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蒼星月下の怪異譚  作者: 和泉 鋏華
8/10

第七話 狐 〜戦闘船頭〜

どうもこんにちは。狐のものです

諸事情により「蛇」を飛ばしての投稿となっております。ご了承ください。

あと…めっちゃ遅くなって、すいませんでしたァァァァ!

「…で、これからどうするんですか?」

 「んー…どうしようかねぇ」

 「はむはむ…あ、このお肉美味しい」

 暗い船内で煌々と輝く焚火の傍、3人の人物が何やら話し合っていた。

 …いや、正確には話しているのは2人で、1人は炙った干し肉を食べるのに夢中なようだが。

 「ほんと、どうしたもんですかね…大将を叩こうにも死体操作ネクロマンスではなく、自立型の屍鬼の制作能力なら術者が近くにいるとも限りませんし…」

 白帆がぼやく。

 「むぐむぐ…ごくん。それどころかさ、勝手に産まれた怪異だったりしたらこれ全部始末しないといけないんだよ?めーんーどーくーさーいー!」

 どうやら五十葉も一応状況の把握はしているようだ。

 「いや、それは無さそうだよ」

 しかし、ヒガンはそれを否定する

 「あの屍鬼達、入ったら消えるってことが判ったから、もう突っ込んで来ないでしょ?」

 「あ、そうか。少なくとも思考力を持った司令系統がいるってことですね」

 「???…まぁいいや。もぐもぐ」

 若干一名理解出来ていない者がいるが、ヒガンは話を進める。

 「つまり、此処を視認できるくらい近くに術者がいるってことだよ。そいつを叩けば話は終わる」

 「近くには気配を感じませんけどね…」

 「もきゅもきゅ…ごくん。はー!おなかいっぱい!」

 「ことはも食べ終わったみたいだし、そろそろ行動開始と行こうか。まずは…」

 と、その時。無数に蠢く屍鬼の一体が、手近な柱から片手サイズの木片を1片もぎ取り、屍らしい緩慢な動作で投擲した。

 宙に放たれた木片は、その緩慢な初速を無視するが如く加速し、白帆に迫った。

 「うわっ!?」

 既のところで回避する白帆。しかし避けられた木片はそのまま速度を落とすことなく直進し、甲板に突き立てられた『十文字斬り村正』の柄に直撃し、それを倒す。

 「っ!!」

 床から抜けたことで結界が解除されたのだろう。既に三人の眼前には、無数の屍鬼が迫っていた。

 「…ちっ!戦るよ!」

 「仕方ないですね!」

 「ひゃわぁ!?」

 すぐさま間合いを詰めたヒガンが一閃。密集する屍鬼数体の頭が宙を舞う。しかし当然と言うべきか、それで行動を停止するものなど居なかった。

 「やっぱりダメかっ!」

 勿論それで諦めるはずもなく、そのまま地に伏せるように体制を落とし、もう一度刀が閃く。今度の一閃は屍鬼の膝から下を断ち切り、地に這わせた。

 痛みや出血が無いとはいえ、人間型である以上足がなければ歩行は物理的に不可能。

 最大の行動手段を断ち切られた屍鬼はもぞもぞと匍匐前進のような体制で近づくが、その速度は圧倒的に遅くなっていた。

 「2人とも!足を狙って!機動力を削ぐんだ!」

 「わかりました!」

 「あいさー!」

 返答する白帆の手元に海水が集まり、刃を形作る。

 「船の上である上、2人が近すぎますからね…ふっ!」

 これまた下段で振るわれた水の刃は、狙い違わず数体の屍鬼の足を奪う。

 「えいっ!えいっ!ひゃわぁぁ!?」

 一方五十葉は手にした鉄扇で、一番近づいた一体の処理をしているが、時たま処理し切れなかったものに腕を掴まれ、悲鳴をあげている。

 本来的には打撃武器の鉄扇だが、どういう仕組みか、小柄な五十葉の振るうそれは屍鬼の手足を寸断する程の威力を持っているようだ。

