昔の思い出
これは、僕が小学校三年生の頃の話しだ。その頃は僕は宮城県ではなく福島県に住んでいた。僕は、昔から喘息持ちで、時折入院をするほどひどかった。恐らくこの時から、僕は、他の人と話すことが苦手になっていたのかもしれない。
あの日は初雪の降った日の夜だった。僕は夜中に喘息の発作で救急車で運ばれ、そのまま、二週間入院することになった。昔から、喘息のせいで入院することはよくあったので、小学校三年生の僕はこの頃には、既に入院生活には慣れていた。この時は珍しく、二人部屋に僕一人だった。
僕が入院してから三日目の朝だった。目を覚めると僕のベットの前のベットで僕と同じくらいの歳の女の子が眠っていた。
看護婦さんが、僕の部屋に来た。
「調子はどう?大丈夫?」
「別に、大丈夫だけど、あの子だぁれ?」
「あの子は、昨日の夜に麗が寝てる時、運ばれてきたの。起きるまでは静かにしてあげてね。」
「別にいいけど…あの子も喘息?」
「うん、そうだよ。麗君と同じ歳だから仲良くしてあげてね」
それから少し経って僕が、ゲームをしていた時だっただろうか、本を読んでいた時か何をしていた時か忘れたけれど、僕は、彼女が目を覚まし、僕と目があった時、僕は彼女に小学校ながら一目惚れしてしまった。
「目覚ましたんだね。大丈夫?」
「うん、大丈夫。君も喘息?」
「うん、僕、麗っていうんだ。よろしく」
「私、チヒロ」
あの時、僕はとても恥ずかしかったことを覚えている。なんせ、その子が僕の初恋の人なんだから。
彼女はとてもおしとやかな雰囲気があった。僕と同じ歳の子には見えなかった。それでも、実際話してみると、明るい子だった。
「ねぇねぇ、麗君って好きな子いないなの?」
「えっ、いきなり?」
「うん、いきなり!それでいないの?」
「いないよ!大体いたって今日あったばかりの君には言えないよ!」
「君じゃないよ!チヒロだもん!」
雰囲気と実際のギャップに驚きはしたけど、それでも、僕は彼女に惹かれていた。
「ごめん、チヒロちゃん」
「チヒロでいいよ」
「わかったよ、じゃあこれからはチヒロって呼ぶ」
夜ご飯の時には、すっかり仲良くなっていたので、看護婦さんもとっても驚いていた。たのを覚えている。チヒロが好きなお寿司のネタを聞いて、三人ともマグロが好きで驚いて、そこから普段行くお寿司屋さんの話になって、彼女の行くお寿司屋さんは看護婦さんも僕も聞いたことのないお店だったってことまで覚えている。
僕はそんな彼女と話している時間がとても楽しくて、彼女ともっと話が出来るのなら、もっと入院していたいと思った。
僕が退院する前日、僕は寝る前に神様に、明日で退院しないようにずっとお願いしていた。しかし、神様は小学生の僕のお願いを聞いてはくれなかった。そして、僕は知らないうちに夢の中だった。不思議なことに、退院前日だというのにお互い、何も話さなかった。
そして、退院の日。僕にとって初めて退院したくないと思った今回の入院が終わりを迎えようとしている。
そして、お昼が近くなって、僕の家族とチヒロの家族が僕達を迎えに来た。お互いの家族をお見舞いの時に何度かあったけど、互いの家族が顔を合わせるのはその時が初めてだった。
病院の先生が僕達が入院中にとても仲良くなっていたことを双方の家族に行ったからだろうか、何故か、互いの家族で近くのファミレスに行くことになった。
ファミレスに家族以外の人と行くのは、初めてだったからとても不思議な感じはしたが、彼女との時間が長くなることが嬉しかった。しかし、この時間もあっという間に過ぎていった。小学生の頃の僕は神様を恨んだ。時間は誰しも平等だっていうのは嘘だとその時改めて実感した。
僕と彼女は別れを惜しみながらも互いの車に乗た。しかし、僕は車から降りて彼女の乗る車に走って行った。
彼女は車の扉を開ける。そして僕は、首に付けた十字架のネックレスを彼女の首に付けた。既に彼女の首にはハート型のネックレスが付けられていた。どうして、小学生の僕が十字架のネックレスを付けていたのかというと、ある映画でみた俳優さんの付けていた十字架のネックレスがカッコよくて、その年の誕生日に同じ十字架のネックレスを親に頼んでいたのだ。
僕にネックレスを付けてもらっていた彼女も付けていたハート型のネックレスを僕に付けてくれた。すると彼女が、
「そのネックレス私の好きな女優さんとお揃いなの。麗君、大切にしてね」
「麗君って。うん、分かった。実は僕のも好きな俳優さんとお揃いなんだ。チヒロも大切にしてね」
「もちろん大切にする」
「ねぇ、チヒロ。そのネックレスは僕達がもう一回会う時までもってて。そしてその時、お互いに返そう」
「いいけど、病院に行った時会っちゃうかもよ?」
「僕、今度宮城に引っ越すんだ。だから…」
「わかった!じゃあその時まで持ってるね!」
「ありがとう」
「うん、でも、お互い顔が変わってて分からくなってるかもね」
「それでも、僕が見つけるよ」
「じゃあ見つけてね。ずっと待ってるから」
彼女はいきなり、僕の唇に自分の唇を付けてきた。
これが、僕にとってのファースト・キスだった。まぁ、幼稚園生とか小学校三年生位って結構普通にキスをする人がいるから、きっとその類だったのだろうと今になって思う。
彼女は恥ずかしそうな笑顔で車に乗り、車の窓を開けると、
「私のファースト・キスは麗だよ。ずっと待ってるからね。バイバイ」
と言って窓を閉めた。そして、彼女の車は動き出し、僕は彼女の車を見送った。
僕は顔を真っ赤にしながら車に戻ったものだから、お母さんが、
「麗の顔タコみたいに真っ赤」
と笑われた。
僕はその時彼女から貰ったペンダントを高校生になった今も付けている。彼女、チヒロがまだ、あの時のペンダントを付けてくれていることを信じて。