正直紅茶の味ってどれも同じ味な気がしますわ
クランツヴェルグ家では朝食は自室で食べることが多い。
クランツヴェルグ夫妻が多忙で決まった時間に揃うこともあまり多くないし、何より使用人の負担を減らすためであった。
自室で軽食を各々が食べる。
とくに使用人達が付き従うこともなくささっと済ませてしまうのがこの家の常識である。
さらにルファリアの朝食は簡単なもので、ワゴンを使うこともなく本当に簡素にバスケットに纏められたクラブサンドウィッチと紅茶セットとカットフルーツは他の貴族宅では質素だと鼻で笑われるようなものであるが彼女はこれがとても気に入っていた。
何に気を使うわけでもなくゆっくりと自室で自由に食べれる美味しい朝食の時間は彼女の大切な癒しの時間である。
「…申し訳ございません。紅茶が冷めてしまっていますので、淹れなおしてきます。」
「ティオ、別にいいのよ。貴方の淹れてくれるお茶はいつもとても美味しいもの。
それに今日は邸中がなんだか忙しそうだし…」
華奢なカフェテーブルにテーブルセットをし終えた後そう言ったティオが踵を返しかけたのを慌てて引き止める。
しかし…と先ほどのとんでもなく失礼な態度とは打って変わってしぶるティオを無理やり向かいの椅子にかけさせてサンドウィッチを手に持たせた。
「きっと、お父様のお誕生日パーティーの用意で忙しいのだわ。
早くわたくし達も手伝わないといけないわね。
だからティオも早くいただいてちょうだい」
「お嬢様………、お嬢様はおとなしくしていた方がいいと思いますよ」
眉を下げてルファリアを子犬のように見上げたと思えば、そう言い放ったティオは、では、遠慮なくと言うとサンドウィッチをかじった。
どういう意味かしら?と聞いてみたけれど、
今日のサンドウィッチは絶品ですね。またカールさん、腕あげましたね。
とかいう全く回答にならない答えが返ってきた。
従者と一緒のテーブルにつき一緒に食事をするなんて普通はあり得ないだろうが、ルファリアとティオにとってはこれが当たり前である。
小さい頃にルファリアが無理やり一緒に食事をとらせてからずっとこうである。
外食や家族で食べるディナー以外はだいたいこんな感じで、学園でもそうだ。
そんなわけでティオは他の令嬢、令息の従者や使用人達からなんやかんやと言われたりするのだが、内容はだいたいが要約すると
お前のところは緩くて羨ましい、変わってくれ、か
主人と一緒に食事だなんて緊張してゲロ出るわ、お前の心臓は鋼鉄か、のどちらかなのである。
その度に変われるものならどうぞ、と言っているティオだが、なぜかいや、お前のところはちょっと…と顔を青くされるのだ。
いや、どっちなんだと言いたくなる。
「…それはそうと、ルフィお嬢様。
昨夜私が言ったこと覚えていますか?」
「え、ええと、迷惑な被害妄想癖とちょ」
「全然違います。やたらネガティヴなところばかり拾わないでください。」
「私の言うことを聞いてくださいね、というお話です。
貴女がもし、もし、まあまずあり得ないでしょうが、政略結婚から漏れて町娘になり芋の皮を剥く生活にその身を落とすことがないよう、私がどうにかしてみせます。
その為に貴女はクランツヴェルグ家の表舞台に出る必要があります。」
「お、表舞台、」
「そうです。貴女が甘んじてこの状況を受け入れてしまっているからいつまでもあの2人の思う通りにされているのです。
まずは少しでも場数をこなしパーティーや夜会、それよりも人馴れしていない貴女がクランツヴェルグ公爵家のご令嬢として恥ずかしくないレディになれるよう私がお手伝いいたします。
婚約だの政略結婚だの、旦那様のお役に立つだのそんな事はこれらが当たり前に出来てからの話です。
分かりましたか?」
食事の終えた後のテーブルをてきぱきと片しながら鳶色がルファリアを映す。
それにしても酷い言われ様である。
たしかに未熟だけれどここまではっきり出来ていないことを誰よりも近しい存在にずばりと言われるのは堪えるものがある。
うぐっと度々唸り声を上げながらルファリアはこくこくと頷いた。
「よろしい。では2日しかありませんし厳しくいきますのでそのおつもりで。
それと、お約束していただきたいことがあります。」
やたらと声を低くしたティオの神妙な顔つきにゴクリと喉がなった。
長身で精悍な顔立ちのティオは凄むと迫力が凄い。
別に怯んでいるわけではないけれど。
自分の従者に怯んでいるわけがないけれど。
「いいですか、お嬢様。
人から貰ったものを無闇に食べない、拾い食いをしない、知らないひとについていかない、
とにかく私から離れない。守れますか?」
「わたくしをなんだと思っているの」
もうなんだか嫌になるわ、ルファリアはちょっぴり泣いてしまいそうだった。