 その時、ふと辺りが闇に包まれるが消える。

 一体の屍鬼が、先程の焚き火に海水を浴びせ、かき消したのだ。

 「わわわっ!?く、暗くて見えないんだよっ!?」

 「っ!はぐはぐ!五十葉のフォロー入れる!?」

 「ち、ちょっと待って下さい!」

 蛇の異形である白帆や、特殊な「構成」のヒガンはともかく、五十葉に関して完全には視界を奪われていた。

 ゾロゾロと迫る屍鬼達に、五十葉は

 「あーもう!見えないって言ってるんだよ!」

 叫びながら、空間に蒼白い狐火を灯した。

 『!?』

 声として成立しない鳴き声を上げながら、屍鬼達が一気に後退する。

 唖然としているのは屍鬼─勿論彼らにそれだけの思考があればの話だが─だけでは無く、白帆もまた、驚いていた。

 「え!?…五十葉さん、それ、どうやってるんです?」

 「なんとなくバーってしてるだけ!でもこれするとお腹減るんだよ…さっき食べたばっかりなのに〜…」

 不満げな顔で五十葉は答える

 「…外部魔力に依存しない、体内のエネルギーだけを使った魔術…という事なのかな?」

 冷静に考察するのはヒガン。

 「…なるほど!それなら…」

 「ん、はぐはぐもいける?」

 「ええ。五十葉さんの言う通り、体力の消費は激しいですが…ふっ!」

 途端白帆の周囲にも、数にして五十葉の狐火の倍はあろうかと言う、炎球が浮遊する。

 「見たところグチャグチャ言わないあたり、かなり乾いた感じの死体みたいだし…やっちゃえ、二人とも」

 「ええ!」

 「ういー!」

 三人の言葉に呼応するかの如く、無数の焔が宙をかけ始める。

 ヒガンの予想通り、中には半分ミイラ化しているような屍鬼もあり、数体に火がつけば、それは爆発的に燃え広がった。

 呻き声を発しながら、視界いっぱいの屍鬼が燃え落ちていく。

 一種の地獄絵図の様な風景だったが、3人はこともなげに…否、五十葉に至っては楽しそうに、その光景を眺めていた。

 しかし彼女達は、肝心な事を忘れている。

 この船は木造(・・)なのである。

 「あの…これってヤバくないですか?」

 甲板いっぱいに燃え広がった炎を眺めながら、今更のように白帆がつぶやく。

 「……あー…」

 『やらかした』という顔のヒガン。

 「?」

 ポカンとする五十葉。

 「やっぱりまずいですよねぇぇ!?」

 根本が燃え尽き、倒れ込んできた帆柱を間一髪で避けながら白帆は叫ぶ。

 「あー、まあ、なに、はぐはぐ、泳げる?」

 「そりゃ私は泳げますけど…」

 「五十葉は?」

 「私沈むんだよ!」

 「ですよね…」

 「だよねぇ…」

 「二本足の身体は浮かぶように出来てないんだよ!」

 「…仕方ないや。どうせレーダーが必要だし…五十葉、私の肩に乗って?」

 「分かった!」

 なんの躊躇も無く、ヒガンの両肩に足をかけて肩車の体制になる五十葉。

 「え、いや、肩車じゃ泳げないんじゃないですk」

 「さ、飛び込むよー!5、4、0!」

 「カウントの意味は!?」

 白帆の疑問とツッコミを他所に、2人はくらい海へと飛び込んでいった。

 「ああもう!」

 すぐに白帆も続く。

 ほぼ水しぶきも立てない綺麗なフォームで飛び込んだ白帆が見たのは、五十葉を肩車して海面に直立するヒガンの姿だった。

 「え、それ、どうやって…」

 「NINJAの嗜みだよ」

 さも当然の如く言われ、なんとなく黙るしかない白帆。

 「さて五十葉、一番近くの陸地は?」

 「ちょっと待ってね?いま海鳥さんを捕まえてるから」

 「意外と便利な能力ですよね…」

 数秒後、

