天使の洗濯方法
新年用の物語で、全8部予定です。
5日には完結します。
部活動も終わり、生徒が次々と帰宅する中、その戦いは行なわれていた。
「貴様ァ! 天使でありながら悪魔に味方するのか!」
「あたしは自分が正しいと思ったことしかやらないわ! あなた達こそ、私達の学園を汚さないで!」
「どうやらアイツと同じ堕天使になるようだな……このラグエルが粛清してくれる!」
各天使が、神から授けられるという能力。
ラグエルはその能力を使い、自身の手元に角笛を召喚した。
しかし、アリエルはその角笛に見覚えがあった。
「この終末のラッパを吹けば、この学園もろとも終わりだ!」
「それはどうかしら?」
「何! いつの間に!」
ラグエルが角笛を手にした時、既にアリエルは能力を発動させていた。
そう、ドラム式トルネードを!
この能力は、対象をドラム缶のような空間に閉じ込め、高速で回転させるという能力だ。
故に、終末のラッパを発動される前に閉じ込めてしまえば問題ない!
「う……うわぁぁあぁぁああ!」
「ふぅ……これで二人目ね」
密閉空間では音も漏れないはずだが、アリエルには断末魔の叫びが幻聴として聞こえてくる。
しかし、アリエルの能力『ドラム式トルネード』の回転は止まらない。
アリエルは回転が停止するまでの間、残りを一人を探すことにした。
校長のルシファーから受けた依頼は『この学園を監視する汚れをキレイにしてほしい』だ。
ベルゼブブ副校長の話では、監視者は三人。残りの一人をキレイに出来れば任務完了となる。
私立アンジュ・デシュ学園。
堕天使という名を持つこの学園は、校長であるルシファーが設立したためこのような名前となっている。
しかし、その学園に通う生徒は様々だ。
天使もいれば、悪魔もいる。
種族に偏見がなく、まして天国でも地獄でもない、地上にある学園。
そんな学園がアリエルは好きだった。
故に、それを壊そうとする敵は、例え同族でも許すことが出来ない。
「まったくもう……あの副校長もいい加減なんだから」
ベルゼブブの話では、天使が三人周辺に現れたとのことだ。
先程ゾフィエルとかいう者を片付けたが、まさかその後すぐにラグエルが現れるとは予想外だった。
次の刺客もすぐに現れると思っていたが、どうやら杞憂に終わったらしい。
周辺を探っていたが、いくら待っても現れる気配はない。
そろそろ日が暮れてきた頃、アリエルの能力『ドラム式トルネード』の終了合図がピピッと鳴り響いた。
「あら、終わったのね。どう、キレイになった?」
「……うぅぁぁ……頭が……目が……」
「シャキっとしなさい! もう!」
しばらく回転していたので無理もないが、アリエルに待つ道理もない。
ラグエルの頬をパンパン! と往復ビンタし、得意の水魔法で頭上から水を被せる。
「どう、スッキリした?」
「……びしょ濡れで気持ち悪いな」
「じゃあ、もう一度回転させようかしら」
「起きた! もう大丈夫だ! だから勘弁してくれ」
この天使、悪魔である。
アリエルは能力を発動されないように、ラグエルに対して制約をかける。
天使の戦いでは、勝者は敗者に一つだけ制約をかけることができる。
それを破ったものは堕天使に落とされるため、天使の中では絶対的な制約だ。
もっとも、お互いに神へと誓うので、神が認めない限りは成立しないが。
「では、制約よ……『あなたはこの学園の生徒になりなさい!』」
「ぐっ……それはっ! 神もそんなこと認めるわけがっ!」
「あらそう? あたしはこうやって生徒を増やしているのよ」
アリエルがそう宣言すると、辺り一面が一瞬光りに包まれた。
光が収まった後には、ラグエルの手に生徒手帳が載せられていた。
「な、なぜだ! なぜ神はこんなことを許した!」
「あら、いいのかしら? 逆らえば地獄よ」
「くっ……なら、先にきたゾフィエルはどうした?」
「あいつは自分の悪事を認めて、今は校長室よ。あなたも来なさい」
結局三人目は現れなかったが、今日だけで生徒を二人も増やしたのだ。
褒められはしても、怒られることはないだろう。
アリエルは意気消沈としているラグエルと共に学園へと戻った。