したアリエルだが、原因がそんなことだと知った後だと校長の株がストップ安だ。

 しかし、原因はともかく、その大天使に目を付けられていることに間違いはないらしい。


「よし、この際だ。あいつもこの学園に通わせよう!」

「ちょっ! それって……」

「アリエル。洗濯は頼んだ」


 洗濯天使であるアリエルの能力は『ドラム式トルネード』だ。そんな能力のアリエルが特命任務を任せられる理由は、その能力の効果にある。

 アリエルの『ドラム式トルネード』は、対象を密閉空間に閉じ込め高速回転させるというもの。

 この密閉空間内においては、神以外の何者の干渉も受けない。


 さらに、アリエル自身の持つ洗剤能力によって、この空間に閉じ込められた人物は過去を『洗濯』することが出来る。

 過去を『洗濯』すれば、過ちも後悔もリセットできる……つまり、生まれ変われるのだ!


 洗剤能力者であるアリエルには、その消す対象を取捨選択できる。

 好きなように弄れるその能力は、今はまだルシファーの協力程度にしか使われていないが……悪用すると世界を変えることも可能だろう。


 なので、そんな洗剤能力者のアリエルが、大天使を仲間にするなんて大役を任せられるのは至極当然のことでもあった。


「ちなみに、ミカエルさんの能力はわかるの?」

「なんでも全ての天使の能力を使えるらしいぞ」

「ちょ、なによそれ! 最強じゃないの!」

「ハッハッハ! さすが俺の妹だ! それに、お前と違ってナイスバディだ」

「うるさいわっ!」


 さすがのアリエルも、校長によるセクハラ発言でドロップキックを放つ。

 しかし、大天使でもあったルシファーには簡単に避けられてしまい、そのままアリエルは壁に突っ込んでいった。


「……いったぁ……」

「では、ミカエルと会った時はよろしく。ゾフィエル、アリエルを連れて退室してくれ」

「ハッ、かしこまりました」


 今まで成り行きを見守っていたゾフィエルであったが、今だ足を抑えているアリエルと、ラグエルをそれぞれ両脇に抱えると、一礼をして退室していった。

 その様子を最後まで見送っていたルシファーだったが、全員出ていったことにより、気が抜けたように椅子へと寄りかかる。


「ミカエルか……これであいつも、認めてくれるかな」


 その呟きは、誰にも聞こえることがなかった。

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