第五話 狐 〜漁港暁紅〜
ほい。『狐』のルーパです。
文才の無さは相変わらず。第二週目のお眼汚し♪
という訳で、読苦しいかも知れませんが、どうぞ、ゆっくりしていってね♪
「そう言えば五十葉さん、その耳と尻尾はどうにかなりませんかね?」
もう少しで港町に入ろうかというタイミングで、白帆は切り出した。
「え、めんどくさいよ?」
「いや、流石に街に入りますし、人目が…」
「別に見られても気にしないよー?」
「ことはがもっと凡百な妖怪だったらそれでもいいんだけどね」
話を継ぐようにヒガンが口を開く。
「妖狐なんてもう人属の中では滅びた事になってるんだしね」
ましてや、"天狐"なんて。
最後にボソリと言った言葉は二人には届かなかった様だが。
「んー…めんどくさいんだけどな〜…それなら、ひーちゃんの耳はどうなのさ?兎耳だったらOKなの?」
「私は人のいる所ではきちんと帽子をかぶってるよ」
「ふ〜ん…仕方ないなぁ」
『**********』
口の中で何事か唱える五十葉
「…? 変わってないですけど…」
「これは『私達を見た人間に違和感を抱かせない』って内容の術式だからね。範囲は取り敢えず1里くらいでいいでしょ?」
「つまりどういう事ですか?」
「私達を中心に直径1里以内の人間は、私達の耳を人間の寝癖くらいにしか認識しないってことだよー」
「他人の基準に作用する範囲術式…流石、と言うべきか…」
「あー!あれが言ってた港町ってやつ!?」
小さくはあるが、割と活気はある村のようで少し離れた場所まで喧騒が漂っていた。
3人は出入りする商人に混じり、村の門をくぐった。
「ええ。ここが九十九村ですね。」
「元気の良い村だねー!人がいっぱい!」
「本当に偽装術式効いてるんでしょうね!?やたらと注目を浴びている気が…」
「多分服のせいだと思うよ?」
「それならいいんですが…」
改造忍者装束の様な格好のヒガン、紫紺一色の十二単の様な衣装の五十葉、女性のような見目麗しい顔立ちと、周りの人と比べても頭一つ大きい長身の白帆。
確かに耳など関係なく、目立って当然ではある。
「取り敢えず、異国の物が漂着したという砂浜にでも行ってみようか?」
「私も見たーい!」
「そうですね。まずは見てみましょう」
辿り着いた砂浜は進入禁止になっていたが、柵の側には黒山の人だかりが出来上がっていた。
「ふむ…やはりここからでは少し遠すぎて見えにくいですね…」
白帆はその抜きん出た身長で砂浜を見通し
「よっ…ほっ…と。」
ヒガンは地をかけるのと遜色ない速さで手近な松の木に登っていく。
「あれは…この国のものとは違うけど、船の残骸かな?」
「そのようですね。しかし、漁業船などではなく…」
「うん、砲塔などの残骸も見て取れる」
「乗務員だったものの残骸もちらほらとありますね」
「う〜〜!!」
それまで、なんとかそれを観たがってピョンピョンと跳ねていた五十葉が、軽く涙目のまま右手を前に突き出した。
「あ!だめ!」
隣で発せられた殺気にいち早く気づいた白帆が五十葉の頭に軽く拳骨を落とす。
両手で頭を押さえ、恨みがましい目で白帆を見上げる五十葉。
「五十葉さん、今この人達殺そうとしたでしょう!」
「だって見えないんだよ!」
「はあ…じゃあ見えればいいわけですね?」
そう言うと白帆は、軽く右手を動かした。
五十葉の立つ地面が微かに震え、直後に穏やかに隆起して五十葉の視界を人だかりの上まで押し上げた。
「わーい!ありがとうくーちゃん!大好き!」
「こうしてみると酷く無邪気に見えるんですがね…」
確かにその雰囲気は、数秒前まで殺気を発していたものと同じ生物だとは
到底思えない。
