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蒼星月下の怪異譚  作者: 和泉 鋏華
9/10

第八話 兎〜戯童外道〜

えー、どうもみなさまお久しぶりです。兎担当、帽子屋 黒兎です。

さて、物語にはどうしても必要になる存在があるかと思います。それは『敵』です。ライバルでも、社会的思想でも、国家でもなんでもいいですし、主人公が悪側であるのならそれは正義の味方となるかもしれません。

そしてこの手の敵、あるいは悪役にも多かれ少なかれファンがついたりするものですが、さて、此度出てくる彼らは、どうでしょうか?

薄暗い土壁の大部屋に無数の生命反応があった。

一人は、その部屋の中央で何かを食べていた。この蒼星郷で生まれ育った人間ではよくわからないものだが、もし、異界の知識を持つものかいればこう思っただろう。『ピザのような何か』だと。

生地に使われているのは春巻か餃子の皮。トマトソースは唯のトマトのペーストだし、チーズには乳臭さが強く残っているから、強いて言えばピザ、になるのだろう。

彼はモソモソとそれを口に入れる。蒼星郷の住人ならその料理だけで十分驚くだろうが、彼は生憎、異世界から召喚された転移者だ。それも、美食の国と皮肉めいて言われる日の本の出身者だ。

食べ慣れたものとは比べ物にならないソレを彼は、不味い、と一言だけこぼして壁に向かって投げつけた。

そのピザもどきが投げつけられた壁には、大きく赤い花が咲き、ヒビも入っていた。頭部を破壊された体は力を失って倒れ込んだ。

円尚(えんしょう)。またやったの?毎回見る人の身にもなりなさいよ」

部屋に設置されたついたての向こうから、女のものらしい声がする。いや、女の声なら初めから聞こえていた。部屋のそこいらじゅうから、すすり泣くような声が。そして、言葉を発したのとは異なる仕切りの先からは嬌声が。ただ、そのどれもが言葉をなしていないだけで。

「望か。フン、嫌なら見なければいいだろう。お前らもそう思うだろう?」

円尚と呼ばれた男は、彼の周りに散らばった肉片や骨片、内臓だったものたちを片付けようとしている少女たちに声をかける。少女たちは必死に首を縦に振った。

作業の手を止めて。

「あ゛?いつ俺が掃除をやめていいって言ったよ⁉︎なぁ!」

円尚は声を荒げ、近くにいた少女に平手打ちをした。その手は目視することが困難なほど早く振られ、その首は二回転してからちぎれ落ちた。あたりからは小さな悲鳴とわずかにえづいたような声がしたのみ。

「チッ、それも片付けておけ、いいなぁ⁉︎」

少女たちは必死に手を動かして、量産される死体を片付ける。

彼女たちに服は与えられていない、彼女たちに尊厳は与えられていない、彼女たちに人権は与えられていない。そんな中、唯一そこから外れている少女。円尚……道徳院 (どうとくいん) 円尚(えんしょう)と同じく転移者である望月(もちづき) (のぞみ)は部屋の出口へ向かっていった。

「およ? 姐さん、どうしました?」

望がいなかった方の仕切りから聞こえてきていた嬌声はすでに静かになっており、そこからは円尚とは違うもう一人の転移者が出てきていた。

田中 元気。ありふれにありふれた名前のせいか、自らをクリス・ロンと名乗っている青年だ。腰に適当に巻かれた布以外、今は何も身にまとってはいない。彼のついたての向こうからまだ生きている少女たちが引きずり出してきた、首に手形がくっきりと残っている一糸纏わぬ死体を見れば、何をしていたかわかる者もいるだろう。分かりたくもないが。

「あんたらのせいでここ、すごい匂いなのよ。たまには換気しなさいよね。そろそろ不死川の船が見えてくるはずだから、確認するのよ」

望はそう言って、物見台へ向かっていった。


「おい円尚、お前伝えてなかったのかよ。不死川の奴、失敗してもうおっ死んでるって」

「わからないのかクリス。そんなこと言ったら今すぐ敵討ちに行くとか言いかねないぞ、あの姐さん」

「あー、言いそうだな。それはめんどくさい」

この部屋で、まだましな扱いをしてくれていた望が一時的とはいえいなくなってしまったその部屋では、残りの少女たちはまるで消費されるかのように嬲り、犯し、奪われる。その未来を幻視せざるおえなくなっていた。


「うっ、ぷ」

天守より上、この建物……元領主の館の一番高いところで望は思いっきり吐き出していた。胃の中身を。

「なんで……ああっ!止められない!見てるしかない!仕方ない……仕方ないじゃない!だって、だって!」

支離滅裂、国語のテストなら0点。側から聞けば何も言っているのかさえさっぱりのことを叫びながら、彼女は顔を上げた。彼女の仲間である不死川(しなずがわ) 渡利(わたり)の能力は、日が出てしまうと途端に弱り、何より目立つ。そのため広域に霧を張る必要が出てしまう。それを目印に見つけることも可能なわけだが、

