新しい道
僕はさっき見た彼女のことが気になりながらも正門の近くに掲示されている、表で僕のクラスを確認する。
(相模原 麗は…あった!一年二組!宮原遥は…よしっ!一緒だ)
宮原 遥は幼稚園からの友達で、昔から体が弱く入院することも多いせいで友達の少ない僕の唯一の友達と言っても過言ではない。
遙はかっこいいし、性格もいいから、誰からも好かれる人気者で、僕とは対照的だ。
遥と同じクラスと分かり、心の中の春の悪魔は少し遠くに行った気がした。
遥と同じクラスで安心していると後ろから、
「麗!おはよう!クラスどうだった?」
と遥が俺に飛びついてきた。
「同じクラスだよ!」
僕の顔が遥と同じクラスで嬉しくて、自然と笑顔になる。
「本当に!?」
遥は驚いきながら、表を確認する。
「ヤッター!本当に同じクラスじゃん!俺、麗と同じクラスじゃなかったらどうしようって思っててめっちゃ不安だったんだよー!」
きっと、遥ほど、僕の事を思ってくれる人はいないだろう。
「じゃあ、教室に行こうか!」
遥のその一言は僕に遥と同じクラスになれたという事を実感させた。
僕ら2人は教室に行くまで、春休みの出来事を語りあった。不思議なことに、遥と話していると四月の悪魔は消えていく。しかし、教室に近づくにつれて再び悪魔は姿を表す。教室の前に着く頃には、僕の心臓の鼓動は早くなる。周りは賑やかなはずなのに、声すら聞こえなくなる。遥の声すら微かにしか聞こえない。それでも、僕は、勇気を振り絞り、教室のドアを開ける。
ドアを開けて正面を見ると、朝、正門で見た彼女が朝の友達と窓際で話をしていた。
彼女を見た瞬間、その教室が希望に満ちた、世界のように感じた。それは、僕の中から悪魔が完全に消えた事を意味していた。
今までならこんなことは無かった。いくら、遥と一緒にいても、四月の悪魔はこんなにすぐにいなくなったことは無かった。
(やっぱり、僕は彼女の事を知っている。きっとどこかで…)
しかし、その肝心な"どこか"がわからない。
でも、きっと、出会った事がある。それだけは確信できた。証明するものは何もないが、僕の心がそう言っているように感じた。
僕の席は、クラスの丁度真ん中だった。遥の席は一番後ろの左から2列目でその隣が彼女の席だった。2人の席は窓際だから、日当たりがとてもいい。窓から差し込む陽射しが彼女を光で包み込む。
クラスの人のほとんどは今日初めて見るかが彼女は、ずば抜けて可愛い。そして、周りの女子よりも明らかにオーラが違う。
僕は、とっても不安な気持ちになった。
(あの子と遥が仲良くなったら…)
僕は、遥があの女の子と仲良くなってしまって僕なんかと言葉を交わさなくなってしまうのかという不安があった。普通に考えて、僕なんかといるより、あの女の子といる方が高校生活は充実するに決まってる。しかし、僕の不安はそれだけじゃないと思う。こんな不思議な気持ちになったのは多分、生まれて初めてだった。
席に座って好きな本を読んでいる僕の所に遥がやって来た。
「麗!お前高校入学早々、席に座って、本を読んじゃってさー、陰キャラでも目指してんの?」
「いや、別に、そういうつもりじゃないんだけど…」
「だったらもっといろんな奴と話した方がいいって!俺がもし、彼女できてお前と連まなくなるかもしれないだろ?まぁ、彼女できるかもわからないし、出来たとしてもお前とは今まで通りちゃんと一緒にいてやるけどさ。」
「何で遥はそんなに誰とでも仲良くなれるの?」
僕は、なかなか人と打ち解けることが出来ないから遥がいろんな人とすぐ仲良くなれるのが不思議でたまらなかった。
「仲良く?仲良くするに決まってるよ!友達は多いに越したことはないだろ?友達が多ければそりゃあ何かと面倒なこともあるだろうけどさー、楽しいことも一杯あると思うしね!お前、顔とか普通にいいんだからもっといろんな奴と話してみろって!絶対人気者になるよ!」
僕は、遥の最後の言葉に思わず驚いてしまった。
「僕が人気者?!そんなことあるわけないじゃん!」
僕が遥にそう言い返した時、教室の前のドアが開いた。
「はーい、皆さん席に着いてくださいね!」
そう言って教室に入ってきたのは白いスーツに身
を包んだ二十代後半くらいの女の先生だった。
「まぁ、結局は自分の気持ち次第だよ!変わるも変わらないも」
そう遥は僕に言って席に戻った。
「みなさん席に着きましたね?私は、今年一年間、みなさんの担任をする七星妃奈です!よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします」
クラスの全員の息が自然と合う。しかし、全員の声は、明らかに、緊張していた。
「じゃあ、早速、今日の流れについて説明します」
そう言うと、先生は今日の動きを十五分くらい話し始めた。
「とりあえず、ここまでが今日の動きね!何か質問ある人いる?」
先生は教室を見渡して誰も質問する人がいないことを確認する。
「じゃあ、そろそろ時間なんで、移動しましょう!はい!みんな廊下に出席番号順に並んでください!」
そう言うと、先生は僕たち廊下に並ぶように促した。