低身長も相まって、まるで本当に幼子の様だ。
「現段階じゃ、情報が少なすぎるね。深夜にもう1度出直そうか」
いつの間にか松の木から降りて、隣に立っていたヒガンがそう提案した。
「そうですね。宿を探さなければいけませんし」
傾きかける太陽を見ながら、白帆もそれに賛成する
「五十葉さん、いきますよー」
「あ、まってまってー!」
五十葉も慌てて土山から降り、二人に続いた
港町という性質上、異形の者も訪れるこの村で三人の宿泊が断られるはずも無く、今夜の宿はすぐに見つかった。
愛想の良い女将に案内された和室は、3人が一晩過ごすのに不自由のないゆったりとした部屋であった。
「せっかくですし個人部屋にすれば良かったのでは?」
「どうせ夜出掛けるんだしね。それに女子同士で部屋を分ける必要も無いでしょ?」
「私は男ですよ!?」
「ねーねーお風呂入ろーよー」
「せっかくの大浴場だしねぇ。みんなで入ろっか。」
「私は男湯ですからね!?」
「「え〜…」」
「残念そうな顔をしない!」
そんなこんなで
「まったく…あの二人には1度きちんと誤解を解いておく必要がありそうですね…」
なんとか二人を振り切って入った男湯で、白帆は独りごちた。
「まあ…ヒガンさんの場合は面白がっての事でしょうがね」
とそのとき、浴槽の中から、先客らしき二人の男の声が聞こえてきた。
「そう言えば噂の幽霊船、昨夜も出たらしいぞ!」
「またか…あんまり気持ちのいい話じゃねぇな。」
「全くだよ。こちとら恐ろしくておちおち夜釣りにも行けやしねえ」
「なんだ、大の大人が怖がってんのか?」
「あたりめぇだよ!強がっても命にはかえらんねぇからな!ガハハ!」
「幽霊船…ですか」
呟いた独り言が二人に聞こえたようで、男達がこちらを向く。
「おう。幽霊船だ。近頃ちょっとした話題になっててな、ボロボロの船に変な服きた船乗りが乗っててな、その船乗り共も頭が無かったり手がなかったりと随分と気味のわりぃもんらしいぜ?」
「にいちゃんもあんまり夜は海岸に行かない方がいいぞ」
「そうでしたか…ありがとうございます」
「いいってことよ!そうだ、ここであったのも何かの縁だ。今夜、ちっと飲みに行かねぇか?」
「おめぇ、さっき飲んできたばっかじゃねぇか…」
男が呆れ顔で突っ込む
「せっかくですが、すみません。今夜は少し予定がありまして」
「なんだぁ?連れでもいるのか?」
「まあ、そんなところですね」
「友人か恋人か知らんが、大切にしろよ!」
しばらく話したあと、まだまだ賑やかな二人をバックに白帆は浴槽を出、浴衣に着替えて部屋に戻った。
「大切にしろ…か…」
部屋につくと、ヒガンが膝枕で五十葉の髪に櫛を通している所だった。
「ふにゃ〜…あ!くーちゃんだ!おかえり!」
「もうお二人は上がられていましたか」
「はぐはぐが長風呂なんだよ。もう少しでご飯来るよ」
「ごはんー!」
「あ、本当だ。意外と長く入ってしまいましたね…」
「良いんだよ。昔から女子は長風呂って相場が決まってる。」
「私は男ですからね…?」
と、相変わらずの三人の部屋がノックされた
「御夕飯をお持ちしました〜」
「あ、はーい」
「お、きたね」
「ごはんだー!」
卓についた三人の目の前に、見た目にも鮮やかな料理の数々が運ばれて来る。
「こちら、手前から鰊の塩焼き、鯛と鮴のお刺身、鱵の唐揚げ、鰆の味噌汁、白魚のかき揚げとなっております。ごゆっくり、お楽しみくださいませ」
「おいしそー!」
「流石は港町ですねぇ♪」
珍しく目を輝かせる面々をよそに日は沈みきって、いつの間にやら空には三日月が煌々と輝いていた
月明かりは祝福か、それとも…