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蒼星月下の怪異譚  作者: 和泉 鋏華
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第三話 兎 〜夜話童歌〜

さて、お久しぶりです。兎担当の帽子屋 黒兎です。これで一巡しましたね。

では、奇々怪界なる怪異譚、第三話を、お楽しみいただけると有難く存じます。

「物知り梟言いました♪『世界はかくも美しい』♪」

ここは深い森の中、一人の少女は童歌を口ずさむ。

「嘘つき雀は言いました♪『人はともかく醜悪』と♪」

月明かりがわずかに照らす森の中を、まるで見えているかのように少女は進む。

「意地悪鴉が聞きました♪『どちらが正しい世界なの?』」

事実、少女は周りを確かに知っている。その頭にある、黒く長い兎の耳は飾りというわけではない。

「静まり返ったその場には♪答える者はありません♪」

時は丑三つ、活動するのは魑魅魍魎、悪鬼羅刹が如きものどもであるべきか、

「旅人燕は答えたよ♪」

少女の手には月明かりを照り返す鋭く光る鉄色が、

「『世界はかくも美しい。しかし人は醜悪だ』♪」

緋く妖しく握られていた。

森の精が恐れたか、木の葉が一時月の光を遮ることをやめたなら、そこにあるのは遺体、屍、肉片の山。みな、黒い布のかけらを貼り付けていること以外の共通点なく、老若男女がそこには倒れていた。ある者は首がなく、ある者は腹の中身をばら撒いて、斬られ、抉られ、突かれ、殴られ、嬲られ、その上で助からず、そこに立つのはただ一人、黒髪赤目黒兎耳、白黒の衣装にはアカい斑点が浮かんでいる。

「無垢なる蛇は答えよう。『醜悪ならば殺してしまえ』」

そこに1つ、気配が増える。

「狂える狐は嘲笑おう、『世界は全てウツクシイ』」

また、1つ。狐火を伴い現れる。

「なーんだ。ことはもはぐはぐも起きてきたんだ。寝てていーんだよ?」

少女、いや、わたしは二人のともだちに声をかける。一人は妖狐、邪答院 五十葉、もう一人は蛇の化生、蛇草 白帆。二人とも、わたしの大切なともだちで旅仲間だ。

「寝てていいって言いましても、ねぇ五十葉さん」

「そうだよ。ひーちゃんが怪我でもしたらと思うとおちおち寝てられないよ」

「あー、いえ、私は断末魔が煩いし、どうせ後処理しなくちゃと思って起きてたんですが……」

ふふ、二人とも心配性だ。後ろから一人一人確実に命を刈り取るように奇襲してるから怪我なんてしないし、ここは森の中だから、後処理なんてそのうち獣がしてくれるのに。

「ほーら、わたしは怪我ひとつないから、さ。寝よ寝よ! こいつら大した情報持ってなかったしさー。上司のことも知らないんだってさー」

「うーん、この布の感じは乱破かな?」

「ラッパ? あぁ、忍者のことですね。この苦無なんかも、そんな感じですね」

「え、つまりわたしと同業者だったの!? わたしならこんなヘマしないよ!」

いやまぁ、予想はしてたけどさ

「だめだよひーちゃん。ひーちゃんと普通の人たちを比べちゃ」

「そうですね。ヒガンさんと横に並べる忍者なんて、団蔵か半蔵か小太郎か……まぁ、どなたもこちらにはいないんですが」

……たまに、白帆はおかしなことを言う。いや、わたしは理解している。要するに、加藤団蔵、服部半蔵、風魔小太郎と比べられたのだということは。ただ、わたしは知識にある彼らほどの技能を有してはいない。わたしのは、あくまでも、こちら側でのルールに則った強さ、隠密性なのだ。

何より、こういう会話をすると五十葉が『またよくわかんない話してるけど二人が楽しいならいいかな』みたいな顔をしだすから。

「こーゆー鍔のない刀って、忍刀って言うんだっけ、ねっ!」

ビュッ!と空気を切って近くにあった水溜りにズグッと刺さった。

「チッ、外したかー」

「ありゃりゃ、くーちゃんが言ってた……えーっと、なんとかさんたちにはまだまだ追いつけないのかなー?」

「うーん、いい線いってると思うんですけどね」

そんなこんなで、わたしたちの夜は明けていく。


某所にて……

「また覗きか? 亀ジジイ」

紅の洋装を纏う影が1つ。

「またと言うほどしておらんと思うがの。まさか老いぼれの耄碌よりもトリ頭の方が不出来だとは思わんかったぞ?」

対し、濃紺の狩衣を纏う影が、カラカラと笑う

「チッ、口の減らん奴だ」

「お互い様よの。とはいえ、やはりワシは指揮しとる方が楽でええの」

「……見つかったのか」

「『亡影』……あの兎に見つかったわ」

「おいジジイ、お前、ついに老練の技とやらでさえ遅れをとるようになったか、これはお笑いだないやはや、とんだ喜劇だ」

「そう、思うかね?」

先ほどまで向かい合っていた濃紺の声は、紅の背後から聞こえた

「これでも、あの『亡影』に限らず、数多の暗殺から身を守るために、数多の術を学び、磨いてきたのだ。あの兎がおかしいだけであろう。でなければ、ワシは『幽幻』によって狂わされるか、『龍嵐』によって粉々にされておる。真っ向からに弱いのが、『亡影』の特徴とも言えるからの。ま、命拾いしたわ」

2つの影は黙りこむ。

「……あと、一人か」

「そうじゃの。あと一人で揃う。揃えば、決戦は近かろう」

影は対面に戻り、やがて来るもう一人を待つ。

廻り廻る物語、まだまだ速度に乗り始めたばかりです。速く、遅く。たとえ逆さまに回ろうと、物語は進みます。着実に、確実に。

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