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公爵令嬢は婚活中  作者: 紺野
公爵令嬢はパーティーに参加する
3/39

従う者と書いて従者と読む、筈です



「きっと、フリーディアも公爵令嬢のくせに誰からも見向きもされない姉なんて恥ずかしいと思っているはずだわ…」


「ルフィお嬢様、あのフリーディアお嬢様がそんなことお思いになられるわけがありません」


ガタガタとふるえるルファリアの肩にそっと手を置いてみたティオであったが、ルファリアはそんなことは気にもとめずにわなわなと唇を震わせるばかりだ。



そもそも、あのフリーディアがルファリアにそんな事を思うはずが無い、と双方のことも2人の関係も充分に理解している彼は、そう言ってみたもののフリーディアのあの勝ち誇ったような満足そうな笑みを思い出してティオはまた溜息を吐き出しそうになった。


なんてめんどくさい姉妹なんだ…。


普段のフリーディアの態度を見ていればそう思われてもおかしくないどころか、そうにしか見えない。


「きっと、政略結婚にさえも使い所のないわたくしはクランツヴェルグ家を放り出されて街で働くことになるんだわ」


「そんな訳がないでしょう」


「毎日毎日、朝から晩まで芋の皮を剥き続けるんだわ!

まあ!大変!わたくし芋の皮を剥いたことがないわ。

きちんとできるかしら、心配になってきた…。

わたくしちょっとキッチンに…」



「行かなくてよろしい」



悲壮感を漂わせながら、しかし心なしかワクワクしているように見えるこのご令嬢に嫌気がささないこともないが、奇行に走られるわけにも行かない。


天下のクランツヴェルグ公爵家のご令嬢が夜通し延々と芋の皮むきとかいう珍事件になったらどうしたら良いのか分からない使用人達が右往左往した挙句自分に泣きついてくること間違いなしだ。


それに、彼女に怪我などされた日には公爵家に血祭りに上げられるだろう。

いや、これは決して揶揄などではなく本気で。


まったくこの猪突猛進で突飛な思い込みはどうにかならないものか。




「で、でも、明日からの芋の皮むき生活が…」



「始まりません」



ふぅーーーーっと堪え切れなくなった長い溜息を吐くとルファリアお嬢様がビクッと肩を揺らした。

肩に乗せた手に少しだけ力を込めると細い肩が途端に跳ねる。



「あ、の、で、す、ね?お嬢様。

何がどうしてどうなればそんな考えに至るのか全く、ほんの少しも、皆目、見当がつかないのですがそんな事はありえません。


それに、何ちょっと楽しみそうにしているのですか。家を出るだなんて間違っても言わないでくださいね。

危険ですから。…私が。


今まで卑屈思考に陥ったり被害妄想に陥ったりそんな事は日常茶飯事でしたが、なにぶんお嬢様のお気持ちも、まあ、理解しがたいものはありますがあのお二人のお気持ちもわかっているつもりでしてね、何も邪魔立てしなかった訳ですが。

まさかルフィお嬢様がそんなに動揺なされるとは思わなかったので」



「え、ええと、ティオ?ちょっと何を話しているのか分からないわ」


ティオの鳶色の瞳に覗き込まれて一気に捲し立てられるとあまりの迫力に自然と後ずさりしてしまっていた。

なんだかいつもと全く様子の違う従者に戸惑いながら小さく声をかけてみる。


が、彼女の従者は全く聞いてやるつもりなどないようだった。


「いいですか、ルフィお嬢様。

今回のアルフレッド殿下とのご婚約ですが、確かに順当に行けばお嬢様とのご婚約の方がスムーズです。しかしクランツヴェルグ家には御令息がおりません。

もしかしたら後継者の問題で旦那様が何かお考えになられているのやもしれません。

………まあ、そんなことよりもまたあの2人の企みが関わっていること請け合いだけど…」



「え?」


ああ、それもそうかもしれない。

従者の逆鱗に触れていささか落ち着いた頭で考えるとそれもそうだなと妙に納得する。

最後のぼそぼそした呟きは何て言ったのかよく聞き取れなかったけれど。

ルファリアは手足の先にようやく血が回り始め暖かくなっていくのを感じていた。



「なんでもありません。」


にっこり。満面の笑みなのになんだか寒気がしてルファリアはあ、そ、そうなの…としどろもどろに返す。


「というわけで、貴女が卑屈になってどうのこうの考えたり、余計な妄想をする必要は全くありません。分かったらその迷惑な被害妄想癖と猪突猛進癖を少しでもどうにかする努力をしてください。

わかりましたか?」



「は、はい!」


あれ?この青年は確かわたくしの従者だったはず…とかいう文字が頭の中を巡ったりしたが、とにかく圧倒されて反論する隙がない。



「このままではいけないと思っていましたしね。丁度良い機会ですので私はあの2人の妨害を全力で阻止してみせますよ。なんとしても」


「…ええ、はい、…あの2人?」



「その為には、ルフィお嬢様のご尽力がかかせません。というか貴女が頑張るしかないんですよ。お嬢様。

積極的に外に出ていろんな人と関わるべきです!

そもそも、なんでも自分のせいにして受け止めて反論しようとしない貴女も悪いのです!

ですからこれからは私のいうことをしっかり聞いて下さいね。ね!お嬢様!」


「え?!は、はい!」



「はい、よろしい。

これで本日は解散です。明朝はいつも通りのお時間に参ります。

まずは3日後の旦那様のお誕生日パーティに出席を致しましょう。

では、お休みなさいませ。失礼いたします。」



「お、お休みなさい、ませ。ティオ

……………えっ!お誕生日パーティ?!ちょっ」



バタン。



いつもなら音も立てずに閉まるドアがわざとらしく音を立てる。

お父様のお誕生日パーティには何やかんやでここ数年まともに出席できていない。

………あれ?何やかんやって、何だっただろうか。




こうしてルファリアはティオと出逢って13年目にして彼の知らない一面に出会ったのであった。


唖然としながら彼の去った扉を見つめる。



いつの間にか顔色は戻り涙も引っ込んでいた。








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