「霧が、晴れてる……? !あれは、彼の船!?沈んで……行っちゃった」

上がってきた太陽に照らされて、彼の集めた死者たちが乗った幽霊船が沈んで行ったのがはっきりと見えた。()()()()()の評判を聞く限り、もう命はないだろう。

「多分、ここを根城にしてるのもばれてるよね……なら、こっちから攻めた方がいい。ここのトラップなんて、絶対になんの役にも立たないだろうし、何よりも火を放たれたりしたら不味い、もんね」

今後の方針を定めて、彼女は打って出るためにあの部屋へ戻る。城下を動く、たったひとつの影にも気づくことなくーー



「おーい、二人ともー!偵察行ってきたよー!」

ここは漁村から馬をかけさせて1日の距離にある領主が治めていた城と城下町、その外れ。

「ヒガンさん、どうでしたか?」

「はいこれ」

私はいつかと同じように鞘から抜刀する。形は刀の柄がついた、装飾の多いタライ、原理を聞いてはいけない。

「でたー!ひーちゃんのひみつ道具!」

「「とりあえずひみつ道具っていうのはやめよう」」

青だぬきにケンカを売るのはまずい。本当にまずい。

「これは水盆村正。ここに水を注ぐと……」

波紋のなくなった水面には先ほどまでの凶行が映し出された。途中でいなくなった女だけその先の行動がわからないが、仕方ない。これは一箇所しか写せないのだ。

「これは……」

「すごーい!外道だね!私たちなんてメじゃないよ!」

言葉の上では楽しそうな五十葉だが、目は一切笑っていない。

「到底許しがたい『()』ですね……吐き気がします。むしろ吐き気しかしません」

白帆なんかもっとひどい。怒気と共に魔力が立ち上っている。これを抑えるのはほんっとーにめんどくさい。

同意見だろう五十葉は話題をすり替えるためにこっちを見た。

「そ、そーいえばひーちゃん、その槍、どうしたの?ひーちゃんこのヘンテコなのも含めて刀しか使わないよね?基本的に」

「ああ、これ?」

私は背中に背負った、実用に差し支えない程度に装飾の施された槍を手前に持ってくる。

「あの城下でちょっと、ね。これで殺して欲しい人がいるんだって」

少し魔力を抑えられてきた白帆が不思議そうに言う。

「あの城下、生存者はいないはずです。男とあそこにいない女性は全てあの船にいたんですから」

これは不死川から得られた情報だ。ちなみにこれを行った直後、彼はそこの正義漢に焼き尽くされている。

私は苦笑いを浮かべて明言を避けさせてもらう。と、五十葉が耳元で囁いてきた。

「それ、あまりいいものが憑いてないよ。捨てた方がいい」

「大丈夫。どうせすぐに依頼は終わるから」

「そう、ならいーけど」

よかった、気づかれてはいないみたいだね。

「ところでヒガンさん、この腐れ外道の情報とかないんですか?」

「えっ!あ、うん。こいつらの情報ね。はいこれ」

思考を少し深いところに入れ込んでいたから反応が遅れたけど、気づかれてない、といいなぁ

「新聞ですか?瓦版ってやつですかね、なになに?『10人の英雄、異界より召還』?」

「え、なに?まだ、えっと……6人いるの?」

渡したのは二ヶ月ほど前の瓦版、しかも改定前のものだ。次に、改定後の瓦版を渡す。そちらには『4人の英傑』となっている。

「いっきにへったね〜」

「ヒガンさん、この減った6人は?」

「簡単に言うとね、外道の被害者1、弓鶴 奏(ゆみづる かなで)。被害者2、八幡 巫女十(はちまん みこと)。被害者3、卯月 悲願(うづき ひがん)。被害者4、棟方 駒智(むなかた こまち)謀反人(むほんにん)犬飼 樹(いぬかい いつき)。逃亡者、田村 正仁(たむら まさひと)。そのうち、田村以外は全員死んでるね。まぁ、はじめの4人はあの馬鹿どもの犠牲になってるから分かると思うけど」

あ、あれと一緒にしたら馬鹿に可哀想かな?