 「近くの陸地というか、近くに小舟が浮かんでるよ?」

 「ん、どれくらい?」

 「すぐそこ」

 五十葉が指差した先にはたしかに、小さな船が浮いていた

 「…?あんなに近くにあるのに、なぜ今まで気づかなかったんでしょうか?」

 「感覚妨害だよ。五十葉の耳隠しと同じ」

 「さっきまでは夢中で気づかなかったけどねー。鳥さんの目から見たら一目瞭然だよ」

 「つまりは私たち『だけ』に掛けられていた認知妨害…つまりは」

 「敵さんがいるんだろうね…楽しくなってきたじゃないか」

 「それじゃー取り敢えずれっつごー!」

 

 

 操霊術士、「不死川しなずがわ 渡利わたり」は震えていた。

 それが憤怒から来るものか恐怖からくるものかは自分でも分からない。

 彼にしても『敵を自分の使役する霊を憑依させることで安定させた廃船に転移させ、人間の死骸に動物の魂を憑依させた軍団で攻め殺す』と言う戦術は必殺のもので、今回の任務に関しても、敵を侮ったつもりは無かったし、念には念を入れようと炎、土等の魔力を外界とシャットダウンする結界まで張っていた。

 それなのに、それなのにだ

 何年も掛けて集めていた屍鬼の軍団は全滅。船も大破、沈没してしまっている。

 「クソッ…なんなんだよあいつらは!クソが!」

 拳で床を叩きつけた渡利。その時

 「失礼するよー」

 『あの三人』がドアを引き剥がして(・・・・・・)入って来た。

 冷や汗を流し、少しづつ後退しながら渡利は思考する…

 暇もなく、その意識はヒガンの神速の一撃で刈り取られた。

 「よし、殺さないで行けたし、いつもの…」

 「ダメだよひーちゃん、ひーちゃんそう言っていっつもいじめ殺しちゃうじゃん」

 「あれは相手が弱すぎるのが悪いんだよ」

 「いーから、今回はやらせて?私が終わったら、あとは何してもいいからさ」

 「むー…」

 「まあまあ、取り敢えずこの船で陸地まで行きましょうよ。話はそれからです」

 「「はーい」」

 しかし陸地に着くまでに話はついてしまったようで、砂浜で後ろ手に縛られた渡利の目の前に立っているのは五十葉だった。

 「んじゃ行くね?私の目を見て?」

 当然言われた通りに見るはずがない。のだが…

 視線が、顔の向きが、意識が、逆らえない。否、逆らいたくない(・・・・・・・)。彼女の「目を見る」事に、抗い難い魅力と誘惑感。それは到底理性や常識で耐えられるものではなく、渡利は吸い込まれるように五十葉の目を覗き込む。

 蒼い、深い、深い、暗い、黒い、真黒い。それはまるで、宙の色のようで美しく、ただし底がない。もっと奥に、奥に、奥に…

 渡利の意識はそこで途切れる。残ったのは、彼女らに状順な『お人形』ただ一つ。

 くすくすと笑いながら

 「これで大丈夫だよ。さ、質問して?」

 と呼びかける五十葉。

 「え、ええ…」

 「相変わらずエグいなぁ」

 「ひーちゃんの拷問よりマシでしょ」

 「ま、そんな事より情報が優先だ」

 「あ、話そらした」

 ヒガンが渡利だった物に問い掛ける。

 「取り敢えず、名前と所属、保有能力は?」

 『り、繚乱府所属、不死川 渡利。能力は自分の殺害した物の霊を保有し、非生命体に憑依させることで使役する能力。』

 「ふむ…じゃあ次、繚乱府でのお前の立場は?」

 『転移者、戦術戦闘部門所属…』

 「…転移者?それは一体なんだ?」

 『…転移者は、ほかの世界から弾かれて(・・・・)この世界に呼ばれたもの…』

 尋問は、「質問会は」終わらない。

 

物語は、始まりに向けて加速する。

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