「謀反人、ていうのはどうしたの?」

「あー、えっとね〜、あった、これ見てみ」

何枚かある古い瓦版のうちの一枚を引きずり出して2人にみせる

「首都部で一揆、ですか。ありましたね、確か、私たちみたいな妖怪変化の類が中心になって、差別撤廃を訴えたんでしたっけ。もしかして、これですか?」

「そ、これの首謀者が犬飼樹だよ」

なんでも、向こうではケモナー?と呼ばれる趣味の人間だったらしい。それが迫害されていたため、この一件を起こしたんだとか。そう説明すると、唯一向こうの知識のない五十葉が「けもなーってなに?」と聞いてくる。

「けもなーっていうのはですね、五十葉さんとかヒガンさんみたいに動物の耳や尻尾が生えている人が好きな人のことなんですよ」

向こうのことに関して、特にこの手の話題には強い白帆が説明してくれた。病床にあったという話だから、この手の娯楽にも手を出していたのだろう。

「ふーん。変な人もいるんだねー。人間、重要なのは中身だと思うんだけどな〜」

五十葉のこの言葉には、わたしも白帆も苦笑を浮かべた。

「謀反は失敗、首謀者の彼は処刑。その間に正仁は逃亡して、残りはこの前殺したのとこいつらの4人ってわけだよ」

「その、田村は生きてるんだよね?殺さなくて大丈夫なの?」

これは素である。本来、わたしから見た五十葉の性格は、わたしたちがいなければ動く厄災となんら変わらない。それができる能力も、彼女は持っているのだし。

「うーん、彼はわたしのクライアントだから、殺すのはやめてほしいなー」

「くらいあんと?」

あー、この世界、ほんっと微妙にカタカナ語に対応してるんだよなー。通じないのは本当に通じないのに

「その田村正仁さんとわたしはお友達だから、殺すのはやめてほしいなー」

「……わかった!」

今の間はなんだろう?まぁ、いっか


「さて、それじゃあ行きますか。あの手の城は燃やせば一発でしょう」

「いいのー?あの女の子たちも一緒に死んじゃうんじゃない?」

さらっと燃やす宣言をした白帆に五十葉がによによ笑いながら聞くが、わたしもそっちの方がいいと思う。ああいう記憶を抱えて生きていくのは相当辛い。人格が破綻してもおかしくはない。どうやら白帆も考えは同じようで、

「短期的に考えたら、彼女たちは死んでしまったほうが幸せだと思いますから。もしそれでも生きていたい人がいたら、私たちが助ければいいんですし」

「わーお、まさかのマッチポンプ。めんどくさいのは嫌いなんだけど。何より利益がない、でしょ?はぐはぐ」

「利益ならありますよ。私たちが善行をした。これこそが重要な利益です」

たぶん白帆は私たちの世間体を気にして言ったんだろうけど、すでに『血の味に猛る魍魎』略して『血味猛魎(ちみもうりょう)』なんて呼ばれてるんだから、意味はないと思う。

と、にわかに鳥たちが騒ぎ出した。

「ん?何かあったのかな?鳥さんたち」

「あー、私の魔力に当てられちゃいましたかね?」

いや、あれは、あれだろう

「はぐはぐ、傘」

「はい?」

「傘!3人前!早く!」

「は、はい!『対物理結界、上方展開/傘』!」

白帆が結界を張るのと同時に上から石が降ってきた。

「な、なんですかこれ!」

「石だよ。鳥に石を持たせてわたしたちの上で落とさせてるんだ。わたしもことはの能力でできる奇襲として考えてたことがある」

「敵襲?敵襲なの?」

「そうだよ、っと、下方注意!」

下から壁から生えてきた。予想だが、Y字型の壁でこちらを分断するつもりなんだろうけど、

「この程度の壁なら……ッ!」

飛び越えようとしたところで、真上を何かがすごいスピードでかすめる。

「行かせねぇぜぇ?『閃首亡影』」

何か……おそらく先ほど鳥が落としていた石だろうものは壁にめり込んでいたが、それなりの速さで壁が修復していくので、相手の力で壁を壊させるのは無理そうだ。

「あ゛ぁ゛?無視ですかぁ⁉︎『閃首亡影』‼︎」

わたし、いや、オレの耳には、自分の中で何かが切り替わる「()()()」という音が、聞こえた気がした。

「うるせぇよ。こちとらウサギの耳なんぞつけてんだ、聞こえてっからピャーピャーわめいてんじゃねぇぞ、道徳院円尚」

鞘から、オレが一番信頼している刀を抜きはなち、切っ先を向け、睨みつけ

「首と胴のお別れは済ませたか?まだなら待っててやるから早くしろ。さっさと他のやつを援護に行きたいんでな」

「ハッ!俺はテメェみたいなうさちゃんにやられるつもりはねぇよ!」

そうかよ。まぁ、好きにしたらいい

「腐れ外道にかける言葉なんぞ、拷問の時にする質問だけで十分か」


『血味猛魎』対『3人の英傑』 戦闘開始

次回は、少し新しいことに挑戦しようかと考えていますので、投稿に時間がかかってしまうかもしれません。それでも、楽しみにしていただけると幸いです。

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